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第203話 悪戯

 一応、念の為。状況が状況なので当分カイトは出て来ません。

 ミナド村での初めての昼食を食べ終え、一同が再び自由行動と言う名の村の下見を行っていると、ソラへと少年――コラソンの息子のコリン――とナナミが近づいてきた。


「あ、ソラさーん!」

「んー、あ、ソラ。ナナミちゃんだよー。」


 自分たちを呼ぶ声に振り向けば二人が近づいてきたので、ソラと由利が足を止める。


「なあ、兄ちゃん!さっき父さんが登ってた見張り台にジャンプで登ってたろ!降りるときもジャンプしてたし!」

「ん?ああ、あのぐらいだと梯子使うより速いからな。」

「ソラー、危ないからやめようねー。」


 ソラはそれを聞いた由利にギリギリと脇腹を抓られる。何もソラが危ないのではない。それを見た子供たちが真似をしたら危ないのであった。

 カイトも時折同じように皐月に怒られているのだが、おそらく類は友を呼んだのだろう。面倒だからと楽をして真似られると困るのである。そうして脇腹をつねられてソラが痛みで顔をしかめる。


「ちょ!痛い!」

「わかったー?」


 にこやかに笑いながらも由利は抓る事をやめない。一方のコリンは、由利にどことなく叔母(ナナミ)の雰囲気を見出して、恐れおののいていた。少しだけナナミから離れているのはその現れだろう。


「ああ、わかったから、わかったから!」


 そう言って身を捩らせるソラを見て、由利は手を離した。最近、カイトが女性陣に尻に敷かれる様に、ソラも由利に尻に敷かれていたのだった。まあ、とは言えこの展開は誰しもがわかっていたらしく、カイト達中学時代からの仲間たちは何も思っていなかった。


「いつつ……で、それがどうしたんだ?」

「なあ、兄ちゃん。今のって都会の奴って皆できんの?」


 多少引きつつ、コリンはソラに問いかけた。


「ぼうけ……いや、俺は修行積んだからな。」


 冒険者ならこのぐらいできる、と言いそうになって由利に睨まれて言い直した。子供に危険な夢を追わせるべきではない、という考えであった。


「なあ、兄ちゃん!その修業を俺にも教えてくれ!俺、親父の後なんて継ぎたくないんだよ!冒険者になりたいんだ!」

「……ぷ。そっくりだ……」


 コリンの様子に、ソラが吹き出した。ソラの呟きに何故吹き出したのかを理解したナナミも、同じく吹き出す。


「なんだよ!笑うなよ!こっちは真剣なんだぞ!」


 自分が冒険者になるなんて無理だ、と笑われたと思ったコリンは、吹き出した二人に怒った。一方の由利は何故二人が笑ったのかわからず、きょとん、としていた。


「いや、ちょっとな……く、くくく……」


 コラソンの言った通りに、父そっくりの性格であるコリンに、思わず吹き出したのであった。


「兄ちゃんがなんで笑ってるのかはよくわかんねえけど、親父も爺ちゃんも許してくれねえんだ。」


 取り敢えず、ソラが本当に自分が冒険者になる事を笑ったわけでは無いと理解したコリンは、取り敢えず事情を説明することにした。


「そか……なあ、なんでコリンは後を継ぎたくないって思ったんだ?」


 いつもなら子供の夢と無条件に応援したであろうソラが、理由を問い返した事に由利が驚いた。


「え?……だって、偉そうじゃん。昔はそうじゃなかったんだけど、最近は親父も人前だとなんか、たいめん?だのいげん?だのってよくわかんねえの気にし始めてよ……今じゃ昔からの友人だってケータの父ちゃんとかにもちょっと偉そうなんだ。それで何時かは爺ちゃんみたいに偉そうになっちまうんじゃ無いか、って不安なんだよ。で、俺も後継いだらそうなっちまうのかなー、って思ったら怖いんだ。ケータやミリン、それにオーリとかにまで偉そうにしちまって、仲悪くなったらどうしようって。でも、兄ちゃんみたいな冒険者ならそんなん無いんだろ?」

