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第235話 覚悟

 今章はここで終わりです。次回から本格的に第2回トーナメント編に入ります。


 *連絡*

・本日22時に第3回目の断章に関する座談会を投稿します

・少々違和感がある、とのご指摘を受け、明日の更新分から会話文の最後から『。』が消え、『!』等の後ろに空白を設けます。もしそちらがわかりにくい、という事があれば、仰ってください。

 なお、もう出来ているのから削除し、追加ますので、校正し忘れがあれば、ご了承ください。

 ストラから報告を受け、再び眠りについたカイト。そうして、次に起きた時には既に日が昇り、室内は明るかった。


「申し訳ありませんでした!」


 カイトが目を覚まし、身体を起こすと、目の前には乱れたメイド服はそのままの椿の姿。昨夜は従者としての分を超えていると気付いたらしく、床の上で土下座である。


「あの……どの様な処罰でもお受け致します!だから、お側に居させてください!」


 それを見て、カイトは深く溜め息を吐いた。


「別に捨てる気はないって昨日も言っただろ。だから、まずは頭を上げろ。」

「はい……」


 どうやらカイトが目を覚ますまでかなり不安であったらしく、顔にははっきり涙の跡があった。


「まずは……ほら、顔を拭け。」


 カイトは水で湿らせたハンドタオルを椿に手渡した。椿はそれを受け取り、涙の跡を拭う。


「ありがとうございます。」

「それで、別にこの程度で放逐する気は無い。何度も言うが、お前はオレに必要だ。」


 そう言ってカイトは、昨日受け取った大剣を取り出す。そして、その調子を確かめる。カイトが振るっても問題無いのなら、純粋には龍族では無い椿でも大丈夫だろうとの考えだ。


「あの、それは?」

「まあ、本来ならこういう場合には指輪の一つでも贈ってやるべきなんだろうが……さすがに急だったからな。そこは許せ。」

「いえ!本来ならば放逐、いえ、命を奪われても致し方がない不始末……許してくださっただけで十分です。」

「別に気にしてないって……それで、この大剣は、お前用に海棠の爺さんに打ち直してもらった物だ。」


 そうして、カイトは昨夜桔梗と撫子に語った大剣の来歴を語る。


「そいつは少なくとも、椿と同じ出来損ないだった。だが、それでも、奴は出来損ないである事を卑下することはなかった……別に、お前にもそうなれ、とは言わん。しかし、お前より圧倒的に不完全な奴に出来てお前に出来ない道理はない。もう出来損ないだと卑下するのだけはやめろ。」

「……はい。」


 神妙な面持ちでカイトの話を聞いていた椿が、小さく、だがはっきりと頷いた。それを受けて、カイトは続ける。


「そして、同時にこの武器もまた、出来損ないと呼べる物だった。だが、しかし。今は作り手とは別の奴の手によって、本来の持ち主とは別の所で完成している。それをお前の到達点とせよ。始め出来損ないであれど、オレの下でオレの望む完成品となれ。お前をそうするのはオレの決定だ。お前に、これを受け取る覚悟はあるか……オレの下で、出来損ないでは無くなる覚悟はあるか?」


その言葉に、椿は立ち上がり、大剣を傅いて受け取った。


「御意に。御主人様の仰せの通りに。」

「頼んだ。銘は<<断龍牙(ダルガ)>>。龍に勝てるのは龍のみ、そこから転じて、龍を断つ龍の牙だ。喩え武器技(アーツ)を発動しようと、お前には一切の影響は無い。」

「はい。」


 頷いた椿は、再び立ち上がって大剣を背負う。そんな椿に、カイトは苦笑して告げる。


「いや、別に背負う必要は無いぞ。そのままじゃあ仕事の邪魔だろ。」

「折角御主人様に頂いた物ですから。喩え邪魔となろうと、携えるのが筋かと。」


 苦笑したカイトの言葉に、椿は笑みを浮かべて答えた。その言葉に、更にカイトは苦笑する。


「まあ、でも邪魔になったり、外さないといけない場所では外せよ?」


 威圧効果――椿は美少女なので、一人で買い物などに出かけさせるとよくナンパされる――ぐらいはあるか、と考えたカイトは、無理強いすることもないと説得をやめる。


「はい、その程度は理解しております。」


 そう言って頭を下げる椿。そして、この日から冒険部執務室とカイトの部屋周辺では、大剣を担いた椿が目撃されることとなるのだった。




「ふーむ、なるほどの。余が貫徹しておる間に、そんなことがあったとはの。」

「貫徹って……寝ろ。」


 少しだけ時間が経ち、ティナとの毎朝恒例の模擬戦を終了させたカイト。当然だが、昨夜の椿との一件が話題に登った。


「にしても……清楚なメイドに無骨な大剣。お主、ギャップ萌えをわかっておるな!これは早速見に行かねば!」


 ティナは大興奮で大喜びしながら語る。今にも飛び出しそうであった。


「いや、別にそういうつもりで渡したわけじゃあ無いぞ?」

「そうじゃろうが……そういえば、お主。椿にアレをくれてやったは良いが、大剣は数が少なかったのではないか?戦力的には大丈夫なのか?」


カイトの言葉に興奮していたティナであったが、ふと思い出して問いかける。そもそも、身の丈をも超える大剣自体が並の戦士には使い勝手が悪い。故に殆どがワンオフなので、製造数自体が少ない。すなわち、カイトの所持数も少ないのであった。で、おまけ付きに言えば、カイトの本来の戦い方では大剣が重要だ。大剣の数の減少は彼の身の安全に直結していた。


