表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
240/3875

第225話 人助け

 第二回トーナメントでの賞品のデザイン案が暫定的に決定し、そのデザイン案を持ち帰る最中、轟音と助けを求める声が響いた。それに気付いたカイト達は大急ぎで現場へと急行する事にする。当たり前だが、事故を発見してそれに手を貸せる力があるのなら、助けるのは彼らの義務に近かった。


「ここか!?何があった!?」


 そうして到着して早々、カイトが野次馬らしき人物に声をかけた。


「ああ、何でも馬車が露店に突っ込んだらしい。ひでえ。」

「っつ!これは……」


 そう言って野次馬が少しだけ隙間を開けて、カイトへと前を見せた。それを見て、カイトは思わず眉をしかめる。どうやら大型の馬車が衝突したらしく、周囲にはボコボコに凹んだ馬車の残骸と露店の品物、その品物が突き刺さったらしい馬が倒れこんでいた。また、事故現場周辺には血溜まりが出来て居た。

 馬の近く以外にも血溜まりが有ることから、ぼこぼこの馬車に怪我人が居る様子であった。露店は跡形も無く、金属製の馬車が大きく歪んでいる事から、かなりの勢いで衝突した事が察せられた。


「露店は何だ……?」


 こういう状況で、焦った所で何もならない。カイトは一度深呼吸してその場を見回し、現状把握に務める。よく見れば、馬に刺さっているのは金属製の道具が多く、周囲に散らばる道具もまた、金属製が多かった。しかし、その中には歪んだ魔導具の存在が確認でき、いつ暴走してもおかしくはなかった。


「ぶつかったのは魔術系の道具の販売店か!」

『ティナ!今すぐ来い!事故だ!』


 暴発の危険あり、そう判断したカイトの行動は早かった。即座に念話を使って最大の専門家を呼び出す。


『何!?何処じゃ!?』

『ホーム近くの大路地だ!場所はワカンだろ!?』

『うむ!見つけた!』


 そう言ってティナが念話を切った次の瞬間、ティナが転移で現れた。


「何があった!?」


 開口一番、ティナがカイトに問いかけた。


「露店へ大型の馬車が突っ込んだ。露店は魔導具を扱っている。衝突で魔導具が破損し、暴走の恐れがある。即座に対処してくれ。」

「うむ、任されよう。」

「三人はオレと共に中の要救助者を救出する。異論は?」

「いえ。」


 そう言って桜が頷いたのと同時に、瑞樹と弥生も頷いた。そうして4人は一気にジャンプで周囲の野次馬を飛び越え、円の中心に飛び込んだ。


「大丈夫か!」


 そうしてカイトは一人救助を行っていた男に声をかける。


「いや、マズイ!馬車の中に何人か取り残されてる!それと、露店の主人が壊れた露店に潰されちまってる!けっこー血が出てるっぽいから、早めに助けないとまじい!」


 男はどうやら若い冒険者らしく、軽装備のまま救助に当たっていた。顔は見えないが、かなり焦っている雰囲気が感じられた。


「よし……桜と弥生さんは露店を解体して店主を助けだしてくれ!姿が見えた時点でティナに伝え、回復魔術で応急手当を!間違っても癒着まではさせるなよ!ティナ、そっちはどうだ!?」


 カイトはティナの方を向いて、ティナの作業状況を確認する。ティナは一見すると歪んだ魔導具を凍らせている様に見えるが、実際には時空系魔術を使用して、周囲の空間を隔離、時間を遅延させるという超高等魔術を使用していた。周囲の時間から隔離されている所為で、熱運動までがほぼ停止してしまって凍っているように見えるだけであった。


