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第182話 隠蔽手段――2つ目と3つ目――

 真琴への説明を終えて1時間後。約束の時間となったので、カイトはユリィや桜、瞬――時間が空いたらしいので説明の為に連れて来た――を引き連れて校長室へとやって来た。実はなにげにカイトは校長室へ来るのは初めてなので、少し興味深げに周囲を見回す。


「こんな風になってたのか……壁は会長室と一緒だな。」

「知らなかったの?」


 肩の上のユリィは学園長ユリシア・フェリシアとして来訪した事があるため、実は何度か入室したことがあるのであった。


「で、一体何の用かね?」


 そうしてカイトが興味深げに周囲を見渡しているウチに雨宮も来て、全員が席に着いた時点で桜田校長が切り出した。


「ええ、まずはお時間をくださってありがとうございます。」


 カイトが席に着いたままであるが、一礼する。


「さて、それで本題ですが……ティナ、クズハ、もういいぞ。」


 その合図に合わせ、今まで姿を消していたクズハが現れた。


「はい、お兄様。」

「ティナは?」

「ここにおる。」


 そう言ってティナが転移で現れた。どうやら一度ギルドホームに戻っていたらしい。


「これは……一体どういうことだ?それに、お兄様?」


 いきなり現れたクズハに驚きつつ、雨宮が尋ねた。今日の会議は学園の会議であるので、アル達も出席していなかった。ましてやクズハが出席することなぞ、知らされていないのであった。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。」


 クズハが優雅に一礼する。


「で、天音がここに呼んだのはクズハさんから話があるからなのか?」

「いえ、そうではありません。」


 雨宮の言葉を、クズハが否定する。


「まずは見ていただいた方が早いでしょう。」


 そう言ってカイトとユリィ、ティナの三人の姿が変わる。カイトとティナは元の大人の状態に、ユリィは人間の少女の大きさに変わった。


「フェリシア学園長!」


 ユリィの大きな姿を見た桜田校長が、思わず驚愕に声を上げた。衣装もいつもの物ではなく、学園長として着ている服であった。


「お久しぶりです、桜田校長先生、雨宮先生。」


 そう言ってユリィが丁寧な一礼を行なう。それに続いて、カイトとティナが自己紹介を行った。


「この姿ではお初にお目にかかります。カイト・マクダウェル。現マクダウェル家当主です。」

「マクダウェル家専属技師、先々代魔王ユスティーナ・ミストルティンじゃ。」

「……何?」


 自分の教え子二人から飛び出した異世界の歴史上の偉人の名前に、雨宮が目を見開いて驚いていた。


「事実ですよ。」


 二人の唖然とした様相に、クズハが苦笑しながら捕捉する。


「これが、今回のお呼びした理由の一つです。」


 現在、冒険部ではカイト達上層部が情報の隠蔽を行える。学園内の生徒達は真琴が率いる報道部が全て握っているので、先ほど情報の隠蔽に協力を取り付けた所だ。後は教師達からの協力さえ取り付ければ、全ての面で隠蔽工作が可能となる。


「……二人は知っていたのか?」


 カイトの横の桜と瞬が驚いていない様子なので、雨宮がそう推測する。


「はい。私が拐われたその日に……」

「自分はその数日後、冒険部が活動を開始した日です。」

「現在の冒険部上層部では、自分のパーティメンバーと、神宮寺さん、一条会頭の妹の凛さん、桜田校長のお孫さんの桜田副会長が知っています。それ以外でしたら、自分の幼馴染みの神楽坂さんの三人、情報部の一文字部長がご存知です。」


 かなり広範囲にわたって既に知っている事が判明し、雨宮は驚いていた。一方、桜田校長は自分の孫である楓までカイトの正体を知っていた事に、目を見開いて驚いた。


「楓が、いつじゃ?」


 今までそんな様子が一切なかった孫が何時知ったのかを、桜田校長が尋ねた。それに、再び桜が答える。


「同じく私が拐われた日です。」


 そうしてあの日以降の真実を語り始める一同。時々質問をしつつ、二人は事態の把握に努めていった。


「なるほど……まずは言わせてくだされ。よく、孫を救ってくれました。ありがとう。」


 そう言って桜田校長はカイトの手をとって、頭を下げる。常日頃から恩人に一度お礼を言いたいと思っていたのだが、孫を救った恩人が目の前に居るのだ。なので、この行動は普通だった。