「まあ、なあ……あれも結構思い入れあった一振りだし……そういう意味だと大剣は少ないんだよな……数自体は自分で作ればどうにでもなるけど、武器技(アーツ)を使える一振りってなると、少ないな。」


 そんなティナの問い掛けに、カイトも少しだけ苦笑しながら認める。別に椿に与えた事は後悔していないが、戦力的に元々少ない大剣が更に少なくなるのは、少しだけ痛かった。


「お!そうじゃ……これとかどうじゃ?」


 そう言ってティナが取り出したのは、直刀の片刃の大剣であった。特徴的なのは、比較的柄に近い大剣の腹に2つの穴が空いているぐらいか。穴の大きさは、こぶし大よりも少しだけ小さめだ。まあ、比較的簡単に創れる武器なので、ティナが趣味で作った武器、もといコスプレの小道具だった。


「……金髪ツンツン頭の初期武器は似たのあるから別に必要ないな。」

「なんじゃ、つまらんのう……では、続編の分離するのを作るか。」

「あ、それはちょっと使ってみたい。」

「では、桔梗と撫子と相談するかの……お主はその間にあの分身する技習得しておけ。」

「あー、あれか。超究なんたらか……」


 そうして、カイトの新たな大剣についてを雑談する二人。そうして大方のアイデアが固まった所で、ティナがふと思い出して異空間をガサゴソと漁り始めた。


「何やってんだ?」

「そういえば、最近銃を創ったからの。その一環で……お、あったあった。これじゃ。」


 そう言ってティナはカイトにぽい、と銃の様な物を投げ渡す。


「アブね!暴発したらどうすんだ!」

「大丈夫じゃ。よく見てみよ。それに、当たり前じゃが火薬は使っておらん。」


 ティナの薦めに従い、カイトは投げ渡された銃らしき物を観察する。素材はティナの試作品共通の魔法銀(ミスリル)製、全長は20センチほどで、先端に5センチ程の長細い金属パーツが装着されている以外は、単なる銃の様であった。金属パーツはどうやら開くような仕組みになっているらしく、縦に切れ目が入っていた。


「なんだ、これ?見たところ近未来映画に出て来るフックショットだが……」

「うむ。フックショットじゃ。お主、時々隠密の真似事もやっとるじゃろ。そんな時に飛空術などの移動用の魔術が使えぬ状況で、高い場所や少し離れた場所への移動に使うといい。静音性にも優れておるしな。射出や壁や天上などへの吸い付き、移動の引き寄せなど各所に魔術を使用しておるが、それでも普通に魔術を使うよりもましなはずじゃ。」

「なるほど……」


 試作品を渡されている、ということは、モニターして使い勝手などを報告しろ、という事なのだろう。カイトが納得したのを受けて、ティナが更に解説を続けた。


「現状のスペックではフックの初速から安定して毎秒30メートル。有効射程距離は銃から1.5キロメートルじゃ。保証する荷重は200キロで1000時間。5分程度ならば、総重量500トン程度まではなんとかなる。およそ100メートル級の龍種が一匹じゃな。一応、試作品じゃから、性能にリミットは設けておる。」

「ティアの本来の姿で5分か……」

「お主、殺されるぞ。姉上はそこまで重うはないじゃろ。」

「まあ、あいつは素早さと優美さが売りだからな。グライアの重厚感とは逆か。」


 以前レーメス伯爵領へと攻撃を仕掛ける際にカイトを乗せた時は、近くの飛空艇や下に居るであろう無関係の人々に影響を与えないように、三人共大きさ、力等全てを抑えていた。本来は3体とももっと大きいのである。


「と、いうことで、ほれ。慣熟訓練じゃ。」


 そう言ってティナは魔術で大小様々な幾つもの岩盤や岩を出現させ、空中に浮かべる。


「さすがにどこぞのゲームみたく端っこに打ち込んだところでそのまま上に登ることはできん。一気に上がりたければ魔術で姿勢などを補佐してやれ。」

「了解だ。使い方は?」

「照準を合わせて引き金を引け、以上じゃ。」

「照準?」


 見たところ銃の上部は平坦で、照準器の様なパーツは見当たらなかったのだが、合わせろ、というからにはあるのだろう。そこで、カイトは取り敢えず腕を前に伸ばして銃に魔力を通し、引き金に手を掛けた。