「6割方完了じゃ!後3分で全て終わらせる!」

「さすがだ!後は任せる!」

「うむ!」

「瑞樹!一緒に馬車を解体するぞ!オレが切ったら、救出してくれ!」

「ええ!」


 全ての指示を下し終え返事を確認すると、カイトは一振りの刀を取り出す。抜身では無く、鞘入りだ。


「はっ。」


 そうしてカイトは刀を構え、一息息を吐いたかと思うと、一気に抜刀。目に見えぬ早業で、金属で出来た馬車の筐体を切り裂いた。



「居ましたわ!さあ、こちらへ!」


 そう言って瑞樹が中に閉じ込められていた乗客を助け出す。


「カイトさん!一人、残骸が突き刺さってますわ!」


 中を覗きこんだ瑞樹が、近くまでやって来たカイトへと告げる。


「ちぃ!……少しどいてくれ……はっ。」


 瑞樹の言葉を受けてカイトは再び刀を構えると、残骸を抜かずに外に出せるように邪魔な部分を切り取った。


「動かせんか……ならば!」


 外に出すのに邪魔な部分を切り取り、外に出そうとして、容態が危険と見て取ると、カイトは馬車の筐体自体を破壊することに変更する。


『クズハ!救助部隊はどの程度出動できる!』

『中央区、大通路の事故ですね?報告が上っており、既に治癒術者を含んだ救助部隊が向かっております。』


 カイトの意図を即座に理解したクズハが、カイトの求める答えを送る。救助の出動状況によっては一時的に患部を癒着させ、止血を行おうと思ったのだ。だが、その必要は無さそうだった。


『良し!では、こちらは救助出来るようにその他の手筈を終わらせておく!』

『はい、お兄様。よろしくお願い致します。』


 そうしてカイトは念話を終了させ、再び刀を構えた。


「はぁ!」


 カイトが再び裂帛の気合と共に刀を振るう。今度は一振りではなく、いくども刀が振るわれた。


「な……すげえ。めちゃくちゃ速え……」


 それを最も近くで見ていたらしい若い冒険者は、目を見開いて驚いていた。彼にも、周囲に居る野次馬にも、カイトの一振りも見えなかった。只、抜き放つ瞬間が見え、次の瞬間には納刀されていたのであった。そうして、救助に邪魔な全ての残骸を持ち運べる程度の大きさにまで分解して、中の乗客をそのまま治療出来る状態にして、止血の為の魔術を使用する。


「瑞樹。他の乗員は?」

「こちらはなんとか骨折程度で済んでいるようですわね。衝撃で気絶しているだけのようですわ。」

「そうか……確かに、大丈夫そうだ。」


 瑞樹の言葉を信用していないわけでは無いが、カイトは念のために怪我人の様子を魔術で精査し、瑞樹の見立に問題がない事を確認する。そして問題が無いのを見てカイトが頷いたのを見た瑞樹が、小さく溜め息を吐いた。


「そちらは?」

「クズハに確認を取った。もうすぐ救助部隊が到着する。後は治癒術者に任せるしか無い。」


 カイトも一応最上位の治癒魔術を使うことができるが、それでも専門家ではない。確かに最上位の治癒魔術ならば手足がもげて無くなろうと、完全に元通りにさせられる。

 とはいえ、毒や感染症に効くわけではない。それはあくまで、戦場等での緊急事態での処置だ。傷口からの感染症等、万が一が考えられた。到着まで時間が掛かる、今すぐ治療する必要がある等の事情が無い限りは、応急処置程度に留めておくのが最善なのであった。


「どいてください!」


 そうして状況の回復に努めていると、すぐに声が聞こえてきた。


「どうやら、来てくれたようだな。」

「こっちですね!」


 どうやら治癒術者らしい隊員が、最も怪我のひどい露店の店主と破片が突き刺さった乗客の状況を確認していく。その声と同時に、幾人もの治癒術者達や街の警吏達が周囲に展開し、野次馬達の対処や状況の精査を開始する。


