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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十二章 第2回トーナメント編
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第237話 昔話

 瑞樹が地球から持って来ていた映像を見終えた三人。気づけば、周囲には全員が集まっていた。


「今にして見れば、確かにカイトくんですね」

「この声は、多分ティナさんですわね」


 当時はまだカイトとそこまで深く関係があったわけではない二人。さすがに同級生であっても、あそこまで表情が異なれば、見分けが付かなかった。しかも、二人共当時のカイトの印象は冷静沈着である。悪戯っぽい笑みを浮かべられれば分からないのも無理は無い。

 しかし、今にして見れば、映像に写っていた少し幼さの残る精悍な顔付きの男はどう見てもカイトで、カイトを呼ぶ声はマイク越しだが、聞き慣れたティナの声であった。


「先輩、狙ってませんか?」


 凛がカイトをジト目で睨んだ。どう見ても、アニメや漫画の様な展開であった。どうやら動画を見たことで、漸く思い出したらしい。カイトが頷いていた。


「あ、これちょっとカッコ良かったな、って後で自分でも思った。うん、思い出した。確かこんなことあったあった」

「お兄様……いくらなんでも見境なさすぎませんか?」


 所かしこで女性を救っているカイトに、クズハが呆れ返る。


「いや、別に助けてるの女だけじゃないんだが……」

「へー、例えば?」


 少しだけ不機嫌なユリィの声が、カイトの耳元で響く。同じように、桜や椿、瑞樹らも聞きたそうにしていた。


「ん? ……考古学者さんとか、時々世話になるのは教授……あれ? あの教授、名前なんて言ったっけ……」

「ヴァン・ヘルシング教授じゃ。何代目かは知らぬが」


 そうして頭を抱えたカイトに答えたのは、一葉達の調整から戻ってきたティナであった。


「ヴァン・ヘルシングって、あの吸血鬼退治で有名な?」

「ああ、それそれ……初めて出会ったのはドイツの古城だったな。まあ、なんか色々やってるらしいが……主に人間に対して悪害となる異族討伐、まあ特に吸血鬼退治をやってるらしい。それで一回誤解から戦闘になってな。誤解が解けて以降、時々情報を融通しあっている……教授は別に悪害とならなければ異族を討伐しないからな?」


 途中でカイトが情報を融通しあう、と言ったので、怪訝な顔をされたので情報を継ぎ足した。そうしてドイツについて語られたので、瞬が少しだけ懐かしそうに呟いた。


「ドイツの古城か……一度遠征で行ったが、かなりの威圧感があったな。あの重厚感は未だに忘れられん。」

「まあ、欧州で未だに魔術的に隠蔽されている所で会いやすいのがその二人だ。日本だと、陰陽術の一派や、宗像家、立花家なんかとよく出会う。立花の次期党首はかなりの雷術の使い手でな、現在は立花宗茂を襲名しているが、道雪の襲名があるかも、と噂されている。他にもアメリカのシュルズベリィ博士やら。あっちは色々な意味で厄介だな。」

「……そうですか。取り敢えず、納得致しました。それで、そのエリナさん、とやらとの関係は?」


 確かに、女性以外にも助けているようなので、クズハは一旦は鉾を収める。


「いや、マジで知らない。」


 本当に知らない、という顔をするカイト。今の今まで名前も知らない少女であったのだから、当然である。


「あら、エリナちゃんはかなり昔から知ってらっしゃったようですわよ。3年ほど前から時々ですが、見知らぬ男性に変な化け物から助けてもらった、って仰ってましたわ。いつも同じ男性だったのだが、化け物といい、もしかしたら夢なのかも、と仰ってましたが。」


 その当時は瑞樹も化け物、魔物の存在を信じていなかったので、夢なのだろう、と思っていたが、映像を見直し、尚且つ異世界へと転移したことで事実である事を理解したのであった。


「あー、そういえばなんかいつもお人形さんみたいな女の子が居た様な……あの娘、全部同一人物だったのか」


 年に数えられる程しか会わず、しかも別に関わりのある少女ではなかったので、カイトはすっかり忘れていた。だが、言われてみれば出会った少女の中には、確かに同じ面影の少女が居た。まあ、忘れるというより、出会った時が騒動に巻き込まれている最中が大半なので、そちらの印象が強い事が大きかった。


