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第162話 幽霊?

 魅衣のしでかした粗相の始末を始めたカイト。その間に魅衣はカイトから受け取った服に着替えていた。


「こっち見ないでよー。うわ、べちょべちょ……あ!そうだ!鼻で息しないでよ!」


 そう言いつつ、魅衣はカイトから受け取ったタオルで身体を拭う。カイトは旅の経験から、様々な身だしなみの道具は異空間の中に収納しているのである。


「はいはい……別に魅衣の裸も何度も見てるから気にする事ないんだけどなー……」


 そう言いつつカイトは水魔術などを併用して、魅衣の粗相の後始末を続ける。


「そういうことじゃ無いわよ……うん。これで大丈夫、かな。うぅ……なんかスースーする気が……」


 ようやく着替え終わった魅衣がそう呟いた。彼女は替えの下着は全て荷物の中なので、今は所謂ノーパン状態なのである。それに、カイトがかんらかんらと笑う。


「わりぃ。さすがにオレも女物の下着までは持ち合わせてないからな。」

「もう……と言うか、持ってる方が怖いわよ。」

「ごめんなさい……」


 そんなカイトを魅衣が睨みつけたのだが、何故か幽霊少女がシュンとなる。ちなみに、彼女は幽霊なのでカイト達が作業をしている間、手伝うことも出来ず、いたたまれない様子であった。


「次からは気をつけてね。」

「はい……。」


 あまりの落ち込みように魅衣が注意ですませた。まあ、彼女にも悪気があったわけではないし、別に怖くも無いのでこの程度で良しとしたのである。


「それで、どうやって説明しよう……」


 魅衣が落ち込む。既に濡れたスカートや下着などはカイトの持っている異空間に隠したが、服が変わっている事までは、ごまかせなかった。


「……ま、まあここが汚れていたから着替えた、ということでいいんじゃね?」

「絶対に話さないでよ?」


 魅衣に半眼で睨まれたカイトはぶんぶんと勢い良く頷く。カイトは大戦で何度も戦った強敵達の持つ威圧よりも圧倒的な力を幻視した。


「……で、君が噂の幽霊か?」


 肝試しに来て幽霊では無く別の要因で肝を冷やしたカイトは、幽霊少女に問いかける。それに、幽霊少女が頷いて答えた。


「あ、はい。シロエと申します。元はここの従業員だったんですけど、この剣で殺されて、気づいたら取り憑いてました。」


 そう言って少女が妖刀を指さす。そこには、妖しく光る刀が刺さっていた。


「あ、触らないでくださいね?抜けないとは言え、本物の妖刀ですから持っただけで……え?」


 カイトがズカズカと妖刀に近づいていったので、注意したシロエであるが、カイトが呆気無く地面から抜き、刀の拵を確かめ始めた事に驚愕する。


「……これは……竜胆の作だな。銘は……<<無明(むみょう)>>か。波紋が無い事に由来しているのか?……にしても、さすが竜胆。波紋がないにも関わらず、綺麗な刀だな、おい……大方珍しさと美しさで買ったはいいが、誰かが迂闊に触って飲まれた、というところか。」


 手慣れた手つきで分解し、拵を確かめる内に、カイトはすぐさまかつての仲間の作である事を見て取った。そうして周囲を確かめて鞘が無かったので、村正一門が使っている予備の鞘を取り出して納刀した。尚、後の調べで分かった事だが、この刀の鞘は元の持ち主がここを去る際に持ち去ったらしい。

 そうして、今まで百年以上も抜けなかった妖刀をあっけなく抜いたカイトを見て、シロエが目を見開いて驚きの声を上げた。


「……え?え?えーー!?今まで誰も抜けなかったんですよ!それこそクズハ様、ユリィ様、作り手の竜胆様でさえ抜けなかったんですよ!あなた何者ですか!それに妖刀をあそこまでベタベタ触って全然変化無しって……化け物?」


 幽霊から化け物扱いされたカイトは、たたらを踏んで、シロエを睨む。


「いや、化け物って……お前は幽霊だろ?」

「あ、そうですねー。」


 そう言ってカラカラと快活に笑うシロエ。どうやら幽霊なのに、陰惨さは一切無い様だ。これではただ単に半透明の女の子である。


「でも、本当に綺麗ですよね、竜胆様の作は。いや、私も抜かれた刀が綺麗だなー、て見惚れてたら、お客様にズバーって斬られたんですよ。いやー、痛みも感じない程の名刀。さすがですねー。」


