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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二章 異世界転移編 
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第16話・後編 三百年後の世界―西とその他の国々―

 すいません。ホントは2話で説明回を終わらせる予定だったんですが、追加した記述分が自分の中での規定を超えてしまい、分けることになりました。同時更新していますので、前編―一個前―から先にお読みください。

 更に各国の政情について話し合う一同だが、西について話すところでクズハがかなり真剣味を帯びた顔をして


『西国のルクセリオン教国ですが、現在かなり政情が不安定となっています。』

「あそこが?教主の権力が失われたのか?」


 ルクセリオン教国は国教として唯一神ルクセリオが起こしたとされる宗教であるルクシオン教を信仰している宗教国家であった。その教義は人間種以外の種族については人間種と異族との結婚を認めないなどの若干排他的であるものの、概ね質素倹約や肉欲に溺れてはならない、などのもので、異族を排除しようとするなどの問題を起こしている感はなかった。また、教団のトップである教主が神より与えられたものとして権力を握っているため、権力闘争も起きにくかったはずであった。教国について思いだしていたカイトはその権力が失われた、と考えたのだが


『いえ、教主の権力は300年前よりも増しています。ただ……。』


言い難そうにしているクズハ。


「どうした?」

『実は、お兄様の転移以降にルクスさんの一件で大揉めしまして。』

「まさか、いまさらルクスとルシアが結婚したことを問題にしたのか?出奔した後だぞ?」


 ルクスの幼馴染であるルシアが妖精族の血を受け継いでいたことが発覚し、当時教国の聖騎士団に所属していたルクスは魔王討伐後、そのまま教国から出奔することになる。その後は公爵家の従者筆頭として仕え、ルシアとも結婚したが、教団からは何か問題を提起する声は上がらなかった。


『そのことについてはなにも。ですが、ルクスさんの剣と盾が問題となりまして……。』

「は?」


 カイトとティナはさすがに武器が問題となるとは思っていなかったが故に、頭に疑問符が浮かんでいた。しかし、すぐに理由に思い至ったらしいティナが応えた。


「確かルクスの剣と盾は聖別?じゃったか、を施された唯一の武具であったじゃろう。」


 エネフィアに聖属性という属性は存在しない、とされているが、その唯一の例外として挙げられるのがルクスの武具であった。


「ああ、確か唯一神ルクシオンが初代教主に与えた聖剣と聖盾である、とされているな。あれは既存の属性や、それらの組み合わせのどれにも属しない、と大精霊たちも言っていた。」


 怪訝な顔をしつつも、当時の仲間の使用していた武具を思い出して肯定する。


「唯一神が聖別して下賜した武具ともなれば教団の秘宝であるはず。しかし、返却を求めただけであれば、未だに揉める大事にはなるまい。」

『はい。実際にお兄様の帰還後しばらく経って返却を求められました。が、その際に問題が。』

「返却しなかったのか?」


 ここまで聞いたカイトだが、否定されてしまう。


『正確には出来なかった、が正解です。』

「大方、偽物ではないか、との声があったのじゃろ?」

『ええ。実際に返却の際に、一部の煩方からその武具は偽物ではないか、との声が挙がりました。』


 なるほど、ここで問題の全てを把握したらしいカイトはうんざりしつつも話を聞いている。


「教義に反した者が使用できる剣と盾が本物であるはずもない、といったわけじゃな。」

『ええ。そのせいで教国側でも武具を受け取る事ができず、と。』


 画面のクズハと横にいるティナもうんざりしていた。


「だが、この程度が周辺国との政情が揺らぐほどのことか?」


 どう考えても未だに揉めるほどの問題となるとは思えなかったカイトは眉を顰めた。


『議論の結果、ルクスさんはお兄様との旅の最中までは教義に従っていた。しかし、魔王討伐後、異族との姦淫による堕落で出奔した、という勢力が力を強めて、剣と盾は本物、と結論付けされました。ですが、この勢力は当時最高の聖騎士とまでされたルクスさんを堕落させた、として異族についてはかなり非寛容な勢力でした。そのせいで隣接する皇国や魔族領との関係が目に見えて悪化。現在は更に悪化して異族の殲滅を目的とした侵略戦争……当人たちは浄化だ、と言っていますが……を続行している、というわけです。今は戦線が膠着しているため、目立った戦闘は起きていませんが……。』


 思った以上に厄介な現状に唖然とするカイトとティナであった。


「はぁ、これだから宗教は……。」

「そう言ってやるな、あんなものでも救われる奴はおるんじゃろ。」


 二人共無宗教論者―無神論者ではない―であるために辛辣であった。




『次に、北西のミランダ王国は滅びました。』

「北西、と言うとサクハ砂漠か。何か問題があったのか?」


 北西に三百年前はあまり縁のなかったカイトとティナは、あまり興味を抱いていない様子であった。


『ええ。十数年前に砂漠でジャターユという盗賊が周囲の盗賊団を制圧し、ミランダ王国の王宮を襲撃し、これを陥落。以降ジャターユは自らを盗賊王と名乗り、周辺の街や村を制圧。国名をジャターユ王国と改名しました。が、当然周辺諸国は認めていません。また、国内の治安は最悪のため、難民が多数皇国へ流入しています。此方への問題は流入する難民と時折やってくる盗賊団程度、でしょうか。』


 そう言って一旦カイトを見遣るクズハだが、続けろ、とカイトに言われて続ける。


『その盗賊団にしても出現は稀、更に出現地は皇国西方部であるので、東側である公爵領への被害はありません。盗賊団も力を持つ異族の多くを抱える皇国や、魔王が有する魔族領と事を構える不利を悟る程度の頭はあるらしく、主な被害は砂漠周辺と西側の国々、南のルクセリオン教国ですね。』