「……こうやって、女の子が増えていくんですね」


 桜がボソリと呟いた。桜も、エリナの話はよく聞いていたのである。


「あの娘はこれと決めたら譲りませんものね……はぁ」


 まさか話を聞いていた時は自分が同じ男に引っかかるとは思っていなかった瑞樹と桜。縁とは異なもの味なもの、である。


「ん? 終わったか? んじゃ、続き見よーぜ」


 どうやらあまり興味のある話題ではなかったらしく、ソラが先ほどの武勇伝の続きをせがむ。しかし、その前にカイトの私室の扉がノックされた。


「あ、私が……御主人様。雨宮教諭が来られました」


 立ち上がろうとしたカイトを制して来客の応対に出た椿が、カイトに報告する。


「ん? 珍しいな……入ってもらってくれ」

「はい」


 そうして、椿に連れられて、雨宮が一同が屯する部屋へと入ってきた。


「ああ、悪いな。こんな時間に……ってなんだ? 何か重要な集会だったか?」


 雨宮は部屋に入るなり、一同が集合している事に驚いている。


「んぁ? 別にそんな大層なもんじゃ無いっすよ」


 驚いた様子の雨宮に、ソラが苦笑する。


「ええ、まあ。大したことは無いですよ。只々、昔話をしているだけで」

「昔話?お前らの年でか?……って、ああ。クズハさんもいらっしゃったんですか……ん?」


 何故クズハが居るのか、眼を丸くして驚いている雨宮。来たなら騒動になっているはずなのに、何故か知らなかった。


「ふふ、雨宮先生。テラスって便利ですよね?」


 雨宮の疑問を読んだクズハが、品よく笑いながら、問いかける。それを受けて、雨宮は少しだけ考えて、返答する。


「え?はぁ……まあ、風に当たりやすいですし……」

「それに、バレずに出入り出来ますものね」

「え? 出入り?」


 ありえない言葉を聞いた、そんな雨宮に、カイトが苦笑する。


「元々VIPルームである関係上、密偵などの密かに出入りする必要の有る者が出入りする場所がどうしても必要なんですよ。まあ、それを使う良家の子女なんて、こいつぐらいですけどね。」


 そう言ってカイトはクズハの頭を撫でる。それに気持ちよさそうに目を細め、クズハが品よく笑った。


「まあ、お兄様。よくご友人とともに窓から脱走されていた方の言葉とは思えませんね」

「後の偉大な皇帝様もやってたんだ。問題はないさ」


 そう言って懐かしそうに語り、手に持っていたおちょこに口をつけた。


「……ふぅ。それも、また懐かしきかな。先生も飲まれますか?」


 そう言ってカイトは手に持ったおちょこを掲げる。


「ん?……ああ、貰おうかな」


 ついカイトに注意しようとして、少しだけ苦笑してやめた。そうして彼は頭を掻きながら、おちょこを受け取る。そして、受け取ってよく見ればソラや瞬も酒を呑んでいる事に気づいて、注意しようとしてやめた。そんな気分にはなれなかったのだ。