 そう言って照れるシロエ。死んだというのに、イマイチ暗い印象を受けなかった。その様子に恐怖が薄らいだらしい魅衣が思わずツッコミを入れた。


「え?そんな簡単でいいの!?」

「え?なんか変ですか?」

「え?いや……どうなんだろ?」


 シロエに問われた魅衣は、答えに困ってカイトを見る。魅衣とて死んだ奴に死んだ時の事を聞いた事が無いので、答えに困ったのだ。


「いや、オレに聞くな……で、何故営業妨害をしてたんだ?結局この旅館も廃墟になってるじゃないか。」

「あ、廃館は私じゃない……と思います。私が目覚めたのってここ……数十年?ですから。」


 何処か自信なさ気であったが、それでもシロエは自分では無いと告げる。そうして魅衣が何故曖昧なのかを問い掛けた。


「何故疑問形?」

「えーと、始めは意識がぼーっとしてたんですよ。それで覚えてないんですよねー。それで意識がはっきりし始めたのがここ数十年で、偶然肝試しに来た子供達と仲良くなって彼等を脅かし始めたんですけど……私以外にも誰かが居た様な気がしたんで、多分そっちじゃないかなーっと。」


 その言葉に再び魅衣が硬直する。それを見ていたかどうかは知らないが、次の瞬間、飾られていた剣や槍が勝手に浮かび上がり始めた。


「ポルターガイスト!?」


 魅衣の叫び声に合わせて、もう一体の幽霊が顕現し始める。今度は先ほどと異なり、悪意が満載の、まさに悪霊であった。


『くくく……また一人犠牲者がやって……』

「ひっ。」


 魅衣が再び腰を抜かす。それに気付いたカイトが即座に行動を起こした。


「これ以上洗濯物増やされても困るんだよ。消えろよ。」


 そう言ってカイトが指をスナップする。


『最後までき……』

「あ?断る。後ろで惚れた女の衣擦れの音を何度も聞いて我慢できる程、大人じゃないんでね。」


 顕現し始めた幽霊を問答無用で消し去ったカイト。悪霊と見て取った時点で問答無用であった。


「そんな理由!」


 あまりに不謹慎極まりない理由で圧倒したカイトに、魅衣がツッコミを入れる。何故か、怖かった悪霊があまりに不憫であった。


「あっちが騒動の原因か。あっちが自由に行動出来るようになって意識が目覚めはじめたんだろうなー。」


 大方妖刀が抜けた事に呼応して目が覚めた、というところか、カイトは一人そう原因を推測する。


「……えーと。除霊師の方でしたか。」


 一切躊躇する事無く消し去ったカイトを、シロエが引き攣った顔をして警戒する。少し震えているのは、自分も消されると思ったからだろう。とは言え、そんなシロエに対して、カイトは苦笑して告げる。


「まあ、似たようなモンだな。ここで悪さする悪霊を退治してくれたら、この旅館を使っていいと言われてな。で、来たんだが……シロエはどうする?別に強制的にあの世に送ってやっていいぞ?」


 異論はあるだろうが、カイトから言わせれば除霊と成仏の差は強制か自分の意思、というだけの差である。カイトとしては別に害を及ぼす事がなければ、消えなくても構わなかった。


「えーと。除霊ですか?できれば、成仏したいなーと……ダメ?」


 カイトの問い掛けに対して、シロエは上目遣いに問いかける。それにカイトは即答した。


「いいぞ。その代わりここで働いてくれるか?付喪神に近いみたいだからな。コイツから離れられんだろ。」


 そう言ってカイトは妖刀村正を掲げる。


「え?除霊ってそんなのでいいの!?」


 カイトがあっさり了承したので、魅衣が驚く。だが、2人は魅衣を無視して話を続ける。


「そうなんですよね~。この建物全体は動けるんですけど、外は無理なんですよー。で、私でいいなら喜んで!」

「ええー……」


 二人してシロエが掃除する事に同意したので、魅衣が困惑する。


「え?だってオレたちでこの建物全体の掃除やるのめんどくないか?ここ地上5階の地下1階、おまけに鍛冶場と離れにダンスホール付きだぞ?人手欲しいだろ。」

「あー、それもそうね。」


 確かに、これからも冒険部の人数が増えるとはいえ、この建物全体を自分たちで掃除するのはかなりの手間である。そこに考えの至った魅衣が納得する。なんやかんやで魅衣はシロエが幽霊である事を失念していた。


