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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十二章 第2回トーナメント編
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第242話 第二回トーナメント―来客―

 第二回トーナメントが始まり、ついうっかり口を滑らせたクラウディア。冒険部上層部用に誂えられたテントにて、ティナから説教を受けていた。横にはガクガクブルブルと震えて歩けないほど憔悴したクラウディアを連れてここまで来たカイトも一緒である。


「のーう、クラウディア。お主、余にまるで熟練の娼婦かの様に語ったはずじゃの?」


 腕を組んで非常に据わった眼をして、ティナがクラウディアに問いかける。当時婿探しをしていたティナに、閨での術を教え込んだのはクラウディアであった。魔王とて、王族だ。閨の術も長けていなければならない、と他ならぬクラウディアが教えこんだのであった。


「い、いえ。あのですね?コレには深い事情が……」


 強制的に正座させられたクラウディア。顔は真っ青であった。


「ほう、申せ」


 姿は小柄な少女だが、今のティナは身にまとう雰囲気は全盛期の魔王の物を放出していた。この場に居るのが、カイトと三人のホムンクルス達だけで良かったのだが、もしこんな所に誰かが紛れ込めば卒倒するだろう。それだけの威圧感が放出されていた。


「実は……あの、仲間は時として気に入った男や必要な時には夜技を使用して魔力を得ていたのですが、あの、その私は……て」

「何じゃ? はっきりと申せ」


 クラウディアが真っ赤になりながら小さく言った言葉は、聞き取れなかった。そこでティナは再び発言を命ずる。ちなみに、夜技とはサキュバス達が性交などで魔力を奪う技の事だ。房中術とも言われる。


「いえ、あの……怖くて……それで私は手で触れるだけで魔力を得ていたんです。私は、ほら、力が強いので、手をかざすだけでも必要な魔力を得られたでしょう?それで、少しして私の力が魔族全体に伝わると、この程度の男は夜技で吸う価値も無い、というふうに周りが勝手に持ち上げまして……」

「引くに引けなくなった、と? では、貴様まさかあの時も生娘じゃったのか?」


 ティナの言葉に、クラウディアが小さく頷く。カイトとクラウディアの間に肉体関係があった事は承知していたのだが、まさか生娘であった事は知らなかったティナ。大いに驚いていた。


