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第230話 第二回トーナメント――組み分け――

 今章は少し長くなりそうだったので、少しだけ分ける事にしました。章の題名が変わっているのはそういう理由です。

 ティナが研究成果を出したその昼。第二回トーナメントの抽選が行われたのだが、その結果に思わずカイトは溜め息を吐きたくなった。


「……この組み合わせか。」


 と言うより。思わず溜め息を吐いた。現在、カイトが加わるパーティの面子が判明し、各パーティに与えられた空室に集まっていた。


「何よ、問題ある?」

「あ、あははは……」


 愚痴言っている皐月と、苦笑をしているのは睦月である。


「いや、まあ、見知った面子で良かったと言えば、良かったんだが……」

「あら、じゃあ何が問題なの?」


 そう言ってニヤついているのは弥生だ。


「いや、なんで三姉妹揃ってるのかなー、と。」


 基本的にカイトが性格面で勝ち目のない神楽坂三姉妹が勢揃いしていた。できれば、勘弁願いたかった。


「そりゃ、まあ基本的な構成が第一陣から2人、第二陣から2人、サポートから2人の組み合わせだからでしょ?」

「いや、そりゃまあそうだが……この組み合わせになるか?半分が初日出ない面子じゃないか。」


 今回、カイトもティナも一切組み合わせの結果を弄っていない。必要が無かったからだ。その結果なのだが、まるで仕組まれたかのうように、大半が彼の知り合いだった。

 ちなみに、今回のトーナメント団体戦では、登録した全員をごちゃ混ぜにしたパーティ編成でくじ引きで行われたのである。その際に、戦力の偏りを避けるため各パーティ事に枠を設け、そこに配置していった結果が、カイトのパーティであった。

 当たり前だが更にはカイト達冒険部上層部は全員が別々となるようにくじを引いている。これは、いつもの組み合わせでは戦力が偏るうえ、初見の相手との連携の訓練にならない、という考えからである。団体戦の理由は、初見の相手ときちんと連携が組めるか、という訓練だったからである。


「あんたも二日目からでしょ?その分キリキリ働いてもらうわよ。」


 そう言って皐月が宣言する。今回、カイトは指揮できないので、必然第一陣の皐月が指揮を取ることになっていた。

 尚、今回は個人戦、タッグマッチ、団体戦と三部門あるので、生徒たちの体力消費を考えて3日掛かりとなる。順番は個人戦、タッグマッチ、団体戦だ。全員が出場する物を後回しにしたのは、団体戦が本戦に近いからだ。それまでは慣らし運転、という割当に近い。


「その代わり一日目にエキシビション・マッチやるけどな。」


 前言の通り、カイト達上層部の面々は個人戦には出場しない。とは言えそれでは、あまりに味気がない。なのでその代わりとして、カイトとティナが一日目にエキシビジョンマッチを行なうことになっていたのである。


「……碌な予感がしないわね。」


 弥生が少しだけ苦笑して、呟いた。尚、この二人が選ばれた理由は前回大会の優勝者であるので、勇者や魔王云々は関係無かった。


「さすがに、それなりに手は抜きます。」


 苦笑した弥生に対して、カイトが笑う。が、エキシビジョンマッチではやることを裏方の大会実行委員と一緒にで決めているが、当然二人共守る気はなく、如何に相手の裏をかくか、にしか興味がなかった。つまり、手を抜くのは抜くが、それなりに本気でやるのだった。


「えーっと、確か、カイトさんが武器の連続創造、射出。ティナさんが攻撃魔術の連撃でしたっけ?」

「ああ。それをぶつけ合うと、それなりに見応えはあるだろう。」


 睦月が発表されている演目についてカイトに問いかける。一応、何をやるかについては全員に通達されている。もう一度言うが、守る気はない。


「はー、聞いてたっすけど、やっぱ先輩武器持ってないんっすね。」


 そう言って感心するのは、神崎であった。彼もカイトと一緒のパーティである。


「まあ、それがオレの数少ない得手だからな。」

「得手多すぎんでしょ。」


 カイトの真実を知る皐月が、カイトに言葉に呆れ返る。その言葉を聞いて、このパーティの中で唯一カイトの知り合いで無い少女が問い掛けた。


「天音先輩ってそんなに器用なんですか?」

「そりゃそうよ。刀に大剣、斧、鞭、槍……なんでもござれよ。」

「へぇー……」

「天ヶ瀬さん。そこまで期待しないでくれ。」


 感心した様子でカイトを見る天ヶ瀬に、カイトが少しだけ照れ笑いを浮かべた。


「あ、暦でいいですよ。後輩で同じ天道の傍系ですし。」

「オレは傍系も傍系なんだが……まあ、そう言うならそうさせてもらおう。」

「あ!じゃあ俺も夕陽でいいっすよ!」

「わかった……じゃあ、夕陽、暦、これでいいな。」


 折角後輩二人が馴染もうとそう言ってくれているのに、カイトとしても拒む道理は無かった。なので、素直に名前で呼ぶ事に決める。そんなカイトに、暦が実家の事情を話し始めた。


