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第224話 賞品 ――製作――

 弥生、桜、瑞樹というセンスが有る三人を引き連れて始まった第二回トーナメントの賞品選び。途中若干の寄り道があったものの、カイトの予想通りの問題にぶち当たっていた。


「高い、ですね……」

「これなんかはデザインいいんだけど……やっぱり高いわね。」

「これも良い魔石を使っていらっしゃるのですが……高いですわ。」


 今までカイトの財布で見繕っていたので予算を気にしなかった――というよりカイトがさせなかった。女性に金銭を気にさせずに買い物させる程度の見栄はカイトにも存在する――のだが、冒険部の予算となると、それなりに限りがあった。しかも、数を揃える必要があったのである。単価は安めでなければいけなかった。


「北町は元々高級住宅街だ。公爵家に縁のある貴族なんかの別邸も有るぐらいだからな。どうしても貴族や大富豪向けの高級品になる。アルやリィル達の別邸も実はこっちに存在してるぞ。」


 再開してから二時間ほど更に見て回り、結論としてどれもこれも予算オーバー、という結論に達した3人にカイトが解説する。


「そう……ならいっそ自分たちで作った方が安上がりですむかもしれないわね。」


 元々呉服屋の娘として生まれ育ち、服飾関連には強い弥生が提案する。


「まあ、それはそうだが……細工なんて誰も出来ないだろ?」

「この間来た桔梗と撫子って娘は?あの娘達確か鍛冶師なんでしょう?そこで伝手無いの?」

「あるっちゃあるんだろうけど……多分超一流しか伝手ないぞ?」


 弥生の言葉に、カイトが難色を示す。所属が中津国で最も有名な鍛冶師の一門である村正流、しかもその後継者である。異業種であっても超一流としか伝手が無くても、仕方がなかった。


「じゃあ、カイトさんはどうなんですの?この街だけでなければ、それなりにあるんではないですの?」

「残念ながら、オレもダメだ。昔はまだ2流とかいたが……生きてる奴はさすがに経験積みまくって一流になってるな。当然依頼すればとんでもない性能と引き換えに、とんでもない金を取られる。」


 そう言って4人が頭を悩ませていると、ふとカイトが思い出した。


「ああ、そういえばハーフリングとハイ・エルフの女の子が中央区に店を出してたか。あの娘らなら、力になってくれるかもな。」

「そうなの?見たこと無かったけど……」

「小さな店だったから、気付かなかったんだろ。行ってみるか。」


 弥生の言葉に、カイトが告げる。それに続いて、三人もその後に従うのであった。




「ここだ……おーい、誰か居るか?」


 そう言って扉をくぐり、カイトは中に入る。すると、やはり女の子が二人店内にいた。


「あ、いらっしゃいませー。あ、お客さんは……えーと……」


 先と同じくハーフリング族の女の子がカイト達に気づいてカウンターに立ち、カイトが見たことが有ることに気づいて頭を悩ませていた。


「おーう。久しぶりー。」

「えーっと……あ!思い出した!一ヶ月ぐらい前に来たお兄さんだ!」

「お、覚えていてくれて光栄だ。」


 そう言ってカイトが優雅に一礼する。口調とは合っていないので、冗談のつもりであった。


「それで、後ろのお姉さんたちがこの間のプレゼント相手の一部ですか?」


 どう考えても3人分以上であったので、ハーフリングの女の子が一部とつけた。まあ、正解だが。


「ああ。」

「それで、今日はどういった御用ですか?今日もプレゼントですか?」

「いや、そうじゃ無いんだが……まあ、彼女らに聞いてもらった方が早いか。」


 そう言ってカイトが三人を紹介する。さすがに客の紹介に出てこないのはまずいか、と思ったらしく、ハイ・エルフの女の子も出て来た。


「ああ、えっと、申し遅れました。ハーフリング族のランカです。」

「私はエリスクピア・フォレスティア・ハーミティア・クストリア・フォルマ……」

「いや、申し訳ないのはわかっているが、そこら辺でやめてくれ。オレには覚えきれん。」


 ハイ・エルフの少女の言葉をカイトが遮る。3つ目のミドル・ネームの時点で誰も覚えきれなくなっていた。それ故にカイトが止めたのである。ちなみに、友人のランカは必死で全て覚えようとして、5つ目で諦めたらしい。


