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第160話 お掃除

 冒険部の引っ越しが決定した翌日以降、カイト達冒険部の面々と、教師陣による人員の選定が行われていた。


「では、残るのは菊池先輩率いる十名で決定で。引き継ぎは風紀委員会が訓練終了後、半月の移行期間を設ける、ということでいいですね?その後は一ヶ月ごとに冒険部の人員が輪番で交代するということになります。」

「本当に天音が向こうに行くのか?お前達が今のところウチの最高戦力だろう?残るのならお前が一番だと思うんだが……」


 教師の一人がカイトの渡航を引き止める。


「ええ、まあ、此方の守りを考えればそうなるでしょうが……急に貴族等の来客があった場合に、任務ならともかく別件の、しかもほぼ常にギルドマスターが本拠地に居ないのは問題視されかねません。」


 本拠地を天桜学園で登録するわけには行かない冒険部の面々は、未登録だったユニオン本部への提出書類のギルド本拠地登録をマクスウェル中央区の新居とした。そこにカイトが依頼以外で居ないのは、確かに問題であった。


「それに、敢えて今まで冒険部のカイト・アマネ名義で色々と名前を売り込みましたので……」


 レーメス伯爵への殴り込みで、カイトが敢えて名乗ったのはそのためである。伯爵邸の惨状を見た者であれば、カイトがかなりの実力者であることは一目瞭然であった。そこから密かにではあるが、噂が広がり、カイトの実力も広がるだろう。そうなれば、冒険部の今後の活動も少しはやりやすくなる、という判断であった。


「確かに、天桜学園の名前を広めるわけにも行かないか……」


 名を挙げて、広く情報と人脈を集めたい天桜学園側であるが、これには問題もあった。有名となり、地球の技術目当ての要らぬ厄介事を持ち込まれても困るのだ。

 それを考れば、天桜学園冒険部という組織の名前を売るわけにもいかない。天桜学園とは何なのか、と調べられて、要らぬ輩に本拠地を本格的に調査に乗り出されても困るのだ。では残るは、それを率いる面子の名前で売り出すしか無いのであった。


「すまんな……天音や天道、一条には迷惑を掛ける。」


 今現在、冒険部で名前が知られ始めているのは、カイトと桜、瞬である。それ故に教師が謝罪したのだ。

 現在、創設の面々は敢えて、冒険部の名前をあまり大々的に出さない様に、と密かにカイトから指示が出されているので、マクスウェル近郊に限定されるが、個人の名前がそれなりに売れ始めているのである。とは言え、これは学園に力が備わるまでの一時的な処置だ。そこまで負担と成るとはカイトは考えていなかった。


「いえ……これで決定でいいでしょうか?」


 桜がそう言って最終確認を取る。これで許可が降りれば、後は残る人員に通達し、引っ越しを残すのみとなる。


「うむ。では、よろしく頼む。」


 最終的に桜田校長が許可を出し、会議は終了した。




 そして、三日後の早朝6時。遂に引っ越しの時を迎えた。


「じゃあ、これで荷物は最後ですね?」


 そう言って公爵家から派遣された業者がカイトとユリィに確認を取る。


「ああ。オレはこれだけだ。」

「私はこれだけだし、残りはカイトの手荷物に入れていくから大丈夫だよ。」

「えらく少ないですね……」


 係員が、二人分の荷物にしてはあまりに少ない荷物に苦笑する。50センチ四方の箱に箱詰めして五箱である。それも全てかなり軽かった。疑問に思うのも無理は無いだろう。それにカイトも苦笑を返すが、まさか自分で異空間の中に入れています、と言えるはずもなく、代わりに頭を下げた。


「まあ、な。じゃあ、よろしく頼みます。」

「はい。では確かにお預かりしました。」


 とは言え、本人達がそれで良いと言っているのだから、運ぶのが仕事の者としてはそれに従うだけだ。なので、従業員はカイトに受け取った事の確認証を受け渡し、荷物を飛空艇に積み込んだ。中には他の生徒達40人分と、一緒に行く教師数名分の荷物が積み込まれていた。


「少ないも何もねぇ……私達私物自分ちに置いてあるからねー。」

「まあ、見せかけの荷物だけだからな……」


 2人に加えてティナの嵩張る荷物は元から公爵邸の自室に収納しているのだ。帰宅にしても転移術を使えば、徒歩一分どころか徒歩一歩だ。そもそも学園に持ち込んでいるのは、かなり少なかったのである。

 だが、少なすぎても怪しまれるので、幾つか公爵邸からいらない荷物を持って来て、梱包し、運んで貰うことにしたのだった。まあ、二度手間の様な気がしなくもないが、偽装工作なので致し方がないだろう。


