第9話 冒険者
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会議が一旦中断となり休憩に入り外に出て飛空艇が見たいとソラが言ったため、カイトら4人は会議室から外に出ていた。そして、外に出た所でソラが最もな疑問を呈した。
「なあ、桜ちゃん以外いらなかったんじゃないか、俺ら。」
どう見ても教員から質問を受け、答えていたのは桜一人であった。
「必要はなかったが、桜一人であの場にいさせるわけにもいかないだろ。」
「はい。ありがとうございます、皆さんのお陰で落ち着いていることが出来ました。」
そう言って礼を述べる桜であるが、実は事実である。教師たちでさえあれだけ荒れた現状で、いつもと変わらない3人は桜に平静を与えていたのである。まあ、落ち着きすぎな感もあるが。
本人が言うならまあいいか、とソラは納得する。
「にしても、いつかは働かないといけないのか。」
さっきの会議でルキウスが言っていたことを思い出したソラがそういうと、カイトは苦笑した。
「当たり前だろ。公爵だって500名もの穀潰しを何時までも抱えていることはできない、ってことだ。早いうちに自立してもらいたいに決まってる。」
「余は働きたくないがの。養え、カイト」
そうのたまうティナに対し、カイトはスルーする。ちなみに、彼女の場合は趣味がそのまま公爵家の利益につながるので、放っておいて大丈夫であった。
「でも、働く、って何が出来るんだろうな。」
「いざとなれば公爵家が紹介してくださる、とのことでしたが……。」
そういう桜であったが、エネフィアでどんな職業があるかわからないため、まったく想像がつかない。
何ができるか考える桜とソラの二人であるが、カイトは若干顔をしかめている。何かを考えているのか、上の空で何も言わない。それを見たティナは小声でカイトに問いかけた。
「ルキウスらの言っていた奥様とはクズハのことじゃろう。どうするのだ。」
その言葉に現実に戻ってきたカイトは深い溜め息を吐いた。
「どうする、たってな。一回会わないといけないのは確かだが……。」
「約束。それを考えておったのでは無いのか?」
うぐっと返答に詰まるカイト。それをみてティナは意地の悪い笑顔を浮かべたがすぐに真剣な顔に戻った。
「その顔は外れか。お主はいざとなったらクズハとアウラが養ってくれるじゃろうが、他の者はどうするつもりじゃ?」
「そこらへんが、面倒なんだよ……。オレが公爵として戻っても地盤安定にかなり時間がかかるだろうし、そもそもすぐに公爵復帰なんて不可能だ。かといって、オレの魔力でも全員帰還なんて不可能だ。」
「まぁ、以前も魔法陣描いてだのなんだのとやって一ヶ月じゃったしな。準備はもっと掛かっておる。今回の一件が異常すぎるだけじゃ。」
「やはり、学園生には悪いが冒険者あたりになってもらって、自分たちで帰還の方法を調べるのと生活費かせいでもらうしかないか?」
「それぐらいしかないじゃろうな。さすがに娼館などで働かせるのはまずいしの。」
「農夫とかは……多分足りてるんだろうな。帰らないなら自給自足でいいだろうが。」
「まぁ、多くは帰る方法を探す方を選ぶじゃろうなぁ。無知とは恐ろしきかな、じゃな。」
エネフィアの冒険者に待ち受ける危険を知らないであろう学園生達をあざ笑うかのようにティナが笑う。そういうティナにカイトも、苦笑して同意する。
「……言っても理解はしないだろうな。冒険者なら遠くまでいけるし、色々な物が見れるからな。オレもかつてはそんな冒険者に憧れた。現実を知らずにな……とは言え、利益があるのは事実。今はどうか知らんが冒険者の登録証は身分証明書代わりになるから、異世界からの来訪者と知られなくてすむ。何をするにしても、それだけで十分に危険は減る。」
そう言って、冷酷な目をするカイト。何かを真剣に考えている様であった。
「あとは、この案をどうやって提案するか、だな。」
「クズハあたりに説明してもらうのが一番じゃろう」
「そんなところか。」
そう真面目な相談をする二人であったが一段落ついた所でティナが問いかけた。
「そういえばお主、なにを考えておったのだ?」
「ん?まあ、ちょっとな。」
そう言って顔をしかめるカイトであるが、ふとにこやかな笑顔を浮かべたカイトを見たティナは苦笑する。何か、良からぬ事を考えている様に見えたのだ。
「何を考えておるか知らんが、やり過ぎるなよ?お主、自重を知らんからな。」
「お前が言うな。」
お互い自重が自重になっていないことを知らないのであるが、気にしていない。そうしているうちに4人は校舎の玄関にたどり着くと、外ではルキウスらの部隊によって陣地作成の準備が行われていた。そこで玄関から飛空艇の見学をすることにする4人であった。
