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第161話 肝試し

天桜学園の他の生徒達が地上階の掃除をしている頃。カイト達冒険部創設メンバーは地下の掃除を行うために地下に降りていた。


「地下は元は小部屋に倉庫予定だったそうだが、設計段階で総支配人とオーナーの集めた美術品の展示室になったそうだ。」

「他にも地下ダンスホールがあるよ。昔一度招かれた事あるけど、かなり大きなホールだよ。」


 地下室の各部屋に繋がるスペースでカイトが説明する。今はまだ各所に取り付けられた照明を使用可能にしていないので、日の登っている時間でも、地下室は暗かった。それ故に全員には冒険者用に創られた魔導具のカンテラを配布している。ちなみに、無理矢理連れて来られた魅衣は諦めたらしい。


「……それはいいから!どこでその従業員が死んだの!」


 完全にぶるぶると震えながら、魅衣がカイトに問いかける。が、カイトはあっけらかんとしていた。


「さあ……知らね。」

「ちょっと!」

「まあ、この部屋じゃ無いな。刀無いし。……全員集まって掃除すると時間掛かるから、取り敢えず班を幾つかに分けて掃除する。と、言うわけで……ユリィ!」

「はーい!」


 ユリィが前もって用意していた割り箸を取り出す。割り箸の先端は青、赤、黄、緑に色分けされていた。


「はーい、全員一個選んでー。あ、魅衣も。」


 未だカイトを掴んだままの魅衣にユリィが割り箸を差し出す。そうして真っ先に目の前に差し出された魅衣も訳の分からない呻き声を上げながら、しぶしぶ割り箸を摘む。さすがに後が混んでいるので、掴まざるを得なかったのだ。


「はい、いっせーの!」


 ユリィの掛け声に合わせて全員が一気に割り箸を引き抜いた。


「で、この組み合わせか。」


 そうして決定した組み合わせはこうなった。


「オレの所は魅衣のみ。」


 カイト・魅衣のペア。


「俺の所は翔、凛か。」


 瞬・翔・凛の運動部組。


「余の所がソラと由利で……」


 ティナ・ソラ・由利のトリオ。


「私の所がユリィちゃんと瑞樹ちゃんですね。」


 桜・瑞樹・ユリィのユリィの悪戯が困難な組み合わせ。


 「さて……じゃあ、地図見るか。」


 一同はチーム毎に別れて、取り敢えず担当する掃除部屋を決める為、カイトが地図を取り出した。尚、何処がなんの部屋なのかわからなくするため、簡単な見取り図である。


「じゃあ、オレんところが人数少ないから、小さいこの二部屋だな。」


 まずはカイトが最も小さな部屋二つを担当する。そして、地下の見取り図を見れば、それなりに大きな部屋が一つあり、まじめに掃除していたのでは終わりそうにない部屋だった。それとともに、それに隣接して中位の部屋が二つある。なので、カイトはそこに使い魔を使える二人を配置する事にした。

 ちなみに、地下がそれなりに広い事がわかっていたので、実は肝試しにかこつけてこのメンツにしたのである。そうしなければ満足に使い魔を大量動員出来ないのだ。


「えーと、ティナとユリィは使い魔ありだから……この三部屋を掃除してくれ。分け方はそちらで決めてくれ。」

「では、余はダンスホールを掃除するかの。使い魔とゴーレム達を総動員すれば、遅くとも昼過ぎには終わるじゃろう。」

「ダンスホール……ねぇ。」

「どしたのー?」

「嫌な事思い出した。」


 由利の問い掛けに、ソラがそう言って少しだけ嫌そうな顔をする。ソラは生まれが最上流階級なので、社交ダンスにもそれなりに縁があるのだ。


「ん?では、やめるか?」

「いや、いいよ。」


 とは言え、ソラとて別に絶対に嫌というわけではない。なので引き受ける事にしたらしい。


「では、私達は残りの二部屋ですね。あ、調度品が残っていた場合はどうすれば良いでしょうか?」


 地球の調度品とは異なり、魔術を使用している調度品も少なくない。地球なら多くの高級調度品を扱っていた桜とて、勝手の異なる異世界の調度品を無闇に扱えないのであった。


「ああ、それならティナと瑞樹が知っている。」

「余は元々魔王じゃからな。さすがに扱いも慣れておるわ。」

「私も大丈夫だよ。これでも学園長だからね。」


 そう言って先ほどまで自分の使い魔を呼び出していたユリィがひらひらと挙手する。見ればユリィの周囲には幾つかの魔法陣が浮かんでいた。そこでふと、桜が瑞樹が知っている事に疑問を覚えた。


