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第169話 祝杯

 第二陣の実戦訓練を終え、西町の酒場へとやって来た一同。カイトの奢りとあって全員が高いものを頼むつもりであった。


「はぁ……頼むのはいいが、メニューのここからここまでみたいな、バブルみたいな頼み方はやってくれるなよ?」


 そうして西町の酒場にまでやって来た一行は、空いていた席へと案内されて、メニューに目を通していた。


「ウチはいいですよ?」


 そう言って一同に注文を取りに来たミニスが笑う。それに、カイトを除いた全員が笑い声を上げ、カイトが苦笑する。


「そりゃな……」

「で、今日は何の宴会ですか?」

「ん?ああ、初陣を終わらせて、カイトが奢り。」


 ミニスの疑問に、ソラがメニューに目を通しながら答えた。それにミニスが何処か尊敬する様な眼差しでカイトを見て、告げる。


「へぇー、お金持ってるんですねー。この間も金貨何枚も持っていましたし。お財布の中にミスリル銀貨も何枚もありましたよね?」

「おい……他人の財布の中身を覗くなよ。」

「あ、すいません。」


 そう言ってミニスが頭を下げる。確かに、他人の財布の中身を覗き見るのは良い趣味とは言えなかった。


「……へ?」


 だが、ミニスの言葉に一同が呆然となる。ミスリル銀貨は日本円にして約10万である。それが平然と財布の中に入っているのだから、驚くのは当たり前だ。


「この間、ミレイちゃんが皆さんの所に配属されたお祝いやったじゃないですか?その時支払いはミスリル7枚で支払われてましたよ?」


 ミレイの歓迎会ということで、場所こそギルドホームでやったのだが、西町の酒場から料理人と従業員を借り受けたのだ。


「え?あれ、予算一人頭予算銀貨二枚だったんじゃ……」


 ミレイが配属された事に合わせ、カイトその他冒険部所属員全員で歓迎会を兼ねたギルドの立ち上げ祝いを行ったのである。その時の事だった。


「あれ?確か皆さん全員で70名ぐらいでしたよね……銀貨2枚じゃ足りませんよ?あの日の会計、ミスリル5枚と金貨3枚でしたから。」


 その言葉に全員がカイトを見る。カイトは少しだけ照れた様子をしていた。


「……差額は全部オレが支払った。」


 大凡支払った金額の半分以上が、カイトの私費である。それを知っていたティーネら公爵軍の面々は自分たちだけでも、と多めに支払おうとしたのだが、全てカイトが却下したのである。これだけはトップの見栄として、奢らさせてもらったのだ。

 ちなみに、どう考えてもミスリル銀貨7枚は多いのだが、従業員のチップや様々な手間賃、その他祝いのわけまえとして多めに渡したのである。


「……お前、金持ってんな。」


 ソラが呆れながらもそう言う。カイトが高額の秘匿依頼を受けている事を知らないソラと瞬はカイトが公爵としての自費だと思っていた。だが、これは違う。別に公爵として交際費から出しても問題は無いのだが、今回は冒険者として支払った。なので、カイトが苦笑して告げる。


「まあ、冒険者としてちょっとユリィと2人で活動してるからな。それぐらいは稼いでいる。使い道がなければ、溜まるからな。」

「いや、お前、何時ソロで稼いでんだ……」


 今のところカイトが最も冒険部で忙しく、傍から見る限り、一人で活動出来る暇など見当たらなかった。全員が頬を引き攣らせている。ちなみに、ユリィの実力を知らない第二陣の生徒達は完全にカイトの単独だと思っている。


「まあ、夜中に少し……」

「お前、身体壊すなよ……」


 そう言って同級生の男子生徒が心配する。そんな男子生徒を安心させる様に、カイトが笑って告げる。


「体調管理は冒険者の基本だ。そこは安心しろ。」


 尚、カイトは異常が起きれば天族でも最高の名医であるミースに診察を依頼するので、体調不良に対しても万全を期してはいる……のだが、そもそも身体が身体なのであまり医者では対処出来ないので、基本は自己管理を徹底している。


「まあ、今お前に倒れられたら困るからな。頼むから無理はしないでくれよ。」


 瞬の言葉を聞いて、カイトは笑って腹案を打ち明けた。


「……じゃあ、ちょっとしたら一週間程出かけるから。あ、ティーネ。留守はよろしく。」

「おい!それは許可できん!」

「聞いてないですよ!」


 瞬とティーネが立ち上がってツッコミを入れる。瞬としては、そこまで頼って欲しく無かった。


「何の用だよ!一週間も出かけるって……」

「いや、まあ、ウチに鍛冶場あるだろ?」


 カイトの言葉に、ソラと瞬は二人でかなり広い我が家の間取りを思い出す。そこには確かに離れになっているエリアに鍛冶場が存在していた。さすがにホテル内部に鍛冶場を作る事は出来ず、少し離れた場所にある日本風庭園の内部に鍛冶場を併設させたのだ。

