第12話 襲撃 アルフォンスSide
隊長格二人がいなくなった事により一気に騒然とした陣地内を学校の屋上から眺める人物が一人。黒いローブの人物である。その人物はフードをおろし、顔につけていた穴の開いていない真っ白な仮面を外す。そこに現れたのは、蒼眼蒼髪、精悍な顔つきの青年だった。だが精悍な顔つきも今は不快感で歪んでいた。
「カッコつけてこの仮面つけたけど、息の出て行く先がなくて蒸れる……」
せめて鼻の部分だけでも穴を開けるべきだったか、と反省する青年であるがその目には喜色が浮かんでいる。
「リィルさんは<<炎武>>を使える、と。だが、まだまだだな、おい。」
そう言ってリィルの採点を行っている青年だが、採点を終わらせて再び喜色を浮かべる。
「最後はアルだが、一応は公爵軍最強とかいってたな。……さっきの二人みたいに情けない戦い方はしてくれるなよ?」
ニィッと精悍な顔を歪め、仮面を着けてフードをかぶり消失するのであった。
ルキウスとリィルが消失したことによって混乱する陣中では、幹部たちが集まり騒然としていた。そこには当然アルフォンスの姿もあった。
「兄さんも姉さんもいなくなった、と。これが普通なら逢引の一つも疑うんだろうけど……姉さんは堅物、兄さんは奥さんがいるしねぇ。」
二人の性格を考えればそれがありえない、とアルでなくても容易に判断できる。もし逢引であったとしてもあの二人のこと、確実に誰かに言伝を頼んでいるはずである。
「とりあえず、この一件は天桜学園側には伏せる。表向きは何もなかったかのように振る舞え。」
アルはそう部下に命じて思考に沈む。
(二人共公爵軍では最強クラスの使い手。そうやすやすと負けるとは思わないけど……。姉さんは皇国近衛兵団特殊部隊の戦乙女戦団のトップが直々にスカウトに来るぐらいだし、負けるはずはない。)
実はすでに敗北しているのであるが、今のアルにそれを知るすべはない。思考に沈んでいるアルに幹部の一人が質問する。
「奥様へは?」
「知らせておいて。最悪の場合は奥様に動いていただかないといけない。」
そう言って伝令を頼むが、それを聞いていた幹部たちに動揺が走る。
「奥様に動いて頂くだと……。」
「敵は龍族以上の可能性も……」
と、一気にざわめきだす。それを見たアルは苦笑して制止した。
「いや、それは最悪の場合だよ。さすがに公爵軍最強たる我らで対処出来ない存在とは思えないけど、今は守るべき存在を持つ身、最悪に備えないとね。」
アルはそう言っておくが心中では別の考えを行っていた。
(もし兄さんたちが負けるほどの存在なら、僕が単騎で時間を稼いで学園生を逃さないといけない。他の隊員は僕の全力についてこれないから、学園生を逃がすことに徹させたほうがいいかな。あとは時間を稼いでいる間に奥様が来てくれるのを待つだけか。)
既に勝てない可能性を考えている。そうして思考しているうちに何故か嫌な気配がして目線を上げると、アルは声を上げた。
「総員、戦闘態勢!」
そう言って自らも武装を一気に装着する。目の前の扉の前には黒衣の男がいたのだ。アルの声に男に気付いたある幹部が誰何する。
「誰だ!」
「この状況で一切の来意もなく来て、兄さんたちの件に関係がない、とは言わないでよ?」
アルがそう言うや襲撃者は一気に身に纏う魔力の濃度を上げて周囲に撒き散らす。
どうやら戦闘の意思あり、と決定し幹部たちが一斉に襲撃者に攻撃を仕掛けようとするも、その瞬間、襲撃者は更に周囲へ撒き散らす魔力の濃度を上げる。すると、どさっ、という音とともにアル以外の幹部たちが一斉に崩れ落ちる。周囲の魔力の濃度が自らの耐え切れる濃度を超えたため、意識を失ったのだ。
「これは……兄さん達、いや、僕より強い。」
それも圧倒的に。そう考えたアルであるが、戦意が萎えることはない。それどころかどこか楽しそうにしている。
「で、どういうつもりなのかな?」
そう問うと襲撃者は右手に持った槍を構えて一気に近づいてきた。
「問答無用、って訳か。いいよ、どこまでやれるかわからないけど、僕も引けないんだ!」
自らの後ろには無力な者達がいる、騎士として自らに課しているアルに最後の一線での撤退という文字はない。
なんとか襲撃者の突きを回避すると、槍は壁を破壊し外への道を作る。襲撃者は狭い室内で槍を振るうことはなく、そのまま外へ出て振り返り、同じく外へ出てきたアルの攻撃を躱す。
(さて、どうしたものかな。このまま戦っても敗色濃厚。相手の装備は槍。こっちは剣と盾。リーチは相手のほうが上。相手は飛翔機を持っている可能性はない。だったら!)
