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第195話 鍛冶

 明日から新章突入です。

 桔梗と撫子にひと通り建物内部を案内し、二人の仕事場である鍛冶場へとやってきたカイトら一同。時間も限られているので、即座に行動を開始した。


「ここが鍛冶場になる……が、今はまだ何も用意していない。必要な物は言ってくれ。用意する。」

「中を確認しても?」

「ああ、二人の自由にしてくれ。問題があれば此方で改修しよう。ソラ、翔、悪いが二人について荷物を持ってあげてくれ。オレは他の道具の確認をする。」

「おけ。」

「あいよ。」


 カイトの許可を受け、二人は鍛冶場を確認し始めた。ソラや瞬が二人について荷物を預かる。


「鍛冶場そのものは問題無いですね……」

「炉の方は……火を入れてみます。」


 そう言って撫子が炉に火を入れる。撫子について居た翔が興味深げにそれを見ていた。鍛冶をするつもりは無いが、どうやってやるのかには興味があったのである。


「御館様、建物全体への影響を精査していただけますか?」

「ああ。」


 撫子に頼まれたカイトは魔術で建物全体への影響を確認する。


「煙の流路は……問題無し。ヒビ等は入っていないようだな。」


 煙の流れを魔術で追い、どこにも漏れが発生していないことを確認する。幸いにして使い方は丁寧で、殆ど使われていなかった様だ。その御蔭で破損する理由が無かったのだろう。


「そうですか。ありがとうござます。」

「素材の残りは……鉄鉱石等一般的な物が幾つか、だけみたい。多くはやっぱり持ちだされてるのでしょうね。」

「そう……でしたら、買いに行かないと行けないかしら。」

「そうね。玄翁なんかの道具一式は持ってきているからいいけど……材料だけはどうにもならないわ。」


 双子はお互いに確認した内容を報告しあう。そうして、材料は購入の必要ありと結論付け、カイトに願い出た。


「御館様、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ。必要な物は此方で購入すると言った手前、問題は無い。何が必要だ?」

「できれば、ご一緒して頂ければ。店などを把握しておきたいので。」

「ああ、問題はない。今日中に買いに行くか?」

「はい、お願いします。」

「わかった。椿、予定は大丈夫か?」

「……はい。この後のご予定にはまだ空きがあります。その時間でしたら、問題ありません。」


 一週間予定を空けておいたお陰で、カイトの行動にはかなりの余裕があったのだ。それ故、自由に行動出来たのである。


「そうか。では、二人はそれ以外に必要なものがないか確認を進めてくれ……ん?」


 ふと椿の手帳に書き込まれたカイトのスケジュールを覗き見たカイト。許可を得ていないのであまり褒められた物ではないが、自らの予定であるので問題は無いはずである。


「……このデートのご予定ってなんだ?」


 その予定の後ろにはクズハ、桜やその他女性面子の名前が書き込まれていた。予定を見れば、ほぼ毎日である。


「え?……ああ、クズハ様、桜様がどうしても、と……」

「……駄目ですか?」


 桜に上目遣いで願い出られたカイト。断れなかった。


「別にいいんだが……オレに一声掛けてくれればそれで済む話なんじゃ……」


 予定さえなければカイトとて女性からの誘いを断るつもりは無い。その予定が過密なだけではある。


「それしようとしたんだけどねー……」

「あ、あははは……」


 ユリィの言葉に女性面子が苦笑する。それに、カイトが首を傾げた。


「ん?」

「そもそもユリィさんが有利過ぎますわ。」

「殆どいつも一緒って卑怯だと思うの。」


 瑞樹と魅衣が不満気に告げる。たまに時間が空けばユリィがカイトを連れ出すか、勝手に何処かへ出かけるので捕まらないのであった。それは誰も予定を入れられないだろう。


「ええー、でもきちんと二人の時間は作ってあげてるじゃん。デートの時とかはきちんと別の所で待機してるしー。」


 ユリィは少し拗ねた様に二人に反論する。尚、ユリィは、別の所、と言うがカイトの監視ができる所である。尾行しているだけであった。とはいえ、基本ちょっかいを出すわけではないので気づいているカイトも問題視はしていない。時々クズハや桜も一緒に居るのはご愛嬌であった。


