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第202話 親子 ――息子たちの悩み――

 ソラ達がミナド村に着いて会議を終わらせたのだが、一同自由行動となった事でソラは取り敢えず外に出た。交代までまだあるので、街の中を見まわって地理等を覚えておこうというのだった。


「昼までもう少しあるよな。」


 せっかく早く着いたのだから、と村長から村の見学を許されたのでソラは一人ぶらぶらと出歩くことにした。元々好奇心旺盛な彼だ。何か理由があったわけでは無いし見るべき物があるわけでもないが、地球でも最早ほとんど存在していないこのような農村に興味があったのである。


「昼飯はなんだろなー。」


 ぼんやりと歩くソラ。由利を誘ったのだが、この村の料理に興味があったらしく、村長の娘と一緒に昼食を作っている最中であった。ソラとしてはデートと洒落込みたかった所なのだが、村長の娘――コラソンの年の離れた妹――も料理上手と聞いた時の由利の期待に満ちた目と、作られるであろう料理への期待がその欲求を上回ったのである。


「お、おっさんじゃん。何やってんのー!?」


 そうしてソラはぶらぶらしていると村の一際高い塔らしき場所に上っていたコラソンを見つけ、そちらに向かって手を振った。すると、コラソンの方もソラに気づいたらしく、手を振り返した。


「ん?ああ、ソラか……お前も登ってこいよー!」


 少し考えてコラソンはソラにここまで来る様に言う。そうして声を掛けられたので、ソラは周囲を見渡して、梯子を見つけるも、自分でジャンプした方が速いと思い直す。


「お!すっげー!いい眺めじゃん!」


 そうして着地して周囲の眺めを確認すると、その景観の良さに圧倒されるソラ。一方のコラソンは今ソラがやった芸当に圧倒されていた。


「は?」

「ん?どーしたよ、おっさん。」

「いや、お前、どんな身体能力してんだ!ここまで10メートルはあるんだぞ!」

「は?このぐらい普通じゃね?」


 普段からこの程度造作も無くやってしまう面子に囲まれているソラは、当たり前の様にやったのだが、実はそうではなかった。


「普通って……お前ランクいくらだ?」

「えーと……確かまだDだな。まあ、最近忙しくて試験受けてないけど。」


 ここ最近鍛錬こそ欠かさないようにしているものの、書類仕事に追われていたので大きな戦闘は行っていなかったソラ。由利やその他冒険部の面子にも言えることだが、自分達の実力の上昇具合が把握できていなかった。


「いや、お前どう見ても今のランクC中位ぐらいはあんぞ。それ、あの重装備でもできんのか?」

「ああ……当たり前だろ?」


 散々カイトからしごかれているので、ソラにとってその程度は造作も無いことであった。それ故にソラは気負いなく告げたのだが、それ故、コラソンは嘘がないと見て驚いた。

 尚、上への飛距離で最も高いのは、翔の25メートルである。その次が魅衣の20メートル。で、ソラは装備の重さ等から最高で15メートルと、低い部類に位置していた。まあ、それ故に何に驚かれているのか、理解できなかった。


「はぁー……やっぱ俺才能無かったのか……親父の後継ぐ気になったの正解だな。」


 自分も全力でやればこの程度は飛びあげれるだろうが、それでも息切れは必須である。それ故にコラソンは自身に才能が無かったと思ったのである。


「ん?おっさんも昔冒険者だったのか?」


 ソラに問われ、コラソンは少しだけ恥ずかしげに見張り台のヘリに頬杖をついた。ソラもそれに倣って頬杖をつく。


「まあな……まあ、恥ずかしい話なんだが、親父の後継ぐの嫌だったんだよ。」


 コラソンの言葉に嘘偽りは無さそうで、そこにソラは自身の身の上を思い出し、苦笑する。彼もまた、父親の後を継ぐのが嫌だった。


「でだ、それで習い事とか家庭教師だとか何だとかぜ~んぶすっぽかしたりしてダチん家に逃げ込んでたりしてたんだが……あるとき村に今のお前らみたいな冒険者が来てな。そいつがすごかった。まあ、今思えば何が凄いかもわかってなかったんだがな。」


 そう言って苦笑するコラソン。ソラは顰めっ面でその話を聞いていた。冒険者が来る以外、自分にそっくりであった。そんなソラの顔に外を眺めているが故に気付かずに、コラソンが続ける。