「はい。ウチもですよー。傍系も傍系。呼ばれるの冠婚葬祭ぐらいですし。」

「あー、ウチもだ。時々母さんが嫌そうな顔で出かけてた。」

「あ、ウチはお父さんです。でも、豪華な料理が食べれる、って喜んでました。」


 どうやらお互いに家の本家の事で親達からそれなりに愚痴は聞かされているのだろう。二人は苦笑しながら笑い話をしていたのだが、流石に皐月が口を挟んだ。


「お二人さん、そろそろ始めてもいいかしら?」

「ん?ああ、すまん。」

「まあ、実家の実家が有力者だと色々と面倒だ、ってのはわかるけどね……そういうのは帰ってからにしなさいよ。」


 皐月とて、老舗呉服店の本家筋の子供だ。実家のあれこれについては彼ら以上に把握している。なので苦言を呈するだけですませた。


「じゃあ、始めるわよ。取り敢えず、まずは自己紹介、はさっきしたから、使用武器を紹介してもらおうかしら。」


 纏め役として、皐月がミーティングを取り仕切る。そして、自分が言い出しっぺなので、皐月が自らの武器を腰から外して全員に見せる。


「まずは私から。私はこの鞭よ。次はお姉ちゃん、お願い。」

「私は、この布ね。サポートだから、あまり戦闘向きじゃないわ。元が護身術だからね。」


 そう言って、弥生は首に巻きつけた魔術的繊維で織られたマフラーを伸ばす。暗器の一種だ。これに魔力を通して硬化させ、望む通りに動かすのである。尚、このマフラーを使った護身術は過去の一件でカイトが教えたものである。


「主に戦闘方法はこれで相手を縛って動けなくすることね。それ以外にはイマイチ使い道はないわ。」


 そう言って弥生は再びマフラーを首に巻いた。そして、皐月が次の人物を指名する。


「さて、次は睦月。あんたは?」

「僕はこのメイス?です。本職は回復術を使います。」

「何故にメイス?」


 今まで睦月の戦い方を知らなかったカイトが首を傾げた。確か睦月は治癒術者(ヒーラー)なのだ。杖の方が良さそうな気がしたのである。それに、睦月が少しだけ照れながら答えた。


