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第216話 精霊たち ――全員召喚――

 冒険部へと帰還し、土産話と二つ名の話に花を咲かせていた一同。そうして途中で風の大精霊がカイトの後ろから姿を見せ、アルが椅子から転げ落ちていた。


「ど、どうしてこちらへ!」


 ルフィこと風の大精霊を見たアルが、凛に引き起こされてもソファに座らずそのまま床に片膝を付いた。


「やっほー。おじゃましてまーす。」


 そう言ってカイトの後ろから風の大精霊がピースサインでアルに挨拶する。


「はっ!有難き幸せにございます!」


 片膝をついたまま、決して頭を挙げないアル。見れば、少し震えていた。いつものアルからは想像も出来ない様子に、事情を知らない瞬達が不審に思う。一方、彼女の正体を知っている面子は――カイトを除き――、全員が仕方がない、というような心情を共有していた。


「どうしたんだ……?」

「ここ最近カイト殿を訪ねて来られている少年なのですが……貴方方も知っているのですか?」

「いや、知ってるてーか……」


 瞬とリィルの問い掛けに、その正体を知っているソラがかなり言い難そうにする。告げていいのかどうか、判断できなかったのである。


「もー、皆僕の事男の子って……酷いなー。」


 そう言って拗ねた様子で頬を膨らませる風の大精霊。それにカイトが笑った。


「お前がそんな格好でいるからだろう。いつもの姿に戻ったらどうだ?」


 十にも満たない年齢で、起伏のない身体、ショートカットの緑色の髪、端正で中性的な顔。しかも一人称が僕で、服装がTシャツに短パンである。男の子に間違えられても仕方がない、というより、驚かせるために当人が敢えてそう見えるようにしているだけである。


「まあねー。」


 全員の反応を見て、風の大精霊は嬉しそうに笑う。しかし、続けてカイトに苦言を呈した。


「でも、カイトも酷いよー。僕らだって暇なんだからさー。少しは呼んでくれたっていいでしょー。」


 ぷくー、と頬を膨らませて風の大精霊が抗議すると、一方のカイトも最近かまってやれていないというある種無礼な気持ちはあったのか、笑って謝罪する。


「スマンスマン。お前ら呼ぶ程の敵も居ないし、あんま呼ぶとオレの正体を看板掲げてる様なもんだしな。」


 当然だが、大精霊達を自由気ままに呼び出せる存在など、カイト以外に存在しない。それ故、カイトの偽物は現れ得ないのであった。


「でもさー、ここぐらいだと、呼んでもいいよねー。」

「一度味をしめると、お前ら全員勝手に跳梁跋扈すんじゃねえか。」

「えー、しない……と思うよ?というか、跳梁跋扈って酷いなー。」

「昔ウチがある意味皇城よりも礼儀に気を使わなければならない建物って言われたのは、誰の所為だったか……」

「えー、誰の所為かなー?」


 あえてすっとぼける風の大精霊。当然、彼女らの所為である。皇帝よりはるかに偉い大精霊が屋敷中を闊歩する家なぞ、他の王侯貴族にとってはたまったものではない。決められた場所だけしか皇帝が居ない皇城よりも、圧倒的に常に気を使わなければならない場所であった。

 尚、使用人達も入りたては緊張し卒倒しまくっていたのだが、次第に慣れはじめたので普通に生活していた。慣れとは恐ろしい物であった。


「お前らだ!特にお前!」

「痛い痛い!ギブギブ!」


 カイトがすっとぼけた風の大精霊のこめかみを拳でグリグリする。とは言え、風の大精霊は口では痛いと不満を言いながらも、顔は少し嬉しそうであった。


「だ・れ・が!勝手に!悪戯して回れって言った!お前が悪戯したらオレ以外注意できねえだろうが!」


 一方、カイトはこれ幸いとお説教を開始する。当然であるが、彼女らの行動は王侯貴族であっても泣き寝入りするしかない。カイト以外に注意できる存在など、居ないのであった。