そんなこんなで暫く邪魔にならないようにと玄関から物資を運搬する飛空艇の往来を見学していると、部隊の指揮が一段落ついたのかアルが近づいてきた。
「みんな飛空艇を見に来たの?」
「ソラがどうしても、ってな。」
「だってすげーよ。あんなのが大空を飛ぶんだぜ。しかも地球みたいな形じゃないし。」
エネフィアの飛空艇の形は地球の飛行船に似ており、上部に気嚢のようなものを有している。推進機構は地球のジェットエンジンと同じようなものなのか、筒状の物体から虹色のフレアに似た光が噴射していた。それが気嚢の周囲にある輪に連結しており、筒が上下に回転して飛空艇の高さを変えている。下部に貨物収納部があるあたりは、飛行船と同じか。
ただ、格納部と気嚢の素材は、木材からよくわからない金属と思われるものまで数多く存在していた。
「地球じゃたしか、横に翼があって、鳥みたいな形なんだっけ。」
「それも勇者の残した情報か?」
「うん。当時の勇者様はいろんなことに手を出したらしく、彼のお陰でエネフィアの技術は200年は進んだ、って言われているよ。それには勇者の仲間の先々代魔王様も携わっていたらしいんだけど……。」
「どうした?」
口ごもるアルに疑問を呈するソラであるがアルは話を続けることにする。
「うん。そのせいで少し問題が起きてね。その先々代様主導で飛翔機……ああ、あの光が噴射されている筒ね。」
そう言って飛空艇の1隻を指さし、円筒の筒の様な物体を指さす。それが飛翔機であった。
「その飛翔機なんかも勇者様達の発明の一つなんだけど……先々代様がいなくなってから誰もその設計思想と理論がわからなくて、結局一から作り直すことになったんだ。でも出来上がったのはかつて先々代様が作った試作品よりも圧倒的に性能の悪い劣化品以下のおもちゃ。鎧用の小型飛翔機はそもそも作れなかった。先々代様の飛空艇用飛翔機の試作品はあったけど、今みたいに普通に飛べるようになるまで200年かかってるんだ。それを応用して小型の飛翔機が出来たのもここ五十年で、最先端技術だよ。」
その小型飛翔機付き魔導鎧を使いこなすアルは、やはり特殊部隊所属に相応しい実力なのであろう。
「あ、ちなみに、先々代様は現魔王様から見て、だよ。大戦を引き起こした魔王の先代で、国によっては先代魔王を魔王と認めず、先代魔王様になるよ。まあ、先代の魔王は評価が最悪だから、致し方無いけどね。」
それを聞いていたティナが、少しだけ沈痛な面持ちで顔を伏せる。それに気付いたカイトは、そっとティナを近くへと寄り添わせた。
「大戦ってのが何なのかわかんねえけど……なんでその先々代魔王様ってやつはいなくなったんだ?……って、いいのかよ、魔王討伐に先代が参加して!」
言って気づいたらしいソラ。その質問をアルは予想していたらしく、笑い、ソラの疑問に答えた。
「先代の魔王は先々代の魔王様を封印して王位を簒奪したらしいんだ。まぁ、力だと勝てないらしかったんで策を弄して封印したらしいよ。で、その封印を勇者様達が開封して救いだしたらしい。それで仲間になったんだって。先々代魔王様は人徳の高い、非常に慕われた方だったらしいよ。現魔王様はそんな先々代魔王様の臣下の一人で、今でも非常に先々代様を慕われていらっしゃるんだ。」
開封に際して、ティナがとある理由から大暴れしたので、実はカイト達と戦闘になっている。カイトは仲間たちと協力してティナと戦ったのであるが、カイト達が全員で協力して戦った―大規模な戦場を除いて―唯一の1対多の戦闘である。その結果、カイトに隷属の呪いを掛けられ、絶対服従を強制される事になるのであった。
尚、この隷属の呪いはカイトの馬鹿力で掛けられていた為、ティナでも解呪は容易ではなく、解けるようになった時には既にカイトに惚れ込んでいたので、現在もそのままである。
ちなみに、ティナに力で勝てなかった先代魔王はカイト一人で事足りた。
「そうなのか。で、その先々代魔王がなぜいなくなったんだ?」
アルの説明を聞いていたソラだが、ふと、疑問に思ったらしい。人望のある先々代魔王がクーデターを起こされても、人望があったならば復権してもおかしく無い気がしたのだ。
「さあ、一説には勇者に惚れてしまって一緒にニホンに渡ったとも、勇者が帰還したことで借りは返したとして、大戦の責任を取って隠居した、とも言われてるよ。」
「ふーん。」
聞いたもののあまり興味のないソラ。すでにソラの性格をおぼろげに把握したのかアルもあまり気にしていない。
一方、その先々代魔王様ことティナは、なんとか気を取り直していた。そして、アルの説明を聞いて、更に間近で飛翔機や魔導鎧を見て、性能が悪かったのに合点がいったらしく小声で呆れ返っていた。
「まったく、あの程度の魔術理論もわからんとは情けない。道理で飛翔機の性能が悪いわけじゃ。魔素を集めるのにわざわざ風系統の魔術式を利用する馬鹿者がおるか。闇属性で吸収した方が早かろう。」
