第156話 動き出す皇国
すいません。昨日は次回予告で閑話と書きましたが、本編に結構関係がありそうだと思いましたので、本編に組み込みました。あれ?と思わせた場合は申し訳ありません。
予告は予告、とご了承下さい。
俊樹少年が死亡した少し後。レーメス領でも事態が進んでいた。
「これは……一体何が?」
そう言ってカラトが呆然とレーメス伯爵邸を眺める。
「あ、すみません。」
「ん?ああ、失礼。」
伯爵邸に通じる道の真ん中で呆然と眺めてしまっていたので、前から来たメイドの一人にぶつかってしまった。カラトは、自分が呆然としていた所為なので、少し申し訳無さそうに道を譲る。
「縦に真っ二つ……ですな。坊っちゃんはご無事でしょうか……」
同じく横のキーエスも呆然としている。かつてレーメス伯爵の教育係を務めていたキーエスは、心配から昔の呼び方をしてしまった。
「はぁはぁ……カラト隊長!情報が来ました!伯爵はご無事です!」
大声を上げて、大慌てでカラトの部下が駆け寄ってきた。そうして、レーメス伯爵の無事を聞いた二人は、喜色を顔に浮かべた。例え冷遇されていようと、主は主。2人がレーメス伯爵を心配する気持ちに曇りは無かったのだ。
「そうか!伯爵様はご無事か!それで、何があった?」
「は!それが……どうにも古龍の御三方が来られた用です。」
部下は真っ青になりつつ答える。その言葉に2人の顔も真っ青になる。
「な!……伯爵邸が吹き飛ばされるどころか、街が吹き飛ばなかった事が幸いか……」
古龍が三人も来たのだ。小さな城程度もある家が真っ二つになる程度、小さな被害でしか無かった。逆に二人はこれを幸運としか見れなくなる。
「それで、伯爵様はご無事か?」
「は……只、かなり怯えていらっしゃるご様子。」
まともな人間であれば、彼女らの悋気を前にすれば卒倒するのが常である。怯えるのも無理は無い、2人はそう判断した。しかし、彼らの判断はこの数十分後に覆る事になる。
「そうか……して、謁見についてはどうなっている?」
そうして、更に部下は続ける。
「は、お二方には今すぐ謁見するように、との指示を受けております。」
「そうですか。わかりました。」
「もう下がって良い。」
「はっ。」
キーエスとカラトにそう命じられた部下は、小さく頷いてその場を離れていった。残された2人は同時に溜め息を吐いた。主の生命があった事を幸運に思うが、今回の一件での愚行にはほとほと肝を冷やしたのだ。
「まさかあの方々が直々に動かれる事態になるとは……」
「命があった……いえ、街が無事であった事を喜ぶべきでしょうな。」
「これで、少しは閣下もお考えを改めて頂ければ良いのだが……」
小さな望みを得た2人は、伯爵の所に向かい、歩いて行く。伯爵邸に入ろうとした二人だが、二人の予想よりも謁見はすぐに行われることになる。そうして謁見した伯爵は、いつもよりも覇気がなかった。いや、それどころか何時もは執務室等で行われる彼らとの謁見も、今日は彼の寝室だった。
「おお、2人か。急に呼び立ててスマンな。」
「はっ、我らは閣下の臣です故、何時でもお呼び立てください。」
「それで、これは一体……」
カラトが周囲を見まわす。伯爵の寝室から伸びた斬撃の跡は、建物だけを切断した。その言葉にレーメス伯爵がカイトを思い出し、小刻みに震え始める。そして、彼は小さく呟いた。
「化け物だ……儂も天竜を飼うなど、それなりには民が恐怖を感じる存在に対しては耐性をつけておる。だが、それでもあれは別じゃった……」
そう言って、震える自分を抑えるべく、一度深呼吸をする。そうして震えが治まった所で、再び彼は口を開いた。
「儂は……年嵩の龍族とも会談したこともある。が、あれはそんな生易しいモノではなかった。あれは……なんだ?古龍の御三方さえ霞んで見えた。」
