第7話 支援要請
今回は短めなので、もう一話更新します。時間は一時間後です。
アルの兄であるルキウスの元へと向かった一同。飛空艇に近づくに連れて興奮するソラを宥めながらも、なんとかルキウスの元へと辿り着いた。が、ルキウスは少し不機嫌である。
「帰ったか、愚弟め。もう少し自重しろ、と何度言えばわかる。」
「ごめん、兄さん。でも、ああしなければ建物に被害が出ると思って……。」
「わかっている。だから今回はこれだけにしておいてやる。リィルからも注意はされたんだろう?」
「うん。」
「では、次は気をつけろ。言っても聞かんだろうが。で、後ろの方々は?」
「彼らはあの建物、天桜学園の人たちだよ。多くの人達が気絶していたから無事だった彼らに来てもらったんだ。」
そう言って後ろにいたカイトたちを紹介するアル。紹介を受けて桜から順に自己紹介を行った。
「天桜学園にて生徒会長を拝命させて頂いております、天道 桜です。ここにいる全員が同じクラスの生徒になります。」
「天音 カイトです。よろしくおねがいします。」
「ユスティーナ・ミストルティンじゃ。」
「天城 空です。」
天桜学園側の自己紹介が終わった後、ルキウスが自己紹介を行う。
「ルキウス=ゴルド=ヴァイスリッターです。本部隊の現代表です。本来は父が隊長なのですが、現在怪我のため療養中でして……現在は副隊長職の私が隊長代行を務めています。私、弟のアルフォンス、幼馴染のリィルの3名が副隊長として部隊を統括しております。何度も申し訳ないとは思うのですがお話を伺っても?」
調書を取らせていただきたい、と言うルキウスに了承した一同は再び現状を確認することになる。
再度魔術で天桜学園側の発言などを確認した後、お互いの現状をすり合わせる桜とルキウス。
「なるほど、今回のあなた方の転移は事故であった、と。」
「ええ。それで、支援の方は……。」
「それについては奥様に確認を取らせていただきましょう。ですが、まず間違いなく無下にはいたしません。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「そういえば、奥様って公爵夫人なのか?」
桜とルキウスの話に入るソラ。ルキウスの許可ですでに口調は元に戻っている。
「ん?ああ、説明していなかったか。いや、公爵は勇者様でな。本来は爵位も奥様に譲るはずだったのだが、奥様は爵位は勇者様のものであり、彼は戻ってくると約束された、と言って代行の地位に留まられている。まぁ、その代行の地位も100年前はもうお一人いらっしゃったらしいのだが、今は行方不明でな。」
「あれ?確か勇者って300年前の人物だよな。」
奥様とやらと勇者が知り合いである事を不思議に思ったソラ。
「ああ。奥様は皇国でも数少ないハイ・エルフでな。見た目は未だ10代なかばの美少女であらせられる。もうお一人も天族でこれらの種族は長命でな。人よりも成長が遅いのだ。」
「こっちにはエルフも当然のようにいる、と。もう驚き疲れたな……。天族はやっぱり翼があんの?」
「ああ。ちなみに、ハイ・エルフはエルフの中でも特に高貴かつ力を持った種族で寿命もエルフより長い。と言ってもハイ・エルフも天族も滅多にあえんが。まぁ、奥様はニホンからの客人と言う事ならお会いしてくださるやも知れんが……。」
「美少女なんだろ?会ってみたいな。」
「……手は出すなよ?お二人共元勇者の仲間で奥様は公爵軍全軍を合わせたより強い。」
そう言われて身震いするソラであるが横のカイトに問いかける。
「おっかないな!まぁ、カイトも会ってみたいだろ?」
「まあ、な。」
「ん?まぁ、お前にはティナちゃんがいるから興味ないか?」
「いや、興味ないわけじゃないが……。」
カイトは若干歯切れが悪い上に複雑そうな顔をしている。それを見て、ソラはカイトがティナに遠慮していると判断したのだ。
(代行二人ってクズハとアウラだよな……。しかも美少女ってあたりまえだよな……でも、アウラは行方不明って……まさか、今回の転移はあいつの召喚か?まぁ、何方にせよあいつには今回の転移について話を聞きたかったんだが……いないんなら探すしかないか。面倒くさいことになったな……。)
