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第226話 お礼

 急な救出劇からギルドホームへと帰還し、疲れから一度仮眠を取ったカイト達5人。神崎が尋ねてきた事により、瞬が5人を起床させたのであるが、その前にカイトは起きていた。


「ああ、桜達はもう少し眠らせてやってくれ。」


 瞬の起床の声が桜達の睡眠の邪魔にならないように魔術で防ぎつつ、瞬にそう言う。実はカイトは桜達が寝息を立て始めた頃から、ずっとこの結界を魔術を展開していたのである。


「なんだ、起きていたのか。」

「そもそも寝ていない。」


 カイトは目を閉じるだけ、と言っていたのだ。それを勝手にソラが勘違いし、寝ていると言ったのであった。


「うお!起きてんの!」


 それにびっくりしたのは、寝ていると思っていたソラである。思わず飛び跳ねていた。


「だから言ったろ?目を閉じるだけだ、って。」

「そうか……では、ミストルティンも起きているのか?」

「あ、いや、あいつは寝てる。だから、静かに、な?」


 とっさにカイトは嘘をついた。そして、カイトは自分も包まる毛布の中を隙間から覗くと、そこには顔を真赤にして、かすかに痙攣するティナの姿があった。口は半開き、眼は虚ろ。よだれでカイトの服にシミができていた。ちょっと可愛かったので、少しだけ内ももを撫ぜてやると、可愛らしい嬌声を上げる。それにカイトは少しだけ苦笑するも、すぐに瞬の方を向いた。

 これはティナの反応が面白かったので、ティナの身体をまさぐり過ぎた所為である。どうやらカイトもそれなりに疲れていた様で、いつもはここまでやらない。尚、ティナの嬌声は全て消音結界で遮断した。バレたら気まずいぐらいの理性は残っていた。


「あいつ空間隔離と時間遅延魔術を併用した魔術を20発程度使ってたからな。さすがに疲れたんだろう。寝ても仕方がないさ。」

「人助けの現場で超高等魔術の連発か……それは仕方がないな。」


 時空系統魔術の困難さは瞬も知る所であるので、特には疑いを持たなかったらしい。尚、あの程度ではティナが体力的な疲労困憊にはならない。もう一度言う。全てカイトが原因だ。


「つーことで……動けないからちょっとそこらで座って待っていてくれ。椿、お茶と茶菓子を。」


 動けばティナが丸見えとなるので、カイトは迂闊に動けない。とは言え、さすがに客をそのままにしておくわけにもいかないので、椿に少しだけ応対させる。神崎も時間に余裕があるのか、ソファとは別の応接用のイスに座って椿から出されたお茶とお茶うけを食べて待っていた。


