第245話 第二回トーナメント―タッグ・マッチ―
当分はタッグ・マッチが続きます。
第二回トーナメント初日が終わり、二日目。今日は朝から全員が学園に滞在していた。
『ではでは! 始まりました二日目!今日はタッグ・マッチが行われる予定です!』
『注目はもちろん!』
『この二人! 前回大会覇者二人が手を組んだ!』
『なんの冗談! でも現実!』
『ミストルティン選手と天音選手!』
『昨日は上層部全員が欠場したけど、今日からは本格的に参戦し始めるよ!』
マイクから真琴とユリィの流れるような掛け合いが響いてくる。
『いやー、始め聞いた時にはどんな冗談だ、と思いましたよ?』
『まあねー。昨日の演目を見ても、二人が実力者である事は確実。半ば諦めムードが漂ってるねー』
二人は呆れ口調で話し合う。そうして聴衆の様子を確認し、再び大声で実況を始める。
『だがしかし! 実はこれには一つ仕掛けがあったらしいぞ!』
『なーんと! 本当はカイトは出場しない予定だったんだけど、ティナが使い魔の調子が見たい、ということで人数合わせに無理やり登録! しかーも! ティナは登録させておきながら出場せず! 昨日一晩カイトが愚痴ってたよ! しかたがないよね!』
『実質一人と使い魔一体の組み合わせでの出場らしい! これは十分に勝機あり! 諦めてた奴らは一気にやる気を取り戻せ!』
『更に! カイトは今回ティナからの依頼でメインとしては活躍出来ず! 優勝させる気無し!』
『とは言え、挑まれれば迎え撃つであろう天音選手! どのようにして交戦を避けつつ、目標を撃破するか、が肝要です!』
『おまけに使い魔もティナ謹製! 当たり前だけど、使い魔の性能は超一流! 油断していれば容赦なく撃破されるよ!』
『学園の使い魔作成技術は全て彼女に端を発しますからね。その実力は確実でしょう』
冷静に実況を始める真琴。ソレに合わせてユリィも落ち着いた。ちなみに、学園どころか、近代以降の皇国の使い魔技術はティナに端を発している為、全ての使い魔の母とも言える存在なのは、秘密である。
『ティナの創った使い魔達は三体いて、それぞれに得意分野が異なるらしいよ。これの選択はカイトが行なうから、カイトの戦略を読む事も重要だね』
『ほう……3体ですか……何が得意なのでしょうね』
『さすがに、それは言えないお約束だね』
明らかな利敵行為は避けるべきなので、ユリィが口をつぐんだ。それは当然の流れなので、真琴は突っ込むこともせず、本題に入る事にした。
『さて、ではルールの説明に参りましょう!』
『今回から実施されたタッグ・マッチ! 基本的なルールは個人戦と変わらないよ!でも!』
『ここが違う! 今回からは護衛目標が設定されており、相手の完全撃破以外にも、それを撃破することでも、勝利が得られます!』
『護衛目標は白と黒の旗!相手の旗を撃破すれば勝利!もし実力で相手に勝てないと判断したら、そっちを狙うのも有りだよ!』
『旗の周りで待ち受けるのか、進軍して攻撃に向かうのか、という戦略眼も求められます!』
『さて、それでは他の注目タッグを見てみましょう! まずはこの二人! 天城選手と小鳥遊選手のカップル! じゃなかったタッグ!』
『まあ、間違いじゃないけどね!』
そんなこんなでところどころで茶化しながら、二人が選手の紹介を行なう。昨日来ていた使い魔の主は、そんなユリィを唖然と眺めていた。
「あれは……本当にユリシア学園長なのか?」
昨日も思ったが、今日もアッパーテンションで実況を行なうユリィに主が遠く皇都で呆然としている。
「おや、今日も来られておいでですな」
そうして飛来するのは、クーだけだ。今日は他の二体は学園の各地に散っていた。というか、二体の擬態に気づかない生徒たちによって、愛でられ、餌付けをされている。
「おお、昨日の使い魔殿か。招き、感謝すると魔王殿に伝えておいてくれ」
「おや、今日はお喋りもできるのですな。ふむ、確かに、伝言を受け取りました」
クーは相手が別にティナの正体を探り当てたからといって驚かない。クーから見ても見事な出来栄えの使い魔である。それを創れるだけの魔術師が、ティナの正体に思い至らないとは思わなかった。
「これは申し遅れました。私、魔王ユスティーナの使い魔、クーと申します」
ペタリ、と両の翼をテントの屋根につけて、お辞儀をするクー。相手はその繊細な動きに驚きを得つつも、小さく小鳥の頭を下げさせた。