「いえ、此方こそ、救出が遅れてしまい、申し訳ありません。それに、全てを救えたわけではありませんし……」


 そう言ってカイトは沈痛な面持ちを浮かべる。半ば演技は含んでいるが、半ば本心だ。それ故、これに桜田校長は頭を振るった。


「裏から貴方方が様々な手を回してくれていた事は把握しております。その上でも防げなかったのでしょう。事故、として諦めるしかないでしょう。」


 2つ目の俊樹の死に関しては別だが、一つ目の男子生徒については、完全に彼自身の油断としか言い様がない。カイト達がどれだけ頑張った所で、当人たちが油断していてはどうしようもないのである。尚、俊樹の件についてはかなりごまかしを入れていた。


「はい……それで、お二人には我々の正体の隠蔽について、ご協力をお願いしたいのです。」


 そうして全て――と言っても語れることの、だが――を説明し終え、カイトが二人に依頼する。


「我々はそれで構わないのだが……そちらはそれで良いのかね?」


 カイトの問い掛けに、桜田校長が問い返した。現状でカイトやティナがその存在を表に出さないのは、大凡学園の為と言える。もし表に出れば、二人は多くの時間を公爵家の仕事や皇国の公務、魔族領に関する事案に費やさざるを得ず、学園側としてもカイト、ティナという強大な戦力を失う事に他ならなかった。


「ええ、我々としても、お兄様のご学友を失う事は避けたいと考えております。また、お兄様もお姉様も未だ地球の技術を学ぶとの考えです。その点を考えましても、皆さんのご帰還とは、目的を同じくしている、と言えます。」


 現在、カイトもティナも、地球では学園と共に行方不明の扱いである。その二人だけが、地球に戻ったのでは、不都合が多すぎたのだ。それに、学園は様々な面から見ればカイトにとって目の上のたんこぶだ。放置しておくのは悪手と言える。


「それに、寝覚めが悪いので。」

「まあ、そうじゃな。余もようやく得た友人じゃ。失いとうはない。」


 そう言って二人は笑う。そこに一切の嘘は無く、純粋な笑みであった。それに、桜田校長も雨宮も納得した。


「そうですか……では、申し訳ないですが、これからもよろしく頼みます。」

「はい……後、私に敬語を話す必要はありませんよ。これでも一応は学生ですし。」


 そう言ってカイトが苦笑する。今まで敬語を使われていなかった教師たちに敬語を使われて、少し座り心地が悪かった。


「む?……そうですかな?貴方も敬語の様ですし……更にはミストルティン殿は儂より遥かに年上との事。さすがに目上の方には……」


 そう言って渋る桜田校長だが、これにティナが拗ねて見せる。


「むう……余はそこまで歳を取っておらん。そこらは種族差じゃ。余の種族じゃと、今の余の年齢は人間換算で未だ二十代半ばと言った所。お主よりも年下じゃ。」


 かつての魔王は一切の年齢を考慮せず、誰に対しても偉そうであった。元は魔王であるから、当然なのかも知れない。ティナが唯一敬語を使うのは、大精霊達と親に近いティア達だけである。


「そう……かね?」


 尚も渋る二人であるが、その後生徒に敬語を使うのは怪しまれると言われ、なんとか納得するのであった。


「と、取り敢えずは納得したんだが……その姿を変えてくれ。やりにくい。」

「まあ、それは構いません。」


 そう言って三人は、再び元の姿に戻る。


「雨宮先生、この程度でやりにくいと言っていたら、カイトの本来の性格になるとやりにくいじゃすみませんよ。」


 若干やりにくそうな雨宮に対して、瞬が笑う。その言葉に桜も笑っていた。


「ん?どういうことだ?」

「今は意識して丁寧な対応をしているんでしょうが……おい、カイト。」


 そう言ってカイトを促す瞬。カイトはそれに少しだけやりにくそうにしたものの、肩を竦めて性格も戻した。


「はぁ……ったく。これ年上の前でやるもんじゃねえだろ。」


 いつもの丁寧、もしくは冷静沈着な性格が何処かへ鳴りを潜め、横柄で、尊大な雰囲気を醸しだしたカイト。桜田校長と雨宮はその様子に、目を白黒させる。


「と、言うわけです。」


 カイトの様子が戻った事を見て、瞬が笑った。


「猫被っていたのか?」

「まあ、そう言う訳じゃない。本来はこっちなんだが……やっぱやりにくい。やめだ、やめ。」


 敢えて雨宮相手にも素の状態を貫き通したのだが、途中からやはりやり辛くなったらしく、もとに戻す。そうして、二人は性格についても説明したのであった。


「と、そう言う訳です。」

「なるほど……魔力とは意思の力。それを抑えたが故の性格、と言うわけか……」

「まあ、そう言う事です。とは言え、感情が昂ぶる事を抑えている訳ではないので、昂ぶれば当然此方に戻る事になります。その点は、ご容赦を、としか……」


 苦笑しつつも、カイトはそう言うしかない。抑えようとして、どうにかなるわけではないのだ。更に高度な戦闘となればどう足掻いても魔力を高めざるを得ず、性格については諦めるしかない。


