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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十二章 第2回トーナメント編
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第248話 閑話 空を仰ぎ見て―新たなる決意―

 第二回トーナメントも二日目を終えて、その夜。学園のグラウンドでは初日から続いている縁日が夜の部へと入り、トーナメントに出場していた選手たちも本格的に屋台へと繰り出し始めていた。

 そんな中、カイトとソラは学園校舎の屋上に登り、二人で縁からその様子を眺めていた。昼にソラから受けた相談の要請をここでやろうというのだった。


「……結構、みんな楽しんでるな」

「ああ。今まで碌な娯楽もお祭りも無かったからな」


 学園が転移してから約6ヶ月。今まで生き抜く為に訓練や依頼・任務などを受け、殺伐とした毎日を送ってきていた生徒達に遠慮して、学園に残る戦う力の無い生徒達もあまり遊べなかったのである。

 それに、彼等には学園の維持や食料自給自足のための農作業、酪農への準備など様々な事もある。彼等も彼等で、忙しいのであった。


「……ほれ」


 カイトは屋上の縁に腰掛け、足を外に出して座る。そうして、座ってから徳利とおちょこを2つ、ツマミに椿お手製の干し肉を取り出し、おちょこの一つをソラへと投げ渡す。酒でも飲みながら話がしたい、という事だったので、屋上を選んだのだ。


「サンキュ」


 ソラは投げ渡されたおちょこを受け取ると、カイトと同じく、屋上の縁に腰掛け、足を外に出す。本来ならば危ない、とすぐに教師の一人でも飛んできそうだが、二人共、最早この程度の高さから落下し、受け身が取れずに頭から落ちても痛い、程度で済むようになっていた。いや、なってしまっていた。

 それどころかカイトならば、常時展開される魔導障壁によって地面への衝突による衝撃は軽減され、痛みさえ感じないだろう。


「まずは、優勝おめでとう。それと、おつかれ」

「ああ、ありがとう。お前も、おつかれ」


 そう言って二人はおちょこを鳴らして、中の酒を飲み干した。


「……にしても、お前がドローゲーム、ねぇ……意外だったよ」


 ソラが苦笑しながら、問いかける。


「……一条先輩と翔のおかげだな。あの二人が真っ向勝負を挑めばこそ、オレは全員が真っ向勝負を挑むという先入観に囚われた」

「……ちょいと耳が痛いな」


 ソラがカイトの言葉に、浮かんだ苦笑を更に深める。今回、ソラもなるべく戦術を立てて動こうとしていたのだが、それでも、後で見返せば出来ていない所は多かった。苦笑が深まったのは、それを理解できているが故である。これを、カイトは良い変化だ、と頷いた。


「いいさ、お前らは。まだ6ヶ月……地球で言っても新兵の域を出ない奴らだ。しかも、戦闘が全く関係の無い所の出身だ。色々と甘いのは仕方がない」

「お前らは? お前は違うのか?」

「当たり前だろ……オレはまーた、ウィルに怒られる。だからお前は甘いんだ、あの程度の戦略は始めから対処して普通だ、ってな。説教の後はひたすら戦術の勉強のし直しになるな」


 そう言ってカイトは笑う。今は既に亡く、自らの戦略・策略等知識の全てを残して逝った友を思い出す。そこには懐かしさがあり、酒を飲む姿が、どこか物悲しげな物に見えたソラは、親友のその言葉を、ただ黙って聞いていた。


「で、話ってなんだよ」


 そうしてしばらく雑談をして、眼下に広がる喧騒を眺めながら、カイトがソラに尋ねた。それを受けてソラは一度黙考して立ち上がり、カイトの腕を取って立ち上がる様に示した。


「なんだ?」


 カイトの問い掛けに、ソラは行動を以って答えた。そうして、響いたのは金属同士がぶつかり合う様な澄んだ音だった。


「……っつー……かってぇ! お前、障壁ちょっとはゆるめてくれよ!」


 じんじんと痛む右手を振りながら、ソラが膝を屈する。ソラがカイトの顔面目掛けて、魔力を纏わせた右手で思い切り殴りつけたのだ。響いた音は魔力を纏ったソラの拳がカイトの障壁にあたった時に出来た音だった。