「えー!眷属の子との可愛らしいスキンシップじゃないかー!」

「そうだよ!私達だってスキンシップとってもいいじゃない!」


 その言葉に、一緒に悪戯して回っていたユリィが風の大精霊の援護に回った。それを受けて、ねー、っと眷属とその主は一緒ににこやかに笑い合う。


「可愛らしい程度にしてくれ!異界化とか異空間に接続とか後始末が面倒なんだよ!」


 数日前も異空間につなげた落とし穴を作られたばかりだ。その後始末をさせられるのは、決まってカイトである。


「あの……カイトさん?もしかして、その御方は……」


 かなり引き攣った様子のティーネが、カイトに問いかけた。先程からの遣り取りを聞いていた周囲の一同が、大凡の正体を察したのである。


「あ?シルフィか?」

「あ、自己紹介してないねー。」

「それもそうだが、いい加減元の姿に戻りやがれ。」

「うーん、それがいいね。」


 いい加減この姿にも飽きてきていたシルフィは元に戻ることを決定する。しかし、それより前に、二人の脳内にのんびりとした声が響いた。


『いいなー、わたしたちもでていーい?』

「はぁ……一応コイツ勝手にでてきてるんだが……それに、この調子だと許可とらんでも勝手にでるだろ。」


 その言葉を聞いた公爵家の三人は、一気に凍りついた。一人でも卒倒しかねないのに、更に増えたらどうなるのかわかったものでなかった。だが、そんな三人の心情を他所に、のんびりとした声はカイトの問い掛けに肯定する。


『うんー。』

「ついでに全員紹介しておくか。つーことで、全員集合!」


 その答えを聞いて、どうせ勝手に出るならいっそ全員紹介しておくのも有りか、カイトはそう考える。そうしてカイトが何らかの魔法陣を7つ展開させる。


「ちょ!お主、さすがにそれはやめぬか!」


 カイトの意図に気付いたティナがカイトを止めようとするが、間に合わない。全て彼の脳内にだけ響いていた所為で、状況を把握するのが遅れてしまったのである。


「せまかったー。」


 そう言って一番初めに現れたのは、土。そしてその土が弾けたかと思うと、肩まであるセミロングの茶色い髪の、10代後半くらいの容姿で小柄だが、胸が大きな美少女である。身に付ける服はダボダボの膝まである茶色のロングTシャツで、胸が強調されていた。Tシャツで隠れており、ズボンやスカートを身に付けているかは、分からなかった。面立ちはどことなくぽわんとした面立ちだ。


「ノーム……オレの心が狭い様な言い方すんな……」


 通常、彼女たちはカイトの精神世界に屯しているので、尤もな言い分である。実際に心が狹いかどうかは別として。


「えー、でも、やっぱりこっちのほうがひろいよー。」


 ノームは空中をゴロゴロと寝そべる。そうして次に現れたのは、水。その水が弾けると、腰まで有る長い青色の髪の、ノームより少し年上の美女が現れた。肌は透けるように白く、身に付けている服は水色をメインとした清楚なワンピースに濃い青の上着を羽織っていた。面立ちは凛としているが包容力がある、柔和な笑みを浮かべていた。こちらはノーム程胸が大きくはないが、それなりの背の高さに、形の整った胸とスタイルが非常に良かった。


「私達も最近は暇でしたからね。少しぐらいは大目に見てあげてください。」

「ディーネ……いや、心が狭いというのは、な。」


 そうしてディーネは笑い、苦笑したカイトの横に侍る。次に現れたのは、火。その火がはじけ飛ぶと、ディーネと同程度の年齢の美女が現れた。髪は燃えるように赤く、肌は褐色。来ている服は真っ赤なタンクトップに、短パンとかなり動きやすさを重視したもの。こちらも高身長だが、スタイルは良いものの胸や尻などはディーネ程はなく、その代わりに筋肉の靭やかさが存在していた。面立ちは快活さが前にでた、姉御肌な美女である。


「ははは!まあ、確かにカイトの心が狭いとは思わないがな……まあ、空間的に狹い、というのは事実だろう。」


 そう言って火の大精霊が快活に笑う。


「狹いのはお前らが全員一つの部屋に集まるからだろ。」


 一応、各個人用に個室は作ってある。それでも、ひとつの部屋に集まっているのは、彼女らの意思であった。ちなみに、その部屋にしても作ったのはカイトなので、更に広くする事は出来る。


「まあ、私達にとってもここ300年間は全くの音信不通だったんだ。この程度の冗談は許してもいいだろ?」

「なら、今度は大きめの部屋でも作るか……」


 カイトは考えこむが、尚も召喚は続く。次に現れたのは、氷。その氷がはじけ飛ぶと、膝まで届く長い純白の髪を持つ、透けるような純白の肌、目は白銀の美女が現れた。身につける服は純白の丈は地面まで届くようなゆったりとした着物。こちらもディーネ同様のスタイルだが、面立ちが異なっている。確かに彼女も凛とした美女だが、こちらはディーネと異なり目つきが鋭く、それでいてどこか無感動そうな眼差し。全体的に、どことなく雪女の様なイメージのある、冷徹な美女であった。