その言葉に2人は目を見開く。あり得ない、それが二人の知る常識からの考えだった。いや、これは二人だけではなく、普通にエネフィアで生きる者が聞けば、そう思う事であった。
「古龍は大精霊様、かつての魔王ミストルティン様を除けばこの世界で最強の存在。かつての勇者カイトでさえ、魔王ミストルティン様に対しては仲間と共に戦い、初めて勝ち得た、と言われております。それに匹敵する存在なぞ、今の世には居ないはずです。」
「……じゃが、あれは違う。儂はあの時、死んだと思った。もう儂はマクダウェル公爵家に手を出そうとは思わん……おい。」
そう言って使用人に紙を持ってこさせた。どうやらカイトの警告と最後の脅しはかなり効いたらしく、そこには一切の嘘偽りが無かった。
「これがマクダウェル家からの通達じゃ。お主達に一任する。」
そう言ってレーメス伯爵は手ずから公爵家から届いた紙を2人に渡す。
「……御意に。」
「では、もう下がって構わんぞ。儂は未だ体調が優れん。もうしばし眠る。何か用があれば起こせ。」
「御意に。」
キーエスが紙を受け取り、2人は退出した。そうして退出した二人は、共同で使うようにと言い渡された部屋へ入り、手紙を開いた。
「これは!」
「……実質的にはお咎め無し、ですか……」
手紙の内容を精査した2人は、驚愕に包まれる。紙を要約すれば
1.今後は天桜学園に手を出さないこと。出した場合は今度こそ、伯爵家を取り潰しとする。
2.今後は領内の取り締まりを密に行うこと。
3.今回の一件を処罰しない様に此方からも嘆願する代わりに、古龍などが関わった事を表沙汰にしない事。この表沙汰には皇帝陛下も含まれる。
ということであった。まあ、皇帝へ奏上しないと言っているが実際には密偵が入り込んでいる為、これは表向きであった。
「領内の取り締まりはもとより我らの仕事。怠る事はありませんが……まあ、我がレーメス家領内の取り締まりは公爵家にとっても重要な事ですからな。言われても致し方ありませんか。」
カイトのマクダウェル家は内陸部の貴族ではない。確かに皇都に隣接する領土であるが、皇国で最も東部にある海に面した土地にある貴族の一つなのである。当然内陸部からの輸送には様々なルートがあるが、レーメス伯爵領を通るルートが内陸部からマクスウェルに至る最短ルートであった。
「ですが、最後の1つは……」
一番初めの条件は問題がない。そもそも、皇帝の客人に手を出す、ということは常識的に考えて、皇帝の顔に泥を塗る行いなのだ。しかし、最後の一つは違う。わざわざ言う必要も無いのだ。もとより表沙汰に出来ぬこと。言われなくても古龍が出て来たことなど、言えるはずがない。それが彼女らの怒りを買った事なら、尚更であった。それだけで今回の一件でレーメス伯爵が関わった事をチャラにする、というのだ。
「此方としては有難い限りですが……」
何か裏がある、それは読めるのだが、その裏が読めないのだ。二人して考えこむが、一向に結論は出なかった。当たり前である。カイトの目的はそもそも学園生達に人殺しを見せる事が目的なのだ。別に彼等が今後手を出さないのなら、これ以上事を大きくしてカイトとティナの正体に近づかれた方が面倒だった。
「まあ、考えても仕方がないですな。自らの仕事をやると致しましょう。」
とは言え、悩んでも自分達に関係は無いし、荒れた領土を立て直すために仕事は山ほどあるのだ。そうして、2人は各々の持ち場に向かったのであった。
同日その夜。皇城でも特に秘匿性が高い情報を扱う際に使用する部屋で、この国で最も地位の高い男が報告を受けていた。
「レーメスが襲撃にあった、と?」
年の頃は四十前後といった所だが、老いを感じさせない筋骨隆々の身体が年齢を10は若く見せている。少し長めの金髪は、まるで獅子の鬣を思わせた。面立ちは整っており、若い頃はかなりの美丈夫であったのだろう。