 そう言って事務的に伝えていくクズハと、それを事務的に咀嚼していくカイト、ティナの両名。三人共砂漠の民には同情をするが、自らも領主として民を治める身、更には自らの領分を承知している者であった。彼らには悪いが、ただそういう事実があるだけ、として受け入れるだけで、実際に行動を起こす気は今のところなかった。


「他になにか変わったことがあるか?」

『いえ、南は変わりありませんね。他には……強いて言うなら、魔族からの侵攻の心配がなくなり、皇都以北の治安が良好になったことから、皇都以南の経済状況が目に見えて活性化した、といったところでしょうか。』


 皇国は東を海に面している。南にも国家は存在していたが、問題になることは今のところ起こっていないらしい。


 ちなみに、エンテシア皇国皇都エンテシアは海に面してこそいないものの、かなり海に近い皇国南東部に作られている。これは東は仁龍が率いる強大な力を持つものの、基本的に領土欲がない妖族が治めていたため、政変が起きづらく、また中津国は自らに敵対しない限りは敵となることがないためだ。それ故に西側の戦線から遠く、影響が少なかったのであろう。


 なお、カイトが所領する公爵領は皇都北の主要街道を全て抑える様にある。これは当時、カイトの率いる戦力を魔族が侵略してきた場合の抑えとして配置する為であった。


「そうか。これでこの大陸は終わりか?では、他の大陸は?」

『現在皇国に関連のある大陸勢はこの程度ですね。他大陸についても似たような状況のため、他の大陸へ侵略出来るほどの戦力を有しているところは、今のところ公爵家の情報網には掛かっておりません。空から各地の状況を入手してくださっているティアお姉様も同じことをおっしゃってますね。』


 世界を見通せるほどの実力者たる古龍(エルダードラゴン)から情報が得られる、というのは現代のエネフィアでは、情報において敵なし、といっても過言ではない。それ故に現在、他大陸については問題ないだろう、と考えたカイトはそれらを咀嚼するために、一度目を閉じる。そして、再び見開いた事を確認し、クズハは続ける。


『只、新たにウルシア大陸で文明が発見され、交流が始まっております。』

「あそこが?他の大陸はどうなんだ?」


 カイトはかなり興味深々といった感じで、身を乗り出す。かつて旅をしていた血が騒いだのだ。


『アニエスとアイシスは相変わらずですし、双子大陸も何とか持っております。暗黒大陸とは未だ未開ですね。』


 エネフィアには、7つの大陸が存在している。

 カイトが居るエネフィア最大の陸地面積を誇り、最も多くの種族と文化が存在しているエネシア大陸。

 2つの大陸がまるで鏡合わせの様な位置であることから双子大陸の異名を取るイオシア、イオシスの両大陸。尚、この2つの大陸の陸地を合わせると、エネシア大陸の陸地の1.5倍程度となる。

 かなり高位の魔物が生息し、立ち入りが厳禁されている暗黒大陸ことオルテア大陸。

 新たに文明が見つかり、交流が始まっているというウルシア大陸。

 常に空中に浮かび、様々な土地を行き来している浮遊大陸アイシス。

 技術レベルでは双子大陸とエネシア大陸には及ばぬものの、一定以上の文明が存在しているアニエス大陸。

 この7つが、エネフィアを構成する大陸であった。この内、カイトは冒険者としての旅路と、魔王討伐に際する救援要請を受けたことで、当時文明が発見されていた5大陸へは行ったのだが、新たに見つかったウルシアには行ったことが無かった。理由が無かったからだ。


「そうか。ありがとう。」

『いえ、お兄様のお役に立てたなら光栄です。』

 そういって嬉しそうにしているクズハであった。話は終わった、として最後にカイトは少しだけ照れくさそうに笑った。

「じゃあ、最後に済ませないといけないな。」

『?なんですか?』


 少し照れたように言うカイトは、怪訝そうにしているクズハに対して微笑む。


「ただいま、クズハ。遅くなったが今帰った。それと……綺麗になったな。」


 そう言われて目の端に涙を溜めつつも、とびっきりの笑顔を浮かべる。


『ありがとうございます、お兄様。そして、お帰りなさいませ。』

と言うのであった。しかし、続けてクズハは悪戯っぽい笑顔を浮かべ、こう言った。

『では、私は約束を守りましたので、お兄様もお守りになってくださいね。多分、アウラも綺麗になられていますよ。』

「覚えてたのか……」


 そんなクズハに、そう返すしかなかったカイトであった。


『当たり前です。』


 若干拗ねた様子でそっぽを向くクズハ。カイトもティナも、そんなクズハも、楽しげに笑みを浮かべて、少し雑談をした後、通信を切ってお互いに寝所に戻り、長かった転移一日目に終わりを告げたのであった。

 ちなみに、通信室から退出の際に、伝説の勇者と魔王であると知った幹部達が―何も知らない隊員達を怪訝とさせつつも―握手とサインを求めて来て、それに応えつつなんとか個人スペースへと辿りつけたことは、詳しく書かない。


 お読み頂き有難う御座いました。


 2017年6月26日 追記

・誤字修正

 大陸の名前で『オルテア』になっていたのを『アイシス』に修正。記すべきは浮遊大陸でしたね。


 2018年2月3日 追記

・修正

『なかったが故に、頭に』すべき所が『なかったが頭に』となっていた所を修正

『皇国へ流入』が『皇国への流入』となっていた所を修正

『いけないな』が『いけないとな』となっていた所を修正

『クズハに対して』の『に』が抜けていた所を修正


 2018年5月3日

・誤字修正

『応え』が『答え』になっていた所を修正。

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