「さて、オレたちは歩くか。」


 運賃の問題から、多くの生徒が歩く事になっている。乗って行くのは、数名の荷物番の生徒と、歩いてマクスウェルの街まで行くには時間が掛かり過ぎる教師たちであった。


「乗ったほうが楽なのにー。」

「お前はどうせオレに乗るだろ?」

「まあねー。」


 そう言って浮いていたユリィがカイトのコートのフードにすっぽりと収まる。朝が早かったからか、ユリィはそのまま寝入ってしまった。既に300歳を超えて一つの学園で学園長をやっているというのに、相変わらずの子供っぽさであった。カイトはそれを確認して少しだけ苦笑して、他の生徒の状況を確認する。


「全員用意できたな?」

「こっちはオーケーだ。」


 そう言って由利の荷物を運んでいたソラが片手を上げる。


「ありがとー。」

「いや、いいって。他は大丈夫か?」

「余は元々向こうに荷物を置いてあるからの。問題無い。」

「いっそ私達もカイトの家においておこうかしら……」


 急な転移で私物が少ないとはいえ、6ヶ月近くも生活すればそれなりに荷物も出て来る。それ故に魅衣がぼやいた。


「あら?魅衣さんはまだ持って行って無かったんですの?」


 そんな魅衣を不思議そうに瑞樹が見ていた。桜も同様である。


「え?」

「いえ、私達は早々にカイトくんに頼んで荷物を公爵邸に移させていただきましたよ?」

「ええ。」


 桜と瑞樹が二人して頷く。それに、魅衣が目を見開いて驚いていた。


「え?嘘!いつの間に!」

「てーか、カイト!それなら俺達にも教えてくれ!」


 同じく驚いていたのは、ソラと由利だ。二人共何故言ってくれなかったのか、と不満気であった。


「え?いや、普通に聞いたぞ?」

「え、ええ。割れ物とかあったら預かると仰ってました。」

「え、嘘!いつ!」

「引っ越しの話が出た時に言ったぞ?」

「……あ!」


 瑞樹も同意して、更にカイトが何時言ったのかを告げると、魅衣がはっとなって思い出した。どうやら浮かれていてすっかり忘れていたらしい。


「今から……は意味ないか。」


 最後であった由利の荷物もすでに荷詰めも終わり、ソラが運び込んだ後である。


「そうだな。」

「はぁ……無駄骨……」


 そう言って落ち込む面子を他所に、飛空艇が飛び立っていった。


「さて、オレ達も行くぞ。掃除道具は向こうで貸し出してくれるから、後は急いで向うだけだ。今日中に人海戦術で掃除は終わらせる予定だから、急ぐぞ。」


 そう言ってカイトを先頭に、全員がマクスウェルの街へと向かったのだった。




「到着。ここが新居だ。」


 途中、数度戦闘がありつつも、人数差で圧倒的なスピードで戦闘を終わらせたことで、8時迄には到着した一同。その後、一度全員近くの軽食屋や屋台で朝食を食べて、学園指定のジャージに着替えた後、元ホテルの前に集合した。


「さて、全員中に入ってくれ。」


 飛空艇に乗っていた教師達も来た事を確認したカイトはそう言ってクズハから受け取った鍵で旅館のドアを開ける。だが、そこで直ぐに違和感があった。


「……あれ?掃除されてる?」


 カイトの肩に乗っていた為一番乗りのユリィが首を傾げる。中に入ってそうそうに一同を出迎えたのは、エントランスと思しきフロアであった。100年以上も放置されていたので、埃だらけだと思っていた一同だが、何故か埃一つ落ちていないぐらいにまで、掃除されていた。


「なあ、ユリィ。クズハから何か聞いているか?」

「……ううん。確か公爵家から人員が派遣されたのは五年前だから、こんなに綺麗なはずは……」


 小声で確認しあう2人。他の面子は先んじて公爵家が掃除してくれたもの、と疑問に思っていない。


「……まあ、いいか。では、全員。掃除を始めてもらいたいんだが……」


 そう言ってカイトが自然光しかないロビーで声を顰める。


「見てもらったらわかると思うが、こんなにいい物件が廃墟となるのには理由がある。」


 そうして身振り手振りを交えつつ、この旅館の裏事情を説明し始めるカイトとユリィ。非常にノリノリであった。


「と、まあそういうわけで、その従業員の幽霊が出る様になったらしい。その点に注意しつつ、掃除してくれ。一応17時には一旦ロビーに全員集合で状況を報告するように。遅くなるようだったらテントなどを敷地に張る必要があるからな。」


 所々で怯える生徒達を内心で笑いを堪えながら、2人は締めくくる。


「まあ、死んだのは地下の宝物庫だから、気にする必要はない。心霊スポットも地下だからな。」

「……なるべく近づかない様にしようぜ……」


 カイトの言葉にソラがそう言うが、そうは問屋が卸さない。このためだけにずっと隠し続けてきたのだ。逃げられては困る。


「あ、冒険部の創設時の面子はオレと一緒に地下な。後で専門家も来るから、それを待って地下で除霊で。」

「ぎゃー!」


 その瞬間。創設時の誰かの悲鳴がエントランスに響いた。その悲鳴にカイトは笑みを浮かべて、続けて指示を下す。


「アル、リィル達公爵軍の面々は地上階の掃除の総指揮を頼む。ああ、別にキッチンなどの生活に必要の無い場所を除いて後で構わん。他は使用するのは第二陣が使い物になってからだから、まだ少し先だ。」