 ちなみに、日本風庭園は元々ホテルに備え付けられていた物で、カイト達が日本風にアレンジしたわけではない。元々は勇者縁の地をイメージして造園された物らしい。そうして、それを思い出したソラが頷いて言った。


「まあ、最近シロエが掃除してたな。」

「いや、まあそれでちょっとした伝手を頼って鍛冶屋紹介してもらえないかな、と思ってな。でだ、その知り合いがかなりの職人気質でな。鍛冶に納得が行かないと、一週間は待たされるんだよ……」

「……それ、別に一週間後にいけばいいんじゃね?」


 カイトの言葉に、ソラが道理を告げる。だが、これは彼を知らない者がする発想だった。


「爺さんが出て来たタイミングでその場に居ないと、待たせとけってまた鍛冶に戻るとまた一週間待たされる事になる……」

「なら仕事しながら待っていろ!というか、そんなの誰も文句言わないのか?」

「あれでも大陸で最高の腕前で、誰も文句言わない、というか、言えない。言ったらハンマーじゃなくて刀が飛んでくる。それも刃引きしてないの……」


 ため息混じりに告げられた言葉に瞬が当たり前の疑問を呈するが、それにカイトは再度溜め息を吐いて告げる。一度目の前でその文句を言った何処かの成金貴族に妖刀――武器技(アーツ)有り――が数振り飛んでいったのは良い思い出だった。


「なんでそんなのと知り合いなんだよ……」


 カイトの事情を知らない男子生徒が呆れる。それにカイトが照れくさそうに頬を掻いてボソリと呟いた。


「飲み友達で……」

「平然と飲むなよ!……ん?まて、お前、今呑んでるのって……」

「只の水だ。あ、酒を飲みたければ呑んでいいぞ。法律には違反せんからな。っと、まあ、それは置いておいて……で、場所が又問題でな。中津国まで行かないと行けないから、やっぱ一週間は掛かる。」


 思い切り酒を呑んでいるカイトだが、何ら悪びれること無く、ただの水と言い切る。見た目透明なので、臭いでも嗅がれない限りはばれない。カイトの正体を知っている瞬やソラは酒と知っているが、何も言わない。と言うより、瞬も飲んでいる。以前レーメス伯爵への襲撃の時に出会った龍族の若者との次の再戦に備えて鍛錬を行っているらしい。


「取り敢えず大陸一の腕前の鍛冶師の紹介なら一流を紹介してもらえないかな、とな。まあ、弟子の一人でも紹介してもらえれば御の字だ。」


 そう言って説明されれば、確かに居れば便利だと思い始める一同。特にカイトの正体を知る三人からすれば、逆に自分が受け持ってもらっている鍛冶師よりも腕は上だろうと考えられた。なので、瞬が一つ問い掛ける。


「そいつ、俺のグローブも修理できるか?最近調子が悪くてな。」


 そう言って瞬が右手のグローブを見せる。それはかなり使い込まれており、所々にひび割れが入っていた。瞬自身も簡単な修繕やメンテナンスは自分で出来るししているのだが、それでも本格的な修理やメンテナンスは鍛冶師は専門家任せだ。

 だが、専門家に任せれば向こうの予定も大きく影響してくる。自分達の専属の鍛冶師に出来るならそれに越したことはなかったのだ。


「ああ、刀鍛冶だが、別に刀のみしか打てないわけじゃない。金属製の武器や防具であれば、修繕できるだろう。問題は……」


 そう言ってカイトが頭を掻く。


「問題は?」


 言い難そうにしているカイトにソラが問いかける。それにカイトは深々と溜め息を吐いた。


「はぁ……爺さんがこっちに来る事を許可してくれるか、だな。場合によっては他所で活動出来るような弟子はおらん、とか言って紹介してもらえん可能性もある。」


 既に十年近く弟子入りしている弟子も居るのだが、未だに独り立ちを許可できん、と言っていた事もある。ただし、一度弟子が独り立ちを許されれば、唯一つの例外なく大成しているので、見極めは確かであった。