「ふーん……これで照準が現れるのか。」


 引き金に手を掛けた瞬間、自分の視界に直接着弾予想地点や距離、現在の風速、着弾地点の材質など、射撃に必要な情報が展開する。


「さすがに戦場や隠密行動で何処に着弾するのかがわかっては問題じゃろう。そこで、脳内に直接ぶち込む事にしたのよ……よし、今のところは問題ないの。では、指定するポイントに向けて移動してくれ。初回の移動ルートは任せる。」

「ああ、わかった。」


 そうしてティナが指定した場所へとフックショットを使用して移動するカイト。そうして、一度指定ポイントまで移動し、戻ってきた。


「ふむ……モニターでは今のところ動作状況に問題はなかったが、お主の方ではどうじゃ?」


 それでも、多少は気になる部分があったらしく、そのポイントを指摘する。


「ああ、動作自体には問題は無いが……展開される情報が多すぎる感があるな。隠密行動では良いだろうが、戦闘時だと少し邪魔だな。」

「成る程。表示する情報を取捨選択出来る様にしておくかの。」


 更に幾つかカイトから使用感覚についての結果を質問し、それをメモするティナ。二人共、この開発作業はいつものことなので、慣れていた。そうして二人はいつも通り、並んで座ってモニター結果を確認するのであった。


「ふむ……済まぬの。これは礼じゃ。」


 一通り意見を聞き終えたティナが、カイトに礼を言って、顔を近づけてキスする。少しだけ汗が混じってはいたが、妖艶で男を惑わせるような甘い香りがした。


「今更オレに礼って……何の意味がある……」

「なんじゃ?不満か?もっとしても良いぞ……と、いうか後でする。」


 少しだけ憮然とした表情で、ティナが拗ねる。


「あの、オレ疲れてるんだが……っと、そういえば、一個オレからも聞きたかったんだが。」

「何じゃ、別に構わんぞ。」


 二人共、それなりにお互いに隠し事をしているが、ティナの場合は聞かれれば答える事が多かった。ティナはカイトであれば、大抵の事は教えるのである。逆にカイトの場合は様々な要因から、教えたくない、ではなく教えられない事が多い。


「超大型魔導鎧あるだろ?あれ、そろそろ完成するのか?」

「何じゃ、気になっておるのか。まあ、安心せい。どうせ試作機のモニターはお主じゃ。来週には動きを見るだけの試作機が完成し、今月中にはお主が使う試作機が完成するじゃろう。」


 自分の作っている製作物に興味を持たれたティナが、少しだけ嬉しそうに答えた。


「あ、やっぱテストパイロットはオレか。」

「安全装置に何かあった場合、お主以外に何かあった時に無事で済ませられる者が少ないからの。結局、色々勘案すれば、お主が最適なのじゃ。」


 少しだけ、申し訳無さそうにティナが告げる。カイトであれば、ティナが作る高出力かつ操作が高難易度の魔導具であっても、難なく使いこなす。

 おまけに、もし何らかの要因で高出力の魔導具が暴走し、更に安全装置が壊れて生還が不可能になっても、自力でなんとかするので、最も安心して任せられるのであった。逆にカイトの力で強引に暴走を抑える事もできるので、その点でも最も適任なのであった。


「それに……その度に礼はしておるじゃろ?」


 そう言って、ニタリ、と笑みを浮かべるティナ。そのまま横に居たカイトへと手を伸ばし、押し倒した。


「やはり貫徹で鍛錬をするのは身体が火照っていかんの。」


 そう言ってティナは貪る様にカイトに口づけをした。


「だから、寝ろっつってんだろ……」


 ティナの口が離れた瞬間を狙い、カイトが呆れた声で言う。二人の口の間からは唾液の橋ができていたが、カイトは大して興味を持っていなかった。


「楽しいのでな。何もかも、余には楽しい。」

「どっちが?」


 子供っぽく言い放つ妖艶な美女に、カイトが楽しそうに問いかけた。


「コレも含めて、全て、じゃ。世は不思議で満ち、魔導の階梯は未だ頂上が見えず、夫は余の遠く及ばぬ傑物じゃ。これが楽しうない筈が無い。」


 そう言って世の中全てに興味を持っている子供の様に、瞳を輝かせる妖艶な美女。ティナにとって、この世の全てがおもちゃ箱の様な物、なのかも知れない。


「そして、何より、お主の様な面白い伴侶もおる。付き合ってもらうぞ?余がこの世の全てに飽きるまで、否、飽きて尚共に居るぞ。お互いに時間は飽きるほど、否、飽きて尚終わらぬ無限の時を得ておる。そんな無限の時の中、早うに得れた夫じゃ。決して、離さぬからの。」

「仰せのままに、魔王様。」


 今度は貪る様ではなく、軽く触れ合う様なキスをして笑うティナに、カイトも笑って答えた。そうして、カイトの一日が幕を開けるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:『決戦前夜』

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[良い点] 形見の大剣かぁ 改造できる方だな 合◯剣はいいよねぇ [気になる点] 分体が分身を覚えたら4方から超究武◯覇斬ver.5を打ち込めるのでは? マ◯リア(魔術が込められた魔術具)あったら戦…
[一言] ゼル○の伝説じゃなくて、A○K:SEのグラップリングフックかな?
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