「お前は年上だったな」

「これでも三十路前ですからね。……椿、先生にお酌を」

「はい。では、雨宮様。此方を」


 そう言って雨宮に徳利を差し出す椿。雨宮はそれを受け、小さく頭を下げた。


「いや、余が注ぐとしよう。先生には世話になっておるからの」


 椿が徳利から酒を注ごうとする前に、ティナが待ったを掛ける。始めは少しだけ不満そうであった椿だが、理由を聞いて納得した。


「あ、どうも……おい、カイト。彼女誰だ?」


 酒を思いもよらぬ妖艶な美女――ティナ――から注いでもらった雨宮が、カイトに小声で問いかけた。


「は?」

「お前の知り合いだろ?」

「へ?いや、あの……」


 誰か分からない様子の雨宮に、カイトが首を傾げてティナと顔を見合わせる。


「……あぁ。これは済まぬの。余じゃ。ユスティーナじゃ。」


 ティナはくすくすと妖艶に笑う。それに、雨宮は思わず目を見開いた。


「はぁ!?」

「ふふ、カイトがこの姿が仮初であるように、余もあの姿は仮初じゃ。この様な高校生がおっては教師たちも授業がしにくかろう?」

「お前はただ単に姿をこまめに変化させるのが面倒なだけだろ」


 そんなこんなで話し合う二人を見て、雨宮は漸くティナがティナであると理解し、おちょこに口をつけた。


「はは、夢だったんだがな。教え子と何時か酒を飲む、ってのは。」


 一口呑んで、雨宮が言った。そうして空になったおちょこへと、カイトが次の一杯を注いだ。


「案外、夢なんて叶う時は簡単に叶う物ですよ……どんな困難な物でもね」


 そう言ってカイトは、少しだけ懐かしそうに目を細めてリィルを見る。夢、と言われて、ついかつての仲間を思い出したのだ。


「どうかされましたか?」


 ふとカイトの視線に気付いたリィルが、不思議そうに首を傾げた。


「ちょっとおっさんを思い出しただけだ……」


 何時か全部の奴隷を解放したい、そう言って足掻いていた元奴隷の英雄仲間をカイトは思い出していた。


「おっさん?」


 誰を指すのかわからない一同に対して、理解できるクズハとユリィ、そしてティナも懐かしむ。


「アレは、珍しかったですね」

「おっちゃん号泣してたねー……」

「あの筋肉ダルマが泣いたのなぞ、後にも先にもアレだけじゃろ。長く連れ添った仲間が死んでも豪快に笑って酒のんで済ませるような男じゃったからな」


 男が涙なんぞみせんじゃねえ、死んだなら笑って見送ってやれ、それが彼のモットーであった。実はカイトとティナは知らないが、二人が地球へと転移した際にも、悔しさから涙していた。


「まさか自分が貴族の従者となるとは思わず、そしてその貴族がまた、奴隷制度の完全撤廃をなし得るとは思ってなかっただろうからな」


 そんな3人の顔に、カイトも苦笑を見せる。かなりの力技ではあったもののあまりに呆気無く決定した撤廃に、始めは現実と理解できず、実感してからは感極まって、声を上げて男泣きしたのだ。それがカイトたちが知る唯一、彼の見せた涙であった。


「それで、雨宮先生は何の用だったのですか?」

「ん?ああ……それか」


 そうして雨宮は意を決するかの様に、一度目を瞑った。


「なあ、天音。お前、結婚についてどう考えている?」


 雨宮が意を決して放った結婚という一言は、この場を沈黙させるに十分な威力を持っていた。


「……はい?」

「すまん。わけがわからないのはわかっている。だから、順に聞いていきたい」

「いや、まあ……結婚、ですか……」

「まず聞きたいんだが、こっちでの結婚はどうなっているんだ?」


 その雨宮の質問に答えたのは、クズハである。


「えーと、エンテシア皇国では、という意味でしたら、一夫多妻、多夫一妻制が認められています。これは皇国での結婚が英雄のための法律と呼ばれる一因でもありますね」

「それについては確認してますが……それは何故なんですか?」


 どうやら調べていたらしい雨宮が、理由を問いただす。それを受けて、クズハが詳しい説明を開始した。


「まあ、簡単に言って、英雄の血を残す為ですね。英雄色を好む、とは言いますが、これは民衆が求めるが故でもあります。英雄の血筋はそのままかなりの力を有している事が多いです。個人の力量に治世と防衛を頼らざるを得ないエネフィアにおいて、正しい英傑の存在はそのまま国力に、果ては力を持たない民草の安心に繋がります。それ故に、一人でも多くの血を残す事が、英雄には求められるのです。それ故に、英雄が男であれば、ハーレムを作り、子を残す。英雄が女であれば、強い男を見繕い、子を成す。ただ、多夫多妻は認められていません。多夫多妻となると、その子が誰の子なのかわからないので、問題ですからね」


 そう言ってクズハが為政者としての視点で語り、ついでユリィが生物的に語る。


「それ以外にも、種族によっては長寿かつ子供ができにくいのに、生涯でただ一人の異性しか異性として愛せない種族も存在しています。もしそういった種族の人が、他に伴侶の居る人を愛してしまえば、不倫となりかねませんからね。揉める原因となりかねません」


 ユリィは他人に教える、ということから、教師としての口調になっていた。


「かと言って、これを認めないと、相手が短命の種族であった場合はその人は種を残せない事になります。これでは子供ができにくい種族にとっては致命的です。ですから、種族によっては相手が出来た時点で、一般の民草の事でも、王族や族長筋が出て来て、種族を挙げて応援する事さえあります」