「でだ、そっから数年それがやっぱ忘れられなくて、親父と大喧嘩した日に勝手に家を飛び出して冒険者やったんだが……これがまあ、上手いことやってけてな。調子のってたんだわ。あるとき油断して大怪我。まあ、命も助かったし、冒険者始めた時からの付き合いのある治癒術者が懸命に治療してくれたお陰で傷跡こそ残ったが、後遺症もなし。油断してたにしちゃ、儲けモンだ。」


 あ、ちなみにその治癒術者が嫁さんな、そう言って笑うコラソン。それにソラはこの会話で初めて少しだけ笑った。


「で、まあ、治療されている間に色々考えてたんだが……まあ、そんで俺才能無いのかな、って言ったら嫁さんなんて応えたと思う?今更気づいたのか、だぞ。さすがにショック受けたわー。」


 今の今までこれで食べていける、そう思っていた所に大怪我、それで弱っているところに更には自分をよく知ると思っていた人物からの追い打ちである。彼の自信はズタボロだったらしい。


「今思えば、ありゃ嫁さんからの気遣いだったんだろうけどな。でも、まあ、それで治療中に色々思い出すのってやっぱ故郷の事だったんだよな。それでふと思い直してみりゃなんで親父の後継ぐのが嫌だったのか、全くわかんねえ。それでも、考えに考えて出た結論が……」


 そう言ってぼりぼりと頭を掻くコラソン。そして心底呆れ返った様な心底可笑しい様な複雑な顔をして続ける。


「理由なんて無かった。ただ単に親父の後を継ぐのが嫌ってだけだったんだよ。なんてことはねえ、ただ逃げてただけだ。で、向き合い直すことにして、親父と通信で胸襟開いて話そうとしたらまあ、親父はカンカンでな。始めは勝手に出てった事を怒ってるのかと思ったら、大怪我をして便りもよこさなかった事に怒ってやがった。こっちでなら安静に出来るだろうから、さっさと戻ってこいってよ。それで俺も身の振り方考えようと村に戻ろうとしたんだわ。」


 そう言って当時を思い出したのか、コラソンは苦笑した。


「で、嫁さんに頭下げて村に帰ろうとしたら嫁さんに妊娠告げられた。」


 親父が自分を心配していたことより、あれが一番驚いた、コラソンはそう大笑いする。


「まあ、それは置いといて……嫁さんと一緒に帰ったらまあ、なんつーか、親父も照れた様子でよく帰った、の一言だ。まあ、俺もおう、としか言えなかったんだけどな。」


 後に、ソラがこの時の事をコラソンの妻から聞けば、二人共素直じゃ無いからね、と笑っていたという。更に村長と幼馴染みというコラソンの母は、村長も昔はそうであった、と笑っていたらしい。


「でだ、そっからリハビリやりつつ暇だから親父の仕事手伝えば、これが結構大変でな。昔はただただ他人に指示しているだけだと思ってたんだが……これが冒険者よりむずい。ちょっとミスるだけで不満が出やがる……あ、今のオフレコな。今じゃ冒険者としての勇者様より、為政者としての勇者様の方が尊敬対象だ。こんなでかい土地を治めんだぞ。どんな神経してやんだか……」

「はは、俺も見てみたいな。」

 コラソンの苦笑した笑みにソラも笑って応じる。確かに、あの親友の神経なら、余程図太いのだろう。おまけに心臓は鋼鉄で出来ていそうであった。


「で、そうやって指示してっとコリンが生まれて、こっちで暮らし始めて大きくなってまあ、これが俺そっくりの性格でな。それでようやく俺が親父に反発してたかわかった。何だと思う?」


 ここでコラソンは初めてソラに問いかけた。自分が長いこと掛けて出した答えを簡単に話しては面白くないのであった。


「……わかんねえ。」


 ソラは、コラソンの問い掛けに真剣に悩む。いや、正確に言えば、ずっと悩んでいた、だ。彼は過日の学園が襲撃された時のカイトの行動がどうにも父に重なったのだ。そして、それに納得できた自分にも悩み続けていた。なぜ、仕方がないと理解できたのか、と。

