第13話 英雄の帰還
今回、少しだけエロ?い表現が後書きにあります。苦手な方はご注意ください。
「兄さん、姉さんも……。みんな探してたんだけど」
息を整えて痛みをこらえつつ何とかそういうアルに対しルキウスとリィルが少しだけ無念さを滲ませながら答えた。
「俺たちもお前と同じく黒衣の男に敗れてここに連れて来られた」
「ルキウスに残された手紙だとどうやら我々三人をここに集めるのが目的のようですね」
そういう二人であるがアルの後ろをみて戦闘態勢を整える。
「これでお前の望み通り三人が揃ったわけだが……。そろそろ事情を説明してもらえるんだろうな」
そこにはなぜか三枚の紙とペンを宙に浮かべて、三枚共に同時に何かを描いている黒いローブの姿が。
「いい加減に何か話したらどうなんです?」
いいように弄ばれたためか若干不機嫌なリィル。が、黒いローブの人物はそれに斟酌することはなく、アルを見遣り指をスナップさせる。
「自分で痛めつけておいて治療するとか、どういうつもりなんだい?」
どうやら痛みが引いたらしい。不審に思う三人だが警戒を解くことはなく武器を構えたままである。
そうしているうちにペンが止まり、文字の書かれた紙が一枚ずつ三人の前へ飛んできた。読め、ということなのかと三人がそれを手に取り見てみると
―――ルキウス
指揮官としての才能がメインだろうが、もう少し戦闘技術の鍛錬を積むこと。
―――リィル
<<炎武>>を使えるのは良し。しかし一旦離れて力を溜める必要があるのは却下。当該の技は戦闘中に他の技と並列で使用できるようにすること。
―――アルフォンス
戦闘技術はよし。ただし、最後の最後に油断があったのは大きな減点対象。
と書かれていた。読み終わったことを確認するとひときわ大きい紙を出現させて
―――総評:四十点。もっと頑張りましょう。
と、表示した。紙に書かれた文字に対して怒り心頭であったリィルは、ふと何かに気づいたか訝しげに眉の根を寄せる。
「……なぜ私の<<炎武>>が未完成だと?」
そういったリィルに対して驚いたのはルキウスである。
「<<炎武>>を使ったのか!」
「ええ。まぁ、軽くあしらわれましたが」
「<<炎武>>を使った姉さんを軽くあしらうって……」
通常状態のリィルを軽くあしらえるアルも、<<炎武>>を使ったリィル相手では若干苦戦する。三人にとって、<<炎武>>とはそれ程に強力な技、という認識なのであった。
「<<炎武>>を戦闘中に使えるようになったんだ」
少し前までリィルは<<炎武>>を使うために若干の時間を必要としていた。自分との戦いではそんな隙がほとんどなく、そう思ったアルに対してリィルが否定した。
「いえ、使えませんよ。何故か待って頂けました」
それにアルが何かを言う前に黒いローブの人物が声を発した。
「ま……、な……い」
肩を竦めて何かを言ったようであるが、仮面のせいでくぐもっていまいち聞き取れなかった。仮面に穴が開いていないのだから当然である。一瞬にして気まずくなる四人である。初め何か突っ込もうとしたルキウス達だが、いたたまれなさから、やめた。彼らとて騎士である。
少しの沈黙の後、黒いローブの人物は仮面を外して精悍な顔を晒した。
「まったく、情けない」
再び肩を竦めてそう言った。なかった事にしたらしい。空気を読んだルキウスら三人は、それに従うことにした。続けて黒いローブの人物は言う。
「<<炎武>>は戦闘中、動きながら使用できるように調整された技だ。しかも、その後の技の発動の起点となる基本技だ。その程度の技を驚いていたら次の段階など夢のまた夢。せめて火の精霊に契約か、加護をしてもらえ。多少は使えるようになるだろう。それを一回下がって発動しないといけない、などバランのおっさんが知ったら泣くぞ」
「……は?というか、あなたは誰ですか?」
いきなり<<炎武>>について講釈を行った青年。しかもアドバイスは不可能に近いことを平然と可能であるかのように言っている。唖然としつつも青年の正体を問うたリィルであるが青年は再び肩を竦めた。
「オレが誰かは自分で考えろ。<<炎武>>が一般的に広がってないならわかるだろう。なぜ説明できるか、を考えてみろ。それでわかるだろ」
そう言って宙に足を組んで腰掛け、宙に肘を付いた青年に対してルキウスとリィルは騒然とし小声で語り合う。
「飛空術だと?飛翔機もなしにか!」
「なんの詠唱もないなんて……なんの冗談ですか?それともどこかで遅延詠唱でも……」