「基本は業務時間外ですので、どこかへお泊りされる場合は一声掛けていただけますか?」

「いや、しないぞ?」

「しないんですか?」


 椿にきょとん、とされるカイト。まだ配属されてそんなに時間が経過していないはずの椿に散々な評価を貰ったカイトは少しだけ落ち込んだ。まあ、事実なのだが。


「……まあ、お泊りは別として。デートの予定までスケジュール組まれるか。」

「そういうことでお雇いになられたのではないのですか?」


 女性関連の多さからてっきりデート等の時間を空けるものだと理解していた椿。首を傾げていた。


「違うからな?」


 そうしてカイトが誤解――と思っているのは本人だけ――を解いている間に、桔梗と撫子は鍛冶場の確認を終えた。


「御館様。ひと通り確認を終えました。」


 同時にそう言い、桔梗がリストを手渡した。そうしてカイトが受け取ったのを見て、カイトに告げる。


「此方が修繕が必要と思われるリストになります。」

「ああ……やはり鉄鉱石と玉鋼はいるか。」

「はい。これでも村正一門ですので。」

「どういうことなんだ?」


 村正一門だから、という言い方に瞬が興味を覚える。その言葉にカイトと桔梗、撫子が目を見合わせ、双子が解説することになった。


「鍛冶をするのに鉱物資源が必要となるのはご存じですか?」

「まあ、当たり前だな。」


 二人の言葉に、瞬が頷く。金属を鍛える以上、鉄鉱石などの金属を含んだ鉱石や玉鋼と言った金属そのものは必要であることは子供でも理解できる。


「それで各流派で得意とする金属が異なっています。例えば、エルフのアルフィルヘルム一門でしたら魔法銀(ミスリル)、ドワーフの土の盟友でしたら鉄や銅系統を利用した合金、と言った具合に得意な金属があります。その多くがその一門が見つけ出した、もしくは関わりの深い金属ですね。ここまではよろしいでしょうか?」

「ああ。理解した。」


 瞬は頷いたが、念の為に二人は話を聞いていた瞬以外の面子にも問いかける。そうして、他の面々も頷いたのを見て、続ける事にした。そうして取り出したのは、一塊の金属、所謂玉鋼と呼ばれる金属だった。


「はい。それで、我が村正一門が得意とするのはこの玉鋼。鉄鉱石から特殊な製法で創りだした鋼です。」

「じゃあ、それ以外は使えないのか?」

「いえ、そう言う訳ではありません。ただこれで作る道具の作成に秀でる、というだけです。お祖父様……初代村正や二代村正ならば全ての金属で一流の刀を打つ事が出来ます。とはいえ、私達ですとさすがにそこまでの腕はありませんので、魔結晶(オリハルコン)止まり、というところです。」


 その言葉にカイトとティナが少しだけ驚く。魔結晶(オリハルコン)止まりというが、その魔結晶(オリハルコン)でも十分に凄いのだ。十分に賞賛に値した。


「ほう、もう魔結晶(オリハルコン)まで加工できるか。」

「はい。」


 二人は一切の虚飾無く、ティナの言葉に頷いた。それを見て取ったティナは満足気に頷いた。


「なかなかの腕前じゃ。」


 短命のヒトの身なれば魔結晶(オリハルコン)どころか単なる玉鋼や金、銀という普通の金属を極める所で人生が終わる者も少なくはない。この点は、長寿の種族の利点と言えた。とはいえ、それを勘案に入れても、50年で魔結晶(オリハルコン)の加工まで辿りつけているのは筋が良いと言えた。


「ありがとうございます。」

「おっと、話の腰を折ったの。続けてくれ。」

「はい……それで、玉鋼が我が一門の得意とする所なのですが……これはタタラ等を使用して作る必要がありますので、購入する必要があるのです。」

「カイトとかティナちゃんなら作れんじゃね?」

「まあ、出来なくはない。だが……そんな何百キロと作るのは手間だからな。」


 ソラの言葉を、カイトも否定しない。だが、大量生産となると別だ。確かに、鉱物から特定の素材だけを取り出す魔術が無いわけではない。当然それについては二人も習得している。

 しかし、さすがに膨大な魔力量を誇るカイトやティナと言えど、数百キロにもなる鉱石の精製を行うには手間がかかるし、そもそも二人にやらせる事でもなかった。


「余は24時間体制でゴーレム達に精製をやらせておるからの。その程度の下級鉱石の精製を自らの手で、めんどくさすぎて滅多にせんわ。」

「まあ、それもそうか。」


 一応二人はこの世界でも有数の高位の地位に位置している。特にティナがそんな事をやっている想像が出来なかった。なのでソラもそんなティナの言葉に苦笑しつつも納得した。


「まあ、とは言え……足りなくなれば余の方で融通しよう。」

「お願いします。」


 ティナの方にも備蓄はあるが、大量に融通できるほど有しているわけではない。ティナが大量に消費するからでもある。なのでそれを受けて、桔梗と撫子は頭を下げた。そうして、それを受けてカイトが提案した。


「とりあえず購入口は公爵家の紹介状があれば大抵の所が上質な鉱石を売ってくれるだろう。クズハあたりに紹介状を書かせるから、後で取りに行こう。」

「お願いします。では、続けます。玉鋼で作られる武器は有名な所では刀です。我が一門ではすでに数百年以上刀匠として名を知らしめていますので、刀では我が一門が世界一を自負しております。」