「……どうだろうな。俺のダチなんかは結構偉そうだぞ?」


 ソラは本来の性格が傲岸不遜であった親友を思い出し、そう言って笑う。由利もソラが誰を思い出したのかに思い至り、同じく傲岸不遜なティナを思い出して同じく笑う。


「ええー、でも兄ちゃんなんかは偉そうじゃないだろ?俺もそんな風になりたいんだ。」

「まあ、聞けって。そいつはお前の父ちゃんや爺ちゃんと同じでギルドのトップでな?結構やりたい放題やってる奴なんだけど……」


 本当は貴族と言って説明しようと思ったのだが、それではコリンに偉そうでも当たり前だと受け止められかねないので、敢えてギルドマスターとして説明した。


「兄ちゃんよくそんなのと友達やれるな。俺ならすぐに喧嘩してるぞ。」

「まあ、俺も昔は結構そいつと喧嘩したりしてたんだけど……今はしてないな。まあ、そこはいいんだ。」


 そう言って自分達の過去を思い出し、ソラは苦笑する。思い返せば最後にカイトと――口喧嘩を含めても――最後に喧嘩をしたのは中学2年の最後、彼の今までのグレていた自分の最後のけじめとして、である。


「偉そうなのになんで友達なのか、ってーと、偉そうだけど、なんで偉そうなのか知ってるからな。」


 まあ、あいつのは演技じゃないんだろうけどな、そう内心では思いつつも、コリンの説得用に嘘を吐く事にした。


「なんでだよ?」

「あいつはこう言ったんだ。必要ならばやる、ってな。昔、俺達は優秀な、どんな困難でも挫けない指導者が必要だった。そして、そいつには才能が、経験があった。じゃあ、やるしか無いだろ。偉そうなのはやりたくてやってるわけじゃない。やらないといけないから、やってるって今は知ってるけどな……その時の俺達は何が起こるかわからないから怖くて、家族と会えないから辛くて、手一杯だった。だったら誰かが偉そうにして、大丈夫だから俺についてこい、って言って安心させてやるしか無いだろ?」

「……うん。」


 かつて魔物の集団が近づき、怯えていた自分たちに対して、誰より先頭に立って剣を手に取り、力強く大丈夫だ、安心しろ、と言っていたのは父や祖父である。その時を思い出したコリンは、頷くしか無かった。


「じゃあ、そうして後に着いてきた奴の為には、偉そうに振る舞って安心させてやるしかない。俺が居る限り、大丈夫だ、ってな。」

「だからって、いつも偉そうにする必要はないだろ?」

「ああ、そうだったらいいよな……でもよ、今度はどっかでそいつが苦しんでいたり、辛そうにしていたら、俺達みたいに、そいつをよく知ってる奴はいいけど、あんま知らない奴はこう思うだろ。何かとんでもない事が起きて、自分たちのリーダーでもどうにもならない、って。そうなると、どうよ?」


 その言葉に、コリンは父や祖父が自分の知らない理由で怯え、震えている所を想像する。そうしてこみ上げてきたのは、恐怖だった。


「……怖い。」


 いつもは自分たちを安心させてくれる父たちが震えているのだ。それは彼らでさえもどうにもならない事で、当たり前だが自分にはどうしようもない様に思えたのだ。それ故、恐怖しか感じなかったのだった。


「だろ?じゃあ、もう偉そうな態度をしなくていいのはどっか誰にも見られていない所か、俺達みたいにわかる奴の前だけになっちまう。しょうが無いよな。だってそうしないと皆が怖がっちまうんだから……少なくとも、俺はそれで救われた。」


 話しながら、ソラはコリンに自身を重ねる。かつて、父の成した事で一部から大いに顰蹙を買い、結果、自分がグレる要因ともなった出来事がある。その時、父は平然と、必要だからやった、どうということはない、と言ってのけたのだ。それは行き違いの結果をもたらしたが、結局は、その一言が和解のきっかけでもあった。