 そんなソラの事情を知らないコラソンは、ソラが自分と同じ境遇である事を知らないので、単純に解らなかったと思ったらしい。


「まあ、そりゃそうか。人の上に立って指示しねえといけねえ、ってなると、どうしても威厳を出さねえといけねえんだわ。それが子供心に嫌だったんだろうよ。偉そうにして、ってな。俺もコリンが爺ちゃん偉そうで苦手、って言葉で初めて気付いた。村長つっても父親、祖父だわな。結局は身内よ。だから自分たちと同じ人である事を知っている。なのになんでそんなに偉そうなのか、ってな。今思えば必要だから、だ。必要じゃなけりゃやってられねえわ。人の上に立つなんて、どんだけ正しい事やっても恨み買うしな。おまけに偉そうにしないといけない所為で子供には反発され、良いことなし。」


 コラソンはそう言って笑う。その時、彼は初めて父が必要だからやっていると理解したのであった。そんな彼の表情にソラが少し考えこんだ。


「その時点でチェックメイト、俺の詰みだ。俺以外に跡を継げる奴が居ない時点で俺は村長を継ぐ事にした。丁度身の振り方に悩んでた事もあるしな。まあ、妹の婿にやってもらうって手もあるけどな。なんだったらお前がなるか?ウチの妹は優良物件だぞ。」

「俺、彼女居る。」


 言葉少なげに答えたソラ。自身と似た境遇のコラソンの半生に、ソラ自身も、答えが見えかかっていたのである。


「おいおい、何言ってんだ?村長なら一夫多妻でも問題ないだろ。」


 本当に嫁にだそうものなら大泣きするであろうが――事実、彼は妹が嫁に行くときには父と揃って大泣きしていた――今は100%冗談として話していた。


「ま、お前にはやらんがな。」


 当然ではあるが、会ったばかりのソラに身内を嫁がせる程、コラソンも甘くはない。なので彼は笑って告げる。


「そりゃ、ありがた……俺まだ付き合ったばっかなんだよ。」


 有難いと言おうとして、結構マジな顔で睨まれたソラ。コラソンは少し歳の離れた妹にシスコンの気が有るようであった。


「「おーい、ご飯できたよー!」」


 そうして話していると、昼食の時間になったのか、二人を見つけた由利とコラソンの妹が、大声で二人に呼び掛けるのであった。


「な?可愛いだろ?」


 そう言って由利の横に居る妹を指さすコラソン。確かに、素朴ではあるが、顔立ちは整っており、スタイルも中々良かった。率直に言って、ソラのタイプでも有る。当然だが、由利も同じ様な雰囲気で、ここからソラが素朴な家庭的な女性が好みであることがわかる。


「そりゃ、認めるけどよ……」

「だろ?」


 先ほどの顰めっ面は何処へやら、上機嫌にそう言うコラソン。見れば昼食の間に来るという見張りの交代も近づいてきたので二人は村長宅へと戻り、昼食を食べる事にしたのであった。




「お、美味え!こっちはえーっと、由利だっけ?の料理か?」

「うん、そだよー。近くで採れたっていう山菜のかき揚げ、そっちの塩をつけると、もっと美味しいよ」

「お、ホントか?……ナナミ、塩取って。」


 そう言ってコラソンは妹の横にあった塩を指さす。


「こっちも美味え!」

「あ、そっちのマリネはこっちのドレッシングをつけると美味しいですよ。」


 そう言ってナナミがドレッシングをソラに手渡す。


「お、サンキュー!お、マジだ!」


 そう言ってコラソンとソラは二人で見ている方が気持ちよくなるぐらいに食べていく。一方、作った二人は、それを見て大満足であった。


「お兄ちゃんの食べ方も気持ちいいけど、ソラさんも気持ちよくなる食べっぷりねー。」

「あ、ナナミちゃんもそう思うー?」

「ええ、本当に気持ちよくなるぐらい。」


 料理最中に仲良くなったのか、二人はソラとコラソンを見て、気分よさ気に話し合っていた。そうして、二人に触発されたのか、全員がお腹いっぱい、昼食を楽しむのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第202話『悪戯』


  2015年10月20日

・誤字修正

誤『何か理由があったわけでも~地球でも最早殆ど惣菜していない~』

正『何か理由があったわけでも~地球でも最早殆ど存在していない~』

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