とは言え、今も美丈夫でないかと言われると、それは違うと誰もが答えるだろう。経験によって刻まれたシワが彼の威厳を引き立てており、若いころとはまた別種の美丈夫に見せていた。
「は、葦より連絡があり、昨夜遅くに襲撃され、屋敷の警備兵及び従者が壊滅。ただし、全員気絶させられた程度だそうです。」
報告している男はこの国の宰相。年の頃は国王と同じか、皇帝の様に筋肉質で無い為、少しだけ年上に見える。先代の皇帝の頃から現皇帝に仕えている、腹心の中の腹心であった。尚、葦とは密偵の隠語である。
「そうか……まあ、周辺の貴族にちょっかいを出していたからな。大方どこかから恨みを買ったのだろう。それで、誰が襲撃した?」
自身の部下同士でいざこざがあったはずなのに、皇帝が陽気に笑う。もとよりどこかの野盗が襲撃したとは考えていなかった。腐ってもエネシア大陸最大国家たるエンテシア皇国貴族の一人で、自分の部下だ。野盗程度に襲撃され、警備兵が全滅するような被害を被ることは考えられなかった。
「は、どうやらマクダウェル家のようです。」
「なるほど。さすがに彼等も異世界、それも主と慕う勇者の出身地からの客人に手を出されては頭に来るか。」
既にマクダウェル家からはレーメス家が天桜学園襲撃の背後に居るであろう事は報告されていた。そして、皇帝が独自に有する情報網にも、その情報は引っ掛っていたのだ。疑う余地はない。なにせ、その独自に有する情報網は彼が送り出してレーメス邸に入り込ませた密偵なのだ。
「その様子で……と本来ならば申し上げた事でしょう。」
そう言って宰相はニヤリと笑う。その言葉に皇帝も同じ笑みを浮かべる。この程度の報告ならば、別に深夜の、特に秘匿性の高い情報を扱う部屋で謁見など求めるはずがないのだ。自らの腹心がこの部屋を使う、そう言った時から面白い情報を持って来ている事は、彼にとっては確定事項であった。
「どうやら、白龍神姫、紅龍女帝、黄龍皇帝の御三方が来られたようです。」
「ほお……ん?待て、確か公爵家からの情報では黄龍殿は学園の守りに参加していない筈だが?」
「どうやら襲撃の道中で参加した様子です。」
自分が呼び出した所で気まぐれで来る事はあっても、滅多に応じてくれる事の無い相手なのだ。2体は始めから守りに参加し、続く報復には3体同時に加担する。彼等にはこれが気まぐれとは考えられなかった。
「それで?今回は誰だ?」
マクダウェル公爵家の恒例行事は皇城に務める者にとってはかなり有名であった。そして、その集合には誰かが呼び掛ける必要があることも、また有名であった。
「は、マクダウェル家に居る葦の報告ですと、一応は、クズハ代行閣下と言うお話です。」
公爵家に居る葦は一応とは言っていないが、彼は一応、と強調して言った。
「一応、か。」
「はい、一応です。」
そう言って、2人して楽しそうに笑みを浮かべる。似ているが故に主と仰いだのか、似ていたが故に腹心としたのか。それは分からないが、二人は似ていた。
「レーメス伯爵の所の葦からの報告ですと、実際に最前線に立っていたのは男だった模様。それも、肩に妖精族を乗せた青年です。」
「なるほど。勇者カイトに似せた訳か。ならば、御三方はこの趣向に乗った、ということか?珍しい事もある。」
確かに、これが本当ならば面白いと皇帝は思った。滅多に無い古龍3体の共演だ。何が起こったのか、葦を呼び戻して話を聞く価値がある情報だった。そうして理由を探り始めた皇帝だが、それを宰相が否定した。
「いえ、おそらくは違うかと。」
その言葉に皇帝は目を見開いた。この推測はかなり的を射ていたと考えたのだ。
「では、なんだ?そうでもなければ、御三方が出てこられる事なぞ無いだろう。」