 そう言ったユリィだが、このままでは誤解を招きかねないと補足しておくことにする。


「まあ、そういった種族の場合は、普通は感情を抑制する術を習得していますし、魔術によって恋愛感情を制御している場合も多いです。普通は惚れられる事も有り得ませんし、どっかのバカみたいにあり得ない確率を掻い潜って惚れられなければ、問題はないのですけどね……で、どっかのバカ。わざわざ他大陸から三ヶ月に一回は帰ってきてませんか、ってお便りがずーっと延々300年前から届いてるよ?」


 どっかのバカことカイトは、それを聞いて非常に嫌そうな顔をした。誰なのかはカイトにはわかったらしい。それを見て状況を把握した約数名は、後でそれを追求する事を忘れないように、心のメモにしっかり書き留めた。


「こういうふうに、いつまでも延々に愛され続ける事になります。まあ、種族的に別種族と共に同じ人物を愛する可能性が高いですので、嫉妬深くないような精神構造になったようですけどね。」

「成る程。必要に迫られた進化、ということですね」

「そういうことです」


 自分よりも年上の容姿の雨宮を、教え子を見る眼で見ているユリィ。対して、雨宮は教えられる生徒の顔であった。


「ただ、誰でも多くの妻を、多くの夫を有せるわけでありません」


 ユリィに続いて、カイトが実情を話す。後で追求されるのはわかっているが、とりあえずは雨宮の質問に答えないといけない。


「当然ですが、多くの者を遇するとなれば、それだけお金が掛ります。それを養えるだけの金銭や地位は当然ですが、求められます。それ故、一夫多妻となる者の多くは大商人や貴族達です。まあ、それ以外にも皇族男子や一部の高位貴族では血を残す為だけに、多くの女を宛てがって交わらす事もありますが……」

「お前もやったのか?」


 一部高位貴族、と聞き、公爵という爵位から見れば圧倒的に高い地位にいるカイトも該当するのか尋ねた雨宮に、カイトは苦笑して認めた。


「まあ、一応は……」

「てめ! なんだよ、その羨ましい話は!」


 カイトの苦笑した顔に、翔が噛み付いた。桜や魅衣など関係のある少女達は、少しだけ傷ついた顔をし、関係の無い凛に至ってはゴミを見る目であった。アルやリィルは貴族の義務として割り切れているので、別になんとも思っていないらしく、そんな一同に苦笑するだけであった。


「お前、翠さん居るだろ……それに言っておくが、全然、全く、良いもんじゃないぞ?ウィルに頼み込まれなければやりたくなかったし」


 どうやら当人にはかなり嫌な物だったらしく、先のユリィの言葉を遥かに上回るかなり嫌そうに顔を顰めていた。ソレを見た少女達は安心した顔になる。


「あの時ばかりは、普通なら嫉妬しまくりのアウラとクズハが心配してたからねー」

「あの時のお兄様は見ていられませんでしたから……」

「自分が種馬になった気分が味わえる。まあ、何故かあの後持ちかけられなくなったんだけどな」


 その後、カイトの元に寄せられる婚約話のいくらかが避けられないものであり、しかも皇国にとっても良縁で、数もそれなりに多かった事が判明し、ウィルが貴族達を説得したのだ。下手に女を宛てがってそういった良縁に傷をつけるより、放っておいてもカイトの場合は勝手に増えるという判断であった。


「そうか、ありがとう……それで、改めて聞きたい。天音、結婚についてどう考えている?」


 そうして、三人から結婚についての説明を受けた雨宮が、再びカイトに問いかけたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第238話『結婚観』


 2015年10月14日

・修正 カイトのセリフ

誤:『~あれ?あの教授名前なんて行ったっけ~』

正:『~あれ? あの教授、名前なんて言ったっけ~』


 ユリィのセリフ

誤:『~相手が短命の種族出会った場合はその人~』

正:『~相手が短命の種族であった場合は~』


 それ以外にも『?』等の後に空白を忘れていた部分で見つけた物を修正しました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 読み直して気づいたのですが182話目でティナもカイトと一緒、雨宮の前で元の姿に戻ってるのに雨宮は元の姿のティナに気付いてないんですか?
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