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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二章 異世界転移編 
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第16話・前編 三百年後の世界―皇国―

 すいません。ホントは2話で説明回を終わらせる予定だったんですが、追加した記述分が自分の中での規定を超えてしまい、分けることになりました。同時更新していますので、前編―此方―から先にお読みください。

「とりあえず、こっちの現状を教えてくれ。」


 冒険者となる提案が可決された場合の対応を相談し終えたため、エネフィアの現状を確認する。


『はい。まず皇国ですが、今の皇帝陛下は少なくとも暗愚ではないかと。今回の転移に関しても即座に情報統制を行ってくださいました。』


 いきなり異世界から五百名規模の人員が、この世界にとっては未知の科学技術などと一緒にやって来れば、利益を求めて多くの貴族が天桜学園側と接触しようとしてくるだろう。その中には当然善意あるものだけではない。学園のことを考えれば公爵領へ転移できたのは幸運であった。


「そうか。そのうち桜か校長が礼を述べに行く必要があるな。」


 自分が決定することではないが、そう考えるカイト。それに対してクズハの顔がこわばっている。


『……お兄様、今、親しげに女の方の名前を……。』


 画面を通して氷点下の視線を送るクズハにカイトは若干後ずさりするが、続ける。


「桜は天桜学園の生徒会長だ……誰でも彼でもオレと関連付けるな。」


 そう小声で言うが、そこにティナが追撃を仕掛ける。


「そういえば桜が恐怖に震えていると、手を握って安心させておったな。」

『ほう……お兄様、詳しくお聞かせ願えますか?』

「なんでお前が知ってんだよ!」


 バレてないと思っていたカイトだが、実はしっかりバレていた。が、もはや氷点下を通り越して絶対零度とかしたクズハの視線にカイトは凍りつく。


「……とりあえずそれはおいておけ。」

『あとで詳しく伺いますから……皇帝陛下の指示で現在天桜学園の処遇は私に一任されました。日本からの客人の処遇は任せる、と。』

「ちなみに、当代様はどんな人物だ?」

『かなりの武人然とした方かと……若干の戦闘狂の気がありますが……。』


 苦笑しながらそう評価するクズハ。そうして、思い出したかの様に付け足した。


『陛下のお祖母様はバランさんのひ孫なんですよ。』

「あのおっさんのか……。で、ちなみにそのひ孫の実力は?」


 強かったんだろうなぁ、と思いつつ聞いてみたカイト。クズハからは予想に違わない答えが返って来た。


『……かなりの武芸者でした。陛下は若いころかなりやんちゃだったのですが、それを気にしたお祖母様は六十も離れている孫に対して少し……。』


 クズハは何故か若干言い淀んでいる。


「どうした?」


 カイトが聞くと、クズハは若干苦笑しながら応えた。


『いえ、その、ですね、そのお祖母様が当時の陛下相手に勝負を仕掛けられまして……。陛下も驕ってらっしゃったんでしょうね。七十を超えた年寄りに負ける筈がない、まあ、寂しいだけだろうから、少し孝行でもするか、と。結果、当時の陛下は一週間お祖母様の悪夢にうなされたそうです。』


 うわぁ、ドン引きするカイトである。ティナも同じく引いていた。


『七十を超えた老人に圧倒されたことで、陛下も真剣に武芸に打ち込むようになられました。その結果か、陛下は強者と戦うことを趣味とされ、現在では皇国最強の名を欲しいままにしておられます。まあ、配下の大臣や将軍などは日夜ハラハラしているようですが……。とはいえ、さすがに私達に挑む程の愚は無いご様子です。』


 自分たちの総大将が猛者との戦いを好む、となれば部下たちの心労は想像したくもない。


『お兄様が帰ったことをお知りになると絶対戦いたい、とおっしゃられますよ。』


 そう笑うクズハであるが、カイトは心底嫌そうな顔をしていた。


「やめてくれ。」


 王族と戦わせられる、なぞどんな罰ゲームか。少なくとも接待プレイは確定である。



「で、公爵家の現状はどうなっている?」

「はい。公爵領全体で見れば人口は300年前の約10倍の300万人です。そのうち公都には100万人、地方都市に総勢150万、各種種族の自治地区に50万人となっています。」


 一見すると多い様に見えるが、これは実はそうではない。


「そんなに増えたのか。土地問題などは?」

「公爵領自体普通の貴族領数個分ありましたので、何ら問題もありません。元々が魔族の侵攻を受け、逃げ出した貴族達の土地でしたからね。今も若干どころか、かなり余り気味です。まあ、強いて言うならお兄様がいなくなった後、功績を上げた種族が増えたことで、自治地区を与えることが多くなった所でしょうか。」

「ふむ……確か自治権を持つのは神狼族と龍族、その他協力的だった幾つかの種族だったか。後は一部戦乱で住む場所を追われた種族ぐらいだったな。」


 もともとは戦乱で住処を追われた種族のために異種族共存を目指す街を作り上げたのであるが、各種族に自治を認めていないわけではない。特に龍族等力ある種族は独立独歩の精神が強く、皇国に属しているものの、服従しているわけではなく、皇国に協力している、という程度の認識であった。そこで、カイトと縁があった龍族や神狼族、更に公爵家が自治を認めた種族に、マクダウェル公爵領にて自治権を与える運びとなったのであった。