「一週間かけて大博打かよ……」

「なにせ大陸一だからな。その程度は許される。」


 幾度も大陸一と繰り返すカイトだが、様々な伝手を持つカイトがエネフィア中を見渡しても、村正に匹敵する鍛冶師は数少ない。試すだけでも、価値はあった。


「それに……ソラ。お前さっきの戦闘で武器壊しただろ。特に盾。」

「うげ……気づいてたのか。」


 そう言ってソラが腰に帯びた片手剣を鞘から抜いて、盾も見せる。攻撃は殆どしなかったのだが、鞘から抜かれた片手剣は少しだが欠けていたし、盾に至っては逃走中に何度か攻撃を防いでいたので、かなり損傷していた。


「まあ、剣はアレだけ硬い地竜相手に攻撃をやったんだ。仕方ないさ。だが盾は……結構無茶したな。」

「お前らが来るまでに一、二回肉弾戦にもつれ込んだからな……はぁ……折角貰った物なのによ……」

 そう言って、ソラが少し残念そうに落ち込む。かつてランクDへの昇格の祝いとして貰った武器をずっと使い続けていたのだが、遂に寿命が来てしまったのであった。


「いや、気にするな。剣なぞ所詮は余程の超一流品でない限りは消耗品だ。それに、多くの奴がそろそろ武器の買い替え時期に来ているみたいだからな。材料あれば一級品が入手できるなら、そっちの方が安上がりで済む。」


 そう言ってカイトはソラへと鍵を渡す。そうしてカギを受け取ったソラだが鍵に見覚えが無く、首を傾げる。


「何だこりゃ?どこのだ?」

「地下の武器庫の鍵だ。当分は予備の装備で我慢してくれ。」


 そう言ってカイトが地下の宝物庫を利用した武器庫への立ち入りを許可する。それにソラが少しだけ申し訳無さそうに礼を言う。


「ワリ。」

「まあ、その代わり一週間ほど空ける。後は頼んだ。」

「あいよ。」


 そう言ってソラが納得する。


「よし、それじゃあ決定でいいな……」

「はーい。お待ちどう様です!」


 従業員の女の子によって料理が運ばれてくる。そうして全員へと料理が届いた所で、カイトが乾杯の音頭を取った。


「じゃあ、第二陣初の初陣終了を祝って!乾杯!」

「乾杯!」


 そう言って乾杯し、全員料理に舌鼓を打つのであった。



「で、結局どうして付き合う事になったんだ?」

「おい!こんなトコで言うな!」


 ソラが慌てて止めるが、瞬に聞かれていた。


「ん?何の話だ?」

「いや、なんでもないっす!」

「今、付き合っている、って聞こえたけど?え、何?ソラ誰かと付き合ってるの?」


 同じく聞こえていたティーネが食いついた。彼女の精神年齢は見た目相応だ。なので、色恋沙汰には聡いのである。


「何?……ほう、誰だ?」


 ティーネの言葉をきちんと聞き取った瞬が、ニヤつきながらソラに問いかける。


「ぐ……マジで言わないとダメっすか?」

「ダメ。」


 ユリィが嬉しそうに却下する。


「由利……って、うおわぁ!?」


 真っ赤になって申告するソラだが、割って入った小さな妖精に気付いて椅子から転げ落ちた。


「小鳥遊か……で?」

「で?」


 なんとか再び椅子に腰掛けたソラに更に問い掛ける瞬に、ソラが意図を掴めず首を傾げる。それを見た瞬が笑って詳しく問い掛けた。


「どこまで進んだんだ?」

「げっふー!」

「ちょっと!こっちに飛ばさないで!」

「うわ!ごめん!」


 瞬が突っ込んだ問いかけをしたので、ソラが思わず飲み物を吹き出した。丁度向かいにいたティーネに危うく掛かりそうになる。そうして、ソラが吹き出した飲み物を拭き終えた所で、再度瞬が先を促す。


「で?」


 それに笑いながら瞬が答えを促す。


「で?じゃねえっすよ!酔ってません!?」

「む?カイトと同じ物を頼む、と言っただけだが……」


 ははは、と笑う瞬。いい具合に酔いが回っていた。ちなみに、カイトは食事を切り上げるとこの酒場で最も度数が高い物を頼んでいた。酒にあまり強くは無い彼が酔うのは当たり前である。