カイトはとりあえず結婚云々という約束については意識して考えないようにする。この様子だと確実に二人は約束を守っている様な気がしたのだ。一方のティナも同様に思考を巡らせていた。
(うーむ、せっかくカイトと二人っきりだと思っておったのに……じゃが学園生を無事に守り切るためにはあの二人の協力は必要不可欠か……余も由利や魅衣が悲しむのは嫌じゃし……仕方がない、なんとかコンタクトを取ってみるとするかの。)
と、考えている。そうこうしているうちに隊員の一人がやってきてルキウスに何かを伝えた。
「どうやら奥様から支援の命が下りたようです。本格的な支援は後ほど、となるでしょうが、とりあえず我々には学園の方々の介抱と安全の保証を行うよう下知されました。」
それを聞いた桜はほっとした様子で頭を下げた。
「そうですか。よろしくお願いいたします。」
そうして、ルキウスらによる、本格的な支援が始まるのであった。
―――公爵家公爵代行私室
そこでは、一人の眼を見張るような美少女が水晶の前に座っていた。透き通るようなサラサラの金糸の髪を腰まで伸ばし、眉目秀麗を絵に描いたような顔、目は澄んだ青で、翼さえ背につければまるで天使の様だった。耳は長く尖っており、人間ではなかった。唯一欠点らしい欠点があるとすれば、若干胸が残念である事ぐらいか。それも、相手の趣味によっては利点となるだろう。
対して、水晶には一人の少女の姿が映し出されていた。こちらも同じ年頃か少し幼いぐらいの目を見張る様な美少女である。彼女は先の少女と異なり、活発そうな印象がある。彼女は伸ばせば先の少女と同じぐらいの金色の髪を一部ツインテールにしていて、顔は先の少女よりも若干幼さが滲んでいるが、紛うこと無く見るものを魅了させる容姿だ。ただ、此方からは顔しか見えず、服装や身体的特徴は把握できない。
「異世界、しかもニホンからの客人らしいです。」
『ニホン?カイト帰ってきたの!』
どうやら2つの場所での会話を可能としているらしい水晶は少女の鈴を転がしたような澄んだ声を部屋へ届けている。
「いえ、どうやら学園が転移してきたらしく、そこの生徒たちのようですね。来て早々に天竜の威嚇を受けたらしく、保護を命じました。彼らからはあまり魔力を感じないらしいですね。自力討伐は不可能だったようです。その点、私達が早々に保護出来たことは幸運でしたね。」
報告を受けた水晶に映る少女は落胆したかの様に溜め息を吐いた。
『えぇ~。カイト帰ってきてないんだ。……なにしてるのよ、もう。』
「まったくです。お兄様はこんな美少女3人を待たせておいて……。もしニホンで浮気でもしていたら本当に呪いますよ?まあ、お兄様の事ですからどうせティナさんと爛れた日々は送っておられるのでしょうけど……。」
事実である。が、二人共それを当たり前と思っている。そして、それで良いとも。
『どっちにしろ私達は今、身動き取れないんだけどね。アウラは行方不明だし、クズハは執務室で書類仕事。私は仕事で皇都へ出張中。』
「お仕事、ご苦労様です。皇帝陛下はどうされていますか?」
そう言って少女は水晶の先にいる少女の労をねぎらう。
『ありがとう。陛下は相変わらずだよ。時々、腕利きの生徒に対して陛下御自ら鍛錬をなさろうとして、将軍に止められてるよ。にしてもカイトは……。』
「帰ってこられたらお仕置き、ですね。」
『この300年で考えたとびっきりの悪戯をおみまいしてやるんだから!』
といって笑い合う二人であったのだが、もし、彼女らがルキウスらが調書をとった人物がカイト本人であると知ったら、即座に連行を命じただろう。そしてその間に、自らの身を清めていたことは間違いない。しかし、それが彼女らの耳に入るのはもう少し先のことであった。
お読み頂き有難う御座いました。
2018年2月3日 追記
・誤字修正
『リィル』が『りィル』になっていた所を修正。
『どうやら~』で始まる一文が変に途切れていたのを修正。
『おいて』が『おいで』になっていた所を修正。