第6話 過去と今
昨日の時点で少しだけレイアウトを弄ってみましたが、どうでしょうか。
第一会議室へ向けて出発した一同であったが、道中カイトはアルに学園の説明を行っていた。
「第一会議室は1階にあるんだ。ちなみにオレたちがいたのは2階の2-Aの教室だな。主に2年生の教室だ。」
「へぇ。2年生って何歳なんだい。」
「17だな。」
「じゃあ、僕と同じ年だね。」
「ということは、アルも17歳か。」
「うん。こっちにも学校はあるけど、実は僕飛び級して卒業したんだ。それで、みんなと一緒の年齢だよ。」
そう話し合っているカイトとアル。それを聞きつつソラが何かを考えている。桜とティナは3人の少し後ろを楽しそうに話しながら歩いている。
「どうした、ソラ。さっきからなんか考えているようだが。」
「あ、ああ。なあ、アル。気になってたんだけどよ、なんで日本語話せるんだ?」
ソラの疑問に、アルが納得した様に笑う。
「日本語は話していないよ。耳につけているこのイヤリングのおかげなんだ。皇国、というかこの世界にはとんでもなく多くの種族が生活しているからね。言語や文字なんてバラバラ、全部なんて誰も覚えられない。そこで発明されたのがこのイヤリングなんだ。」
そう言って耳を指差すアル。そこには小さな石が嵌められたイヤリングがついていた。実を言えば、同じモノを改造したイヤリングをカイトもティナも着けているのだが、デザインがあまりに違った為、アルには気付かれていなかった。単なるアクセサリーだと思われたのだ。
「今じゃあ、国への出生届の提出と同時にこのイヤリングがもらえるよ。君たちも言えばすぐにもらえると思うよ。高いものじゃないし、貴重でもなんでもないからね。」
「へぇー。魔法って便利だな。こっちじゃ英単語一つ覚えるのにどんだけ苦労しているか……。」
そう言って肩を落とすソラ。にしても、と周りを見渡して眉を顰めた。
「死屍累々……だな。」
立てなくたったり茫然自失となっている生徒はまだいい方で、酷い生徒だと失禁して気絶している。だが、誰もそれを気にしている様子はない。
「言ってやるな。お前みたいにあれ相手に興奮する奴なんて滅多にいないぞ。」
「お前やティナちゃんみたいに平然としている方がもっとおかしいだろ……。」
「平気じゃないさ。実際にほら。」
そういって手にかいた汗をソラの服で拭おうとするカイトに対し、
「って、オレの服で拭こうとするな!きったねぇな!」
「わかったか。オレもあんなの見ては落ち着いてはいられないさ。」
「はぁ……まあ、そうだよな。」
「まぁ、君たちのいた世界には天竜なんかの魔物はいなかったんだよね?じゃあ、しょうがないよ。それに竜の威嚇はこっちの世界の一般人でも気を失うクラスだからね。」
「そうなのか……。そういやその天竜ってなんだ?」
「ああ。天竜っていうのはさっきのドラゴンのことで空を飛ぶ竜だから天竜、飛んでいなかったら地竜だね。合わせて竜種と呼んでいるよ。」
「強いのか?」
「千差万別だよ。あ、でも気をつけてね。竜種だと思って攻撃したら龍族だった、なんて目も当てられないから。下手すれば外交問題だよ。」
「龍族?何が違うんだ?」
イヤリングの効果で竜と龍の微妙なニュアンスの違いを理解できたソラは、興味があったので尋ねてみる。それを受けて、アルが簡単に噛み砕く為に少しだけ、頭をひねる。
「いろいろあるけど……一番は話し合いができる、という所かな。龍族は人型にもなれる方もいるよ。」
「ますますファンタジーだ……。」
そんな話をしているうちに第一会議室に到着する一同。だが、桜がノックをしても中から声がしない。
