第186話 暁
ソラと由利の初デートと、カイトとティーネの名目お見合いから数日後。ようやく中津国側との折衝が終了し、渡航することになった。尚、その間カイトは桜、瑞樹、魅衣達のご機嫌取りに奔走することとなった事は言うまでもない。
「じゃあ、行ってくるが、何かあるか?」
そう言ってカイトは公爵邸の地下にある、秘密ドックに格納された飛空艇の前に立った。カイトの一人旅ということで、姿は元の大人状態である。まあ、安易に昔の姿を取っても気付かれず揉め事の原因にもなりかねないので、妥当な判断だった。
尚、今回使用する飛空艇は個人用の小さな物である。個人用とは言え、ティナ謹製の飛空艇だ。内部にはキッチンやトイレ、風呂などの生活に必要なものは揃ってある。ちなみに、見送りはクズハとユリィ、椿、そして冒険部からティナ、魅衣だ。
「はい。桔梗と撫子によろしくお伝え下さい。」
「あ、一応竜胆にもよろしく言っておいて。」
「そうじゃ、爺さまにこれを届けておいてくれ。燈火にはこっちを頼む。」
「ああ……酒とえらく軽いな……香か?」
順にクズハ、ユリィ、ティナだ。そうしてティナから荷物を受け取ったカイトだが、ティナに渡された包は一つが長細い箱が入っており、もう一つはとても小さく、軽いものであった。中からいい匂いがしていたので、カイトは燈火が好む香であると判断する。それに気付いたのを見て、ティナが頷いてそれを認めた。
「うむ。あ奴の好んでおった香じゃ。偶然手に入ったのでな。土産には良かろう。」
燈火とティナは性質が似ているからなのか仲が良く、時々この様に贈り物をしあっていた。まあ二人が一緒に居ると悪巧みが捗りすぎてカイト――とその標的達――としては頭の痛い事であった。
「あいよ。魅衣、後の手筈は頼む。椿、来てそうそう悪いが冒険部の手助けをしてくれ。連絡用に一応分身体は公爵邸に置いてあるが……何かあったらそっちに連絡してくれ。」
「ええ。帰ったらみんなにも伝えるわ。」
見送りに来ていた魅衣に言付け、カイトは小さな蒼い小鳥を椿の肩に乗せる。
「こいつは念の為の使い魔だ。オレの意識とリンクさせてある。最悪の場合はコイツに魔力を通せ。少しの間だけ、オレが援護できるからな。」
簡易的な身体として、行動が可能となる使い魔である。単独で活動している時にソラ達の観察を見守る使い魔より、更に高度なものであった。
実は同じ物を地球の実家に配置している。そちらの方は擬似的だがカイトの人格をインプットしている。なにげに椿に渡した使い魔よりも高度な物で、カイトとしては切り札の一つに近かった。
「分かりました。」
そう言って椿が小鳥を撫でる。撫でられた小鳥は、気持ちよさそうに、椿の指に寄り添った。まあ、そんな高度な使い魔だが普段は人懐っこいだけの小鳥なので、基本無害だった。
「じゃ、ちょっと行ってくる。」
「お土産よろしくねー。」
「いいのがあればなー。」
そう言って手を振るユリィに見送られ、カイトは飛空艇に乗り込む。ティナ作の新作なので、大凡3時間足らずで、燈火の統治領に到達する予定であった。ちなみに、皇国で貴族が有する一般的な飛空艇だと、一日がかりの距離なので、その速さはとんでもないものであった。
「ここらへんでいっかなー。」
それから三時間後。飛空艇に搭載された地図を見ながらカイトがぼんやりと呟いた。現在地は中津国の首都から少し離れた場所の上空100メートルの所で、あまり見られたくない飛空艇を下りるには丁度良い場所だった。そうして、カイトは飛空艇から飛び降りる。そうして少し大きめの異空間を創り出し、飛空艇はそちらに格納する。
「さて……この眺めはあまり変わんないな。」
そう言って空から燈火の治める街を一望する。まあ、本来は仁龍が治めているのだが、治世はやらないので実質燈火が治めているのである。