「それ、酒っすよ!」

「だが、カイトよりは呑んでないぞ。」


 見れば、カイトはすでに5杯目である。瞬はまだ3杯目であった。


「そういうこっちゃないっすよ!」

「でだ、どこまで進んだんだ?」

「えぇ!?」


 ソラが瞬の追求を躱そうと四苦八苦する。それを見ていた3年の男子生徒達が意外そうにしていた。


「一条って、結構付き合い良い奴だったんだな。」

「だな……ずっと陸上一筋だと思ってたけど、こんな風に呑んで騒いで、ってやってるんだ……」

「でも、一番意外なのは、天音くんかも?」

「あはは、そうですね。」


 そう言って3年の女生徒が笑う。それにカイトが受け持った下級生の女子生徒が同意する。この場で最も悪戯っ子な二人がついにソラ弄りに乗り出したのだ。


「で、どっちが告ったの?」

「由利だな。」

「ソラじゃない?」


 カイトとユリィだ。だが、そうして身を乗り出してきたユリィに、ソラが告げる。


「いや、その前にユリィちゃんがなんで居るんだよ!?」

「え、勘。絶対に楽しそうな事が起きると思ったから。」


 その瞬間。女子生徒二人とティーネはユリィの側に待機しておこうと決心した事は、横に置いておく。

 ちなみに、ユリィは本当に勘である。カイトは知らせていない。彼女がくれば確実に彼女の分まで奢らされる事になるからだ。


「で、どっちだ?」

「ねぇねぇー?」

「いやあのえと……」


 ニヤニヤと楽しげな二人を前に、再びソラが顔を真っ赤にして言い淀む。そうして帰って来た答えは、全員にとって少し予想外な物だった。


「実は……あ、そういえばまだ告ってない。」

「はぁ!?なにそれ!?生殺し状態!?」


 実は二人共お互いに好きであることは気付いているし理解しているのだが、それを口に出した事が無かったのだ。現状でも既に恋人が出す雰囲気を醸し出しているのだが、ソラはよくよく思い出してみればどちら共告白していなかったのである。

 そしてそれに憤慨したのは、実は二人が付き合っていそうだと感付いていたティーネである。実は公爵家で最も色恋沙汰に鋭いのは、彼女とユリィなのであった。そうして、ティーネが立ち上がってソラに面倒見の良い姉の如く説教を始めた。


「いい、ソラ!女の子があれだけ嬉しそうにしているんだから、さっさと告白しなさい!」

「え、あ……はい……」

「もっとはっきり!」

「はい!」


 ティーネに叱責されたソラは、衆人環視の中、勢い良く返事をする。ちなみに、ソラの説教をするティーネだが、実は彼女に恋愛経験も男性経験もゼロだ。彼女はまだ結婚を急ぐ様な年齢でもないし、結婚を親から言われているわけでもない。族長の係累なので遊ぶのも厳禁だ。彼女自身がエルフにしては好奇心旺盛なので、自身の色恋沙汰よりも他人の色恋沙汰の方が興味があるだけだ。所謂耳年増とも言える。そんな色恋沙汰で説教をするティーネを見て、何処か羨ましそうにユリィが告げる。


「ソラもそうだけどさー、若いっていいよねー。」

「いえ、私はもう100歳も過ぎてますし……ソラ達に比べればもう……」


 何処かおばさん臭いユリィに対して、一度ソラへの説教を切り上げてティーネが溜め息を吐いた。どうやら幾ら種族差とは言え、100歳近く違うと少し響くらしい。そうして、そんな部下を見たカイトが、フォローに回る。尚、何故かいつの間にかソラは正座させられていた。


「ユリィもティーネもまだまだ若いさ。十分に可愛い。年齢もエルフとしてなら、まだまだ少女だからな。」


 ティーネを抱き寄せてカイトが笑う。ティーネの117歳はエルフとしては未だ少女といっていい年齢である。ちなみに、ティーネも良い具合に酔いが回っているし、そもそもで族長の係累としてそれなりにこういった対応は慣れている。相手がカイトなので照れがあるが、拒むことは無かった。


「あ、ありがとうございます。」


 主であり仲間から褒められて、ティーネとて悪い気はしないし、素直な賞賛は嬉しかった。かなり照れていたが、素直にお礼を言う。そんな二人を見て、ユリィが溜め息を吐いた。


「こういう風にさー、カイトってば全然照れてくれないの。」

「なんだよ。照れる必要無いだろ。可愛いし美人なんだから。」

「昔みたいに姉御に照れてたカイトが懐かしいなー。」


 それに対するカイトの返しに、ユリィが何処か拗ねた様に溜め息を吐いた。ユリィとて慣れきって大人な対応をしてくれるのは嬉しいのだが、何処か昔のカイトも懐かしくはあるのだ。まあ、ここでそんな事を持ち出すのは、当然にわけがある。


「はぁ……全く……来いよ、マイ・フェア・レディ?」

「それでいいの、マイ・ブレイブ。」


 ユリィの拗ねている原因はわかっているので、カイトは彼女を本来の姿にさせると、今度はティーネを解放してユリィを抱き寄せる。それに、ユリィが嬉しそうに応じて、花のような顔に楽しげな笑みを浮かべた。