「……あれ?瑞樹ちゃんはどうして知っているんですか?」

「カイトさんの正体を知った後から、ちょっとずつですけど、此方の美術品を見せて頂いてますの。この間も2人で美術館へ行きました。カイトさんが集めた美術品なども飾られており、かなり勉強になりましたわ。その際に多少の扱い方もお聞きしておりますわ。」


 カイトも趣味や実用として美術品―カイトは主に武具系統―を収集している。さすがにカイトも保管の専門家ではないので、市民への教養も兼ねて、美術館で一般公開しているのだった。で、当然だがカイトが言えば大抵の物は見れるので、その伝手で瑞樹が良く足を運んでいるのであった。これは完全に彼女の趣味である。


「……そうですか。」


 嬉しそうな瑞樹を見て、桜は何か言いたそうであったが、桜とてカイトと2人で出かけているので、何も言えなかった。それは置いておいて、瞬が自分達の割り振りを問い掛ける。


「じゃあ、俺達は残った二部屋か?」

「ああ、頼んだ。一応そっちの二部屋は本来の倉庫としての使い方をされているらしいから、調度品などは無いはずだ。」

「……それで、もし幽霊に遭遇した場合は?」


 いよいよ本題とばかりに、ソラが問いかける。それに合わせて若干不機嫌になっていた桜も含めて、他の面子がゴクリ、と喉を鳴らした。


「まあ、ウチはいいとして……ソラと由利はティナに、桜と瑞樹はユリィに、伝える。それでオレが出向けば大丈夫だ、と思う。」

「……俺の所は?」


 唯一方法が伝えられていない瞬が問いかける。


「逃げろ。」

「は?」


 あまりに簡潔に伝えられた言葉に、瞬達三人が思わずきょとんとなる。そしてカイトは大事なことなので繰り返した。


「逃げろ。」

「大事なことなので二回言いました、じゃ。」

「いやねぇ……既に死んでるから無敵で、攻撃しても意味ない。そんな奴に出逢えば負けじゃね?」


 本来の性格に戻っているので、カイトはかなりいい加減である。彼はけらけら笑いながら告げた。


「カメラが欲しいの。それか掃除機。」

「あ、丁度マンションになりますから、掃除機でいいですね。」


 元ネタが分かった桜が和やかに乗ってきた。最近空いた時間にティナが密かに持ち込んでいるゲーム機で色々なテレビゲームをプレイしている桜。段々とゲーム知識が蓄積されていた。ちなみに、元ホテルなのだが、今後の運用方法としてはマンションに近いのであながち間違いでは無い。

 尚、件のゲーム機はカイト所有の異空間―というかカイト達の寝室―に設置されているため、他の面子も時々密かにカイトの部屋に集合して遊んでいる。まあ、今回の引っ越しで異空間も殆ど必要なくなるので、堂々とカイトの部屋に居座る様になるだろう。


「いや、笑い事じゃないぞ!逃げろって、どうやればいいんだ!」

「はい。これに魔力を使って目眩まししてください。」


 とは言え、そんな風に和気藹々と巫山戯られるのは、関係が無いからだ。なので、このままでは対処不能な瞬が怒鳴る。そんな瞬に、ユリィが御札を渡した。


「……これは?」

「まあ、簡単にいえば、単なる目眩まし。対幽霊用に作られてて、生きている奴には効果が無いから、その隙に逃げろ。後は大声でオレを呼べ。まあ、当たり前だが、幽霊がいる以上、こういうのも普通に開発されている。今後街から遠く離れる時には、こういうのをまとめ買いしとけば旅がしやすくなるぞ。除霊が出来る奴なんて稀だからな。」


 明らかに御札なのだが、瞬が御札を眺めながら問い掛ける。それに、苦笑してカイトが告げた。瞬達対処方法が無い面々は一抹の不安を感じつつも、御札を受け取って、他の二人に配る。取り敢えずは考えられているのなら、文句も言い難かったのだ。