「わりぃな。これで限界だ」


 一方、殴られた筈のカイトは申し訳無さそうに微笑んだ。ソラの攻撃なぞ、彼には避けることは簡単だった。だが、ソラの目に宿った僅かな怒りを見て、カイトはそれを避けなかった。いや、それどころか、意図を理解して障壁を可能な限りゆるめたのだが、それでも、ソラでは一番上を破ることも出来なかった。

 全力でやっても及ばず、全力で手加減しても、触れさせる事さえ出来ない。これが、今の二人の差だった。いや、『今の』では無く、この差はおそらく、今後十年以上は変わる事は無いだろう。それほどまでに、カイトは強かった。


「……これで、チャラにしといてやる」


 右手の痛みが引いたソラが、照れた様に拗ねた様に、そっぽを向いて小さく告げる。何をか、なぞ問う必要は無かった。嘗ての、学園の襲撃に際した策略のことだ。


「……ありがとよ……で、そんな事を言いたかったのか?」


 どうやら、殴れなかった事より、殴ったという事実こそが、ソラには重要だったらしい。それにカイトは苦笑の混じった微笑みを浮かべ、二人は再び腰掛けて、酒に口を付けた。


「……俺に裏事……政治を教えてくれ」


 一つ、深呼吸を吐いて告げられた言葉は、静かに、しかし確固たる意思をもって語られた。酔った勢い、と言うわけでは無かった。きちんと長い間考え、出した結論であった。

 だからだろう。彼はこれからカイトと同じ道を歩むために、今までの自分と決別するために、最後の一歩として、嘗てのカイトの策に抱いた怒りを先ほどの一撃に込めたのだ。彼と同じ道を進む、というのなら、今の怒りは抱いてはならない物だと思ったのだ。だからこその、今までの自分との決別だった。


「……何を言っているのか、わかってんのか?」


 カイトは今までの穏やかな気配ではなく、公爵としての、冷酷な雰囲気を纏って問いかける。しかし、ソラはそれに動じず、即答する。


「ああ」


 即答したソラに、漸くカイトはソラの方を向いた。その眼は確固たる意思を感じさせる、真剣な物であった。その眼に迷いは無く、決心のみが感じ取られた。


「由利と相談はしたのか?」


 その眼にカイトは再び眼下の喧騒を眺め、理由は聞かずに、別の事を尋ねた。それを受けても、ソラはカイトの方を見ながら告げる。


「……まだだ。お前の許可が下りたら、話そうと思っている」

「なら、先に話せ。黙って勝手に、こそこそやられるより、先に話してもらえた方が安心するだろ」

「……やっぱ、そうか?」

「知らん、女心なぞな。しかも、他人の女だ。自分の女の心さえわからない奴が、わかるわけないだろ」


 自分で言ったことなのに、カイトはあっけらかんと根拠が無いと言い張る。カイトもソラより長く生きているが、それでも、一度たりとも女心を理解出来たことはない。

 こうすれば喜んでくれるのではないか、という程度なのだ。理解できたと思っても、新しい女の子に出会う度、すぐにその自信は崩れ去る。その結果彼が得た答えが、どう足掻いても男に女心は理解できない、だった。


「そんなもんかね……で、理由は聞かないのか?」


 結局理由は聞かないままに、結論は言わないままに、カイトが再度飲み始めたのでソラが尋ねる。


「……大方親父さんの気持ちを理解しようとしてんだろ? 何があったのかは知らんがな」


 カイトも使い魔で見て知っているが、それでもミナド村でどんな会話が繰り広げられたのかはわからない。推測でしかなかった。


「まあ、そんなとこ」


 ソラには別の理由もあるが、カイトに言うにはこっ恥ずかしいので伏せておく事にした。カイトにしても、理由が父親との確執以外にあることは気づいていたが、問わなかった。そんなソラに対して、カイトは少しだけ、悪戯心がムクリと首をもたげた。


「オレが他に知っているのは、後はナナミと言う少女に惚れられて、今も時々文通してるぐらいだ」

「ちょ! おい! おっと! なんでそっちを知ってんだ!」


 自分と父親との確執が溶けかかっている理由は知らないのに、何故かナナミの事は知っているカイトに、ソラが大いに驚いて危うく落ちそうになる。それに、カイトは笑いながら告げる。


