第152話 翌日
今週の土曜日の夜中にタイトルの変更を行います。ご注意下さい。
そうして街を後にした一同だが、飛空挺で待っていたのは、所謂宴会であった。
「おーう、終わったぞー。」
驚き、唖然となるソラ達を放っておいて、カイトは何も驚かず、さも当然のように片手を上げてその輪に加わる。
「今回はあんま暴れなかったな。いつもの総大将なら建物ぐらい吹き飛ばしてねー?」
「まあ、単なる脅しだからなー。幾らオレでも脅しで吹き飛ばしはしねえよ。」
「脅しで建物真っ二つとか、さすが総大将!」
「お前は脅しででかいゴーレム粉微塵にしてただろ!」
「ああ、あれか懐かしいのう……今回ももう少し戦力的に強いと良かったんじゃがなぁ。」
「ありゃ、単に街中であんなの出してきた奴が悪いだろー。あと、魔王様は街中でぶっぱなさないでください。あんたに暴れられると後片付けめんどいんで。」
「どーせ、誰もやんねーだろ。」
「そりゃそうだ!なんでわざわざ文句言いに行って後片付けまでせにゃならん!」
その言葉に確かに、と馴染みの者達が声を上げて笑う。尚、カイトは輪の一人から渡された盃で酒を呷っている。横のティナはどこからか取り出したグラスで酒を呑んでいた。
ちなみに、カイトが総大将と呼ばれるのは、嘗ての大戦でカイトがとある部隊のトップを務めた事に由来している。この場に居る多くが、その部隊の所属なのである。
そんな彼らを、クズハとユリィを除く一同はそれを唖然と見つめるしか無かった。そうしていると、カイトとティナに古龍の三人が近づいて行く。
「なんだ、討ち入りがあったのかと思っていたぞ。」
「さっき物凄い魔力を感じたからの。妾も思わず身構えたぞ。」
「ああ、あれ?ティナがいらん事言ったんでついな。」
「何時までも隠しておるお主が悪い。姉上方もそろそろ教えてくれても良いじゃろうに。」
「お子様にはまだ早いの。」
「ああ、このぐらいのオチビにはまだ早いな。」
そう言ってグライアとティアの二人が笑う。
「……なにそれー?」
グインが眠そうに尋ねる。グインはティナが小さくなって学園に潜入している事を知らない。
「おお、それはな……」
「うぎゃ!グライア姉上!やめるのじゃ!」
そう言ってティナは大慌てでグライアの口を抑えに掛かる。
「……一体何が起きている?」
「……僕にも分からない。」
瞬がアルに問いかけるも、アルも呆然としている。それを見たクズハとユリィが苦笑しながら説明を開始した。
「えーと、これ、普通に一人で事足りるんですよね。ここにいる全員が個人で一貴族の軍勢ぐらいなら壊滅できる方々ですから。」
「……だよねー。」
由利が苦笑して同意するし、他の一同もそれに同じような顔で頷いている。さっき見た光景を思い出せば、カイト一人で十分であったことなど、一目瞭然である。
「まあ、それでも始めは何かあったらダメだから、て全員で真面目に行ったんだけど……誰かがもう文句ある奴だけでいいんじゃないかな、って言い出して、街の外で待機するようになって……ただ待ってるのも暇だから、なんかすっか、とカイトがトランプを始めたのが切っ掛け。じゃあ、飲み物は?ジュース?全員ガキじゃないんだから、酒だせよ……そして何時の間にか宴会の様相を呈してきて、文句言いに行った奴の祝勝会を兼ねて宴会をやるようになった、ってわけ。」
「今ではこっちを楽しみに来ているヒトも多いですね。」
クズハが苦笑しながらソラ達に告げる。誰かが怒っていようと所詮他人事だし、ぼーっと待っているのもつまらない。各種族の有力者が集まって警告するだけなので、別に戦う必要は無いのである。
それに、相手によっては問答無用に叩き潰せば幾ら大戦の英雄達と言えど大問題の相手も居る。その結果、文句を言うだけ言ったら残る愚痴を言う為に宴会に参加する事になったのであった。
「おーい、飲まねえのー?」
解説されて尚困惑の表情を浮かべるソラ達に対して、すでに駆けつけ三杯を終わらせたカイトが盃を掲げる。それを見て、クズハとユリィも足早に輪に加わるべく移動を始めた。
「あ、はい!今行きます!じゃあ、皆さんも。」
「カイトー!おつまみ何いるー?」
そう言ってクズハがいそいそとカイトの横に座る。一方のユリィは、既に宴会の中心部から食べ物を物色していた。
「そっちか。ジャーキー無かったかー?」