「あ、じゃあほかの付喪神の子達も一緒にいいですか?今も上でお掃除してくれてます。皆いい子ですから、お願いします!」


 そう言って深々と頭を下げるシロエに、カイトと魅衣が顔を見合わせる。上の悲鳴の原因が掴めたのだ。


「……もしかして、さっきの悲鳴って……」

「だろうなー。アル達に連絡すっかな。」

『あ、オレオレ、カイトだ。……』


 そう言ってカイトがアル達に念話で通達した所、どうやら勝手に動く掃除道具達にアル達も対応に苦慮していたらしく、即座に対応した。


「おっし、これで大丈夫だ……で、次はシロエの番だな。シロエには成仏できるまで、付喪神達の統率お願い。」

「はい!」


 シロエがカイトの言葉に頷いて、それで一段落、と言うわけにはいかない。なにせ、シロエが幽霊である事には変わりがないのだ。つまり、物には触れられないのである。


「でだ、魅衣。シロエに触れて見てみ?」

「え?……あ、やっぱり無理なんだ……」



「私幽霊ですからねー。」


  一応幽霊である事を思い出した魅衣が、おっかなびっくりシロエに手を伸ばす。だが、結果は突き抜けるだけだ。当たり前だが、触れられない。それを見て、カイトが笑みを浮かべてシロエに手を伸ばした。


「でも、オレが触れると……」

「うきゃ!撫でないでください!……って、え?」


 単に頭を撫でただけのカイトだが、シロエが可愛い悲鳴を上げて抗議するが、同時に違和感を感じる。


「この通り、オレは触れられます。」


 そう言って今度はシロエの手を取るカイト。魅衣とシロエはカイトが特に工夫も無くシロエに触れた事に唖然とする。それを見た2人が再び触れ合おうとするが、やはり突き抜けてしまった。


「えーと、今まで私、どんな物も突き抜けてしまってるんですけど……」


 これまでシロエが目覚めて、行動しようとしても壁はもちろん扉や食器などの全てに触れることは出来なかった。ポルターガイストも無理らしく、物を動かす事自体が不可能な様子だった。


「まあ、このままだと従業員として雇えないので……」


 そう言ってカイトが指をスナップする。すると、今まで半透明だったシロエの身体が完全に実体を得た。


「これで良し。じゃあ、お二人さん、もう一度。」

「え?あ、うん。」


 そう言って再び魅衣がおそるおそるシロエに腕を伸ばす。すると、今度はどういうわけか、触れられた。


「え?嘘……どうやったんですか!?」

「まあ、世界のシステムにすこーし干渉して、チョイチョイとな。」


 そう簡単に言ったカイトであるが、当然そんな簡単な事ではない。それこそティナでさえ、かなりの時間を要しないと実現不可能な、超高等技術であった。カイトはとある理由から、それを簡単に出来るようになったのであった。


「え?何?使い魔にでもしたの?」

「いや、違うって。あれは既に死んだ奴には使えないからな。本当にシステムをちょっといじって所謂半霊体みたいにしただけ。シロエ、意識して半透明になれるか?」

「え?……うーん!」


 カイトに言われるがまま、シロエは取り敢えず意識して半透明になるイメージで気合を入れて念じる。すると、シロエの身体は再び半透明になった。


「おお!半透明ですよ!」

「で、魅衣。もう一回。」

「あ、今度はすり抜けた。」


 そうして再び一番初めに近い状態になったシロエに対して、今度は大して怯える事なく魅衣が手を伸ばす。さすがに何回もやっていれば慣れるし、そもそもで幽霊にしては幽霊らしからぬ幽霊なのだ。怖くなく成るのも早かったらしい。


「まあ、慣れればすぐに変われるぞ。で、今度は消えるイメージで。」

「はい!うんどぅりゃあー!」


 再びカイトの言葉に従い、シロエは変な気合の声を上げて念じ始める。そして段々色素を失っていき、遂には消滅した。だが、彼女としては相変わらず自分の身体は半透明に見えているので、変化がわからなかったらしい。