「……はい。それで、いまさらしたことが無くて、怖いから、なんて言える筈もなく……」


 シュン、とした様子で答えたクラウディア。更に詳しく事情を聞くと、周囲があまりに持ち上げるものだから引くに引けずにそのまま押し通した、との事であった。


「それで、魔王様がカイト殿と交わられた後、意を決してカイト殿に相談したのです」

「と、言うことはお主も知っておったのか?」


 クラウディアから詳細を聞いたティナが、カイトへと尋ねた。


「まあ、な」


 夜技に長けた淫魔の類の、それも高位に位置するクラウディアが生娘とあっては一族の外聞に関わる。そこで相談をされたのであった。


「それで黙っていてください、とお願いして……」

「交わった、と。成る程のう」


 取り敢えず聞きたいことは聞けたので、ティナは少しだけ黙考し、処罰を考える。


「では、取り敢えず……脱げ」


 腕を組んだまま、クラウディアへと言い放つティナ。


「は?」

「脱いで尻を出せ、と言うておる。悪い子にはお尻ペンペンせんとな。」


 ティナはそう言うと、何処からか鞭を取り出して、素振りを始める。ヒュン、ヒュン、と非常に良い音を出して、鞭が振るわれる。


「おい、ティナ……ご褒美にしかならん」


 クラウディアが浴衣の裾を捲り、お尻を突き出そうとした所で、カイトが止める。


「む?」


 カイトの言葉にクラウディアの顔を覗きこんだティナ。クラウディアの顔は、期待で満ちていた。


「……やめじゃ」


 確かに、ご褒美にしかならなそうであったので、ティナは鞭を引っ込める。


「え?」


 かなりがっくりした感じで、クラウディアが落ち込む。ティナもそうなのだが、どうやら魔王は変人しか居ないらしい。


「どうしたものかのう……」


 そうして再び黙考するティナだが、結論が出る前に、外から声が掛けられた。


『おーい! ティナちゃんにカイトくん! そろそろ出番なので、出て来てくれるー!』

『カイトー! エキシビションの時間ー!』


 その言葉に、ふと時計を見ると、確かにエキシビションが開始される時間を過ぎていた。


「む! しまった!」

「おい、ティナ! 急いで戻るぞ!」

「こうなれば……クラウディア! お主はクズハの横で余のエキシビションが終わるまで正座じゃ!」

「え? あ、はい!」


 大急ぎでテントから外に出る三人。カイトとティナは大急ぎで用意を終わらせ、即座に戦闘用のフィールドに出るのであった。




 時は少しだけ遡る。三人がテントに入った直後。屋台が乱立する場所の上空で、小鳥が一羽飛んでいた。これは珍しい事では無い。それがもし、真実小鳥であったのなら、の話だが。


(ふむ……こんな所だったのか。中々に興味深いな)


 小鳥は小鳥に擬態した使い魔であった。使い魔を通じて、主は学園の全景を眺める。


『では! 注目選手の紹介も終わりました! ユリィさん、誰か注目する選手は居ますか?』

『そだねー、取り敢えず、弥生かな。』

『ほう、支援系統の冒険者として第一陣としての登録は見送られましたが、保有魔力量は上位10人に入る程の実力を有していた神楽坂選手ですか……あ、コレだと分からないですね。神楽坂長女です』


 当然ながら、弥生は地球に居た頃からカイトが鍛錬を見ているので、その魔術の扱いには一日の長がある。本来ならば魔力保有量もそれなりに高いのだが、ばれないように自分で抑えた結果――当たり前だが、公爵家が隠蔽もしている――であった。


『それは知らないけど……でも、鍛錬は第一陣が訓練中から行っていたみたいだし、現在はカイトの下で教えを受けているから、何をしてくるかわからないよ』

『確かに、師からして何をするかわからない人間ですからね……私などは空手部主将の綾崎選手等が気になりますが……』

『パワーとスピードを兼ね備えたマルチファイターだね。カウンターもこなすから、どう攻めるか、が重要になってくるね』

『はい……では、ルールの説明に参りましょう! 基本的には前回と変わらず……』


 そうして真琴が基本ルールの説明と、日程についてを紹介する。


(あれは……クズハ様か。それに、何故学園長がここに?学園長室にいらっしゃったはず……)


 主は真琴の横で解説を行なうユリィを見て、首を傾げる。どうやら公爵家の有する学園の関係者であるようだ。


『さて、主な変更点ですが、まず! 今回からバトルフィールドが作成される、ということ!』

『森林、市街地、草原、渓谷の4つだよ!』

『更には前回まであった遠距離選手に対しての制限、選手間の距離と攻撃間のクールタイムが全て撤去されています!』

『目指せ最速! 目指せ最強!』

『しかーも! 今回からタッグマッチ、団体戦では使い魔とゴーレムの使用が許可されています! ただし、一試合で一人一体なので、注意してください!』

『特に森林や渓谷等の視界が制限される戦場では使い魔やゴーレムを使用した行動が肝要だよ! まあ、魔術師の子じゃないと、使い魔は所持していないから、近接の子には関係ない! 無いならないで、勘でぶち当たれ!』

(……あの学園長のアッパーっぷりはなんだ?確かに、妖精族らしいといえば、らしいが……)


 いつもは荘厳な、威厳に満ちた雰囲気はそこにはなく、只々妖精らしい無邪気な姿がそこにはあった。使い魔の主はそんなユリィを横目に、なるべく戦場の全体が見渡せる場所に設置されていたテントの屋根に使い魔を着地させる。