「ジャーキー?」
「あ、干し肉。」
「りょーかい。」
ユリィは器用に宴会の中をくぐり抜けてカイトの望む干し肉を見付けて、干し肉と自身がツマミと選んだ果物を持って、カイトの元へと走っていった。
一方、それでも尚動かない一同に対して、コフルが席をずれて隙間を作り、アルとリィルに声を掛けた。
「おい!お前らもさっさと来いよ!おい、あいつらあのルクスとバランの大旦那の子孫だ!」
「なにぃ!あの筋肉ダルマの子孫であの美形だと!嘘こけ!」
「おい!さっさと来い!てめえらの祖先がほんとにあいつらかどうか確かめさせろ!」
コフルの言葉に二人に気付いた酔っぱらい達が、アルとリィルを手招く。これでも、ここに集まった面々で宴会に参加している酔っぱらい達は、間違いなく300年前の大戦の功労者達だし、同時に祖先たちにとって大切な戦友たちでもある。英雄の子孫であるアルとリィルは彼らに招かれては、否やはなかった。
「え?あ、はい!」
「で、では失礼して……」
二人は完全に緊張でガチガチに固まっているが、それでも、コフルが空けた席に座る。だが、お呼ばれもしていない上、困惑を極めたソラ達は相変わらず呆然としている。と、そこへ何時の間にか近づいてきていたストラが、一同に席を薦める。
「皆さんもどうぞ。」
「え、ええ。ありがとうございます。」
ステラに柔和な笑みを向けられた桜は、少し遠慮しながらではあるが、ステラに手を引かれてカイトの横へと腰を下ろす。それを切っ掛けに、桜とクズハ、ユリィによる闘争が俄に起き始める。それをきっかけにして、ソラ達も動き始める。
「えーと……こうなりゃ、成るように成れだ!行くぞ、由利!」
「えー!?」
ソラはもう成るように成れと由利を連れてカイトの近くへと向かっていった。成るように成れと言ったものの、見知らぬ人物と飲む事は出来なかったらしい。
「おぉ!さっきの小僧か!来いよ!まー、初めての後じゃまだつらいだろうが、いい対処法教えてやるぜ!飲んで忘れろ、だ!」
「んぐっ!」
ソラはカイトの横に行ったのは良いが、そこが一番の危険地帯であることは知らなかったらしい。早々にカイトの近くの酔っぱらいに捕まり、強引に酒を飲まされる。由利は強引に飲まされて困惑するソラを見て、楽しそうだった。
まあ、ソラはこの強引さのおかげで早々に酔っ払い、今回の一件で受けた辛さを洗い浚い吐いた上、近くに居るのは何人ものソラと同じような傷心の戦士達を見てきた歴戦の戦士達だ。的確かつ強引なアドバイスが為され、彼の精神がかなり安定する結果になったのは、彼にとって幸いだっただろう。
「えーと、先輩。どうします?」
「……行くしか無いだろう。これが習わしなら従うまでだ。」
「お付き合いします。」
一方、最後に残された瞬と翔は、目の前で繰り広げられるソラへの強引なカウンセリングを見て、少しだけ二の足を踏んでいた。だが、瞬が意を決して足を踏み出して、翔もそれに従う。何故か、二人共今から戦場に向かう男の背中であった。
とは言え、彼らが行こうとしているのは、宴会の中でも一番落ち着いているような雰囲気がある一角だったのだが。さすがにソラの二の舞いは避けたかったのである。
「貰おう。」
「……ほう。」
そうして、瞬と翔が足を踏み込んだ場所が、カイトの周囲とは別の危険地帯であったことは、彼らにとって誤算だっただろう。その後、彼らも強引なカウンセリングが為されたのは、言うまでもない。
「きゃあ!」
その翌朝。カイトはそんな瑞樹の声で目を覚ました。時刻は朝8時過ぎであった。跳ね起きてみれば、瑞樹がベッドの上で寝ているグインを指さしている。
「な、何!……て、誰!」
同じく瑞樹の叫び声で目を覚ました魅衣だが、同じく大声を上げた。まあ、目を覚ましていきなり見知らぬ人物がいれば、当たり前の反応である。
「……くー。」
グインは瑞樹と魅衣が真横で大声を上げたにも関わらず、相変わらず眠り続ける。宴会を最後まで起きていたのが、奇跡であった。まあ、その反動で今も眠っているのだが。
「ああ、グインだ。昨日拾ってきた。」
「ひ、拾ってきたって……女の子は犬猫じゃないんですのよ?」
「あ、あんた何考えてんの!女の子二人と一緒に寝て、更に何処かから女の子拾ってくるとか、何考えてんのよ……」