「それにしても、二人の本来の性格があれとはな……」

「まあ、さすがにお二人共、歳相応に落ち着いた方が良いのでは、と思うのですが……これがなかなか落ち着いてくださらないのです。」


 クズハがそう言って笑う。この間も、ふらふらと出歩いて椿を連れ帰ったばかりなのでカイトは文句が言えず、ティナはよく色々な発明をしては暴走するので同じく何も言えない。最近もちょこちょこと引き篭もって何かを開発していた。


「では、よろしくお願いします。」


 その後、種々の話し合いの結果、二人は教師陣に対する一同の正体の隠蔽を手伝う事になった。こうして、カイトは自らの正体の隠蔽を学園内部から可能としたのであった。




「はぁ……これでもっと効率的に動けるな……」


 そうして会談を終えて、カイトがぼやいた。クズハは既に帰還しているため、一緒に居るのはティナや桜、瞬だけだ。


「もっと早めにやっておければよかったのじゃがのう……少々忙しかったのう。」

「そう言う意味でも椿の雇用は正解だったか。」


 ティナの言葉にカイトが返す。本当はもう少し早めに手を打っておく予定だったのだが、書類仕事が忙しくて今までずっと隠蔽工作用の人員の確保が出来なかったのだ。そうして、取り敢えずの手筈は整えたものの、更なる手段を確保するためにカイトが声を掛けた。


「ステラ、いざと言う時はお前に頼む。」

「ああ。」

「なっ……」


 いきなり現れた褐色の美女に、瞬が目を丸くする。全く気付かなかったのだ。だがそれは桜の方も同じで、同じく目を丸くしながら問い掛ける。


「何時から……?」

「朝から。」


 そんな二人に、カイトがいたずらっぽく告げる。楽しそうだった。まあ、一流の冒険者や軍人達に気付かれないで仕事をするのが彼女の仕事なので、まだ二流にも満たない瞬や桜程度の腕前の冒険者に気付かれる様では仕事にならない。


「一応は引き継ぎが終わったんでな。数日前から密偵職に本格復帰だ。」

「数日前から……?」


 そう言われては二人は最早唖然となるしかない。ずっと気付いていなかったのだ。


「ま、そう言うのも椿と一緒に来たんだがな。気付かないだろ、椿と一緒だったら。」


 カイトが笑う。実は椿を隠れ蓑にして、ステラも来ていたのだ。椿は本人の意思に反して、類まれなる美少女として注目を集める。影の中を蠢いて仕事をするステラにとって、これほど良い隠れ蓑は無かったのだ。なのでそれを利用して――本人には通達済み――密かに警護を開始していたのである。


「さて……取り敢えず、桜、先輩。」

「あ、ああ……」

「あ、はい。」


 相変わらず目を白黒させている二人に対してカイトが声を掛け、二人が我を取り戻したのを確認して、カイトが告げる。


「悪いがオレは学園の公表には立ち会わん。任せた。流石にこのままじゃあ武器の損傷で冒険部が立ちいかなくなる方が早くなりそうだからな。」

「え、あ、そう言えば……」


 カイトの言葉に二人もカイトの中津国行きが近い事を思い出す。まあ一応は重要な仕事なので文句は無かった。


「ユリィ。一応クズハにも言い含めているが、補佐は頼む。」

「うん。」


 そうして、カイトは急ぎで重要だと思われる全ての用意を整え、にやり、と笑みを浮かべる。それを見て、肩の上の相棒(ユリィ)も同じ笑みを浮かべた。


「な、なんだその笑みは……」

「いや、何でも無い。」

「ねー。」


 明らかに意味深な笑みを浮かべるカイトに対して瞬が問い掛けるが、カイトの方は笑みを引っ込める事も無くユリィと楽しそうに頷き合う。


「ユリィ、手筈は?」

「オールオッケー!」

「はぁ……先ほど落ち着かれたら、とクズハ殿に言われた所なのだがな……」


 事情を知るステラが小さく呟きを残して消える。再び護衛と密偵の仕事に戻ったのだ。そうして、少しの疑問を残したまま、一同は学園を後にするのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第183話『初デート』

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