(ここまでは誰にも気づかれていない、か。さすがにクズハ様と学園長が居た時は肝を冷やしたが……私の腕も大したものだな。英雄の眼も誤魔化せるか)


 今回、この主が使っている使い魔はこの主の特別製で、主自身が最高傑作と自画自賛するほどの隠密性を有していた。代わりに喋る等の幾つかの機能を排除することになったが、隠密で他者と話すことを考えていないので、問題はなかった。出来るのは擬装用に囀ることぐらいであった。

 まあ、それだけ隠密に特化したが故に、ここまで誰にも気付かれること無く、高度な結界が敷かれた天桜学園へと潜入を果たしている。更には仲間だと思ったのか、横には赤い小鳥が舞い降り、一緒に佇んでいた。主は一瞬追い払うか、と思ったが、取りやめた。


(コレはコレで偽装になるか。まあ、聞いていたが……あまり眼を見張る奴は居ないな)


 元々が魔術のまの字も知らない者達だ、と聞いていたので実力に関しては期待していなかった。それでも、危険を犯して潜入したのは興味があったからである。そこで、横に子猫が現れ主は逡巡する。


(ここは小鳥として逃げるべきか? しかし、この場所から離れるのも……)


 しかし、横の小鳥も逃げる気配がなく、猫が眠そうにあくびをして寝転がったので逃げる必要なし、と判断する。


『さらーに! 今回は初日、この後に前回大会の優勝者二人によるエキシビション・マッチと最終日の全試合終了後にご好意で公爵家の方々によるエキシビション・マッチが開催される予定です!』

『公爵家の方々のエキシビション・マッチはなーんと! クズハ様まで登場されます! 男の子たちはスカートが舞い上がったからって期待しないでね!』


 本来ならば初日だけで終わるつもりであった使い魔の主は、ソレを聞いて少しだけ予定を変更する。


(ほう……クズハ様もお出になるのか。コレは予想外……最終日は講義があるから出すつもりは無かったんだが……まあ、学生たちには自習でもさせておくか)


『演目は、万魔共演と!』

『過去と未来の共演! バーサスチーム・レジェンド!』

『……誰なんでしょうね。レジェンドって』

『さあ……公爵家の方々にも通知されていないみたい』


 真琴は何をするのか知らされていないので、首を傾げる。ユリィは既にカイトから聞いていて、少しだけ楽しそうに笑うのだった 尚、その笑みの所為で全員が完全武装で挑む事になったのだが、全員が嫌な予感しかしなかった。


「父上、どう考えますか?」

「運が良くてクラウディア様、か……大穴でペンドラゴン様が来られている可能性も……」


 ルキウスに問われたエルロードが、黙考して答えた。二人共、のんきに浴衣を着て女の子と屋台巡りをしているアルをすごい、と感じていた。アルもこの演目には出場予定なのであった。何故あんなにのんきに屋台巡りができるのか、理解できなかった。


「クズハ様もコチラ側だ、って言われてたから、悪かったらカイト閣下直々に来られるかな……」


 エルロードとブラスの二人が、ため息混じりに予想する。尚、この二人の予想は半ば当たっているが、対象はカイトだ。正解は更に斜め上である。チーム、と付いている事に気付くべきであった。




(優勝者か……少しは楽しめるか?)


 既にカイトの噂は主にまで届いており、そのエキシビション・マッチであれば多少は楽しめるだろう。そう考えて使い魔に意識を集中させる主。


『それでは! そろそろエキシビション・マッチを開始していただきましょう! では、お二人共、どうぞ!』


 真琴がカイトとティナの入場を告げる。しかし、待てど暮らせど二人は入ってこない。それに周囲が騒然となる。


『あれー?』

『おーい、カイトー! 出番だよー! ヒーローが遅れて登場するのはピンチの時だけで十分だよー!』


 二人してカイトとティナを呼び続けるが、反応は無い。そこで、もう一度呼び出した。


『おーい! ティナちゃんにカイトくん! そろそろ出番なので、出て来てくれるー!』

『カイトー! エキシビションの時間ー!』


 それに反応して、カイトとティナがテントからクラウディアを伴って出て来た。


「悪い! すぐに用意する!」

「済まぬ! 少々手間取った!」


 そこで、ティナが使い魔の横の小鳥に気づいたらしく、テントの方を見た。


『早くねー! では、少々お待ちください。』

(ほう、アレがカイトか……あちらの少女が確か……ユスティーナだったか?)