 父は正しいことをした、と信じていたのだ。ならば、間違いではないのだろう、と。ならば、胸を張っていける、と。それが、結局彼を元の道に戻すきっかけになったのだった。


「自分がいつもみたいに偉そうだから、皆が安心してやっていけるんだったら、しょうが無い。偉そうだって思われてもいざ、って時の為にやり通すしか無いよな。」


 諦めに、諦観に似た感情であろう。そう考えたソラは、ようやく滅多に本音で話すことの無かった父の心情の一端に触れられた気がした。彼の父は若くして総理大臣となった男である。その諦観はどの程度の物か、今のソラにはわからなかったが、話している内に少なくとも、必要であることだけは、認められた。


「……ああ。」

「だから、友達でいれるんだろ。だって、そいつが辛い時に一緒に居てやれるのは俺達だけなんだから。こればっかはそいつをあんまり知らない奴には出来ない。その代わり、俺達が辛い時にはそいつが引っ張ってってくれる。な?仲が悪くなる理由がないじゃないか。」


 そうして、いつもと異なりどこか大人びた表情で語るソラに、女性陣二人は何かを感じたらしく、沈黙を保っていた。


「……ああ。」

「一回さ、父ちゃんと話し合ってみろよ。なんか変わるかもよ?」


 そう言って最後に笑うソラ。そうして、コリンが考え込んだ隙に、立ち上がり、呟いた。


「俺も、一回ぶつかってみるかなー。」


 昔、父は自分を遠ざけていると思っていたが、よく考えればそれは自分の方であった。そして、今は殆ど理由も無く避けていた。自分より幼いコリンに話し合ってみろ、と言った手前、自分にもその覚悟が必要だろうと思ったのだ。


「……ソラ、何があったの?」


 何がこの数時間に自分の恋人に何があったのかが非常に気になった由利だが、ソラは笑うだけであった。


「ソラさんも、お兄ちゃんと同じなんだね。」

「え?どういうことー?」

「ううん。なんでもない。」


 一方、ソラの様子からソラの境遇と性質が兄とそっくりであると気付いたナナミは、大凡の想像がついたらしい。とはいえ、ソラが語らない以上は自分が出る幕ではないと思ったらしく、黙っていることにしたのであった。

 そうして奇妙な沈黙が降りて暫くすると、ふとコリンがソラに向けて再び声を上げた。少し考え込んでいた彼だったが、そこは幼い彼だ。直ぐにアドバイスを受けた通りにすることにして、悩むのをやめたのだろう。


「なあ、兄ちゃん。父ちゃんとは話し合ってみるからよ、一回なんか剣技見せてくれよ!」

「んあ?……まあ、いっか。うーん、どんなのが良い?」

「え……と、そうだなあー。なんか、派手なの……今だ!」


 コリンのその掛け声と共に、由利とナナミのスカートがめくれ上がる。二人から少しだけ後ろに立っていたソラには、二人のパンツ――由利が緑と白のストライプ、ナナミがフリルの着いた黒であった――が丸見えであった。

 始め事態が飲み込めず唖然としていた由利とナナミだが、その事態が飲み込めた瞬間、二人の顔が真っ赤に染まる。

 そして、次の瞬間には二人の後ろから二人の少年がコリンの方へと走り抜け、コリンもターンして走りだした。それに、ナナミが怒号を上げる。


「あの子たちはー!」

「ねえ、ソラ。ウチ、弓使ってもいいよね?」

「いや、おい、ヤメロ!」


 往年の性格に戻った由利に、ソラが大慌てで止めに入る。どうやらコリンぐらいの弟が一人居る由利はこういう場合はお仕置きが必要だと理解しているのだろう。彼女はいざという時に備えて背負っていた弓を手にとった。


「大丈夫、鏃は潰してあるから。」

「わ!ちょっとー!」


 そう言って由利は問答無用で弓に矢を番える。そうして問答無用に放たれた矢は、ナナミの真横を危うく通り過ぎた。そうして危うく真横を通り過ぎた矢に、ナナミが振り向く。

 しかし、その次の瞬間、狙い澄ましたかの様に、別の子供が再びスカートをめくり上げた。


「こらー!そこの二人もさっさと走って追っかけて!」


 そうして、スカートを捲られた由利とナナミ、その二人のパンツをしっかりと脳裏に焼き付けた役得なソラの三人が鬼となり、鬼ごっこが開始されたのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第203話『いたずらっ子』

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