「……やっぱ寝てやがる。」
ふと近くの山にある湖を覗きこむと、そこではいつも通り寝ている仁龍を発見できた。行くから、と連絡しても寝ているあたり、大胆不敵の存在と言える。まあ、公爵より――と言うか一国の王様より――も偉いので寝ていても誰も文句は言わないだろうが。
「さて、燈火は……あれだったな。」
そう言ってカイトは、街の中心部に位置する一際高めの建物を目指して降下した。そうして降下をし始めた途中、カイトを遮る影が2つ現れた。彼らは鎧兜で武装しており、片方は槍をカイトに突きつけ、もう片方は油断なく腰に佩びた刀に手を掛けていた。
「待たれよ!ここは古龍が一人、仁龍様が治める中津国が首都<<暁>>である!如何な御用か!」
どうやら口ぶりと行動から、二人は街の警吏らしい。何時でも戦闘可能な、臨戦態勢を取っていた。しかも、単なる警吏では無く、かなり高位の腕前を持っていた。カイトが自分たちと同じく飛翔機無しで空を翔ぶ高位の戦士であると判断したらしく、かなりの実力者を差し向けたのだろう。
「ほう、飛翔機無しか。なかなかの腕前と見えるが……」
カイトが動きを油断なく観察しながら呟く。カイトの見立てでは少なくとも、アルよりも実力は上である。最近強敵と呼べる強敵がティナやクズハ、ユリィの三人という生活を送るカイトはほんの少しだけ、戦いたいという気持ちが鎌首をもたげるが、さすがにそんなことはしない。そもそもで来訪は告げているのだ。変な気まぐれで揉め事を起こすつもりは無かった。なので、カイトは声を張り上げた。
「急な来訪、失礼する!既に連絡が行っているはずだが、マクダウェル家の者だ!名はカイト・アマネ!燈火殿からも入国の許可証を頂いている!」
そう言うと、カイト懐から燈火から貰った無期限の入国許可証を提示する。かつて燈火から貰った物だが、本人の言では今も有効のはずであった。
警護兵は油断なく近づいて許可証を確認する。そうして許可証に書かれた紋様が本物でそれが最上位の入国許可証であることに気づくと、居住まいを正した。この許可証が与えられた者は数少なく、その誰もが中津国にとって重要人物であったのだ。
「申し訳ない。少々待たれよ。」
警吏の一人が燈火の居る庁舎へと連絡を送る。その間、もう一人はカイトの行動を監視していた。なお、さすがに重要人物かもしれない相手に武器を向けたままでは居られないので、槍は鞘に収め、刀からは手を離した。
「……わかりました。申し訳ありません。只今確認が取れました。ご案内致します。」
確認がとれた警護兵はようやくカイトに向けていた敵意を解いて、敬礼した。それにカイトも警戒を解いて頷く。
「いや、巡回ご苦労。」
「ありがとうございます。では、此方です。」
カイトはそのまま、警護の兵士に連れられて、燈火の居る庁舎へと、進むのであった。
「ほれ、さっさとせんか。時は金なり、一分一秒は安うないぞ?」
警吏の兵士に引き継いだ職員に案内され、カイトは燈火が普段執務を執り行う執務室の前へとやって来た。そうして部屋の前に立てば、そんな燈火の声が部屋から聞こえてくる。
「ここが燈火様がいらっしゃる執務室になっております。」
「ああ、知っている。これでも古い付き合いだ。」
「そうでしたか。では、私はこれで。」
主の知り合いにこんな人物が居たかな、そう頭を傾げつつ、カイトを案内した職員は立ち去る。後に聞いた話だと、この職員は在職200年を超える古株であった。だが、カイトが去ったのは300年も昔だ。知らないのも無理は無い。職員が立ち去ったのを見たカイトは、扉をノックする。
「カイトだ。燈火、入るぞー。」
「開いておるぞ。」
返事を聞いたカイトは、扉を開けて部屋へと入った。するとそこには何人もの文官たちを従え、自分の執務机に向かう燈火の姿があった。