「こちらも大丈夫じゃな。さすがに余も久々に焦ったわ。魔導具の幾つかは今にも暴発しそうじゃったからの。」


 現状に問題が無さそうだと判断出来た所で、ティナが桜と弥生を連れて、やって来た。


「いや、助かった。お前がいなければ、オレが魔導具の対処に時間を使わないといけなくなっていた。その分、あの少女の命脈が短くなったかもしれないからな。」


 助けてから気付いたのだが、破片が刺さっていた乗客は年幼い少女であった。幼い命を助けられ、一同は一安心、と言った所であった。


「あの、ご協力、感謝致します!」


 そう言ってカイト達に救助部隊の隊員が敬礼する。


「いや、オレたちはただ単に馬車を破壊したり、物をどけたりしただけだ。まあ、多少は暴走しそうになっていた魔導具の対処をさせてもらったが……」


 実際に魔導具の対処を行ったのはティナであるが、今は些細なことであった。


「それ以上に、真っ先に状況の確認を行い、要救助者の場所の把握等に努めてくれたあっちの若い冒険者に礼を言ってやってくれ。」


 そう言ってカイトは未だ手助けに奔走している若い冒険者を指さす。既に事態は収束へと向かい若干隊員の救助活動の邪魔になっているが、それが経験不足故か見捨てておけないという心構えから故かはカイト達にもわからない。だが、その心構えだけは、見事な物だった。


「そうですか。わかりました。ですが、貴方方もお手伝い頂いた事は事実です。できれば、ご連絡先だけでも……」


 こういった場合、救助に協力した市民達にクズハ辺りから謝礼の手紙や賞状が贈られるのが常であった。そのため、カイト達の連絡先を尋ねたのである。

 それに、カイトは近くの冒険部ギルドホームを指差した。別に隠す必要も無いからだ。とは言え、それより先に、声があったのだが。カイトと顔なじみの警吏が事故の後始末に出てきていたからだ。


「ああ、いや、自分が把握している。有難う御座いました、カイトさん。」

「いや、市民の義務を果たした程度だ。気にすることでも無いしな。」

「そうですか。でも、ありがとうございます。」


 そう言って治癒術者が再び敬礼する。


「じゃあ、オレ達はもう行っていいか?」

「はい、ありがとうございました!」


 カイトの問い掛けに顔なじみの警吏の一人が敬礼し、カイト達を通したのであった。


「ああ、お疲れ様。後は頼んだ。」


 そう言って、カイト達はギルドホームへと戻ったのであった。




「よお、結構ひどい事故だったみたいだな。」


 カイトが帰還早々、ソラが片手を上げる。どうやら近くで起きた大事故とあって、ここまで情報が流れてきていた様子であった。ちなみに、現在執務室にはソラと由利しか居ない様で、ガランとしていた。


「まあな。一仕事してきた。やっぱ魔物と戦っている方が楽だ。」


 そんなソラに珍しく疲れた顔をして、カイトが帰還を告げた。


「お疲れ。そんなもんか?」

「ああ。事故……それも大事故での人助けは色々気を使うからな。治癒魔術を掛けるべきか否か、他に要救助者が居ないかどうか、二次被害は無いか、感染症のおそれは無いか、などなどやる事は大量にある。一歩間違えば人命が失われて、大惨事。衰弱してる相手にオレもティナも全力は出せないけど、救助作業はほぼ全力でやらないといけないから魔力の操作は繊細になるわと、テキトーな出力で敵にぶっぱできる戦闘の方が楽なのは当たり前だろ?」


 そう言って苦笑したカイトがソファへと倒れこむ。当たり前だが、一般人は怪我を負えば魔術的にも身体的にも防御能力が一気に激減してしまう。そんな所にまかり間違ってカイトやティナという超常の存在の大魔力を浴びせたならば、余波だけでもで悶死しかねないのだ。

 とは言え、状況が状況だ。急いで救い出さんとするならば、それなりに大出力を出すしか無い。なので実は二人共、自分の身体の外部には魔力を漏らさずに大魔力で魔術を行使するというかなり繊細な作業を全ての行動で並列して行っていたのである。疲れるのは当たり前だった。