「はい、わかりました。……少し幽霊も見たかったですね。」

「そうだねー。あ、カイト、もし見つかったら連絡頂戴。僕らも急いで向かうから。」

「あ、私も見たい!100年以上生きてるけど、幽霊なんて見たことないわ!」


 リィルが少し残念そうに呟くと、アルとティーネもそれに同意する。そうして、アル達他の面子は近づかなくていいと安心して―アルやリィル、ティーネ等の一部の面子はカイトの発見の報を心待ちにしつつ―各自割り当てられた掃除場所へと向かったのであった。




「うう……やだ!」


 一方。残されたメンツの中で、魅衣が涙を浮かべながらそう言う。悲鳴を上げまくっていたのは彼女である。


「いや、でも誰かが地下も掃除しないと行けないからな……魅衣は怖いの苦手なんだよ……」

「え、ホント?」


 最後の部分を小声で言ったカイト。それを聞いたユリィが途端に嬉しそうな顔をする。悪戯をする気満々であった。


「知ってるんだから、始めから伝えてよ!」


 魅衣は涙を浮かべて抗議する。魅衣とてグール等の魔物とも戦っているのだが、触れられる魔物と触れられない幽霊とではやはり勝手が違うらしい。


「いや、悪い……と、少しタイム。」


 尚も抗議しようとする魅衣を横目に、カイトが今の自分と同じ分身を一つ創り出す。そろそろ専門家とやらを出しておかないと、何時来るのだと教師に言われそうだったのだ。


「うわー、なんか変な感じだな……」


 横に並んだカイト2人を見て、ソラがボソっと呟く。


「で、どうするんだ?」

「ああ、ちょっと待て……」


 そう言ってカイト―本体―の身体が光に包まれる。光が収まった後には、カイトの本来の姿があった。


「は?」

「おっしゃ、これでおけ。んじゃ、まずは教師に挨拶してくるか。」

「オレが案内役となるわけだ。」


 カイト2人に挟まれ、ステレオにカイトの声がする魅衣が混乱する。それを尻目にカイト2人は連れ立って教師の元へと向かっていった。

 雰囲気はあるものの、顔は更に幼さが消えて精悍に、蒼髪蒼眼で年齢が二十代半ば、身長も少しだけ高い等容姿はかなり変わっている。余程迂闊な行為さえしなければ、知り合いに会った所でバレることはないだろう。そうして挨拶を終えたカイトが戻ってきた。


「おし、んじゃこっからは肝試し風で行くぞー。」


 カイトはそう言って楽しげに出発しようとする。地下の扉を開けた瞬間、分身体を消失させた。


「全員固まってねー。はぐれるとどうなるかわからないよー?」


 カイトの肩に乗っかり号令を掛けるユリィ。敢えて怖がらせる当たり、悪戯好きであった。


「うむ。まあ、はぐれても死ななければ余が見つけよう。」

「じゃあ、お願いしますね?」

「では、行きますわ。」


 そう言ってティナ、桜、瑞樹がカイトの後に続く。桜と瑞樹はカイトが居たため、問題なく進んでいく。一方、それを見つつ、意外な程にノリノリな男が一人居た。瞬である。彼は顔に笑みを浮かべながら、足を踏み出した。


「幽霊か、面白そうだ。」

「え?先輩大丈夫なんですか?」

「まあな。これでもお化け屋敷は大好きだ。」

「昔は遊園地に行く度にお化け屋敷に行くぞーって言ってたもんね、お兄ちゃん。」

「この何が起こるかわからないのがたまらないんだ。翔、ソラ、お前達も行くぞ。」

「うっす。」


 意外な一面を見せる瞬と、それに付き合って慣れている凛に続いて、翔も地下室へと入っていく。それを見て、ソラと由利が顔を見合わせる。


「え?いや、あの……行くか?」

「えーと、うんー。魅衣、行こー?」


 ここまで全員乗り気で平然と先を行かれて、いまさら後に引けなくなったソラと由利が続こうとして、魅衣を見る。


「いや!」


 だが、魅衣はそれを見ても尚も拒み続けるので、焦れたらしいカイトが戻ってきた。


「はーい、一名様ごあんなーい。いい加減諦めろ。」

「いーやー!」


 陽気に告げたカイトが魅衣を強引にお姫様抱っこの要領で抱き上げる。いきなり抱き上げられた魅衣はそのままカイトをボコスカと殴り始めた。是が非でも行きたくないらしい。


「いて!なぐんな!」


 そうして一同は―約一名強制だが―地下室へと向かっていったのだった。ちなみに、魅衣を抱きかかえているカイトは実はカイトの分身でも本人でもなく、ユリィが創り上げた紛い物だと魅衣が知るのは、カイトの下にまで連行されてからである。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第161話『肝試し』

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