二人に対してすでに戦闘中に使用されたアルが呆れ返ったかの様に溜め息を吐いた。
「彼、僕との戦闘中に飛空術を使っていたよ……」
と、言うと、二人は絶句して何も言えなくなってしまった。
「にしても、このレベルが今の公爵軍のトップクラスとか……。オレがいた頃なら普通に幹部クラスでこの程度の実力がいたんだがな」
「そう言ってやるな。あの戦の後は目立った戦がなかったんじゃろう。この様子じゃと魔獣や魔物どももおとなしかったようじゃな。この程度の実力でトップクラス、平和で良いことではないか」
黒衣の男が一人そうごちていると、その独り言に答えるかの様に妖艶な声が聞こえてくる。
「誰だ!」
そう誰何するルキウスだが、急に上空から巨大な魔力を持った何者かが現れ、意識を持って行かれそうになった。
「余か?此奴の正体がわかれば自ずとわかろう」
そう言って青年の胸にしなだれかかり、青年の太ももに腰をおろした。豊満な胸を強調する真紅と黒で彩られたドレスを身に纏う金髪金眼の妖艶な美女である。透き通るような色白の肌、抜群の容姿、男を惑わせる声を持ち、数々の美女達を見てきた三人でさえ気後れしてしまうほどの美女であった。しなだれかかりながらも身に纏う雰囲気は男に媚びるものではなく女帝のそれであった。
「なんだ、来たのか」
自らに当たる胸の感触を楽しみながらそう言うと、口端を歪めて笑う青年も、身に纏う魔力を引き締めると、自らの存在感を一気に増大させる。妖艶な美女を侍らせ、呆れていた表情を引き締めたその姿は、精悍な顔に獰猛な笑みを浮かべ整った容姿と合わせて、覇王と呼ぶに相応しいものとなった。
ルキウスら三人は美女が現れ、青年が覇王の雰囲気を纏った途端、一気に傅かなければならない気に駆られたのだが、なんとか騎士の中の騎士が興した名家の騎士と言う誇りを胸に、耐え忍んだ。
「見ているだけではつまらん」
そういって拗ねた表情をする美女。
「そういうな。元々はオレが受けた約束だ。お前にやらせるわけには行かないだろう?」
「そもそもあやつは顔を見てやってくれ、とでも頼んだだけじゃろう?」
「まぁな。……なんで知ってんだよ。寝てただろ」
「奴との付き合いの時間ではお主とそんなに変わらんじゃろう。それぐらいわかるわ」
そんな内容の会話を二人は言い合っている。会話を聞いていたルキウスらであるが、会話の内容からルキウスが青年の正体に気づいたらしく、すぐさま臣下の礼をとった。しかし、未だ正体が把握できていないアルとリィルはそんなルキウスを訝しんだ。
「兄さん、いきなりなにを……」
「ルキウス、こんな無礼な奴に臣下の礼など取る必要はありません」
そんな二人に対して、ルキウスは小声で二人に対して、同様にすることを命ずる。
「いいから、さっさとお前らも臣下の礼を取れ!」
自分の想像通りなら決して無礼は出来ない相手であることに気づいたルキウスは二人にも臣下の礼を強制する。二人はしぶしぶながらそれに従う。二人が臣下の礼をとったことを確認し二人の正体を確認すべく、その正体を確認した。
「失礼いたしました。公爵閣下であるとはつゆ知らず、ご無礼を致しましたこと平にご容赦ください」
それを聞いた二人は一気に愕然とするが、青年はそれに対して黒いローブを純白のロングコートと黒を基調とした服装へと魔術で着替え、面白そうに笑った。
「ようやく気づいたか。面をあげよ。無礼については構わん」
そう言って三人が顔を上げたことを確認した後、横柄に頷いた。
「元々は俺がなんの連絡もなくやったことだ。無礼どころか三人共職務に従い、問答無用に襲い掛かってきた襲撃者と相対しただけのこと。オレの正体を知り得ん三人がとった行動は賞賛こそすれ、なんら問題はあるまい」
公爵はそう言って問題ないことを明言する。
「はっ。ありがたきお言葉」
「ああ。しかし、三人共才能に光るものはあれど、未だそれを活かしきれていまい。鍛錬を欠かさぬように」
「肝に銘じます。恐れ多くも、一つお伺い致したいことが……」
「良い。許す」
「は。なぜこのようなことを?閣下がお帰りになられていらっしゃることを知らせていただければ、我ら公爵家家臣団一同を上げて歓待をさせていただきましたものを……。公爵領の民、いえ、皇国中の民が喜びに満ち溢れましょう」
三百年前に皇国ひいては世界を救った勇者の帰還ともなれば国中、世界中が歓喜に湧くのは当然であろう。それほどまでにエネフィアでは勇者の物語は一般的となっていた。