「じゃ、解散。」


 カイトがそう言って、一同は解散し、各々割り当てられた部屋の掃除に向かったのであった。




「うぅ……カイト、離れないでね?」


 そうして移動の最中。魅衣はカイトの片腕をしっかりとホールドしていた。薄いとはいえ無くはない胸に腕を挟まれたカイトは、かなり身動きが取りにくかった。まあ、その代わりに腕に当たる感触を楽しめるので不満はなさそうだった。


「はぁ……前から思ってたんだが、幽霊の何が怖いんだか。」

「なんであんたは怖くないの?」

「え、だって幽霊って……コイツとか。」

「私ですわね。」


 そう言ってルゥが顕現する。


「コイツとか。」


 そう言って魅衣が見たこともない黒い肌、金色のショートカットの髪を持つオリエンタルな美女が顕現する。


「……」

「あら?ファナ、何故何も言わないんです?」

「……偶には無口キャラもいいかな、って。」

「それを言っている時点で終わってんだろ……」


 あまりにどうでもいい理由にカイトが肩を落とす。


「……誰?」

「旦那様の使い魔の一人ファナよ。初めまして。あ、一応生前は獣人族の一部族の族長やってました。」

「あ、初めまして。」


 ファナが右手を差し出して、魅衣も右手を差し出して、両者が握手する。今後共長い付き合いとなりそうなので、魅衣も素直にそれに応じたのである。まあ、使い魔なので気にする必要も無いことも大きい。そうして、簡単な自己紹介が終わった所で、カイトが告げる。


「この2人ってほぼ死んでる所でオレと契約して魂だけ延命したから、見方によっちゃ幽霊だしなー。」


 後少しで完全に死ぬ、というところでカイトと契約し、魂のみとなって生きているので、見方によっては確かに幽霊である。


「……あ、それもそうか。」


 魅衣も普通に話しているので気付かなかったのだが、確かにカイトの使い魔達は幽霊の様な存在であった。それを思い出した魅衣が少しだけ落ち着く。だが、次の瞬間、上層階から悲鳴が聞こえた。


「いやー!」


 それに、魅衣が叫び声を上げて再びカイトにしがみつく。とはいえ、カイトも上層階から悲鳴が上がるとは思っていなかったので、即座に上の面子に念話を繋げる。


『何があった?』

『……今聞いたのですが、部屋を勝手に掃除する箒が……』

『は?』


 帰って来たリィルの困惑する声に、カイトも眉を顰めて困惑する。そんな報告は一切上がっていないし、おそらくクズハやユリィも知らないだろう。そうして、続けてアルが更に報告を行う。


『他にも、白い発光物を見た、バケツが勝手に動いた等報告が上がっているみたいだよ。それに、上層階はかなり綺麗に掃除されてるよ。シーツなんかも取り替えられていて、今からでも泊まれるよ。』

『上層階もか。ここ数年は誰も立ち入って無い筈だ……一応気をつけてくれ。地縛霊じゃないのかもしれない。念の為にルゥとファナ……ああ、使い魔二人を送るから、いざとなったら彼女らの指示に従ってくれ。』

『うん。そっちも気をつけて。』


 実は密かに上に居る各員にも瞬に渡した物と同じ御札を渡しているので問題は無いはずであるが、気をつけさせるのに越したことはない。なので、カイトはそれに加えて丁度呼び出した二人を送り出すことにした。


「ルゥ、ファナ。悪いが念の為各階の見回りを頼む。絶対に見つかるな。」

「わかった。隠れて脅かせばいいんだよね?」


 絶対に、と言われればやりたくなるのが人情である。ウキウキし始めるファナをカイトが大急ぎで止めた。


「違うわ!……ルゥ、頼んだ……見つからない様にな。」


 2人の存在を知らない生徒達が見れば、2人は幽霊そのものである。と言うか、あながち間違いでは無い。その気になれば魔術的な痕跡を一切残さず一瞬で消え失せる事も出来るので、簡単に怯えさせられるのだ。