「着きましたけど……これは多分、先生たちも気絶されていますね。」
「だろうなぁ。」
「とりあえず入るか。」
ドアを開けるカイトであるがそこには今までと同じ光景があったのだった。
第一会議室に入り、一同は中の様子を確認すると溜め息を吐いた。
「やっぱり。」
会議室内には倒れこんだ教師達がいた。違うのは椅子から落ちているものが多いくらいか。その様子をみたアルはどうしようか、と悩み始める。
「コレじゃあ話は出来そうにないね。」
全員を助け起こす事もできたが、そこまでとなると確実に上からの指示を要する。カイト達を信用できると判断しても、彼らの上層部が信用できるわけではないのだ。アルとしては心苦しいが、最悪、そのまま捕縛命令さえ下りかねない。勝手に介抱する事は、出来なかった。
「まぁ、そうだろうな。どうする?」
「とりあえず僕の仲間が来るのを待って学園の人達の介抱をしてもらったほうがいいだろうね。それで大丈夫かな?」
そう桜へ問うアル。それに対して桜は頷くしか無い。
「申し訳ありませんが、お願いしてもよろしいでしょうか。」
「うん。もうすぐ来ると思うよ。」
よく聞いてみればさっきまでしていた天竜の声や爆音がしなくなっている。おそらく天竜の討伐が終了したのだろう。
「何人ぐらいでしょうか。」
「天竜と戦っていたのは数人だけど、僕らの本隊は100人位いるよ。ここで観測された魔力の調査だからそんなに多くないけど、公爵麾下の中でも戦闘能力が特に高い特殊部隊なんだ。といっても、みんなまさに騎士って感じの人だからそんなに緊張しなくていいよ。副隊長はすごい美人で怖いけど。」
最後にそう冗談を言うアルであるがそれを聞いたソラは逆に少しだけアルから距離を取った。
「うへぇ。てことはアルは特殊部隊所属かよ……。」
「うん。一応僕は公爵軍正規部隊最強を拝命しているよ。といっても公爵様他、300年前からいるお歴々の方々にはとても勝てないんだけど……。」
「そのなりで公爵軍最強って……。」
そう言ってアルの全身を見るソラ。身長は165センチぐらい、いかにも優男な銀髪の童顔。目は碧眼。鎧から垣間見える腕や足は太くはないどころか細い。地球には存在しないだろう容姿だが、地球の基準で見ればどう見ても喧嘩が強そうではない。
「魔術による身体強化でなんとかなるから、筋肉はそこまで重要じゃないんだよ。」
容姿に関しては若干気にしているのか、少し不機嫌そうにそう答えるアル。どうやら度々容姿に関して誂われているらしい。
「そうなのか?」
「うん。そんなこと言ってると見かけに騙されてすぐに負けるよ?姉さんなんてあんな容姿で僕に次ぐ実力者だからね。」
「姉さん?」
「ほら、来たよ。」
そう言って窓の外を見るアルにつられて外を見ればさっきまで戦っていた十人弱の鎧姿の男女が一人の女性を中心に立っていた。建物の中にアルの姿を見つけたらしく、此方に近づいてくる。
「アル、無事なようですね。そちらは?」
「うん。この建物の人たちらしいんだけど、ニホンから来たんだって。」
「ニホン?確か、かの勇者の出身地とされる?」
「うん。そのニホン。」
「本当ですか?」
「ええ。私達は日本から来ました。」
話を向けられて日本から来たことを認める桜。日本から来たことに驚いているリィルであるが軍人風の敬礼をして、謝罪した。
「申し遅れました。私はリィル・バーンシュタット。現バーンシュタット家の第一子です。アルとは同じ部隊に所属しており、幼馴染でもあります。」
(バーンシュタット?バランのおっさんの子孫か……?いや、ないだろう。あのおっさんの子孫がこんな美人なんて絶対にないだろ。それとも三百年の間に突然変異が起きたか?)