アルはそう考えて身につけた魔道鎧の飛翔機を使用し、空へと飛び上がった。普通に考えれば此方の攻撃も届かないが、彼には手段があった。
「残波!」
アルはそう口決を叫ぶと同時に、片手剣を振るい魔力を纏わせた斬撃を放つ。しかし、襲撃者は左腕を前に突き出し手のひらから青白い光を放ち相殺する。
(ただの魔力放出が武器を使用した技と同じ威力って……どんな化け物なんだ。)
魔力は指向性のないものであるが、技はその魔力に指向性を持たせ、収束させたものである。
それに対し、魔力放出はただ魔力を放出したのものだ。それだけで収縮させた力をかき消すなど、かなりの力量差がないと出来ないのである。
しかし、相手はそれをやってのけた。普通ならばその時点で戦意を喪失してもよいものだがアルは嬉しそうに喜んでいた。
(奥様以外にもまだこんなに強い人がいるんだ……)
若年であれば天竜さえも単騎で討伐が可能、現状クズハやカイトの旧臣達以外に公爵領内でまともに練習相手になれる相手さえいない状況のアルであるが、それゆえに若干飢えていたのだ。
「行くよ!十字残波!時雨!」
一振りで十字に斬撃を生み出し、更にもう一振りで斬撃を大量に生み出したアルだが、襲撃者は今度も魔力放出で防ぐ気らしく先と同じように腕を突き出している。
(甘い!)
アルは斬撃を囮として剣に今までの中で最大の魔力を収縮させる。しかし技を発動する直前に驚愕に包まれた。
(いない!)
魔力放出による閃光を逆に目眩ましとされ、襲撃者を見失う。地上にはどこにもいない。
次の一瞬、左後ろから魔力を感じ、とっさに左腕に装着した盾を<<巨大盾>>で巨大化して一気に振りぬく。どうやら間に合ったらしく、槍を突き出そうとしていた襲撃者は空を飛んだまま、後ろへ下がった。
(今度は飛空術。まぁ、彼……なのかな?ほどの実力があったら余裕なんだろうけど……。)
魔道鎧用に飛翔機が開発されたことからもわかるように、飛空術は繊細で、2つ以上の魔術や武芸を同時に使用する戦闘中の常時使用はかなりの高難易度となる。
(さて、どうしようか。空も安全じゃない。地上も同じ。でも、いかに魔力量が高くても飛翔機もなしに飛空術が何分も……いや、これは希望的観測か。)
そう考える一瞬を隙と捉えた襲撃者は一気に槍を突き出してくる。それを回避しつつ剣と盾、更に体術を交えて反撃するアルだが、勝ち目は薄そうである。しかし諦めずに一瞬の隙を狙うため、魔力をゆっくりと蓄積させるが、襲撃者は一切隙を見せない。しかし、何故かある一瞬襲撃者が停止する。
(何があったか知らないけど!)
そう考え一気に攻撃を仕掛けようとした一瞬、襲撃者の武器が一瞬にして自らと同じ剣と盾となり盾で防がれる。
(な!異空間に格納しているんじゃなかったのか!)
アルは武器の持ち替えを自分たちと同じく、異空間に複数の武器を収納しているのだと思っていたのだが、違ったらしい。
とは言え、驚きはあるが、アルは襲撃者の隙を逃すわけにはいかず、そのまま強撃を加えた。襲撃者は攻撃の威力は受け流したが、何故か速度は受け入れて一気に地面へ激突した。
地面との衝突の衝撃で土埃が舞うが、次の瞬間ごうっ、という音と共に、紫電をまとった槍が土埃の中から現れ襲撃者の姿を露わにする。
(まずい!)
槍に宿る魔力から、アルは直撃すれば只ではすまない事を悟る。そしてアルはあらん限りに魔力を盾に込めて<<巨大盾>>を使用し、盾の曲面を利用し、槍の軌道を大きく逸し、受け流す。受け流すことには成功したものの、魔力はごっそりと持って行かれてしまった。
この威力を何度も受け流せない、そう判断したアルは一気に近づこうとするも、次の瞬間ドンッと背後に衝撃を感じ一気に地上へと墜落する。
「がはっ!」
なんとか着地の瞬間体勢を立て直し、顔を上げて正面を向くとそこには見慣れた二人が居た。
「どうやらあなたもここへ連れて来られましたか。」
「その様子だと、お前も負けたか。」
それはやはり、ルキウスとリィルだった。そうして、アルの敗北も決定したのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
2016年6月2日 追記
・修正
『武器』のルビを一品物としていた所について、ルビが正しくなっていなかったのを修正しました。
2018年2月3日 追記
・修正
『身にまとっていたフード』という一文が明らかに可怪しいので修正。フードはかぶる物ですね。
一文に『アル』が二つはいっていた所を修正
『が』が『がが』と重なっていた所を修正