「はい。」


 そうして更に約十分経過し、ティナが復帰――ただし若干顔は赤い――し桜達も起き始めたので、神崎の要件を聞くことにしたのであった。


「で、どうした?」


 そう言ってカイトが問いかける。カイトに問いかけられたことでさっきの様子を思い出したのか、神崎は若干顔を赤らめた。


「ん?顔が赤いが……大丈夫か?」


 それに気付いたカイトが、神崎に問いかけるが、答えは瞬から帰ってきた。


「さっきお前達が抱き合って寝ていただろう。それを思い出したんだろう。」

「ああ、なるほど……お前、見た目に反して純情なんだな。」

「いや、つーか、先輩方が大人なだけなんじゃないっすか?」


 顔を真っ赤にした神崎が、カイトに問い返す。それに、カイトが苦笑して告げる。


「そうか?お前は遊んでそうだと思ったんだがな……」

「よく言われるっす。でも、俺、詩織ちゃん一筋っすから!」


 そう断言する神崎。言われ慣れているのか、ショックを受けた様子は無かった。一切の迷いなく、言い切る当たり本気なのだろう。


「詩織ちゃん?」

「あ、彼女っす。見ます?これが可愛いんすよー。えーと……お、あったあった。」


 一切こちらの返答を聞かず、デレッとした表情で私物らしい映像記録用魔導具をカイト達に見せた。


「あ?」

「へ?」


 若干苦笑しつつも、写真を見た一同が目を丸くする。通常仕事中は滅多に感情を滲ませない椿までもが唖然としている。


「いや、お前、これ本当に彼女か?」

「ええ、可愛いっしょ?幼馴染みなんっすよー。」


 相変わらずデレッとした表情で、神崎は一切疑いなく断言する。そこにはカイト達も疑問は無かった。


「ああ、可愛いが……」


 確かに、可愛い。少し長めの黒髪に大人しそうな顔、そこまで身長は高くないのか、横の神崎の胸ぐらいまでしか背は無い。スタイルもそこまで良くはないが、総じて物静かな、意思がそこまで強く無さそうな、図書室で本でも読んでいるのが似合う文学少女の様な印象を与える少女であった。

 現に、写真は何処かの図書室か図書館らしく、背景は本棚であった。ただし、これが神崎と並んでいると、ある印象を与える結果となった。


「悪い男に捕まった、無垢な少女じゃな。」


 そう、チャラい、とも表せる神崎と並ぶと、物静かで世間なれしていない少女が、悪い男に捕まった印象を与えるのであった。まあ、それでも写真の中の神崎は普通ににこやかな笑みを浮かべているので、まだマシだったが。


「あ、それよく言われるんっすよー。なんででしょ?」


 そう言って、神崎は小首を傾げる。どうやら当人は気づいていないらしかった。そんな神崎に、カイトもさすがに苦笑して問いかける。


「いや、何故って……お前、自分の容姿を鏡で見たことあるか?」

「へ?そりゃ、毎朝見てますけど……なんか変っすか?」


 そう言って、神崎は自分の身だしなみを確認する。どうやら外に出た後直ぐに来たらしく、防具は血に濡れていたが、それは何か変な所は無い。変な所とは、見えている首から上だった。


「どっからどう見てもお前、チャラ男の印象しか無いぞ?」

「へ?」


 完全にはっきりと断言した瞬に、神崎がようやく気付いたらしい。


「……もしかして、わかってなかったか?」

「えーっと、うっす。」


 少しだけ照れた様子で、神崎が頷く。


「どうしてそんなカッコしてんだ?」

「え?いや、チューガクの先輩が、これの方が似合うって……」


 そうして神崎に事情を問うと、結論はこうであった。


「なめられない様に、ね……ちょっと失礼。」


 そう言ってカイトが他の冒険部の面子と円を組む。


「どう聞いても、その詩織ちゃんってのを寝取ろうとしたっぽいな。その先輩。」

「そうじゃな。惚れた男をチャラ男化して、それに似合う云々かんぬん……どこかで聞いた話じゃな。」


 確かに、世間なれしておらず、騙しやすそうな少女ではあった。わざわざ神崎をチャラ男化する当たり、用意周到である。とはいえ、純粋に先輩とやらを信じている彼にそれを伝える事は躊躇われたので、伝えることはしなかった。


「だが、何故かやめて、そのまま嘘を貫き通した、って所か?」


 その何故か、については彼等もすぐにわかることになる。


「で、神崎さん自体はあの格好が性にあったのか、そのまま、と……」

「まあ、確かに似合ってはいますわね……」


 そう言って一同が神崎に注目する。注目された神崎は若干座り心地が悪いのか、少し居辛そうにする。慣れなのか天性の物なのかは判別できないが、神崎がしているチャラ男のポーズは完璧で、一目見ただけでチャラいと判断できた。