 別に二人共この世界では珍しい名前ではないな、主がそう考えた時、仰々しい声が響いた。


「ふむ……主がお許しされた様だ。喜べ、小娘」


 始め、誰が誰に話しかけているのか主は理解できていなかった。後ろから声がしたのだが、後ろにはいつのまにやら居た子犬しか居なかったからだ。


「主の伝言です」

「クズハ様やユリィ様を騙すその使い魔、実に見事。此度の侵入は許す。ゆるりと楽しめ、との事ですな。どうやら気に入られた様子ですな」


 横の小鳥と、子猫から継いで話しかけられ、主は飛び上がらんばかりに驚いた。この時ばかりは、誰もいない部屋で良かったと本心からそう思った。


(何!? こいつらも使い魔か! いや、それ以前に、小娘!? コチラがどんな人物なのか見破られている!)

「おいおい……何を驚いている? 主にとって、この程度はわけがあるまい。現在地はほう、皇都か。中々に遠距離から操っているな」


 子犬がその姿に似合わぬ仰々しい声で笑う。


(コチラの場所まで把握されている! しかも、使い魔経由で、か!?)


 主はこれ以上探られる前に使い魔を消そうとするが、その前に小鳥が笑った。


「安心してくだされ。主が許可を下ろされていますからな。お主の事は不問に付されるでしょうな。主に注意出来る面子は限られますからな。クズハ様でさえ、例外ではありません」


 主はそれに、先ほどまでとは別の意味で驚き、誰もいない部屋で声を上げて驚いた。


(クズハ様でさえ、刃向かえないだと! 誰だ!)


 この世界でクズハを上回る影響力と魔術の腕前を持つ人物などかなり限られる。主は焦る頭をなだめつつ、即座に脳内にそのリストを展開する。


「……まあ良い。我らは伝言を持って来ただけ。変な事をせねば、手はださん。気づいているのも主とあの御方のみ。安心せよ」


 どうやら必死で見当をつけているらしい、ソレを見て取った子犬が、苦笑する。


(誰だ!? 誰なんだ!?)


 この時ほど、主は使い魔に会話機能を搭載しなかったことを後悔したことはない。ソレを読んだらしい子猫もまた、苦笑する。


「別に気にしなくても、すぐに分かります……主から追加の伝言です。此度のトーナメントではそれなりに趣向を凝らしたが、それを理解できる者を欠いて嘆いていた所。この3日、ゆるりと観戦することを許す。大いに楽しむと良い、だそうです」

(何? 中日もか……2日目は幸いゼミの奴らだけか。ほうっておくか。)


 どうやら中々に大雑把な人物らしく、子猫の言葉に更に予定を変更する。焦りや使い魔の主云々よりも、何をしでかそうというのかについての興味が圧倒的に勝った。


「ただ、これからしばしの間は無駄な動きをしないで頂けると助かりますな。我ら三体にとっても、あの主達が何をしてくるのかは興味の的。下手に動かれては力加減を見誤る可能性もありますからな」


 そうして、三体の使い魔達が前を向いたのに合わせて、主も自分の使い魔を用意が終わったらしい二人の方へと、向けた。そこには、用意を終え、只々静謐な気配を漂わせる、カイトとティナが居たのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第243話『エキシビション・マッチ』


*前回ご指摘を頂き*

 カイトが本文中でクズハに対してタメ口を使っているか大丈夫か、とご質問を頂きました。その対策は明日のお話と関連がありますので、明後日更新分にて、解説が入ります。

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