「レーメス伯爵の手勢で、公爵家の一団と話した者によりますと、その男はカイト、と名乗ったそうです。カイト・アマネと。しかも、蒼色の髪と眼をしていた、と葦は言っております……更に、これは街の外からかなり離れた場所に配置した葦からの情報です。隠れてはいた様子ですが、男が現れる直前、白龍神姫様の背に乗っていた、との事です。」
レーメス伯爵邸に従者として潜り込んでいた密偵はカイトの威圧で気絶せず、カイトの攻撃を食らいつつも、なんとか伯爵邸に潜り込んだ密偵で唯一その姿を記憶することが出来たのであった。これはその密偵だけで、公爵家の性質と実力を知るが故に付近の貴族達には戦闘能力が高い密偵を送った結果だった。それ故、ばれぬ事を重視した他の密偵には不可能だったのである。
そうして、告げられた名前を聞いて、皇帝がゴクリと生唾を飲んだ。
「カイト・アマネと名乗った?そして、蒼の髪と眼?そして、白龍殿が背に乗る事を許可する?まさか、その妖精とは……」
ここまで聞いて、遂に皇帝は宰相が言いたい事が理解できた。理解した途端、身体が震える。理解したのは皇国で生まれ育った者ならば誰もが心の底では待ちわび、誰もがお伽話だと思っていた事だ。
「は、ユリシア殿であったと報告しております。」
例え小さくなっていようとも、皇帝直属の密偵が皇国最重要人物の顔を見間違える筈はない。ここに来て、彼等の思惑が大凡理解できた皇帝は、即座に命を下した。
「……今すぐレーメスの元へと送った葦を呼び戻せ。」
「既に報告を受けた時点で呼び戻しております。して、一つ陛下にお頼みしたい事が……」
笑みを引っ込めて、宰相は頭を下げた。だが、続く言葉を言う必要は無かった。獅子と謳われる皇帝は、その実武人であると同時に優れた策士でもあったのだ。続く言葉を見通す事なぞ造作もなかった。
「絵の事であろう。良い、許可する……葦の到着は?」
彼が許可したのは、マクダウェル公爵家さえも知らない皇族が秘する秘蔵の絵画であった。皇族秘蔵の絵画であっても必要であれば、即座に許可を降ろす。この思い切りの良さは彼の持ち味の一つであった。
「他家に気付かれませんように目立たぬルートを使用させておりますので、最低でも一ヶ月は掛ります。」
飛空艇などを使用しなければ、レーメス伯爵領から皇都までは直線でも片道1500キロメートルはあるのだ。どこにも警戒されないように移動するならば、かなりの時間が掛かるのである。
「そうか……さて、お前はどう見る?」
ひと通り必要な命令を下したことで、皇帝が問いかける。
「恐らく、本物かと。」
「お主もそう思うか。」
「はい。」
今回の一件は、カイトにとって学園生達に人殺しを見せると同時に、諸侯に天桜学園への手出しを躊躇わせる事が目的なのだ。
故に第一手として、ティア達古龍に動いてもらった。手を出せば古龍の怒りを買う可能性がある、それだけでかなりの数の貴族や国が天桜学園との接触に細心の注意を払うだろう。
更にはカイトがカイトと名乗ったことで、本物の勇者かもしれない、と考える諸侯も居るだろう。普通の貴族は2つの世界が時間が異なっている事を知らず、更にはカイトが単なる人間であると伝え聞いている。普通に考えれば偽物と判断するのだが、それでも古龍が3体も動いた、という事は大きい。
おまけにそこに来て、ティナという世界最高の魔術師の存在だ。もしかしたら、不老の法を入手しているかも、と考えれば考えるほど、疑念がよぎるのだ。
それらを加味すれば、カイトが本物かもしれない、と様々な秘密を知る貴族たちにさえ、そう思わせるには十分であったのだ。そうなれば彼等はカイトの正体を探る事に労力を割かなければならなくなり、その分天桜学園側は密偵に備えるだけの時間を稼げるのだ。実は今回の襲撃は幾つもの効果を狙った、ティナでさえ認める上策だったのである。
