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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二章 異世界転移編 
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第11話 襲撃―ルキウス&リィルside―

――――転移初日の夜

 さすがに学園の誰もが疲れているのか、2つの大きさの違う月が真上に登る頃には誰かのすすり泣く声も途絶え、しん、としている。

 今学園で動いているのはグラウンドに陣地を設営したルキウスの部隊の見回りだけであった。しかし、一つの動く影が闇に紛れて、否、闇から現れる様にどこからともなく現れた。

 天桜学園には屋上に非常用の太陽光発電装置と、地下に非常用の大きな貯水槽がある。そのため屋上には通常人の出入りは不可能であるが、その屋上に出現の兆候など一切なくいきなり現れたのである。

 その容姿は目元まで隠す真っ黒なローブに包まれており、全貌が掴めない。しかも顔は真っ白な仮面で覆われており、表情も定かではない。

 その人物はルキウスの陣地を何かを探すように見渡している。そのうち目当てのものを見つけたのか、音もなく消失した。



――――陣地内のルキウスの私室

 部隊の隊長代行とあってルキウスには手狭ではあるが個人スペースが与えられている。これが平時であればルキウスの率いる部隊全員に個室が与えられることもあるのだが、今回は緊急ということで幹部たちにしか与えられていない。ルキウスは現在、その自室で公爵代行への報告書を作成していた。


「ふむ。来訪の予定はなかったはずだが?」


 いきなり現れた黒いローブを纏った人物にそういうルキウスであるが、相手は何も答えない。


「誰かは知らんが、いきなりの来訪。もてなしは出来んぞ?」


 その言葉に反応したかのように黒いローブはいきなり左手に刀を取り出して居合の構えをとった。

 さすがに驚いたルキウスであるが、日頃の訓練の賜物か即座に持ち直し自らの剣と盾を収納していた異空間――公爵軍には武具一式を格納する異空間を作り出す魔石が配られている――から呼び出した。右手には剣、左腕には盾を装着し、戦闘態勢をとるが次の瞬間に、驚きに包まれた。


「なに!」


 ルキウスはなんの兆候もなくいきなり外に転移させられ目を見開いて驚く。黒いローブが何かをした兆候はなく、転移の兆候も感じなかった。


(完全にしてやられた!一切の兆候もなく他人を転移だと!どんな高位術者(ばけもの)だ!)


 驚愕を殆ど表に出さず、彼は援軍を警戒して油断なく武器を構える。

 魔術転移には膨大な詠唱と術式、魔力を必要とする、それが現代における魔術転移の常識だった。それが一気に覆されたのである。ルキウスが驚くのも無理は無い。相手が音もなく忍び寄り、刀を構えたために無意識的に高位の魔術師であることを除外してしまっていたのだ。


「高名な魔術師であるとお見受けする。いったい如何な御用か。」


 だが相手は一切口を開こうとせず、それどころか居合の構えを解いてもいない。


(まさか、この剣士は囮で魔術師は別にいるのか?それとも……)


 そう考えるルキウスであったが、黒いローブはいきなり居合い斬りを放ってきた。


「な!」


 考え事はしていたが相手から注意は逸らしていなかったルキウス。お陰で後ろに一歩下がることで、避けることに成功する。


(速い!だが!)


 相手が戦闘を開始したことで、ルキウスは考えを中断する。彼は体勢を立て直し一気に近づいた。そして盾を巨大化させて裏拳の要領で相手にぶつけようとする。

 剣と盾を使うものにとっての基本的な技の一つ、<<巨大盾(ラージシールド)>>である。魔力で盾を巨大化させる技で、応用範囲は広く、このように巨大化させた盾を振るって相手にぶつけることも、そのまま広域の守りとしても使用することができる。

 ブンッという音と共に振るわれた盾であるが相手の姿はすでにそこにはなく、避けられてしまう。


(ちぃ!)