「魅衣が由利に相談されてたらしい。最近ソラがオレに似てきて困るってな。この間魅衣が言ってた」

「は? どゆこと?」


 由利もナナミと文通しているので、ソラがナナミと文通していることを知っていてもおかしくはない。由利とナナミの二人は現在、恋敵でありながら、気の合う友人なのであった。


「知らん。魅衣が若干眠い時に呟いてたからな。もしかしたら、少しニュアンスは異なるのかもな」


 二人して首を傾げ、酒を飲む。一瞬の酩酊感が、トーナメントで少しだけ疲れた身体に心地よかった。


「お前に似てきたって……何のことなんだ?」

「だから、知らねって」


 由利が言っているのは、無自覚に女性を口説き、無自覚に惚れられ、無自覚にハーレムが形成されることであるが、二人共無自覚であるが故に、理解できないのであった。

 尚、カイトの場合はハーレムが形成されつつある事は理解しており、責任を取ると明言している辺り、更にたちが悪い。というより、公爵としての義務により、多数の夫人を娶る事が確定しているので、抵抗がないのだった。


「まあ……それはともかくとして、こっちに女作るなら、それなりに覚悟しておけ」

「……いや、だから二股とか考えてないって」

「どうだか……まあ、もし、と言う場合のアドバイスだ」

「なんだよ?」


 寝っ転がり、夜空に浮かぶ満天の星を眺めながら、カイトが苦笑して告げる。


「女は泣かすな。後で辛い。特に、いい女はな……泣かせるとマジで辛い。それこそ、こんな所で死ねない、って思うぐらいにはな」


 去来する想いは如何な想いだったのか。笑った様な泣いた様なカイトの顔には遠くを見ている様であった。


「経験者は違うな……ナイフで刺された事でもあるのかよ」

「ねーよ。一回やっちまった後は上手くやれてる……と思う」


 何処か自信なさげな親友の姿に、同じく寝っ転がってソラが苦笑する。今のところは二股は考えていないが、それでも先達の知恵だ。受け止めておいて損は無いような気がしたのだ。


「……それで、どうなんだ?」


 そうしてしばらく寝っ転がり、起き上がってソラがカイトに尋ねる。


「……覚悟、あんのか?」


 一足先に起き上がっていたカイトは眼下の喧騒を眺めたまま、ソラに尋ねる。それに、ソラもまた、眼下の喧騒を眺めたまま、答えた。


「……ああ」

「いいもんじゃないぞ。どこもかしこも、血生臭い。見られる事はダメだし、知られることもダメだ」


 そう言ってカイトは、少しだけ遠くを見つめる。そこにはカイトが放った密偵が、今も密かに警備に就いていた。それ以外にも公爵家の隊員に混じって密かに警戒している面子や、学生に化けて警戒している面子も居る。これらは全て、隠蔽に協力している桜田校長達にさえ報せずにやっている事だった。


「……あれ、見えっか?」


 無表情にそう言ってカイトが指差すのは、学園から1.5キロ程離れた場所だ。それをソラが確認して、眉を顰めた。しかし、臆すること無く、肯定した。


「……ああ」

「オレの所に来る、ということはあれをお前も命ずる、ということだ。しかも、それを表に出すことは無く、抱え込む事になる。おまけに一度足を踏み込めば、逃げることは許されん」


 カイトが指さした所は、ソラには朧げではあったものの、何が行われていたのかははっきりと理解できた。カイトの部下の密偵が、どこかの貴族か組織の密偵を暗殺していたのである。

 そして、その遺体を誰にも悟らせる事無く、火属性の魔術にて焼却し、次の瞬間にはカイトの部下もいなくなり、後には何も残ってはいなかった。まさに、誰にも悟られること無く、喧騒の裏側で行われる水面下の抗争であった。


「あれはまだ良いほうだ。それこそどこそこの誰それの娘が拐われ、無残な姿となって発見された、売られた、なぞ胸糞の悪くなる話がゴマンと知れる。何度ぶっ潰せれば、と臍を噛んだ事か……それをただ淡々と、機械のように処理する。嫌な仕事だ」


 そう言っておいて、カイトは苦笑のような、自嘲のような笑いを浮かべる。嫌な仕事、と知っていてやっている自分はなんなのだろうな、と思ったのだ。


「それだけじゃない。根回し、腹芸、美人局……色々な手段で相手を貶め、操り、籠絡する。時には武力で威し、経済力で脅し、名で嚇す。当然、これらは此方にも仕掛けられる。直接、間接的に加えられる危害は臆病なまでに徹底的に対処する。負った被害は相手に数倍にして返す。ただし、武力では決して仕掛けない。直接此方から武力で仕掛けるときは、確実に相手を仕留められる時だけだ。」