「おお、カイトか。久しゅうおうてなかったの。」
カイトの姿を見た燈火が、嬉しそうに立ち上がり、カイトに近寄る。九尾の尻尾が嬉しそうに揺れていた。
「おーう。まあ、最近忙しくてな。」
近づいてきた燈火が口を近づけたのでそのままカイトはそのまま口づけし、久々の逢瀬を楽しむ。尚、この二人の関係を知らない職員達が顔を赤く染めていたのと、カイトを知る職員が目を白黒させたのは、ご愛嬌であった。
「む?なんぞ良い香がするのう。香かえ?」
「おっと、忘れる所だった。」
そう言ってカイトは懐からティナから受け取った小包を手渡す。
「ティナからだ。」
「む?」
中から良い香りがすることに気付いた燈火は、中身を確認する。
「ここ!これは良い物。さすがはティナじゃて。妾の趣味をきちんと理解しておるわ。」
「よろしくと伝えてくれ、と言伝を預かっている。」
「うむ、確かに受け取りゃ。」
そう言って燈火はご機嫌に香を机の引き出しに仕舞い込んだ。
「で、聞くまでもないが、爺は?」
「仁龍様は寝ておる。」
その言葉に、カイトを知らない職員が首をかしげるが、知っている職員は苦笑し、知らない職員は次の燈火のセリフに、戦々恐々とした。そうして疑問を浮かべるのは、だらしないものの仮にも古龍を爺呼ばわりするこの男は一体何者なのか、である。
「だーら起きろっつったのに……」
数時間前――つまり出発前――に行くと伝え、到着前にももう着くと連絡を入れたのに、この有り様である。だが、カイトもそれは織り込み済みだし、呼び出す手段も心得ている。
「あのじい様が聞くわけなかろ。大方着くと聞いてすぐに寝なおしておらぬかの。」
こここと笑う燈火。それに合せて九尾が面白そうに揺らいでいる。
「だろうな……呼びだそ。」
そう言ってカイトは念話を使用し、仁龍を呼び出した。
『おーう、爺、着いたぞー。』
『何じゃ……もう着きおったのか。儂はもう少し寝ておるから、勝手にすると……』
『土産にティナが選んだ魔族の酒と、公爵家の酒蔵の最高級品、地球の珍酒を持って来たんだが、要らなかったか。しゃーない、帰ってからティアとグライアでも呼んで飲むか。ティナのは一升瓶だからすぐ無くなるだろうな。』
『待っておれ!今すぐ向う!』
帰って来た反応に、カイトがほくそ笑む。それと同時に否や近くの湖からざぱん、という轟音が鳴り響いた。そうして現れたのは、細長の龍のだった。ティアやグライアが西洋のドラゴンの様な見た目なら、彼は東洋の龍だった。実際に鱗の色も緑色なので尚の事その印象は強かった。
尚、仁龍は既にティア達の大きさを大幅に超える全長200メートル程もなのだが、これでまだ本来の姿では無い。というのも、全古龍中最長は仁龍だ。だが、本来の姿を取れば当然だが今彼が眠っていた湖の中にとぐろを巻いて眠る事は出来ない。なので、眠る時は往々にしてこの大きさなのであった。ちなみに、最長は彼だが、横などを加えると最大はフリオニールである。
『カイト!どこじゃ!』
「おーう!ここだ、ここ!」
仁龍の姿を確認したカイトは、燈火の執務室の窓から手を振る。
「来たぞ!で、酒はどこじゃ?」
「これだ……さて、飲むか!」
「おお、おお。さすがはカイトじゃ!よくわかっておる!」
そう言って執務室で酒盛りを始める二人を寸前で燈火がハリセンで叩く。
「こんな所で酒盛りを始めんでくりゃれ。」
そう言って燈火は二人を止め、柏手を打ち、着物姿の侍従を呼び出して、命じた。
「この二人を妾の私室へと案内せい。放っておけば勝手に酒盛りを始めおるから、ツマミでも差し出してやれ。ほれ、後は妾の部屋でやるのじゃ。仁龍様、あまり羽目を外しませんよう。」
「へーい。」
「うむ。任せよ。」