 今度は剣に魔力を纏わせ、盾を振るった勢いを無理矢理殺して片手剣で斬りつける。が、これも避けられてしまう。そこから更に足技と続けて攻撃を仕掛けるも、黒いローブの人物の流れるような動きですべて避けられてしまう。


「どうやら襲撃者殿は避けるしか能のない腰抜けらしい。」


 すでに納刀して構えも解いていた相手に、そう挑発してみるも相手に一切の感情は見られない。

 しかし、ルキウスが一旦動きを止めてみると、さっきの言葉に応えたのか、今度は相手から攻撃を仕掛けてきた。さっきと同じく居合い斬りから始まった攻撃だが、今度はそのまま斜めに自分の居合の軌道をなぞるように、振り下ろす斬撃を放ってくる。それを何とか避けるルキウスだが相手は攻撃の手を止めることはなくそのまま右下からの袈裟懸け、左から横一文字になぎ払う、など連続して攻撃を放ってくる。その連撃は徐々に速度を上げていく。


「がはっ」


 そして、遂には自分の全力では対応できない速度まで攻撃速度を上げられて、ついに攻撃を食らうルキウスだが、相手に殺す意思はなかったらしく刀は刃引きされていた上、魔力によって斬撃を強制的に分散してダメージを軽減させるようにされていた。

 とは言え、すぐには復帰出来そうにないらしくルキウスは肩で息をしながら膝を付いている。そうして、膝を着いた事によって黒いローブの人物の顔の全貌が見える。そして、その顔に付けられた面を見てルキウスは再度驚愕する。


「穴が開いていない、だと……。完全に遊ばれていたわけか……。」


 ルキウスは苦笑しながら、相手との圧倒的な力量差を悟る。それを聞き届けたかどうか定かではないが、襲撃者の姿がゆっくりと消えていきついには消失してしまい、後には紙が一枚残されているだけであった。


 <<10分もすればそこにお前の弟と幼馴染が来る。それまで大人しくしていろ。>>


 その紙には、そう書かれていただけであった。



 ルキウスが謎の襲撃者に敗れるより少し前から、リィルは見回りに出ていた。


(当分はここで野営ですね……。)


 彼女とて軍人である。野営については何ら問題はない。お風呂などは公爵家特有の厚遇っぷりから、一般隊員にも風呂が入れる設備を兼ね備えた野営施設を持ち合わせているので、何ら問題は無かった。

 現状を考えてそう結論するリィルであるが、ふと周囲を見渡すと何故か人気がない。


(おかしい。陣中に人の気配がないことなんてありえない。)


 陣営の各所に設置された灯りの術式を刻んだ魔石によって周囲は明るいものの、一切の人気がなくなった自分の周りに、一気に自身の警戒レベルを上昇させるリィル。


「誰かあるか!」


 凛とした声で大声を上げるリィルであるが、誰からも応答はない。ついで通信用の魔石を取り出して通信を試みる。


「此方、リィル・バーンシュタット。誰か応答を。」


 だが、通信にも応答はない。


(どうやら人払いに加えて通信妨害の術式、それに空間を歪める結界系の術ですか……。)


 リィルはさっきから歩けど歩けど同じ風景であることに気づく。そこから、どうやら結界に囚われたらしいと判断した。敵襲、と判断して自分が愛用する槍を収納している異空間から取り出し、戦闘態勢をとった。


(これだけの高等術式を使いながら一切の気配が感じられなかった。かなりの術者が相手ですか。もしかしたら、敵の目的は私を閉じ込めることで、目的は天桜学園の方かもしれません。そうだったら早めに抜けださなければ。)


 そう考えてとりあえず歪んだ空間の中心と思われる方へ向かった。そのうち、結界の中心と思われる場所へとたどり着く。


(空間を歪める系統の術式なら、どこかに結界の基点となるものがあるはず。)


 周囲を見回すリィルであるが、空間の中心には明らかにおかしい物が鎮座していた。街灯である。しかも、ご丁寧にマクダウェル公爵家の公都マクスウェルに300年前からあるものと同じである。


「これは……」


 どう考えても罠としか思えない。が、他に怪しい物はない。そう考えて、彼女は意を決する。


「ふっ!」


 そうして、自らの槍で街灯を一突した。するとガラスの割れた音がして周囲の様子が一変し、今度は周囲に何もない草原が出現した。

 新たに現れた空間を見回し誰も居ないことを確認し、とりあえず動いてみる。さっきと同じく空間を歪める類の結界らしく、すぐに元いた場所に戻ってしまった。しかし、今度は結界の起点となるようなものはない。どうしたものか、と考えたのもつかの間、リィルの背後からパチパチという拍手が聞こえてきた。振り返ったリィルは、後ろにいた黒いローブの人物に対して呆れながら問いかけた。