「ええ。まあ、自治領を出て公爵領各都市にて生活している種族の方も多いです。」

「ああ、そうだ。マクスウェルはどうなっている?」

「それは……ご自分でお確かめください。きっと驚かれると思います。」


 にっこりと笑ってそう言うクズハ。余程自信があるらしい。


「そうか、それはいい。で、皇国の内情はどうなっている?」


 自分の都市がどうなっているかは気になるが、お楽しみはとっておくとして、話を切り替えることにしたカイト。


『はい。陛下の性格からか、軍部からの人望はかなりあります。ですが、ご自分で軍を率いることは少ないですね。ご自分でも用兵は専門家に任せるべき、と思ってらっしゃるようです。とはいえ、要所では戦場にご自分で最前線に立たれることもあるため、兵からの信望もかなりあります。』


 王は戦の専門家でない。王は民草全てを統括するものであり、自らが戦場に出る必要がなければ、配下の専門家―この場合は軍人―に任せるべきなのである。だが、後ろに引き篭もっているだけでは兵達からの信望は得られない。兵たちは自らと共に立つものを信用する。その考えにカイトは納得し、頷いた。


「そうだな。強者と戦うことを好んでもそれが足枷となってはならない。で、治世は?」

『そちらは、無難、と言ったところでしょうか。自らの領分を犯さぬ限りは各々の好きにせよ、と。現在はそのせいで若干諸侯同士が揉めている感がありますね。』

「統制を取っていない、ということかのう?」


 ティナが危機感を示すと、クズハは横に首を振り否定する。クーデターを起こされた身としては、統率を取ることの重要性は誰よりも理解していた。


『いえ、行き過ぎないようには見張るもののそれ以上の行動を起こすことは稀ですね。各諸侯で刺激させ合って繁栄させよう、とでも考えておられるのでしょう。』

「内政に関して言えば、君臨すれども統治せず、の王か。」

『はい、お兄様。概ねその通りかと思われます。事実、多くの臣は陛下を獅子と見ているようです。ただ、私の印象としては、獅子の皮をかぶった狐という感があります。』


 聞いた行動からそういう印象を得たカイトをクズハが肯定し、更に自分の得た所感を述べる。カイトもティナもそれ以上の判断は、今は避けるべきとしてしなかった。


「そうか、そこら辺の情報は後で送ってくれ。」

『はい。皇国の現状としてはそんなところしょうか。』

「ふむ……技術的な発展などは無いのか?」


 ティナが興味深げにクズハに問いかける。彼女とて研究者。この300年でどのような発展を遂げたのか、興味があった。その言葉を受け、クズハは顎に人差し指を当てて考えこむ。


『そうですね……飛空艇の発展等はお姉様がいらっしゃらない以上、そうは発展致しませんでしたが……ああ、そういえば、この世界の大きさが判明いたしました。』

「何?どの程度じゃ?」


 これはティナもカイトも数学的知識やらその他見地の少なさから、算出出来なかったことであった。


『はい、概算ですが、約半径1万3千キロ。表面積は異空間化した部分を除き、およそ20億平方キロメートルです。』

「半径で地球の倍か……そりゃウチがあんだけデカくても土地が余るわけだ。」


 地球の半径は約6500キロ、表面積は5億平方キロメートルである。単純計算でも4倍以上の広さがある計算だった。ちなみに、公爵家は中心から東西南北に約1000キロ程度の領地であった。北の魔族領から皇都に通じる道をほぼすべて抑えているのだから、かなり広大なのも致し方がない。本来、多くの貴族がこの4分の1程度の領土しか持ち合わせていない。なり手がいなかった土地であったので、これだけの領土を領有出来たのであった。


「どのようにして求めたのじゃ?」

『はい、お兄様の残された知識を元に、エネフィアが球形であると仮定し、まずは測量と計算で半径を算出。その後、球の表面積の求め方を使用して計算したそうです。』

「ふむ、道理じゃな。と言うか、最後のは中学の知識でどうにでもなるからの。」


 ココらへんは地球と同じらしく、数学をもって導き出したらしい。


「質量に対して重力が同じ様に感じるのは、浮遊石の地層があるから、か?」


 カイトがクズハに対して疑問を呈する。浮遊石とは、魔力を通すことで周囲の重力と反発し、所持する者の重さを軽減させる魔石の一種であった。浮遊大陸の下半分が、この浮遊石で出来ている為、大気中の魔素を得て浮遊石が効力を発揮、反発力の方が強くなり、宙に浮かんでいるのである。


『恐らく、そうではないかと。』

「わかった。では周辺諸国の現状を頼む。」


 どうやらクズハ達も未だ確証は得られていないらしく、明言はしなかった。それに納得したカイトは、そう言って先を促すのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年6月2日 追記

・誤字修正

 地球とエネフィアの面積比較で『4倍』とすべき所を『5倍』になっていたのを修正。大雑把に書いたんですが、差がでかかったですね。


 2018年2月3日 追記

・修正

『相手に勝負』とすべき所が『相手勝負』となっていた所を修正


 2018年5月3日

・誤字修正

『応え』が『答え』になっていた所を修正。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 中心から東西南北に約1000キロ程度というと、領地の広さはおよそ4,000,000km²くらいでしょうか?
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