「海棠の爺さんは武器全てで世界一を豪語してるがな。」

「お祖父様は特別です。あの方の作られる武器は全て一流の戦士にのみ、提供されています。対して父上の武器は実用性を伴いながら美しいとエンテシア皇国皇帝陛下から、果ては異大陸からヴァルタード帝国の帝国貴族まで多くの上流階級の方に認められ、多くの貴族の方々が買い求められています。」

「……ヴァルタードってどこ?」


 ヒソヒソ声でソラがカイトに尋ねる。カイトは報告書に上がっていた知識を思い出しながら、説明する。


「双子大陸の片方イオシスにある帝国だ。建国は300年前。かつての大戦を切っ掛けに幾つかの国が婚姻などで結びついて興った国だったんだが……どうやら今の帝王は若いがかなりやり手でな。」


 共通の敵から纏るため婚姻関係などで結びついた国である。当然共通の敵を失ったことで瓦解するかと思われたのだが、どうやら瓦解しそうになる度に、辣腕な帝王が現れ、瓦解を防いだのであった。


「今は双子大陸の片方のほぼ全てを手中に治める大帝国にまで巨大化させている。しかも、その影響力の行使の仕方がまた見事でな。武力を背景とした力技から経済協力を利用した搦め手、婚姻関係を利用した冊封国化など……支配領では皇国ととんとんだが、実質的に影響の及ぶ面積は皇国を上回るだろう。今代の治世は安定しているらしいな。ティアが見事と褒めそやしていた。輸出入だとウチのお得意様の一つだが……贔屓目なしでもオレもそう思う。」


 カイトもティア同様にかの帝国の帝王の手腕を賞賛する。ちなみに皇国も同じように多くの国と婚姻関係や経済協力を行っているので他大陸にもそれなりに影響力を行使できるが、なにより隣国との冷戦状態が響いていた。それ故に影響力では劣るのである。


「武力はどの程度だ?」


 経済状況は察するに余りある。カイトが治世も見事と評したのだ。経済状況も悪くはないのだろう。それ故、ソラが武力について問い掛けた。


「今飛空艇を有している国はエンテシア皇国とその庇護下にある国、かの帝国とそれに連なる諸国、後は千年王国等と少数の国家に限られる。そこから技術水準は推して知るべしだな。その中で大規模な飛空艇団を有しているのは、ウチのとこと帝国、千年王国だけだな。それも数で言えばウチが最下位だ。」


 カイトが少し苦笑気味に告げる。とは言え、これにはきちんと理由がある。それは設計思想の差だった。皇国がティナに端を発する量より質なのに対して、ティナという質を確保出来ない王国と帝国は数で補う事にしたのであった。


「まあ、皇国側は飛空艇発祥の国として性能が高いから、戦えば互角だろう。対帝国で戦力比は1対3。対王国で1対5。最新鋭ともなればそれを更に上回る。ああ、高いと言っても当然性能はウチが圧倒しているが。汎用機でも低く見積もっても皇国の平均から5世代ぐらいは先を行くだろう。ティナの秘蔵の作ともなると、1隻で戦にならんぞ?」


 自信満々に不敵な笑みを浮かべてカイトはそう豪語する。ティナの腕前をそれだけ信頼しているのであった。

 尚、密かにそれを聞いていたティナがかなり嬉しそうにしていた。それ以前にカイトとティナが相手ではどこの国も戦闘にならないのだが。


「俺達に関係は?」

「今のところは、無い。」


 カイトはあえて今のところ、と強調する。


「……今のところ、ってことは、可能性あるのか?」

「今度の大陸間会議次第だな。」


 カイトの持つ情報網に引っかかっているスパイ情報の中には、当然他大陸のスパイもいる。その中で最も多いのは、かの大帝国からか、古より続く王国のスパイであった。カイトやティナを含める公爵家上層部はヴェルタード帝国が天桜学園に興味があることは確実視していた。


「天桜学園は技術的には圧倒的に先を行く宝箱だ。その処遇は当然話し合われる事になるだろうな。」

「……俺達が行く必要は?」


 そう言ってソラが更に突っ込んで質問する。最近、ソラが広く情勢に興味を持ってくれて嬉しいカイトであった。主に自分の仕事が楽になるので。


「当たり前にある。何人か、については情勢次第か。少なくとも上層部は全員覚悟する必要があるな。」

「ふーん。サンキュ。」


 そう言って記憶の片隅に留めるソラ。とりあえずは疑問が解消されたので、それ以上の質問はなかった。


「ああ。気にするな。」


 そうして、カイトも説明を終えた。その後、桔梗と撫子も説明を終え、全員で材料の購入に出かけたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第196話『ダンジョン』

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