「これはご丁寧に。未だ至らぬ身にて、使い魔にそこまで繊細な行動をさせられぬ事はご容赦頂きたい。皇都にて学徒相手に教鞭を振るっているイクサと申す者です」
「ほう、かの有名な天才イクサ殿でしたか。これは主も喜ばれましょうな」
「永き歴史を誇る魔族にありても歴代最高と名高い統一魔帝殿にご存知頂けるとは、我が名も捨てたものではありませんな。して、今日はどのような出し物をお出し頂けるのでしょうか?」
使い魔を通して、遠く皇都のイクサが待ち焦がれる様に尋ねる。尚、彼女は現在ゼミの個室にいるので、周囲の学生たちが奇妙がっているが、彼女は些細な事として気にしていない。
「それは見てからのお楽しみですな。まあ、研究者でしたら、昨日以上に楽しめる事は保証致しますな」
そうして、二体の使い魔達は用意が終わった選手たちの中で、一際異彩を放つ二人へと、目を向けるのであった。
『では! 第一試合、開始!』
真琴の声に合わせ、全ての戦場に開戦を告げるゴングが鳴り響く。
「戦場は市街地、か。三葉、行けるな?」
カイトは横にいるフードを深く被り、ゆったりとした外套を羽織って容姿を完全に隠した三葉へと問いかける。
「イエス、マスター。」
「今回はお前が移動の指示を出せ。オレはソレに従って行動する。どこに敵が潜むのか、何処にトラップを仕掛けるのか、一つも見逃すな」
「イエス、マスター。では、状況を開始します」
「よし、やれ」
三葉はカイトの許可を得て、自身の周囲に魔法陣を展開する。それは、周囲の状況を見通す、遠視の魔法陣であった。
「……4キロ先の5階建てビル、3階に敵がいます。数は1。もう一人はここから5キロ先の旗の防衛を行っている模様。隠密でそこまで行ってもらえますか?」
「ほう……この時間で一キロ移動したか。了解だ。これより、隠密行動を開始する。以降、通話は念話で行え。」
カイトは少しだけ微笑むと、武器の選択を鎖と短剣にして一気にビルまで駆け抜けた。
『マスター、そこの2階部分に罠を仕掛けている模様』
『迂闊、いや、明日の団体戦に重点をおいているのか?』
今回、団体戦の組み分けが終わった後もタッグ・マッチの受付を行っていた。これは、団体戦のコンビネーションの練習とできれば、という考えからであった。
当然だが、2対2であれば足止め等の罠はいまいち意味を持たないが、団体戦ともなれば足止めは重要になってくる。如何に敵を足止めしつつ、コチラの人員を攻撃に回すことができるのか、それが勝敗を分けるのだ。
『わかりません。ですが、罠の系統は足止めの模様。気配を偽る術式を感知しました』
『もう一人は?』
『動きなし。旗の防衛に務めています。屋上へ行き、そのまま敵の撃破を』
『了解した。屋上へと移動し、可能ならば敵の排除を行なう』
カイトは三葉にそう告げると、持ち込んだ鎖を利用して密かに壁をつたい、屋上へと登る。相手が誰なのかわかっている戦場など無い。そこで今回のタッグ・マッチでも、相手が誰なのか、遭遇するまでは判明しない。なので、最悪は壁を貫いて攻撃される事は考慮に入れている為、それなりに駆け足だ。
『屋上、此方からは敵影無し』
『了解……屋上、異常なし』
屋上についたカイトは、そのまま周囲を見回して異常が無いかを確認する。姿勢は低く、旗を防衛している敵に見られない様に注意する。
『屋内の敵、3階部分から4階へと移動中』
『了解した。屋上に向かう様子か?』
『肯定します。4階から5階へ移動を始めました。マスター、暗殺は可能ですか?』
屋上から別の建物へと移るつもりか、そう判断したカイトは、息を殺してドアの死角に潜む。更に隠形の魔術を使用し、気配も全て遮断する。相手からもわからなくなる代わりに、自分から相手も認識できなくなるという魔術だが、三葉が居るので問題ないと判断したのである。
『敵が屋上の扉を開けて外に出た時点で合図しろ』
『了解です……今!』
三葉の合図に合せて、カイトは魔術を停止し、姿勢を低くしたまま相手に近づく。そしてある程度近づくと、一気に速度を上げる。そして手の届く距離となると体術を利用して押し倒し、そのまま魔術を使用して戦闘不能にした。
そうして顔が見えて確認すると、それなりに可愛らしいが、見知らぬ女生徒であった。カイトは無感動にそれをゆっくりと横たえ、眠らせておく。スカートの中身が露わになっているが、戦場に立ったカイトは気にしない。