「あまり大きすぎてもノームが転がってうざいんだけど。ゴロゴロ見境なく転がるわ。あれ、そのうちあの起伏消えるんじゃないかしら。」

「あー、ゆきちゃんひどいなー。」

「事実よ。」

「えー。」


 そう言ってノームと氷の大精霊が話し合う。そして、次に現れたのは、雷。その雷が弾けると、長い髪をポニーテールに結った、再びディーネと同程度の美女が現れた。スタイルはサラと同じく、靭やかさがあるが、面立ちが異なる。こちらはサラと異なり、凛とした切れ長の目、整った眉等、武人のような美女であった。身につける服は着物だが、どこか武家の女の様な動きやすい短い丈の紫色の着物であった。


「事実だ。私も時々ぶつかられている。」

「えー、そんなことあったっけー?」


 雷の大精霊の言葉に、仰向けでコテン、と小首を傾げるノーム。


「というか、いい加減にしゃきっとしろ!また寝るぞ!お前とルナはどこでも寝るから始末に終えん!」


 相変わらずゴロゴロと空中を転がるノームに、雷の大精霊が怒る。この時点でかなり執務室のカイトの周りが手狭になっているが、まだ召喚は終わらない。

 最後には、同時に光と闇が現れた。2つがはじけ飛ぶと、現れたのはノームと同年代の美少女。髪は二人とも腰まで有るロングヘアー。スタイルは整っており、身にまとう服は二人共清楚なワンピースである。ふたりとも双子の様に同じ容姿で、只、異なっているのはその色と眼差しだけであった。光から現れた美少女は黄色い目と髪を、闇から現れた美少女は漆黒の目と髪を持っていた。身に纏うワンピースも、それに倣って黄色と漆黒である。そして、面持ちは光から現れた美少女は凛とした柔和な眼差し、闇から現れた美少女も凛とした面持ちであるが、眠そうなぼけっとした眼差しである。


「寝てない……」

 そう言って闇の大精霊が眠そうに答えた。寝ていない、と言いつつも半眼で、目をこすっていた。おまけに船も漕いでいる。


「ただ、眠いだけ……」


 そう言うだけ言うと、闇の大精霊は思い切り地面に倒れ込みそうになる。だが、倒れ込みそうになった闇の大精霊の手を、慌てて光の大精霊が引っ張る。


「ああ、ルナ!こんなトコで寝ないでください!

「くー……」


 余程眠かったのか、闇の大精霊はそのまま寝入りそうになる。


「えーと……その、ソファをお借りしても良いでしょうか……」


 かなり恥ずかしげに光の大精霊がカイトへと問いかける。それにカイトが笑い、魔術を使用して大きめのベッドを顕現させる。


「わーい。」


 カイトの予想通りにノームもその上に乗っかる。この展開を予想したが故、敢えて大きめのベッドを顕現させたのだ。


「ありがとうございます……ルナ。眠るならこっちになさい。」


 光の大精霊はルナの手を引いて、ルナをベッドへと誘導する。


「んー……ありがと、ソル。」


 眠そうに目をこすりながら、ルナがベッドへと倒れこむ。


「相変わらず、大変だな。」

「いえ……お恥ずかしい所をお見せしました。」

「あはは、いつものことだろ。」


 どうやらこの流れは慣れているらしいカイトが、笑って許した。尚、ノームがルナの頬を突っついては、時々うざったらしく振り払われていた。


「僕も戻ろっかな。」


 全員が現れたことで、今まで幼い姿であったシルフィが光り輝く。そうして、光が収まった後に現れたのは、ノームよりも少し幼い、美少女であった。幼いといえど、胸もきちんと膨らんでおり、体つきにも女性らしさが現れている。シルフィをそのまま成長させたかのような、中性的ではあるが、どこか女性的なイメージが強くなった端正な顔立ちに変わる。身に纏う服は少し変わり新緑のTシャツ、丈が短めのスカートであった。ここまで来ると、誰がどう見ても女の子である。


「さて、これが……って、どうした?」


 カイトが全員を紹介しようと冒険部の面々へと振り向くと、そこには身動き一つ、まばたき一つとらず、じっとしている冒険部の面々の姿があった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第217話『精霊達・2』

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[一言] どーしたもこーしたもあるか‼️w
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