「そう……?まあ、皆エリスって呼ぶ。クズハ様に因んだらしい。」

「え?クズハさんってあれが本当の名前じゃ無いんですか?」


 桜がエリスに問いかけると、エリスが少し思い出しながら、クズハの本当の名前を諳んじ始めた。


「うん。本当の名前はクズハミサ・フォレスティア・キングレア……」


 それも当然カイトが止めるか、と思いきや、遠い目をしていた。


「……どうしたの?フォレスティアとかキングレアの意味わからない?」


 クズハの名前を教えていたらカイトが遠い目をしていたので、一度止めてエリスが尋ねた。


「エンテシア・エルフ語でキングレアは高貴なる王族、フォレスティアは深遠なる森。繋げてクズハさんが深遠なる森の王族である事を示している。その後のは何処の誰の娘で、何処で洗礼を受けて、とかを表している。エリスの場合はクリストアの娘の深遠なる森の探究者だろ?……そういえばそんな名前だったなー、って。」


 カイトの最後の言葉に、弥生ら他の三人が驚愕する。尚、あっけらかんとクズハがハイ・エルフの王族である事を明かされているのだが、三人はその後の言葉に驚いてスルーしてしまっていた。


「え?カイトさん、何故ご存じないのですの?」

「あ?そもそも何故クズハさんがクズハと呼ばれるようになったと思ってるんだ。」


 カイトは何故か偉そうに一同に告げる。他人の名前――しかも後の義妹――を覚えていないのだから、本来は恥じるべきであった。が、カイトは当然だがこの当時そんな長ったらしい名前を覚えているはずが無かったのである。


「よくわからないけど、確か勇者様が長いので親しみにくいだろう、と言ってクズハ、って縮めて呼ぶようになった、と言われているわ。」


 長く、重苦しい名前はそれだけで遠慮されかねない、理由としては間違ってはいないだろう。実際は大いに違うが。


「長ったらしくて覚えられっか、が真相だ。ここだけの話だが、もうクズハさんも自分の本名を覚えてないぞ?」


 カイトが少し茶目っ気を出しながら、エリスに告げる。一度クズハとユリィがカイトの退路を絶つ為に婚姻届――当然カイトとの――を書こうとして、自分の本名を忘れてしまっていて、里に密かに尋ねに行ったという笑い話が存在していたのであった。尚、その笑い話の所為で婚姻届の話はお流れになっている。


「え?なんでそんなこと知ってるの?」


 自分さえも知らない事実を聞かされ、エリスが目を丸くしていた。


「いや、ちょっとクズハ様とお会いすることがあってな?勇者様の笑い話として仰ってくださったんだ。」


 完全にやっちまった、と内心で冷や汗をかいたものの、表には出さずに即座に笑顔でそう言うカイト。ここらは公爵として役者の腕の見せどころであった。


「そう、今度聞いてみよ……あれ?そういえば貴方の名前は?」


 カイトと話していて、エリスはふとカイトの名前だけは名乗られていない事に気付いた。カイトもてっきり前に教えていたと思っていたので、自己紹介していないのであった。


「ん?ああ、教えてなかったな。カイト。カイト・アマネだ。よろしくな。」


 そう言って笑顔で手を差し出すカイト。笑顔で差し出された手を取って、エリスがふと既視感に襲われた。


「なんか、懐かしい?」


 今の一連の流れに、そして差し出された手に、エリスは古い記憶を呼び起こされた。


「そうか?」

「うん。かなり昔。まだ里に居た頃……そうだ、あれも……!」


 そう言って何か過去の記憶を思い出していたエリスがふと目を見開いた。


「そっか。帰ってきたんだ。」

「は?」


 エリスにそう言われたカイトが、目を丸くして驚いた。何が、とは言われなくても理解した。驚いたのは、決定的なミスをしていないのに、カイトの正体に気付かれたことであった。