「はい、旦那様。ファナ、行きましょう。」

「えー。」


 そう言って2人は密かに上層階を見守る為に去っていった。


「はぁ……で、またこれか……」


 魅衣は再びカイトにしがみついてビクビク震え始める。この調子だと、掃除が開始できるまで、まだまだ時間が掛かりそうであった。




 そうして暫く。カイトさえ苦笑を浮かべるしか無い光景が目の前に広がっていた。


「……これは、また……」

「嫌!絶対いやー!」


 なんとか一部屋の掃除を終えて全員で昼食を食べ、残りの一部屋の掃除を行おうと最後の部屋の前に立った2人。だが、入り口を見て2人は立ちすくんだ。最後の部屋の扉には、至る所に御札や呪符が貼り付けられていた。明らかに出ますよ、と言っている様な物であった。


「ドアノブにまで御札を貼り付けるか……ん?誰か入ったのか?」


 見ればドアの部分の御札が破れていた。もしかしたら近所の子供が肝試しに入ったのかもしれない。


「いやー!言わないで!」


 そう言って頭を振る魅衣。今すぐにでも立ち去りたいが、怖くてしがみついたカイトから離れる事も出来なかったのである。なので、次のカイトの行動は止めることも逃げ出すことも出来ずに、只々なすがままを見ているだけだった。


「さて、じゃあ、オープンザドア。」

「いやー!」


 カイトは除霊も可能なので一切恐れること無くドアを開け放つ。そしてためらうこと無く入室。


「あ、あれが件の妖刀か。」

「え?……どれ?」


 顔を上げた魅衣が、目の前で地面に突き刺さっている刀を発見する。と、それと同時に、頭に声が響いた。


『我が眠りを妨げるのはお前達か……』

「ひっ!」


 いきなり鳴り響いた声に、魅衣がすくみ上がる。これにはカイトも身構えたが、そこでふと、違和感を感じる。悪霊と言うには、気配に可怪しい感じがあったのだ。まあ、これは除霊が可能で何度も悪霊を払っているカイトだから分かることである。


『誰ぞ?余はここに取り憑いた偉大なる幽霊だ。その眠りを妨げる者には……相応の報いを与えん!』


 そう言って一気に魔力が集まり、幽霊が顕現する。


「いやーーー―!」


 絶叫と共に、魅衣が腰を抜かす。顔は真っ青になり、今にも泣き出さんばかりであった。だが、これに驚いたのは、なんと顕現した幽霊の方であった。


「……あれ?いつもの子達じゃない?」

「ふぇ?」


 腰を抜かした魅衣が様子の変わった声に顔を上げる。そこにはおどろおどろしい幽霊では無く、半透明の可愛らしい少女が浮かんでいた。


「え?もしかして、私、やっちゃいました?」


 カイトと魅衣を見て、目をぱちくりする幽霊。幽霊はメイド服を着た半透明のショートカットの快活そうな少女であった。そうして、幽霊少女は自分が知る子供達では無いことを見て取ると、大慌てで頭を下げた。

 ちなみに、幽霊少女が予想していた人物達だと、彼女が現れると同時に悲鳴を模しているらしい楽しげな可愛い声を上げて、楽しげな笑顔を浮かべるのである。それ故、自分について何も知らず、完全に怯えきって腰を抜かした魅衣を見て、可怪しいと気付いたのだ。


「……ごめんなさい!いつも来てくれている子供達だと思って、ついやっちゃいました!……えーと、あの、その、ごめんなさい……大丈夫ですか?」

「え?」


 幽霊少女は魅衣に向かってそう言ったが、すぐに気まずそうに顔を逸らした。それに、魅衣が腰を抜かした状態で首をかしげる。この時点で、魅衣は自分の違和感に気付いていなかった。


「えーと、魅衣。非常に言い難いんだが……替えの服と下着は持ってる……わけないか。」


 カイトも同じく顔を逸らして告げる。さすがのカイトも少しだけ顔が赤らんでいた。


「え?……あ。」


 その反応に自分の周りを見る魅衣。そこには黄色い水たまりができていた。それに気付いた魅衣は、段々と顔が赤く染まっていく。そうして遂に悲鳴を上げそうになった魅衣を見たカイトは、即座にドアを閉めて周囲に消音の結界を張り巡らせる。


「いやー!」


 魅衣は先ほどとは異なり今度は真っ赤に顔を染め、羞恥による悲鳴を上げる。恐怖から開放された安堵感から失禁したのであった。そうして魅衣はこの事を三人だけの秘密に約束させ、この一件は闇に葬られたのである。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第161話『幽霊?』

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