自分たちは体のいい欲望の捌け口か、魅衣は若干落ち込むが、カイトの次のセリフを聞いて、元気を取り戻す事になる。
「ん?ああ、昨日レーメス伯爵のところまで文句を言いに行ってな。道中コイツが寝ていたんで、一緒に行ってもらった。ああ、安心しろ、きちんと文句は言っておいた。もう二度と、二人にも、学園にも手は出させん。」
自信に満ち溢れ、断言されたその言葉に、二人ははっとなる。この男は、なにげにやる時はやると言う一致した評価はあった。ただ、素が素なのでたちが悪いだけだ。と、そこでふと、瑞樹がカイトの言葉に違和感を感じて、カイトの問い掛けた。
「文句言いに行ったって……いつですの?」
「昨日二人が寝ている間に、だ。ティナはそれで今は異空間で体内時間を操作して寝てる。」
理由は睡眠時間1~2時間と少しでは眠いから、である。飛空艇が到着しても尚、二次会だ三次会だと続いた宴会に付き合った結果、短時間しか眠れなかったのだ。ちなみに、この時点でも会場を公爵邸に移した宴会が続いている。さすがにカイトは学園に帰らなければならないと切り上げたのだ。
ちなみに、カイトは普通に魔術で体調管理をしているので睡眠時間が短くても平気である。ティナも魔術で体調管理はしているのだが、ただ惰眠を貪りたいだけであった。とは言え、彼女ももう起きてきているのだが。
「クズハさんは?あと、ユリィちゃんはどこ?」
いつもなら一緒にいるはずのユリィが居ないことに、魅衣が気付いて、更にクズハが居ない事に気付いた。寝る前までは一緒だったのに、気付いたら居なくなっていたのである。疑問に思うのも無理は無い。
「クズハは第一皇女から面会の要請があったらしくてな。皇都近くの街まで向かう、とのことらしい。ユリィは朝から自分の学園に戻った。昨日の天桜への襲撃で魔導学園に問題が無いか調べるんだと。」
「カイトくん、朝ごはんはどうしますか?あ、お二人共起きたんですね?ご飯はどうしますか?」
と、カイトが解説を終わらせたと同時に、キッチンから桜が顔を出す。最近さらに拡張し、キッチン以外にも、幾つかの寝室とバスルームなどの一通りを取り揃えたのであった。その結果、格段に居住性が向上し、ソラ達も入り浸っているぐらいである。
「あ、オレはパンとベーコンエッグで。スープの素が確か棚にあった筈だ。それも頼む。二人はどうする?」
「え?あ、でしたら私は同じものを……」
「あ、私はご飯ある?できれば卵と朝餉があればいいかも。」
「はい、わかりました。」
そう言って桜はキッチンへと引っ込んだ。そうして三人はリビングへと移動すると、そこにはティナやティア、グライアにミースの4人が居た。
「おお、三人共目を覚ましおったな。身体の方は問題ないか?」
「ええ。ミースさんが処方してくださったお薬のお陰で、体調に不全はありませんわ。」
「私もよ。こんな事言ったらダメなんでしょうけど、何時もよりも寝覚めが良かったぐらい。」
「まあ、でも、一応検査しておきましょっか。」
念の為、ということで、即席でミースが二人の診断を始めるが、二人の言葉に違わず、顔色はよく、昨夜飲まされた薬の後遺症もなさそうだった。そうして診断が終わり、ミースもオッケーを出した所で、いい匂いが漂い始めた。
「……おなかへった。」
匂いにつられてグインが起きてくる。未だ眠そうではあったものの、空腹の方が勝ったらしい。
「おお、起きおったか。お主、調べたら5日前から寝ておったようじゃな。さすがにもう寝られんじゃろ。」
イスに座っていたティアが、グインが起き出してきたのを見て、調査結果を伝える。別に誰も頼んではいなかったのだが、気になって調べたらしい。
「そんなに前なんだー……」
そう言って再びソファに倒れこむ様にグインが横になろうとするが、倒れこむ前に、カイトが掴んだ。
「いい加減に起きろ。」
「えっと、誰ですの?」
「む?何だ、カイト。教えていなかったのか?」
「帰って速攻ベッドにダイブしたが、一応二人が寝ているのは気づいていたらしいな。起こさないように震動軽減などの魔術は使用してた。」
「……グイン=ファフニール。よろしくー。」
カイトに猫の様に首筋を掴まれながら、眠そうにしながらも、頭を下げる。もしかしたら船を漕いだだけなのかもしれないが。
「私は神宮寺瑞樹ですわ。」
「私は三枝魅衣よ。よろしくね。」