「お帰りなさい。カイトさん。」


 その言葉に、ランカが目を見開く。


「あれ?やっぱり知り合いだったんですか?」

「うん。私が里を出て絵を目指す切っ掛けを作ってくれた人。」

「え?それって……」


 ランカの目も、驚きで見開かれる。さすがに一緒に仕事をしているので、その説明はされていた。そして、それ故にエリスのその言葉の意味も理解できた。カイトが勇者である、と言っているのであった。


「ありがとうございます。貴方のお陰で私は絵の道を目指せました。」


 そう言って、エリスは深々と頭を下げる。さすがにカイトは始め、他人の空似だろ、と言いたかったのだが、少女にここまで純粋な、心のこもった感謝をされては出来なかった。無粋にも程があった。なので、苦笑しつつも認めるしか無かった。


「ああ、ただいま。それと、よく頑張ったな。」

「うん。貴方が褒めてくれたから。」


 そう言って、エリスは頬を赤らめる。

「はは、上手いものを上手いと素直に感想を言っただけだ。気にするな。」

 そう言ってカイトはかつてと同じく、快活に笑って、少し茶目っ気を出して、こう告げた。

「ただ、帰ってきた事は内緒、な?で、仕事は受けてもらえるかな?」

「はい。私の腕前、見てください。」


 そう言ってエリスが微笑む。それは気難しく人付き合いの苦手な彼女とは思えない程に、柔らかい物だった。


「じゃあ、三人共。彼女らと一緒に少しアイデアを練ってく……れ?」


 そうして後ろを振り向いたカイトは、何故か疑問形とならざるを得なかった。何故かランカを含めた4人組が円を組んでいたのであった。


「私がやっておくわ。桜ちゃんたちは、自由にしなさい。」

「じゃあ、こっちです。あ、桜さん。後で聞かせてくださいね。」


 そう言って弥生が苦笑し、ランカによってカウンターの裏に案内された。


「はい、ありがとうございます……それと、分かりました。」

「感謝しますわ。」


 一方、桜と瑞樹がそれに礼を言って何故かカイトの腕をとった。逃げられないようにしっかりと。


「えーっと、何がどうなってるんだ?」


 当然だが、先ほどまで昔馴染みの相手との再会を懐かしんでいたカイトと、同じく逢瀬を懐かしんだエリスには事情がわからなかった。二人共、首を傾げるだけだった。


「さて、カイトくん。エリスさんとの馴れ初め、聞かせて頂けますよね。」

「丁度そこにカフェがありますし、そこで良いですわよね。」

「え?二人共決定事項?てか、なんで?」


 ズルズルと引きずられながら、カイトは目を丸くしていた。そしてそれを一切無視し、連行して行く二人。カイトとエリスの二人以外――ランカを含めて――は気づいていた。エリスがカイトに恋していることに。そして、たとえそれが初恋に似た感情であっても、桜達には見過ごせないのであった。

 それ故に、カイトは連行されたのである。尚、エリスは自分がカイトに恋している事に気づいていないのであった。




 結局、その後2時間をカイトは誤解を解くことに費やした。尚、2時間で済んだのは、エリスとの一連が完全に偶然で、なんら下心――ただし、全ての一件でカイトは下心の存在を否定している――が存在していない、とジャッジされた為である。