仁龍は上機嫌に侍従に案内された燈火の部屋へと向かっていく。カイトはそれを現金なものだ、と苦笑しつつも、記憶を頼りに、燈火の部屋を目指すのであった。
それから暫く、二人は燈火の私室で酒盛りを行う。まあお互いに連絡を取り合っては居るので、話す事は雑談だった。
「いや、最近は忙しくてなー。禄に挨拶もできんで悪い。」
「ホントじゃて。偶には此方に顔を見せに来れば良い。」
少し済まなさそうなカイトに対して、仁龍が笑う。二人は上機嫌に酒樽から取り分け、それを手酌で空ける。
「ああ、そうだ。明日は竜胆の所行くけど、多分また飲む。」
「よし!儂が案内しよう!安心せい、道中の魔物は全て蹴散らしてやろうぞ!」
そうしてふと思い出したカイトの言葉に、仁龍が気炎を上げる。と言うか、実際に口から火が漏れでていた。カイトがそういうのも実は龍族の例に漏れず、竜胆もまた酒好きである。当然、その父である初代村正も大の酒好きであった。
ちなみに、案内を買って出た仁龍の目的は当然、その後の酒盛りである。そうして一時間程、酒盛りをしていると、仕事を切り上げた燈火がやって来た。
「おお、もうやっておるな。」
「おお、燈火よ。仕事、ご苦労であった。ほれ、駆けつけ三杯。」
「これはこれは……爺さまが手伝ってくれれば、もっとはよう終わりますがの。」
そう言って苦言を呈して置きながら、燈火は盃に注がれた酒を呷る。
「儂がやってはお主らの仕事を奪ってしまうではないか。」
「そういうことにしておきましょ。」
そうして、燈火を交えて酒盛りを再開する三人だが、ふと燈火が思い出す。
「そういえば、お主は村正殿に用であったか?」
「ああ、鍛冶師紹介して欲しくてな。」
「ついでにあの老いぼれのケツを蹴っ飛ばしてやってくりゃれ。」
「ああ?まーた、辞める辞める詐欺やっとんのか。」
「此度は中々に堪えておるようじゃ。もう百年も燃え尽きておる。」
燈火の言葉に、カイトが眉を顰めた。カイトが辞める辞める詐欺と言うように、時折初代村正は引退すると言い出しては、すぐに現役復帰するのであった。ちなみに、それを蹴飛ばすのはカイトの役目に近かった。
「嘘だろ?前なんて一日も経たずに復帰宣言しやがったじゃねえか。理由はご隠居と呼ばれたから、だぞ。当人は常に生涯現役とかのたまっているしな。」
カイトが苦い笑いを浮かべながら思い出す。ある時、初代村正が隠居する、と言ったので、入りたての弟子がご隠居と言った所、何故か激怒してその弟子の頭を金槌で叩いたのである。
ある意味、笑い話であったのだが、殴られた新入りの弟子はその後一週間寝込んだ。一方の殴った初代村正はと言うと、その後直ぐに、まだまだ現役じゃ、などと言って激怒しながら復帰したのである。
初代村正の隠居する、という言葉程信用のならない物はないというのがカイトの所感である。と言うより中津国では『爺さまのもうダメじゃと初代様の隠居するは信用出来ない』という茶化し文句があるぐらいだ。
「詳細はあ奴に聞くと良いぞえ。さすがに今回ばかりは、かなり大事じゃったからの。」
「ああ、わかった。」
釈然としないものを感じつつも、カイトは取り敢えず当人に聞く事にする。そうして、三人は夜遅くまで、酒盛りを続けたのだった。
「あー……さすがに飲み過ぎたか。」
数時間掛かりだが三人で一樽空けて、カイトがそう言う。
「むぅ、何じゃもう終わりか。」
「明日にももう一樽あるから、そっちを楽しみにしてろ。」
「しょうが無いのう……では、儂は戻る。」
そう言って仁龍は窓から飛び出し、再び龍の姿に戻ると寝ていた湖へと戻っていった。
「相変わらず寝るのは湖か……で、オレはどこで寝れば……って、そこですね。」
一応仁龍にも自分の部屋があるのだが、滅多にそこでは眠らない。そうしてカイトが寝室へと案内を頼もうとすると、燈火が自分の布団の横を叩いた。