「んん。いや、すまない。」


 一つ咳き込んで、カイト達は神崎に向き直った。


「どしたんっすか?」

「ああ、いや、気にするな。」

「やっぱ、この格好やめた方がいいんっすかね?綾崎さんからも時々言われるんっすけど……」

「言動も、その先輩の教えか?」


 そうならそうで、やめさせたほうが良いか、と考えたカイト。念の為に聞いてみた。


「へ?いや、これは素っすよ。先輩、そこまで教えてくんなかったすから。こんな口調でもなかったし。」


 それを聞いた一同は、少しだけ考える。容姿だけ真面目で口調がチャラい男と、容姿も口調もチャラい男、何方が良いのか、わからなかった。


「……いや、すまん。俺達にもわからん。ああ、だが、大人になる前にはやめておけ。口調もな。」


 一頻り考えた後、瞬が答えが出せず、少しのアドバイスで留めておいた。


「うぃーっす。」

「……ま、まあ。それは置いておこう。で、何の用件だ?」

「あ、忘れてた!」


 そう言って神崎はおもむろに立ち上がり、大きく頭を下げた。


「先程はありがとうございました!お陰で助かりました!後、すんません!タメ口使っちまって!」

「……いや、何のことだ?」


 空手部で鍛えられているのか、それとも素なのかは知らないが、神崎は礼儀正しくはっきりとお礼と謝罪を言う。だが当然だが、唐突に頭を下げられたカイト達は何のことだかわからない。カイトはティナと顔を見合わせるもティナもわからない様子であった。


「いえ、先ほど先輩方が助けてくれたんです。俺が手を貸してくださいって言った時に……」

「いつの事でしょうか……」


 桜も記憶を呼び起こすが、出てこないようだ。ティナは言わずもがな、弥生と瑞樹も同じである。


「さっきっすよ、さっき。向こうの通りで事故あったっしょ?あれで……」


 そう言われて一同が先ほどの事故を思い出す。


「ああ!あの時の若い冒険者か!」


 軽装備の若い冒険者が居る、とは思っていたのだが、よく考えれば確かに茶髪であったり背丈が似ていたり、声も一緒であった。気付かなかったのはカイト達の落ち度である。


「え?気づいてくれてなかったんっすか?」

「いや、悪いな。あの時は焦っていたし、顔が見えない位置だったからな。」

「あ、そういや先輩方俺の方一回も見てないっすね。あー、そういやカイト先輩が俺の方向いた時は大抵馬車に注目してたりしてたっすわ。」


 思い当たる節があったらしく、神崎が少しだけ考え込んだ。神崎の方からはカイト達が見えていたらしいのだが、カイト達は救助活動に専念していたことと、見た時が後ろ姿や見えにくい位置であったので、判別できなかったようだ。


「だが、お手柄だったな。聞いた話だと、お前が一番始めに到着して、救助者の確認に務めたらしいじゃないか。」


 ここらの情報はティナを弄びながらもクズハから報告を受けていた。とは言え、名前まではまだ報告が上がっていなかった。だが、今の状況を見れば誰がそうだったのかなぞ、一目瞭然だった。


「いや、偶然っすよ。出かけてたら偶然目の前で事故っただけっすから。」


 照れて頭を掻きながら、神崎は謙遜して答えた。


「だが、誰にでも出来るものじゃない。現に周囲の野次馬は手を出せなかったしな。」


 これはカイトの本心であった。別にあの大惨事の状況下で救助活動に参加できなくても、誰も文句は言えないだろう。それほどにひどい惨状であった。


「それに、お前が声を上げてくれたお陰でオレ達も気づけた。感謝する。」


 そう言ってカイトが軽く頭を下げる。それを大急ぎで神崎が止めた。


「いや、助けたのは先輩たちっすよ。俺なんて何人居るのか確認するぐらいしか出来ませんでしたし……」


 少しだけ無念さを滲ませながら、神崎が再度謙遜する。どうやら、根は真面目の様だ。


「いや、それが重要だ。お陰でこっちも何処に誰が居るのか把握する手間が省けた。」


 本来ならば魔術を使用して、生命反応から居場所を判断、その力強さ等を把握し、順番を決めたりするのだが、何処に居るのか分かっていたお陰で救出の順番を決定するだけで良かった。