「ふざけているのですか?あれだけ高度な結界を敷きながらあからさまな基点など……。脱出してくださいと言っているようなものですよ?」


 相手は何も答えない。


「反応なし、ですか。何が目的なのですか?」


 その意見に対しては答えを持っている、とでも言わんばかりに刀を出現させ左手に持ち、ルキウスの時と同じく抜刀の構えをとった。


「問答無用、というわけですか。」


 敵、そう判断したリィルはそう言うと、槍を構えて一気に黒いローブの人物に詰め寄り、槍を突き出した。


「はっ!」


 息を吐き出すと同時に今度は穂先を引き寄せ再び突く。彼女はこの動作を連続させているだけだ。しかし、魔道鎧と自らの<<身体強化(フィジカル・エンチャント)>>によって強化された身体性能による速度は尋常ではなく、腕の動きは残像を生んでいる。


「たたたたたっ!」


 だが何度繰り返してもすべて避けられてしまう。それに業を煮やしたリィルは顔に苛立ちを浮かべる。


(このままでは埒が明きませんね、できれば捕らえたかったのですが……)


 そう考えると槍に魔力を込めて一気に突き出す。


「はぁあ!」


 裂帛の気合と共に放たれた一撃はなんと槍が元からある槍を中心として7個に分裂し、相手に襲いかかる。7つにわかれた槍は襲撃者の体を捉えたかのように見えたが


「避けられましたか。」


 後ろを向いてそう言うリィル。貫いた様に見えたのは襲撃者の残像であった。そうして一旦呼吸を整え再度攻撃に移るリィルであるが、今度は黒いローブの人物も刀で反撃をしてきた。刀による反撃は速いものではなく、リィルは悠々と避けていくが、その攻撃は自分の攻撃の起点を潰すものばかりでやりづらいことこの上ない。


(相当な手練……仕方がないですね。まだ練習中の技なんですが……)


 襲撃者に仲間がいる可能性があるため、あまり時間は掛けられない。そこで、一族秘蔵の技を使うため一旦距離を取るリィル。しかし、襲撃者にそれを追いかける気配はない。


「あなたの武芸には感服いたしました。武芸では私の負けでしょう。ですが、此方も負けられません。切り札を切らせて頂きます。」


 明らかに何かをしようとしている様子のリィルに対して襲撃者は一切反応がない。それどころかこちらの次の手を楽しみにしている感さえある。それに、リィルは少しだけ、いらだちを感じる。


(その余裕が命取りであることを教えてあげましょう。)


「一族秘伝の奥義、使わせていただきます。……<<炎武(えんぶ)>>!」


 そう言うと、リィルの体は炎に包まれた。炎に包まれたリィルは一気に駆け出し槍を突き出す。その速度はさっきまでの比ではなく、初速の段階でソニックウェーブが生まれている。だが、襲撃者は少し驚いた気配を発しただけで、繰り出される槍をなんなく避けていく。


(これも避け切るのですか!)


 そう驚いたリィルであったが、再び繰り出した槍は襲撃者の残像に当たるだけで宙を切った。


(また後ろですか!)


 背後に襲撃者の魔力を感じ、後ろを振り返って襲撃者へ追撃しようとしたリィルは驚愕に包まれる。そこにはなんと、巨大な盾があったのだ。襲撃者が左手に巨大な盾を装着して横薙ぎに繰り出していたのだ。

 後ろへ下がることでそれを避けたリィルであるが、襲撃者は右手に持った片手剣で追撃してくる。それも避けるリィルであるが、更に足技を繰り出されて今度は槍の柄で防いだ。

 そうして、更に続く攻撃にある人物を思い出したリィルは苛立ちでは無く、若干の不安感を得た。これだけの力量を持つ相手ならば、相対した人物は無事では無い可能性は十分に考えられたのだ。


「この連撃はルキウスの……彼と戦ったのですか?」


 リィルの質問に、襲撃者は何も答えない。


「彼は無事なのですか?アルにも襲撃を?」


 何も言わない襲撃者に対して段々と苛立ってきたリィルは遂に怒声を上げる。


「答えなさい!」


 そう言って今までで最速の攻撃を繰り出すが、襲撃者は若干呆れつつ突き出された槍を右手で掴んで、リィルのバランスを崩し、一気に後ろへと放り投げた。体勢が崩れたリィルだが即座に立て直し、後ろを振り返ると、そこには見慣れた男が一人立っていた。


「どうやら、お前もここに連れて来られたようだな。」


 襲撃者の攻撃から復帰したルキウスが立っていたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2018年2月3日 追記

・誤字修正

『応えた』が『答えた』になっていた所を修正

『によって』から『に』が抜けていた所を修正

『いただきます』が『いたっだきます』になっていた所を修正

『炎に包まれた』が『炎の包まれた』になっていた所を修正

『切る』が『切りる』となっていた所を修正

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