『あれ?何か変化ありました?』

「え?シロエちゃんどこ?」


 一方、シロエの姿が完全に消失して見えなくなった魅衣が、キョロキョロと周囲を見渡す。シロエには自身が見えているので、不思議そうな顔をしていた。ちなみにカイトには見えているので、必然シロエは魅衣にも見えていると思っていたのだ。


『え?横に居るじゃないですか。』

「え?え?え?」


 頭に響くシロエの声にキョロキョロと見回す魅衣だが、どこにも見当たらなかった。ちなみに、慣れれば声も響かせぬ様にも出来るのだが、あまり意味が無いので今は教えていない。


『そっちじゃないです!こっち!右です!……もしかして、見えないんですか?』


 不安げにそう言うシロエ。それを確かめたカイトが再びシロエに指示を出す。


「おし、もういいぞ。今度は半透明か実体になってくれ。」

『え?……むーん!』


 そう言って力強く念じるシロエ。そうして再び実体を取り戻した。


「あ、見えた。」

「あ、やっぱりさっきの見えなくなってるんだ。」


 二人して顔を見合わせる魅衣とシロエ。そして顔を見合わせ、試しに握手してみる2人。異常はなさそうであった。


「まあ、従業員が物に触れないと不便だからな。この程度の工夫はさせてもらった……で、雇用契約はこんなもんでどうでしょ。」


 そう言って契約書を魔術で創り出し、シロエに見せる。公爵家で使用している、正式な書類であった。


「えーと……え!こんなに!」

「あ、もっといる?」


 学園からの予算ではなく、公爵としてのカイトが私的に雇った形にするので、別にこの程度では一切懐が傷まなかった。ここまでカイトの独断で事を進めているので、学園の予算に手を付けるわけにはいかないのである。


「と言うか高すぎです!月給金貨15枚なんて……幽霊にこんな払うヒト見たこと無いです!」


 金貨一枚が日本円で1万円に相当するので、月給15万というところである。ちなみに、手取りだ。一見低いようにも見えるが、実際には住み込みで公爵家から衣服は支給されるし、幽霊なので食費はいらない。つまり、完全に手間賃だけである。低いどころか十分だと言える。


「あ、幽霊にも賃金契約結ぶのって一般的なんだ……」

「いえ、私も聞いたことないです!というか、さっきの幽霊さんが私が見た初めての幽霊です!……私以外ですけど!」


 そう言って胸を張るシロエ。何故か偉そうだった。ちなみに、カイトもシロエと先の悪霊を入れてもそれほど多いわけではないし、そもそもで幽霊と雇用契約を結ぶのは初めてである。


「まあ、飯は食わんでも死なんが、実体を持てば飯を食うことも出来る。生活費はいらんだろうから、娯楽用の給料ってことで一つ。まあ、付喪神たちは人型になれるまでは丁寧に扱ってやればそれでいいからな。他のやつに無碍にしない様に言えばいいだろ。」


 シロエは今は浮いているが、実体状態で浮きさえしなければ普通の少女と見分けがつかない。普通に買い物に出かける事も出来るだろう。他の付喪神達が人型になれるようになれば、またその時相談すれば良いだけの話であった。


「あ、服も脱げるようになっている筈だから、おしゃれも出来るぞ。」

「え?……あ、ホントだ!」


 シロエがカイトに告げられて少し驚いた様子でおもむろにメイド服を脱ぎだした。それを見て魅衣は慌ててカイトの目を塞いだ。


「シロエちゃん!今すぐ服着て!」

「え?あ、きゃあ!すいません!」


 いそいそと乱れた服を整えるシロエ。魅衣はそれを確認してカイトの目を塞いでいた手をどけた。


「おーし、んじゃ全員に挨拶行くか。」

「え?全員?」

「まあ、そろそろ他も掃除終わってる頃だろうしね。」


 シロエと付喪神達によって掃除されていたので、殆ど何もすること無く終わった2人。主に掃除したのは魅衣の粗相の後始末であった。


「ああ、ここの新しい住人達だよ。」


 カイトが笑い、急遽雇い入れた新たな仲間を連れて、部屋を後にする。そうして三人は連れ立って、集合場所へと向うのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第163話『妖刀』


 2015年8月1日追記


 上から三行目『~身だしなみの道具は』で途切れていた文をきちんと執筆しました。

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[一言] すいませんさっき誤って誤字報告してしまいました  最後まで読まず早とちりしてしまったので無視してください
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