「レメース?伯爵の時は仕留めてないだろ?」


 ソラがカイトの矛盾点を指摘する。それにカイトは少しだけ呆れた様な苦笑を浮かべてに解説し始めた。


「レーメスな。あれはあれでいいんだ。オレが勇者なのかもしれない、そうでなくても冒険部のギルドマスターはかなりの実力者の可能性が高く、しかも古龍(エルダー・ドラゴン)に気に入られている可能性がある。それを今回の一件を詳しく調べるであろう貴族たちに考えさせるだけで十分だった。仕留めるつもりは始めから無い。仕留めれば、大問題だからな。それにオレの地位よりは下とは言え、伯爵は十分に高位の貴族だ。それも、皇国最初期からある貴族の一つ。如何に格上の公爵や他の貴族に手を出した、とは言えオレが勝手に取り潰す事ができる家じゃない。警告で十分だ。此方に力が整うまでの単なる時間稼ぎだしな。逆らう者への見せしめ、恐怖や畏怖も、また政治だ」


 カイトは勇者かつ公爵という武名と人望の下、皇国でも最大の権力を有しているが、それでも、皇国として見れば一貴族に過ぎない。そこの所をカイトは十分に理解していた。公爵としての権能とて、それほど万能ではないのだ。

 だからこそ、公爵家の恒例行事が存在する。どの権力にもおもねらず、媚びることもなく、単体でさえ小国にも匹敵する強力な種族たちとの繋がり。それこそは、誰も不可能なカイトの切り札の一つであった。


「ふーん……なるほどな」


 納得した様子のソラをみて、カイトは一度頷いて、眼を瞑る。


「そんなもんだ……それで、政治を教えてくれ、だったな。いいぞ、その決心があるのなら。先の話を聞いて、尚の事決意が揺らがぬのなら。こんなこと望むんじゃなかった、と自らの不明を嘆く意思を持ち続けられるのなら。それで尚、歩み続けることができるのなら……いざとなれば捨てられる覚悟があるのなら」


 そうして、目を見開くと、ソラの顔を見て、結論を言い渡す。


「……ああ、ありがとう」


 出来る、とは言わない。それは前提条件なのだ。明言する必要さえ無い。それ故に、ソラは言わなかった。言ったのは、自分という足手まといを連れて行く決意をしてくれた事に対する礼。なんだかんだ言っても、この男は甘いのだ。親友(じぶん)を見捨てることはない。その程度は理解できるだけの付き合いがあった。しかし、その次に続く言葉に、早くもソラの意思は、揺らぐことになる。


「……後は、由利を説得できたのならな。」


 悪戯っぽく言う親友に、ソラは前途が多難であると悟り、空に浮かぶ満天の星と双子の月を見て、苦笑するのであった。




 そして、同刻、とある場所でも、ある人物が決心を固め、万感の想いを込めて頷いた。


「おー……出来た」


 窓が無い為部屋の全貌はわからないものの、床に刻まれた魔法陣は緻密で繊細、計算され尽くした魔法陣は一種の芸術の様相を呈していた。ティナで無くても名だたる研究者達がこの魔法陣を見たのなら、恐らく興奮で数日は寝食も忘れて昼夜問わずに調べつくしたことであろう。


「長かった……」


 声の主は少しだけ溢れる涙を堪えて呟いた。漸く会える、そう思うだけで、その辛さも吹き飛んだ。幾千幾万の実験の末、漸く完成したまさに完璧と言える術式は一切の失敗も許されない魔法を使用するのに最適な構成となっており、その実験の数々と費やした年月こそが、彼女の決意の固さを表していた。


「……おー? そういえば、今いつ?」


 そうして感極まっていた声の主だが、ふと、気づいた。かなり長い間研究をしていた事はわかるのだが、昼夜問わずに研究していたことで時間感覚がすっかり無くなっていた。最後に寝たのは昨日だったか三日前だったのか、最後にご飯を食べたのは何時だったのかさえわからなくなっていた。