『敵、一人撃破。もう一人は?』
『動きなし……いえ、どうやら連絡は取り合っていた模様。少し慌てた様子があります』
『了解した。そちらから牽制可能か?』
『はい。この距離は射程距離内です』
直線距離で5キロ程度離れているが、三葉は可能と断言する。それにカイトは気を良くして頷いた。
『上出来だ。ならば、相手の近くまで接近する。その後、牽制で相手の動きを逸らせ。その隙に旗を撃破する』
『了解』
そうしてカイトは再びばれないように移動し、旗の側で警戒する女生徒を確認。どうやら、移動中に焦りは落ち着いたらしく、今は平静を取り戻していた。どうやら魔術師らしく、手には杖を持っていた。
『……ほう。中々に良い腕だな。もう落ち着いている』
今は彼女の後ろに回っているので顔は見えないが、油断なく周囲を見渡している所をみれば、どうやら既に落ち着いているようだ。
『マスター、それは素晴らしいことなのですか?』
『冒険者として見るならな。まあ、女生徒として見るなら、もう少し怯えてくれた方が楽しみがいがあるが……』
『マスター、少しだけゲスいです』
カイトの答えに三葉が少しだけ呆れた声音で返した。少しずつだが、感情が芽生えているな、とカイトはそれに満足を覚えつつ、行動を起こす。
『では、状況を開始しろ』
『御命令のままに』
そうして、三葉は女生徒から少しだけ離れたカイトとは別方向の場所の岩盤を撃ちぬく。威力そのものは大した物ではないが、彼女の注意を引くには十分だった。
「そこ! <<炎の雨>>!」
女生徒が物音がした方角へ向けて、上から落ちるように炎の魔術を降らせる。爆音が生まれ岩盤がはじけ飛ぶが、そこには誰もいない。
「<<円月輪・刀>>」
女生徒の注意が別方向へ向いた隙に、爆炎と爆音を利用してカイトが密かに小太刀を投擲する。その短剣は一直線に白の旗を掲げる柱を両断し、倒れこんだ。それで、勝敗が決した。
『勝者! 天音・ミストルティンタッグ! いやー、まるで暗殺者を見ているかのようでしたね!』
『ほんとにねー。魔術を使用して壁を走れば内部にいる生徒に悟られかねないから、って鎖で屋上まで……』
試合が終了したことで、二人の実況が内部にも響いてくる。
「げ! 天音相手だったの!」
戦場に鳴り響く真琴の声に、女生徒が相手の正体を知る。カイトが良く眺めると、それはカイトのクラスメートであった。
「ああ、なんだ。お前か」
「気づいてなかったんだ。先輩を倒したのも天音?」
「ああ、先輩なのか。ああ。影からこう、コキュっと。今は寝ている」
「うっへぇ……天音、戦闘ごとになると容赦ないねー」
顔を顰めるクラスメイトの少女であったが、次に響いてきた真琴の言葉に眉間に皺を寄せる事になる。
『おーい、カイトくーん。お姉さんさっきの倒し方は感心しないかなー』
「は? 何かまずいことありましたか?」
聞こえてきた真琴の声に、カイトが問い返す。それに、ユリィが答えた。
『カイトー、せめて女の子なんだからスカートぐらいは直してあげようよー。パンツ丸見えってちょっとひどいよ?』
「あ、そう言えばそうだったな」
戦闘中は無感動に、無感情に只々敵を倒す事に専念していたが、よくよく考えれば全校に放送されているのだ。パンツが丸見えの状態で放置するのは、いささか配慮に欠けていた。
「ちょっと、天音! あんた先輩に何してんのよ!」
ブン、という音とともに、杖がカイトへと振るわれる。
「うわぁ! 杖で殴ろうとするな! 別に押し倒しただけだ!」
確かに事実ではあるが、これは事実を述べただけで火に油を注ぐだけだった。
「……あんたねー!」
そうして、クラスメートの女の子相手にも、追っかけっ子を開始するカイト。なにげに、戦闘よりも疲れる結果となったのは、ご愛嬌であった。尚、先輩と呼ばれた女生徒のスカートはカイトが逃走している間に、三葉をやって直させておいた。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第246話『第2回トーナメント』
2015年10月23日 追記
・誤表記修正
誤『少しづつだが、感情が芽生えているな、カイトは~』
正『少しずつだが、感情が芽生えているな、とカイトは~』
2016年9月25日 追記
・誤字修正
『行って』が『言って』になっていた所を修正しました。