それを聞いていたカイトが反論する。
「言ってやるな。お前はほとんど理論すっ飛ばして結論を発見するような天才型。オレたちのような凡才にはわからんさ。」
一方、ティナはカイトが自身をして凡才と言い切った事に、不満気に一笑に付した。
「お主が凡才?ふん、あの戦闘方法や発明を見て凡才と言うやつがおるか。良くて鬼才じゃ。飛空艇用の飛翔機もお主の意見を聞いて今の形になっておるしの。」
「オレはそこにあったものや知っているものを組み合わせただけさ。お前みたいに創造したわけじゃない。」
「そういうことにしておこうかの。」
何処か剣呑な二人だが、時折あることなので、二人共後に引きずることはない。
そこに、ひと通り飛空艇を見て満足したのかソラがここへ来るまでに話していたことをアルに聞いてみる。
「なあ、俺達が金を稼ぐとしたら何ができるんだ?」
「うーん……とりあえず安全なのだと農家なんかだろうけど、運が良くないと地球へは帰還できないだろうね。」
協力はするが、帰還するなら方法は自分達で見つけるように、と先の会議で告げられている。この決定は覆りようが無いらしく、何度も念を押されていた。そこで桜は別案を求めた。
「それは困りますね。此方としては帰還の方法を探したいのですが……」
「うーん……だとしたら、あんまりおすすめ出来ないんだけど、冒険者かなぁ。」
指を顎に当てて考えこんで、アルが提案した。
「一部の人員を研究者等に割り当て、魔法などでの帰還の方法を探すのは?」
「まず無理かな。まぁ、かなり昔の魔道文明の遺産に世界間転移の方法があるかもしれないけど、可能性に過ぎないし、そういった遺跡は危険だからね。冒険者に護衛を依頼するにしてもかなり高額だよ。それなら冒険者になって自分たちで行ったほうが安上がりだし、自分たちの身の安全も守れるしね。」
「そうですか。では、帰るなら冒険者が一番良い、ということですか?」
「どうだろう。可能性は一番あるけど、一番危険な案でもある。当然魔物なんかとも戦うことになるし、もしかしたら陵辱されたり死んだりするかもしれない。」
「それは、嫌ですね……。」
自分がそんな目に遭うことを考えて震える桜だが、逆にソラは冒険者という響きに興味を覚えたらしく乗り気であった。
「冒険者かぁ。それって誰でもできるもんなのか?」
「うん。さっきは脅す様な事を言ったけど、安全な依頼も多いからね。冒険者として登録しているけど、実際は小遣い稼ぎ感覚の冒険者も多いよ。例えば、荷物運びとか倉庫整理、部屋の掃除とかなんかね。でも、そういった誰でもできるものは依頼料も安い。けど、一流の冒険者ともなれば君たちが出会った天竜なんて一瞬で倒してしまうほどの戦闘能力も持ってるし、彼らでしか出来ない依頼は料金も莫大になる。そういった人たちだと、お金には困ることはないかな。」
そう言ってアルは簡単に冒険者の説明をする。
「へぇ。じゃあ、別に戦闘をしなくてもいい、ってことか。」
「まあ、君たちの目的で冒険者になるなら戦闘の心得は必要だけどね。」
「やっぱりそうなるよな。ってことは是が非でも魔法を使えるようにならないとな。」
魔法を使えるようになろうと気合を入れるソラ。彼の中では冒険者となることは確定している。しかし、アルがそんなソラにニヤついた笑顔で忠告した。
「うまくやれば冒険者は皇族の方なんかともお会い出来るからね。その際は失礼のないようにね。」
「なんで王侯貴族なんかが便利屋みたいな冒険者と会うんだよ。」
ソラはその言葉に首を傾げる。どう取り繕っても便利屋扱いな冒険者に、何故地位や名誉を重んじるであろう貴族達が会う必要があるのか、と思ったのだ。
「冒険者は時として軍と協力して街を守ったりもするからね。信頼できる冒険者には王侯貴族が依頼を出すことさえあるんだ。そういった冒険者だと彼らが後ろ盾になってくれることもあるけど、そうなってくれば当然、礼節なんかも求められるよ。」
「うへぇ。そういうのは苦手だ。」
と、ソラは若干テンションダウンする。それを聞いていた桜だがふと時計を見て少しだけ眉を上げた。
「冒険者となるかは先生方と相談しましょう。そろそろ休憩時間も終わりです。会議室に戻りましょう。」
そう言ってアルに一礼すると会議室に戻っていき、カイトたちもアルに別れを告げた後、桜についていくのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
2018年2月3日 追記
・誤字修正
『休憩に入り』が『休憩入り』となっていた所を修正。
『出た所』が『出てた所』になっていた所を修正。
『として戻っても』が『とし戻っても』になっていた所を修正。
『帰る』が『帰える』になっていた所を修正。
『戻りましょう』が『戻りますしょう』になっていた所を修正。