「今宵は寝かせて貰えんかも知れんかの。」
ここ、と笑う燈火。既に服は脱いでおり、九尾の尻尾がその裸身を隠していた。ティナとは少し違う妖艶さは、様々な美女の様々な誘惑を見慣れているカイトでなければ理性を即座に蕩けさせ、獣欲のまま襲いかかった程だった。まさに男を惑わす妖女の姿であった。
「それ、オレのセリフじゃね?」
しかし、その程度はものともしないカイトには意味をなさず、ただ呆れられるだけであった。
「さて、妾を満足させれば、それで眠れるて。それとも、お主は据膳も食えぬ男かえ?」
誘惑に失敗して少女の様に少しだけ不満そうに頬を膨らませ、カイトを閨へと招く燈火。だが、カイトが一歩を踏み出す直前。二人は寒気を感じる。
「何をなさるおつもりですか、カイト殿。燈火。」
その言葉に燈火の額から冷や汗が滝の如く流れていく。どうやら冷や汗は油だったしく、油の切れたブリキのおもちゃの様に燈火がゆっくりと声のした方向を振り向く。
そこに居たのは、燈火と同じく九尾の美女だ。背丈は同じ位だが燈火よりも胸にも尻にもボリュームは無い。更に見える体毛の色は全て銀色に統一されていた。着物にしても燈火が優美な着物を着崩しているのに対して、彼女は綺麗な薄い青色の着物をきっちりと着ていた。まあ、動きやすい様になのかかなり丈が短いのはご愛嬌だろう。
総じて見れば燈火が妖艶な美女とするならば、彼女はスレンダーな刀の様な鋭さを持った美女だった。だがその美女は刀の如き鋭利な雰囲気を纏い、二人を問い詰める。
尚、燈火が冷や汗を流している様に、実は彼女が唯一頭が上がらないのが、この銀色の九尾の美女月花だった。というのも彼女は燈火の実姉で、色々と奔放な燈火に対して性格は至極真面目だったのである。まあ、今の月花はカイトの使い魔なので、常日頃燈火の監視が出来ないのが今の彼女の悩みらしいのだが。
「何をなさるおつもりですか?ナニをなさるおつもりでしたよね?燈火、貴方はあれほど性に奔放すぎると何度も言っています。ええ、何度も注意しています。取り敢えず、そこに座りなさい。」
「あ、いや、それはまあ、月花姉様……わ、妾も溜まる物は溜まりゃ」
「何か言いましたか?言いましたね?」
燈火の言葉を遮り、月花が睨みつける。睨まれた燈火は素っ裸のまま服を着ることさえ忘れ、背筋を伸ばして正座で月花に向き直る。だが、そうして燈火に掛り切りになっていたのがいけなかった。月花は暇になったカイトに後ろから腰の帯を引っ張られ、回転しながらカイトに着物が解かれる。
「きゃぁー!」
「よいではないか~、と、ほいキャッチ。」
「きゃ!何ですか、何なんですか!?あぁ、帯が!カイト殿、返して!返してください!」
「でかした!」
完全に帯を外してバランスを崩し、月花はカイトにしなだれかかる形を取る。そうしてカイトに完全にホールドされた姉を見て、燈火が喝采を上げた。カイトが止めなければ、往年の通りであれば女性関係で怒られるカイトよろしく長い時間正座で説教されるところであった。
「せっかく姉妹の再会に水を差す様で悪いんだが、オレも居るんだぞ?」
「いえ、知っています!知っていますので、離してください!と言うか弄らないで……燈火!着物を脱がさない!脱がしてはなりません!」
「くくく……姉様も妾がこの機を逃すと思うとりゃせんじゃろ?」
「きゃあー!」
月花という最高のおもちゃを見つけた二人によって弄ばれて、月花の艷を含んだ悲鳴が何があっても近寄らない様に厳命されている燈火の私室に木霊する。だが、月花の声が楽しそうだったのは気のせいでは無いだろう。そうして、滅多に無い再会を果たした姉妹と姉の主の夜は更けていくのだった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第187話『村正一門』