「まぁ、大々的にやれん理由もあるが……。何よりただ魔力がでかいだけではオレが勇者だ、等と言っても信用はされまい?まあ、コレを見せても良かったのだろうが」
そう言って指につけた8色に色の変わる宝石の付いた指輪を見せる。
「その指輪が物語で語られる祝福の指輪……ですか?」
「物語でどのように伝わっているかは知らんが……。なんなら試しに8属性の攻撃でもしてみるか?属性攻撃であれば一切を防ぐぞ」
カイトの右手の人差し指に着けた指輪はかつて、火・水・風・土の4体の根源精霊と水・火の複合精霊―氷―、風・土の複合精霊―雷―、光・闇2体の上位精霊の全員による祝福を得た証として、全員が揃った際に渡されたものである。そして、これら8種の属性の精霊たちを、総じて大精霊と呼ぶのであった。
「ではその横の指の指輪は……」
「ああ、契約者の証、だな。コレは知られているな?」
「はっ。契約者は百年に一人程度は出ますので。ですが、祝福については閣下以外に方法さえ知る者がおりませんので……」
―――――精霊から力を得るには三種の方法がある。
まず、加護は勝手に精霊たちが付与するものであり、これは拒否も申請も出来ない。精霊たちが、ただその人物が気に入ったから与えた、というだけである。得られる力は最も少ないが、得ている人数も多い。
それに対し、契約は対価を渡すことや、精霊の課す試練に打ち勝つことで得られる。試練に挑む者は多いが、試練を踏破出来るの者が現れるのは百年に一人程度であった。この方法ではかなりの力を得ることができ、踏破した者の多くが冒険者や国家の重臣として大成している。
最後の祝福は隠語で、精霊と交わることであった。祝福ではまず精霊と対等となることが求められるが、エネフィアの人間は恐れ多くて精霊と対等に接するものがいなかった。それ故カイト以外に祝福を得たものはいない。この方法では、精霊を呼び出すことさえ可能であり、精霊の持つ全ての力を行使することが出来る。まあ、この方法を行う者がおらず、精霊たちさえ知らなかった副次的効果もあったのだがそれはおいておく。尚、精霊には性差はなく、性別は自由に変更可能であるため、問題なかった。
「まあ、オレが勇者、と呼ばれるほどの戦闘能力を得られたのはあいつらのおかげだ。まぁ、その分面倒事にも巻き込まれているが……」
そう言った後、しばらくして頭を抱える公爵である。が、すぐに頭を上げて呆れた顔をすると溜め息を吐いて続けた。
「まあ、それは良い。ちなみに、アル、オレの名は?」
急に水を向けられた上に意味不明な質問をされて、ポカンとするアルだが、急いで態度を正して答える。
「はっ。カイト・マクダウェル公爵閣下であらせられます」
それに妖艶な美女も呆れながら続ける。
「では、リィルよ。当然余の正体にも気づいておろうな。……さっさと答えよ」
なぜこんなに親しげなんだ、と疑問に思う臣下一同だが、とりあえずは聞かれたことに答えるリィル。
「は。かつて魔族を統一せし魔王、統一魔帝ユスティーナ・ミストルティン様であらせられます」
「そこまでわかってるなら、いい加減に気づけ。オレたちは今日、天桜学園関係者として会っている」
そう言ってあきれ返っているカイト。ルキウスらは三人は困惑した表情で顔を見合わせるしか無い。
「今日の天桜学園の転移に巻き込まれてたのですか?ですが、閣下のご尊顔は本日の教師たちを集めた会議では見かけてはおりません。もしや、天桜学園の転移を知り、追ってこられたのですか?」
どうやらこの姿だから気づかないらしい、そう判断したティナはため息一つ吐いて、アルに問いかけた。
「アルよ、今日会った天桜学園の少年らの名前を言ってみよ」
「は。……あ」
どうやら三人共気づいたらしく、驚愕に包まれて言葉が出ない。
「やっと気づいたか」
そう言うとカイトとティナの体が光に包まれた。
お読み頂き有難う御座いました。
2016年1月11日
・誤字修正
『リィル』の『リ』がひらがなになっていた部分を修正しました。
2018年2月3日 追記
・誤字修正
『いい加減』が『いいかがん』になっていた所を修正
『リィル』がひらがなになっていた所を修正
『リィルふと』となっていた所を『リィルは、ふと』に修正
『ような色白』とすべき所が『ようなは色白』となっていた所を修正
『浮かべ』が『浮かべに』となっていた所を修正
『二人は』が『二人はは』になっていた所を修正
『でき』が『出来き』となっていた所を修正
『光』が『光り』となっていた所を修正