「カイト・アマネという勇者の日本での名は皇国上層部でも限られた者と、公爵家でも一部しか知らぬ名でしょう。」
「我らも15代陛下の私的な手紙があったが故に分かった事だ。公爵家でも把握してはいないだろうな。」
二人はこの状況さえも見通していたかもしれない偉大なる賢帝に敬服する。そう、皇族がカイトの名前を把握しているのは、クズハ達でさえ、把握していないことであった。上層部が把握している事を、最重要機密として公爵家やその他諸侯に隠しているのだ。今のカイト達がその情報を掴んでいなくて、当たり前であった。
皇帝にも知られていない、そう判断したが故にカイトは安心して自らの名前を名乗ったのである。知らない物は対処しようが無いし、今回ばかりは、他の貴族たちに万が一という可能性を出させるために必要だった。カイトの『カイト・アマネ』という名を知られていれば、こうなるのも致し方がないだろう。
「多くの貴族は偽物、と判断するでしょう。あのご老体を除けば、ですが。」
宰相が告げる。そもそも、多くの貴族がカイトの名前は公爵の物とアウラの義弟の物しか把握していないのだ。おまけに、通常のカイトの容姿は黒髪黒眼である。どれだけ時間を掛けようとも、本物と判断することは難しかった。
「だろうな。ハイゼンベルク公であれば、気付くであろう。いや、既に気付いているやも知れん。だが、それは織り込み済みであろうな……これは、楽しみだ。」
皇帝が笑みを深める。当たり前だが、皇族には他の貴族たち以上に多くのカイトの話が伝わっている。当然多くが戦に関することと、様々な改革を成し遂げた政に関する事だ。
「これを聞けばトラン将軍とフロル嬢も喜ばれるでしょう。」
皇帝とは別の思惑で、宰相が笑う。しかし、その言葉に皇帝は苦笑した。
「トランは胃を痛めるかもしれんぞ?娘と俺が生粋の武人なのだからな。」
そう、彼は王であると同時に武人なのだ。そうであれば、当然当時最強とまで言われたカイトの武芸に興味が無いハズは無かった。
そして、彼はカイトより実はティナの方が強いという一般常識が、実はそれは大戦終結迄である事を知っている。皇帝となったウィルがこの情報を我が子に、その子に語って聞かせているからだ。口伝の形ではあるが、きちんと今でも伝わっていた。
ならば、武人である皇帝は余計にカイトの実力に興味が湧いた。最強の魔王を超えた勇者とは一体どういう者なのか。今日の情報は彼にとって、ここ数年で最高に面白い情報であった。そして、更に。
「勇者の人となり、王として見させてもらう。そして、もし陛下の仰った通りの男であれば……陛下、あなたの策を使わせて頂く時が来るのかもしれません。」
武人としての笑みから、皇帝は唐突に王としての顔を見せる。そう言って、長年、友の帰還を待ち続けた尊敬する祖先に対して黙祷を捧げる。皇帝の一人として、歴代最高と謳われる第15代皇帝ウィルの唯一の無念を晴らすのは、それ以降の皇帝全員の悲願なのだ。そうして、黙祷を終えて、皇帝が口を開いた。
「……策を伝える必要がある。連絡を取るが、早くて何時になる?」
「は。明日朝にでも連絡が取れるかと。今から準備致します。」
誰か、なぞ彼等の間で問う必要は無かった。彼等にとって該当する人物は一人しかいなかったのだ。
「そうか、頼んだ。」
それを最後にこの密会は終了した。そうして一人となった皇帝は、一人呟いた。
「……あのどら息子にも教えてみるか。俺は多少ゆっくり動くが、貴様はどうする?」
この事を伝えれば、自分の息子の中で、最も自分に似た息子がどう動くのか。少しだけ興味を持った皇帝は、彼にだけわかるようにこの一件を、手紙に書き記したのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第157話『健康診断』