「あら、もう終わり?」


 作業机に向かっていた弥生が、三人が帰ってきた事に気付いた。


「はい。結論が出て、今回はお咎め無し、としました。」

「あら、ちょっと残念ね。」


 本当に少しだけ残念そうにそういう弥生。それにカイトは肩を落として溜め息を吐いた。


「いや、なんでそんなに残念にすんだよ……で、出来たのか?」

「ええ、デザイン案だけだけどね。」

「はい。」


 そう言って緊張した面持ちでエリスがカイトに幾つかのデザイン案を提出した。


「ほう……始めは学園の校章をモチーフに風と土の意匠を含めたか。」


 カイトがその意匠を見て、少しだけ唸る。ちなみに、天桜学園の校章は天に架かる桜である。


「うん。それを一度魔術的に解体して、再構築。それに合せて花びらに風の概念の意匠を含めて、樹木の部分に土の概念の意匠を含めてみた。その次は水と火。3つ目は雷と氷。4つ目は光と闇。」


 一度元となるデザインを魔術的に意味のある物に分解し、自分の望む概念を組み込んで再構築する。それこそが、魔術的なアクセサリー職人の真髄であった。それに更に美的センスを含める事こそが、彼等の腕の見せどころである。


「ほう……」


 そう言われたカイトは感心し、残りの意匠を確認していく。


「これなら一般向けに販売しても問題は無いレベルだな……全複合は出来ないのか?」

「ごめんなさい。そこまでの腕はまだ……」


 少しシュンとした様子で、エリスは謝罪する。どうやら少しだけクールなポーズは仕事向けであったようで、今は見た目相応の、少しだけ子供っぽさが出ていた。さすがに8種全部を複合させてデザインに含める様な腕は無かった様である。とはいえ、それができれば十分に一流と言えた。修行中にそこまで言うのは酷である。


「ああ、気にするな。なんだったらティナを紹介してやる。聞いてみるといい。」


 デザインそのものについては口を出せないだろうが、風などの概念を組み込むことやデザインを魔術的に分解する事については、得意分野であった。


「え?ホント?」


 魔術的に見れば大先輩かつ、偉大な先達にアポイントが取れれば、その利益―ただし、この場合は金銭ではなく知識面―は計り知れない。


「ああ。」


 そう言って穏やかな笑顔で頷いたカイト。カイトにとってはかつてのクズハと同じく、幼い妹を見ている感覚であった。


「ありがとうございます。」


 カイトの言葉を受けて、エリスは少しうれしそうに再度頭を下げた。


「なら、これを全部一度持って帰ろう。コピーは有るか?」

「あ、それがコピーです。そっちは弥生さんのですね。」


 ランカがそう言って原本を指さす。どうやら原本があるので、持ち帰っても大丈夫だ、と言っているらしい。


「わかった。じゃあ、また2日後に来よう。」


 原本の存在を把握して、カイトも頷いた。どちらにせよ一度出来上がりを見ない事には何も言えないのだ。その言葉に、弥生が荷物をまとめ始めた。


「はい、じゃあお待ちしています。」

「ああ、じゃあ、また。エリス、がんばれよ。」

「はい。」


 そうしてカイトと桜、瑞樹は弥生の用意が終わるのを待って、外に出たのであった。


「カイトくん、優しい顔をしてますね。」

「なにげにカイトは小さい子の面倒みるの得意だからね。」

「弟さんと妹さんがいらっしゃったんでしたっけ……」


 桜と瑞樹は兄妹はいるものの、年が離れていたりあまり仲が良くなかったりするので、少しだけ羨ましそうにしていた。


「ん?どうした?」


 そんな三人を知ってか知らずか、先に進んでいたカイトが三人の方を振り返った。


「いえ、何でもありません。」


 そうして、一同がのんびりと帰ろうとした時、轟音が響き、誰かの声が響き渡った。


「すんませーん!誰か、手ぇ貸してくださーい!」


 その声に、一同が顔を見合わせ、急いで声のする方へと向うのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第225話『人助け』


 2017年11月22日 追記

・誤字修正

『ホビット』とすべき所が『ドワーフ』となっていた所を修正しました。


 2018年3月23日 追記

 そして種族名:『ホビット』は使えませんでした。『ハーフリング』族に変更しました。

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