「……あ」


 どうやら身体は正直らしく、空腹を告げる音がなった。声の主以外に、誰もいないのだが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいらしく、少しだけ頬を赤らめる。


「まずは、ご飯……後、お風呂も……」


 自身の身体を見回してみれば、実験等で薄汚れており、とてもではないが他人に見せられる姿では無かった。そうして、ご飯を食べてお風呂に入る声の主。

 そこにはとある方法で入手した防水加工が施された何枚ものグラビアの写真が貼られており、自身の目標となっていた。そうして、現在の目標となるスタイルの良いグラビアの胸を強調した写真を見ると、自身も同じポーズを取って鏡で確認。声の主のお風呂での日課であった。


「ん……勝ってる」


 自信満々に頷いた声の主。そうして、勝ったグラビアの写真にはバツを付け、次の目標を見定める。


「……お尻もよし。次は……」


 今度は臀部を強調したグラビアの写真を見て、同じポーズを取る。相手は水着を着ているという差はあるが、勝っていると判断する。そして、今度は身体全体のバランスがきちんとわかる写真を見定め同じく同じポーズを取る。


「ん……完璧……? こんなにこの写真下だっけ……」


 勝った、ご機嫌にそう判断した声の主はかなり大昔に貼り付けた写真がかなり下にあることに気付いた。


「おー?……邪魔だから下にどかしたっけ?」


 そんな記憶は無いのだが、と声の主はそう考えるが、もしかしたら記憶が曖昧なのかもしれない、と結局は流す。時には疲れきって風呂に入り、そのまま寝入った事も少なくないのだ。十分に有り得る話であった。そう考えた声の主は、次の目標を見定めようとして、もう時間はあまりない事に気付いた。


「予定変更……即、ラスボス。」


 そう言って声の主は残り少なくなった目標の全てを廃棄し、ラスボスと見定める美女の写真を持ってくる。この写真はどうやらグラビアの物ではないらしく、他に同じくグラビアではない写真は、かなりの美少女の写真だけであった。その写真は既に下の方でバツが付けられている上、小さく中ボスと書かれていた。

 どうやら隠し撮りしたらしい写真の美女はポーズをカメラへ向けてとっているわけではないが、近くに居る男を誘惑すべく、蠱惑的なポーズを取っていた。男の方も、かなり精悍な顔付きで、体つきも整っており、かなりの美丈夫であった。そして、声の主は写真に映る男へ向けて美女と同じポーズを取る。


「……互角?……よかった」


 さすがにこの美女相手には自信が無かったらしいのだが、互角に戦えるまではなっていると自己評価を下す。


「ん……ちょっと髪も伸びた? 伸びすぎ? でも、確かロングヘアーの方が好きだった筈」


 貼られてある写真も多くがロングヘアーの女性であった。貼られてある写真はある共通点があるのだが、そこから出した結論であった。


「短くしたら長くなるのに時間が掛かる……でも、もう少し切っておくべき?」


 腰まであるロングヘアーなのだが、それでも少しだけ長すぎる気がしないでもない。久しぶりの再会なのだ、不安は尽きない。


「あ、でもエステとかはしときたい……」


 声の主は今すぐ会いたい気持ちと、出来るだけ綺麗な自分を見て欲しい、という欲求を天秤に架ける。ここ最近不規則な生活を送っていた所為で、少しだけ肌荒れが気になっていたのだ。


「あ……昼夜も元に戻さないと……」


 会ったは良いが、生活リズムが異なる所為であまり一緒の生活が出来ないのは致命的だ。それだけは避けたかった。相手は忙しい事が確定している人物なのだ。出来るだけ、一緒に居れる時間を長くしたかった。


「……延期しよう……」


 色々と考えれば、どう考えても今すぐ即実行とするには声の主にとってマイナス面が多すぎた。第一、万が一は無いと自信を持っているが、疲れきった身体で億が一を起こしては、悔やんでも悔やみきれない。いや、それどころか確実に後を追う。その自信はあった。


「……カイト、ごめん。もう少しだけ、待ってて。……お姉ちゃんが絶対に呼んでみせるから」


 そう言って、カイトの姉を自称するアウラは、全てを完璧に整えるべく、更に数日準備することに決定するのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第249話『第二回トーナメント』


 2015年10月29日・追記

・誤表記修正

『仕留めれる』→『仕留められる』

 ら抜き言葉になっていたので修正しました

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