「ありがとうございます。」

「ああ……そういえば、出かけていたって今日が討伐系での初仕事だろ?何してたんだ?」


 神崎達が何をする予定なのか、については報告が上がっていたので把握していたカイト達。討伐系は時間がかからないものの、体力消費は同等の非戦闘系依頼の数倍に及ぶ。一度戻れば、そのまま夜まで寝る者も居るぐらいであった。それ故に気になったのである。


「ああ、いや……ちょっと帰ってきたらシロエちゃんが手が足りないってことなんで、買い出し手伝ってたんっすよ。で、帰りに結構重そうな荷物持ってたばあちゃんの荷物持って上げてたら、目の前であの事故が……いや、すんません。ばあちゃん送ってたら挨拶に来んのが遅れました。」


 今度は照れた様子は無く、あっけらかんと語る神崎。尚、シロエは村正流<<無月(むげつ)>>の改修が終了し、建物の外を自由に行動出来るようになっていた。最早幽霊かどうかも怪しくなってきているシロエである。


「ああ、そういえば、大荷物のおばあさんがいらっしゃいましたわね……」

「うっす。そのばあちゃんだと思います。」

「……お前、良い奴だな。」


 それを聞いていたソラが、呆然と神崎を見て呟いた。本日の神崎の行動を並べると、討伐、お手伝い――買い出し――、お手伝い――荷物持ち――、救助活動である。半分以上が人助けであった。


「そういえば、神崎は空手部だけでなく、運動部系で最も人が良いと評判だったか。まあ、俺も綾人からの伝聞だが。あの神崎、ってのはお前だろ?」


 さすがにまだ一年の他部の生徒とは関わりのなかった瞬が、少しだけ昔の記憶を引っ張りだす。学園がまだ日本にあった時代の記憶だったので、忘れていたらしい。


「え?そうなんっすか?」


 さすがに当人が当人の評判を知っているわけは無く、怪訝な顔をしていた。


「俺は只普通の事してるだけなんっすけどねー。あ、そいえばばあちゃんがお菓子くれたんっすけど、食べます?」


 そう言って純粋な笑顔を浮かべ、人助けを当たり前と言い切り、もらったというお菓子を取り出した。純粋に人助けが好きなようであった。今日の行動を見るに、言動が一致していた。


「成る程、人が良すぎて寝取るの躊躇われたわけか……」


 その様子を見たカイトが、苦笑して呟いた。どうやら彼をチャラ男化した先輩にも多少の良心はあったらしく、人が良い彼から幼馴染みを奪う事が出来なかったらしい。


「いや、無理だろ。これ……」


 ニコニコと純真な笑顔を向ける神崎を見て、ソラも呟く。先輩を純粋に信じきっていたり、根は真面目であったりと、純真な男であった。


「取り敢えず、やっぱりお前、その格好はやめておけ。見た目で損しているタイプだ。」


 神崎の様子から結論に達した瞬が、神崎に伝える。尚、部長の綾崎も同じ経緯で同じ結論に達していた。


「へ?なんすか、急に。かっこいいと思うんっすけどねー……」


 どうやら当の本人はチャラ男スタイルを気に入っては居るらしく、自分の格好を再度確認する神崎。似合って入るのだが、行動が爽やか青年のそれで、とんでもない違和感があった。


「かっこいい格好なら神楽坂あたりに教えてもらえ。現役読モを舐めるな。お前にピッタリな衣装を選んでくれるだろう。」


 本気で神崎と詩織ちゃんとやらの行く末を気にしだした瞬が、親身になってアドバイスを始める。


「そ、そうね。教えてあげるわ。」


 同じ結論に達していた弥生が、苦笑しながら同意した。


「は、はぁ……ありがとうございます。」


 よくわからない、という顔ではあるが、取り敢えずは納得したらしい。その後、爽やか青年と化した神崎が出没するようになったかどうかは、不明である。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第227話『従者の過去』

 次回から少しの間、椿の過去に焦点があたります。



 2015年10月3日 追記

・誤字修正

 誤『寝ていると思いって~』

 正『寝ていると思って~』

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