「えーと、始めは鉄製の杖かと思ってたんですけど……後でメイスって知ったんです。でも、使い道は変わらない、って聞いたんで……」

「まあ、確かに杖で敵を殴ってた治癒術者(ヒーラー)も居るが……あれはある種の恐怖を与えられていたな。」


 ちなみに、これは当然彼の義姉(アウラ)である。そんな会話はさておいて、とりあえず得物の紹介が終わったので、皐月が次に移す。


「じゃあ、次、神崎?だっけ。あんたは?」

「俺はこの拳っす。スピード・ファイターになるらしいっすね。」


 夕陽は上着のポケットからグローブを取り出す。カイトの得た前情報通り、空手を主体に戦うようだ。


「一応、これでも全国大会優勝してるんで、期待して大丈夫っすよ。」

「ふーん……じゃあ、次。天ヶ瀬さん。」

「えーと、私はこの刀です。一応、剣道部なんで……」


 そう言って暦は刀を腰の剣帯から取り外し、前に置いた。だが、その前の発表者が夕陽だったので、暦は大慌てで謙遜に入った。


「あ!私、別に全国大会入賞、とか県大会入賞とかしてないんで、期待しないでください!……あ、でも居合は褒められました。なので、そこだけは自慢です。」

「へぇー……居合ねえ……多用できる?」


 暦の言葉を聞いて、既に戦略を立て始めている皐月が問いかける。すると、少しだけ申し訳無さそうに暦が頭を振った。


「あ、いえ……さすがに納刀が必要なので、そこまでは……」

「その代わりに威力は高いだろう。どうやって連携に組み込むか、は皐月の仕事だ。」


 カイトとて、刀を使うのだ。それ故、その利点も把握していた。なので、アドバイスを入れておく。と、そこでふと、数日前の出来事を思い出した夕陽が問い掛けた。


「……あれ?納刀ってそこまで時間かかんの?カイト先輩一瞬で納刀までやってたぞ?」

「……へ?一瞬?どのぐらい?」

「えーっと……ほんとに一瞬。こう、シュパッと。」

「えーっと、教えてください!というか、一度見てください!」


 暦はカイトに頭を下げる。それにカイトは嫌なものを見られた、と思ったが、暦の実演を見ることにする。


「やってみ?」

「はい……あ、準備するんで、少しだけ待ってください。」


 暦は刀を剣帯に戻すと、一度腰だめとなる。そうして少しだけ魔力を溜めて、居合を行った。


「はっ!」


 暦は抜き放つと、そのままの流れで納刀まで持っていった。魔力で加速しているので、一連の流れはおよそ2秒であった。地球を基準に考えれば、圧倒的な速さと言ってよかった。が、夕陽にはやはり遅く映ったらしい。


「うーん、やっぱカイト先輩の方が速くねーか?というか、圧倒的に。」

「え?これでも一応部じゃあ一番速いんだけど……」

「はい。じゃあ次カイト。得意武器と居合見せて。」


 暦の訝しげな表情を受けて、皐月がカイトに命ずる。それを受けて、今まで椅子に座っていたカイトは一同を少しだけ遠ざけると自らも刀を作り出す。


「まあ、オレの武器は自分で創り出せるが……得意武器は無いな。それで、居合だが……っ!」


 一応自己紹介と共に腰だめとなり、一気に刀を抜き放ち、そのまま納刀まで持っていった。一応、事故時と同じ程度の速度を心掛けた。当然だが、一連の流れはコンマ一秒にも満たない。


「はやっ!何ですか!その速度!」


 自分より圧倒的な速さを見せたカイトに、暦が唖然となる。そんな暦に、カイトは少しだけ苦笑する。


「暦は抜き打ちの瞬間、どうやっている?」


 すでに原因をカイトは見抜いているが、敢えて流れに沿って暦に質問する事にする。順を追って説明するのが一番わかりやすいだろうと思ったのだ。


「えーと……まずは腕に加速用の身体強化の魔術を掛けて、一気に居合をしています。……この際に全身ではなくて、腕に集中して魔力を込めるのが、速さの秘訣です。腕に魔力を集中させるのには苦労しました。」


 何かアドバイスを貰えるかも、と暦は自らが秘密にしていた速さの秘訣をカイトに告げる。


「それだけだと足りてない。もっと高速化するなら、こうやって……」


 カイトはそう言って鞘に魔力を集中させる。その分布は特に剣先の部分に多く集まっていた。

 尚、今は敢えて見せるようにやっているが、本来はどこに集まっているか等はわからない。こんなものが見れれば、明らかに何をしようとしているのかまるわかりだからだ。


「はっ!」


 そうして気合一閃抜き放たれる瞬間、鞘の剣先に溜まっていた魔力が爆発する。すると、その爆発の加速を追い風として、刀はまるで飛ぶように抜き放たれた。そうして抜き放って、カイトはそのまま刀を持ったまま解説を進めた。


「ただし、これは当然だが、手から刀がすっぽ抜ける可能性がある。ココらへんは練習次第だ。」

「はい。」

「それで、肝心の納刀はどうしている?」


 暦はしっかりとアドバイスを心に刻み、更に続いたカイトの問い掛けに自分の方法を思い出す。


「えーっと、さすがに納刀は左手を傷つける可能性があるので、加速してもかなりゆっくりやってます。一応動体視力と認識を加速してますけど……それでも今のが精一杯です。」

「それは間違いではない……というより、戦闘中にその2つを解くのは余程の馬鹿だ。……抜いた後、刀の切っ先から鞘の口へ向けて魔力で刃の通り道……指向性の風みたいな物か、を作ってやるといい。すると、後はその流れにそって刀を動かすだけだ。危険性が段違いに下がる。コレも練習で高速化するだけだ。ちなみに……これを慣れるとこんなことができるようになる。」


 カイトはそう言うと、右腕に持った刀を上に回転させながら放り投げた。そして、カイトはその落下予想軌道に合せて手を伸ばした。すると、当然刀はくるくる回りながらカイトの腕を切断せんと落ちてくる。