バーンシュタットと聞いて目を見開いたカイトであるが、リィルがバランと異なり長い赤髪をポニーテールにした凛とした顔つきの美人である事をみて子孫である事を即否定する。色白でスタイルも抜群である。
対してバランは筋肉隆々、日に焼けた褐色の肌、剃っていると言っていたので剃髪、性格は豪胆で理性的な点は戦闘に関してのみ。どこを見ても共通点はない。似ているといえば、眼が同じ赤色であるぐらいか。
「ご丁寧にありがとうございます。私は天道桜。この天桜学園の生徒会長を拝命させて頂いてます。」
桜も名家の子女にふさわしく、優雅に返礼する。自己紹介しあう二人につづいてカイト、ソラ、ティナが自己紹介を行い、状況説明を行うのであった。
「謎の魔法陣に飲まれて転移した……ですか。それはまた、大変でしたね。」
実は状況説明の際に、後ろに控えた魔術師に彼らが嘘をついていないか確認させていたリィルであるが、魔術師が嘘はついていないと判断したことにより純粋に同情している。
「それでとりあえずは学園の人たちの介抱をお願いしたい、との事でしたが、我々の隊長に許可を取りましょう。」
隊長と言っても代行ですが、というリィルにアルが問い返す。尚、嘘が無いと判断した時点で、彼女の裁量によって学園の手助けが決定された。
「兄さんに?」
「ええ、ルキウスなら奥様にも連絡を付けられますから。」
「……確かにね。奥様なら彼らを見捨てる事はないからね。もっと良い支援が受けられるかな?」
そう言って二人が相談していると桜が頭を下げた。
「色々とありがとうございます。あなた方に出会えたことは不幸中の幸いでした。」
それを見たカイト達も頭を下げる。それをみたリィルは慌てて桜を助け起こす。
「いえ、構いませんよ。困ったときはお互い様とも言いますし。かの勇者には私達の祖先が助けられましたので。」
「うん。だから頭を上げて。友人にそんな風にされるとこっちが落ち着かないよ。」
アルも言う。それを聞いて桜たちは頭を上げてにこやかに笑った。
「ありがとうございます。」
そうしているうちに空から船に似た何かが学園へ近づいてくる。それに気づいたリィルとアルは安心させるように、カイト達に言った。
「あれが我々の本隊です。」
「うん。とりあえず少し離れた場所に船を下ろすみたいだね。」
船が近づくに連れて再びソラが興奮しだした。ファンタジーに定番の飛空艇の存在に、居ても立っても居られないようだ。
「おい、アル!あれってあれか!飛空艇ってやつか!」
「うん。あれが僕達の飛空艇ルクスだよ。かの勇者の仲間の名前を頂いた船なんだ。」
「勇者の仲間の名前か!当然すごい人だったんだろうな!」
「僕のご先祖様だよ。ルクス・ロット・ヴァイスリッターって言うんだ。姉さんは同じく勇者の仲間でバランタイン・バーンシュタットの子孫。」
そう言って誇らしげに胸を張るアル。そこには気負いも一切無く、英雄の子孫である事を誇る気持ちのみが存在していた。そして、それを聞いたソラは目を見開いて興奮し始める。
「すげぇ!なんか逸話とかないのか?」
英雄の子孫ならではの話題を頼んだのだが、アルは少しだけ済まなさそうにしていた。
「さあ……。それが勇者もそうなんだけど彼らの功績は語られているけど、彼らの人物像はあんまり語られてないんだよね。知ってる人はいるんだけど、どうしてか語ってくれないんだ。わかってるのだと二つ名が聖騎士ルクス、炎武のバランと呼ばれていた事位なんだ……。」
「バランタイン様もルクス様も武勇に優れた方であり、この公爵領の統治にも多大な貢献をされた偉大なお方であったらしいです。」
そう話し合っている3人の後ろでかつての仲間を思い出しているカイトとティナは、二人して美化されまくっていた仲間にため息を吐いた。
「おっさんは下戸のくせに酒好きだったから、よく酔っ払って帰って嫁さんに半殺しにされたか、寒空の下にほっぽり出されてたなぁ……英雄より強い妻。」
尚、身寄りのなくなったカイトの事もバランタインの夫人は息子同然に扱ってくれていたので、実は彼女には非常に感謝している。
「ルクスの奴はよく軍議だなんだを抜けだしては酒場へ行って女をナンパしておったの。かつてはまさに聖騎士然とした真面目な奴じゃったが……」
「あいつは多分、もともと女誑しの気があったんだろ。あれでルシアとの仲は円満だったんだから恐ろしい……」
この会話、リィルとアルには聞かせられない。二人共ご先祖様に過大な誇りや期待を抱いている。夢は夢のままで良いのである。
そんな話をしていると地上に着船した船から金髪の青年が何人もの鎧姿と共に降りてきた。
「兄さんが来たみたいだね。」
「では、行きますか。みなさんも来て頂いて構いませんか?」
「はい。では、よろしくお願いします。」
そう言って一同は金髪の青年の元へ歩いて行ったのだった。
お読み頂き有難う御座いました。
2018年2月3日 追記
・誤字修正
『地球の基準』が『地球で基準』になっていたのを修正