「それもそうか……寝るのか?」

「いや、寝はしない……が、少しだけ休む。久しぶりに刀で救助作業なんてやったからな。変な作業はしたくないな。」

「そっか。りょーかい。」


 この男でも疲れることがあるのか、ソラはそんな当たり前の事実に苦笑しつつ、再び自席に着いた。


「情けないのう……とう!」


 倒れこんだカイトの上にはティナがボディープレスを仕掛け、逆に確保される。ボディープレスを仕掛けようとして、魔術で捕まったのであった。

 そんな一切を無視して、カイトの近くに桜や瑞樹、弥生もソファに倒れこむ。全員、ティナがカイトに捕まった事に、ツッコミを入れる余力は残っていなかった。


「ジタバタすんな。後、桜、睨むな。けっこー怖い。何なら一緒に抱っこしてやろうか?」


 そう言って意地の悪い笑顔でカイトが少しだけ横にずれる。桜ぐらいであれば、一緒に寝れるスペースである。

 尚、ティナが暴れているのは、さすがに恥ずかしかったからである。久しぶりの全力での作業で内面だけは本来の性格に戻っているカイトに悪戯を仕掛けたのが悪い。


「きゃん!お主、色々まさぐるな!尻を撫ぜるのはともかく、スカートの中に手を入れようとするでない!後、ソラ達に聞かれるぞ!」


 少しだけ艶のある小声でティナが抗議する。わりと際どい所に、カイトの手が触れていた。というか、入っていた。


「残念だな。オレ達の間に条約は無い。それに、大丈夫だ、お前が黙っていればな。」


 そんな様子のティナに、カイトが更に意地の悪い笑顔を浮かべる。大魔力の行使の影響で少しだけ本来の性格が表に出ていた。


「お尻触られるのはいいんですか……私は遠慮しておきます。」


 近くなので状況も声もわかった桜が、小さく呟く。そんな桜だが、彼女もティナと同じ目にあう事は避けたかったらしく、顔を真赤にして、顔を伏せた。


「私も、ちょっと寝ることにします。」


 そもそも桜も桜で疲れていた。なので桜はそう言って、目を閉じた。そんな様子の桜を少しだけ意地の悪い笑顔で眺め、しかし小さく息を吐いて何も言わずに少しだけ微笑んでカイトは目を瞑った。


「それがいい。お疲れ様、皆。」

「では、毛布をお持ちしますね。」


 椿がそう言ってカイトに備え付けの毛布を手渡した。


「スマン。できれば桜達にも掛けてやってくれ。」


 毛布を受け取って、カイトは椿に礼を言った。今日は色々あったので、少しだけ精神的に疲れたのであった。流石にカイトとティナは眠る事は無い。ただ単に眼を瞑って呼吸を整えるだけだ。疲れているが、それは久方ぶりに繊細な作業を行った事による心地良い疲労感程度だ。慣れない救助作業に携わった桜や瑞樹、弥生の心労から来る疲労感とは全く違ったのである。

 そうして、桜や瑞樹、弥生にも毛布が掛けられ、一同が静かにしていると、20分程で執務室の扉がノックされた。


「何だ?」


 途中で執務室に入ってきた瞬が、音を立てない様に外を確認する。すると、そこには神崎が居た。


「ああ、神崎か。どうした?」

「ちぃーっす!カイト先輩いますか!」

「馬鹿!静かにしろ!」


 小声で怒るという器用な芸当をみせ、瞬が神崎の頭を小突いた。


「いつっ。どしたんす?」


 その瞬の様子に、頭を擦りながら神崎がこっそりと執務室の中を覗く。


「全員、さっきの事故でかなり消耗してるからな。すこしだけ仮眠をとっている。」

「ああ、なーる……?」


 そこでカイトを見た神崎は、その毛布が妙に膨らんでいる事に気付いた。


「なんすか、あれ?」


 カイトの毛布を指さす神崎。


「ああ、ミストルティンが中に入っている。」


 執務室に入ってそうそう寝息を立てる5人に気付いた瞬は、ソラに事情を聞いたのであった。


「え……えぇ?」


 どうやら勘違いしたらしく、神崎は顔を真赤にして目を見開いた。それに瞬は、意外と純情な奴だと思った。尚、当初は神崎の想像に近い事が起きていたがソラにも由利にも知られていなかったので、当然瞬には伝わっていない。


「え?いいんすか?」

「いいも何も、……いや、よくないな。」


 よく考えれば、それなりの年頃の男女が同衾しているのである。学校として見るならば、大問題であった。まあ、正体は20も後半の男と300も半ばの女なのだが。


「おい、そろそろ起きろ。」


 既に5人が眠り始めてから30分程度が経過している。そろそろ大丈夫か、そう思った瞬が、一同を起こすのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第226話『お礼』


 2015年10月2日 追記

・執筆途中で終わっていた部分をきちんと修正しました。

・誤表記修正

 誤『最上級』の治癒魔術

 正『最上位』の治癒魔術

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