 ちなみに、カイトが告げた『マイ・フェア・レディ』は『我が麗しの貴婦人』で、ユリィの『マイ・ブレイブ』は『我が勇者様』という所である。二人共調子に乗っていた。


「お前、それ素面で言えてやれるの凄いよな……」


 カイトが臆面もなくキザったらしいセリフを言ったので、二年の男子生徒が苦笑する。確かに彼もティーネが美少女であるとは思うが、ここまで臆面もなくこんなことを出来るとは思わない。


「さっきみたいにティーネさんに可愛い、とかユリィちゃんに今の……あー、なんだっけ。まあいっか。他にも若いとかおせ……いや、すんません。」


 カイトの褒め言葉をお世辞、といいそうになり、ティーネに睨まれる。


「そうか?」


 カイトは皇太子(ウィル)聖騎士(ルクス)という常日頃から女性を褒める事を信条としている2人に徹底的にみっちり教育されている。今更おかしいとは思わなかった。それ故に小首を傾げている。それに、告げた男子生徒が呆れて溜め息を吐いた。


「はぁ……お前、やっぱ女誑しだ。」

「まあ、女の子を褒められるなら、その罵倒も甘んじて受けておこう。」


 そうして自身への苦言を甘んじて受け入れる事にして、標的が変わって安心しているソラへと告げる。


「じゃあ、ソラ。お前今度告ってこい。」

「へ!?」


 いきなりの命令口調に、ソラが目を見開く。だがソラが拒絶する前に、一気に大量増援が加わった。


「そうね。そうしなさい。結果はきちんと報告すること。」

「デートプラン練ってあげよっか?」

「あ、ユリィ様!私も参加します!」


 ティーネが嬉しそうにユリィの言葉に乗っかる。


「え!?ちょ!?せめて時期ぐらいは選ばせてくれ!」

「今まで好きだの一言も言えない男がグダグダ言わない!」


 抗議の声を上げたソラだが、ティーネによって却下される。彼女は干渉する気満々であった。


「うぐぅ……」


 そうして、勝手に決定されていくデートプランに、ソラががっくりを肩を落としたが、その姿に、笑いが起きる。そうして一頻り笑いが治まった所で、男子生徒の一人が美味そうに酒をちびちびと飲み続けるカイトに問い掛けた。ずっと気になっていたのだが、興味が抑えきれなかったのである。


「なあ……酒って美味しいのか?」

「呑んでみるか?」


 そう言って瞬が一杯薦める。気づけば、カイトと2人で瓶で頼んで注ぎあっていた。


「え?……じゃあ、一杯。」


 好奇心に負けて二年の男子生徒が少しだけコップに注いでもらう。そうして、彼等はいい具合に酒が回るまで、カイトの奢りで飲食をするのであった。




「じゃあ、おあいそよろしく。」

「はーい……お会計は、えーと、金貨9枚に、銀貨5枚です。」

「わかった。ごちそうさま。」


 二時間程飲食をした後、会計をミニスに頼んだカイトはミスリル銀貨で全て支払った。それに、全員が声を揃える。


「ゴチになりまーす!」


 全員いい具合に酔っ払っているので、誰もが変な笑みを浮かべていた。そんな彼らに、カイトが溜め息を吐いて告げる。


「はぁ……バレる前に部屋に引っ込んでくれよ。」

「カイトマジ最高!俺一生お前に着いてくわ!」

「俺も俺も!」

「はぁ……まあいいか。」


 同級生の生徒2人がカイトに強制的に肩を組ませる。そうして苦笑したカイトを見て、瞬がボソリと呟いた。


「ふむ……これはありかもな。」

「へ?」


 瞬が何を有りといったのか理解出来なかったソラが首を傾げる。


「ああ、祝杯を上げるのは良いことかもな、って思っただけだ。」

「ああ、なるほど……でも、俺らはここまで金無いっすけどね。」

「ま、そうだな。だが、一杯ぐらいなら、なんとかなるだろ。」

「まあ、それぐらいなら……」


 そうして、これ以降初陣を終えた生徒に対して、彼等冒険部の面々が一杯奢ることが、恒例として伝わることとなったのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第170話『冥界華』


 2015年8月8日追記


 『酔い』が『良い』になっていたのを修正しました。

 『カイト』の名前から『ト』が抜けていた部分を修正しました。


 2018年1月25日 追記

・誤字修正

 『中津国』が『中つ国』になっていた所を修正しました。

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