「きゃあ!」

「ちょ!カイト先輩!」


 腕が切断される、そんな未来を予想した暦と神崎が、悲鳴を上げる。


「良い子は真似しちゃダメですよ、っと。」


 しかし、二人の予想に反して刀はカイトの右腕を中心として、峰の部分が接触するように円を描いて通過。そのまま突き刺さること無く、横向きに地面に落下した。


「おー!」


 そう言って拍手する二人。確かに、これを意図的に引き起こしているのなら、大した芸当であった。


「どこぞの三刀流の海賊みたいな事ができるわけ……いって!」

「危ないわよ!誰かが真似したらどうすんの!」


 カイトの頭を叩いた皐月が、大きく怒鳴る。カイトはこの程度の操作を余裕でやってのけるから良いが、当然他の生徒達はそんなことは出来ない。真似されて怪我でもされては大問題であった。


「いや、すまん。一応良いデモになるかな、と。ここだと投剣術は出来ないしな。」


 少しだけ怒った皐月に、カイトが苦笑して謝罪する。本来、カイトの見せた技術を応用すると、小太刀などの短剣をブーメランの様に使う剣術を使えるようになるのだが、狹い個室では無理な話であった。それ故に、代用として今のデモンストレーションを行ったのである。


「だからってそんな危ない事はしない。」

「はい。」


 ショボーンとなって落ち込むカイト。この二人の昔からの遣り取りであった。とは言え、まだ解説の真っ最中だ。気を取り直したカイトが、解説を続ける。


「まあ、こういう風に刀の通り道さえ創ってやれば別に速かろうが危険性はない。そうすれば、自然と早くなる。ただし、問題点が。当たり前だが、魔力の消耗は激しくなるので、スタミナ切れには要注意。」

「えーと、どのぐらいです?」

「ざっと、三倍程度……だと思う。」

「だと思う?」


 あまり自信の無さそうなカイトの言葉に、暦が首を傾げた。


「実際に量った事は無いし、武芸に関して言えばクズハさんから学んでいない……独学だからな。」


 カイトは苦笑して暦の疑問に答える。ちなみに実は、カイトには武器、特に刀や双刀についてはお師匠様が存在している。今の方法も彼らに教えてもらった物なのだが、流石にクズハ以外にお師匠様が居るとは暦と夕陽の前では言えない。なので、嘘を言ったのである。まあ、実際にこんな話は皐月達にも話していないので、大いに驚かれたが。


「え?じゃああんた、他の武器も全部独学なの?習得早すぎない?」


 話を聞いていた皐月が、目を見開いて驚いて、カイトに尋ねる。十年足らずで習得したにしては、多くの武器を極めているように感じたのだ。


「あー、あれは理由あってな。すまん、正確には独学とは言えん。かと言って、全て誰かに教えを乞うたわけでもないんだが……これは内緒だな。」


 この手段ばかりはカイトも卑怯と思っているのだが、出来るものは出来る。使わないのは損であった。が、これを説明しろ、となると、途端に自らの正体を露呈させた挙句に説明も難しくなる。なので、内緒、という事にしておいた。


「なんすか、それ?」

「まあ、気にすんな。で、遠距離居ないが、どうするんだ?」


 夕陽の質問を強引に終了させ、カイトは皐月に問いかける。


「あー、そういえばそうね。」


 自己紹介と得意武器の通達が終わってみれば、全員が近~中距離であった。このままでは最悪遠距離から狙撃で全滅する可能性がある。なので、皐月が少しだけ頭をひねり、カイトに問いかける。


「あんた、魔術使えないの?」

「まあ、出来なくは無い。」

「出来んの!」


 勇者なら出来そうかな、と試しに程度で尋ねた皐月だが、あっさり出来ると言われて驚いた。弥生以外は、全員同じように驚いている。


「まあ、それでも専門職よりは下だ。アテにはならん。」

「それでも居ないよりはましでしょ。」


 カイトの言葉を聞いてなお、内心では専門職より圧倒的に上であろうと予測する皐月。間違いではない。


「まあ、それはそうだが……魔術だと手加減苦手なんだよな。」

「なら地面にでもぶちかましなさいよ。衝撃でぶっ倒すとかさ。」

「うーん……まあ、やってみるか。」


 そうして、カイトを遠距離として配置した、第二回トーナメント用のチームが完成したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第231話『ホムンクルス』

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