そこで、二人ははたと気付く。今、ファフニールと言わなかったか、と。そして二人は同時に顔を見合わせる。そして、それを見たカイトが補足した。
「まあ、古龍だ。」
「やっぱし……」
朝から疲れた二人だが、桜の作った朝食を食べて、一同一緒に冒険部の部室へと向かったのであった。
そうして、カイト達が朝食を食べて一時間ほどして、ミースを除く一同は冒険部部室へと足を運んでいた。今日は流石に惨劇の後として来ていたのは初期メンバーだけだが、そこでは学園中とは一風異なる苦悶の声が響いていた。
「あ、頭が……」
「瞬、飲むのはいいですが、二日酔いには気をつけなさい。……はい、薬です。」
「ぐっ……すまん。」
リィルに介抱された瞬が、寝転がりながらリィルから薬を飲まされる。明け方まで呑んでいた瞬と翔はなんとか一眠りできたものの、初めて飲む酒で適量を把握出来ず、二日酔いを起こしていたのだ。おまけに初めて酒を飲むことと、破れかぶれで突撃した結果、瞬の飲みっぷりを気に入った龍族と飲み比べをする結果になったことが、二日酔いの拍車を掛けていた。そう、瞬はなるべく静かな所を選んで突撃したのだが、その静かな所とは、最も飲兵衛の集まる龍族達の溜まり場だったのである。
そうして、瞬が薬を貰ったのを見た翔が、プルプルと震えながら、手を挙げる。彼も別のソファに横になっていた。ちなみに、翔は瞬と共にそこに入った為、巻き添えを食らったのである。
「リィルさん、俺とソラにも……」
「はい、どうぞ。」
「ども……おい、由利ちゃん、ソラにコレを……」
「うんー。ほら、ソラ、薬だよー。」
「……ぐ、わ、わりぃ……」
ソラは先の通りなので、由利が現在介抱をしているところである。
「く、教員達にはばれないようにしないと……」
痛む頭をおさえながら、瞬はなんとか立ち上がった。だが、再び頭を抑えて蹲る。そんな瞬の珍しい姿に、事情を知らない面子―妹の凛や魅衣達―が驚いている。
「今度からはきちんと飲む量を考えなさい。」
そう言って未だ酒が抜けきっていないのか、珍しく身だしなみが整っていない瞬のネクタイをリィルが直す。
「あ、ああ。スマン。」
そうしてふと近づいたリィルの顔に、瞬がこれまた珍しく顔を赤らめる。それを見た凛が目を細める。
「あやしい……すごく、怪しいです。」
「はい、出来ました。後は薬が効くまで我慢しなさい……カイト殿、申し訳ありませんが、我々はこれにて。」
「僕らはこれから演習に戻るよ。何時までもこっちに居るとまずいしね。」
アルとリィルの二人は退出しようとする。その直前、カイトが二人の背中に声を掛けた。
「ああ、スマンな。エルロード氏にはよろしく伝えておいてくれ。」
「はい、では。」
「で、お前らはどうする?」
出て行った二人を見送り、カイトはグライアとティアの二人に問いかける。今回の要件は終わったので、別に二人が去っても問題はないのだ。その問い掛けに、二人は少しだけ逡巡する。
「うーむ、妾はミースがおるからの。少しの間はここに留まるつもりじゃ。」
「余ももう少しここにいよう……そちらの方が都合が良いだろう?」
「そうか、助かる。」
二人はそう言って意味深な笑みを浮かべる。カイトもそれに応じて笑みを浮かべる。二人共、学園全体に蔓延した不安感を払拭するため、逗留を決めたのである。と、そうしておいて、ティアがカイトに問い掛ける。
「……して、ティナは?」
「……逃げたな。」
そのカイトの答えに、グライアも残念そうに肩を落とした。二人して朝からティナを弄くろうとしていたのだが、どうやら逃げられたようであった。
「まあ、見つけたら好きにしろ。あれはあれで喜んでいるからな。」
そう言ってカイトが席を立った。それに合わせて、桜と瞬も席を立つ。これから俊樹の処罰等を決める会議があるのだ。さすがに学生たちや教員たちの心情を慮って朝一の会議は避けられた為、10時の開始である。
「じゃあ、少しの間席を外す。後は任せた。」
「いってらっしゃい。」
そうして三人は、初期面子ではないが精神的ショックが少なかった為部室に顔を出していた楓に見送られ、会議に出席するため、部室を後にしたのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回は第153話『議論紛糾』です。