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第131話 見送り

 軍事演習に出発するアル達の代わりに公爵家から派遣されてくる事になっているコフルについてを一頻り話し合った冒険部の面々だが、10分も話せば話題は無くなる。取り敢えずは気が済んだので、本題に戻った。


「それで、当日はどのような段取りで動きますの?」


 当日残る面子代表の瑞樹が尋ねる。本来ならば上級生の瞬や菊池がこの役目を行う筈なのだが、瞬は周囲を鼓舞しつつ攻めこむ前線指揮官向きで、統括した指揮ならば瑞樹や桜に軍配が上った。桜はカイトと共に街へ向かうため、実力的に彼女なのである。冒険部では年齢ではなく才覚を重視する風潮であった。

 他にも楓や菊池が指揮官候補なのだが、楓は後方支援向き、菊池は守備時の指揮はできるが、前線指揮、後方支援共に練度が足りず、カイトの代行としては不安が残った。いざとなれば二人で共同で補佐させる事も考えたが、先の部活連合と生徒会の一件もある。これから起こる事を考えれば、出来れば指揮系統を一元化しておきたかったのである。


「ああ、取り敢えずオレ達公爵邸へ向う人員は馬車で移動する。出発は15時だ。その後、17時には公爵邸でクズハさん、コフルさんと面会。その後、18時には戻る予定だ。学園への到着予定は20時だな。コフルさんは19時には到着されるらしい。オレたちと一緒だと歩みが遅い事を危惧され、一足先に来られるそうだ。」


 現在の計画では、コフルの到着は一時間早い18時である。カイト達との面会後、密かに先行しているユハラ達と合流、潜伏予定である。潜伏する人数はかなり少ないが、カイトが過去から見知った者達だ。実力に不安は無い。


「それ、お前達が迎えに行く意味あんの?」


 ソラが苦笑しながら問い掛ける。コフルを迎えに行って、コフルが先行して天桜学園に来る。確かに迎えに行く意味がなさそうであった。が、この質問は予想出来た事で、既に手を打ってある。なので、カイトは懐を探り、一枚の写真を取り出した。そこに写るのは、顔に一筋の深い傷の刻まれた褐色の美丈夫と、同じく褐色の眼を見張るような美女であった。


「実はもう一つ会談理由があってな。」

「……誰だよ、このイケメン。つーか、こっちの美女誰だ!」


 冒険部の男子生徒達がストラを見て不機嫌そうに、そしてその横のステラを見つけて興奮してそう言う。写真には優雅に微笑むストラと、いつもと変わらない様子のステラが写っていた。二人ともどこかのパーティで撮った写真らしく、タキシードとドレスを着ていた。


「いや、だから説明を聞けって。彼らは公爵家で東町を統括されているマクヴェル兄妹だ。彼らとの会談を予定している。」

「東町……ですの?」


 東町は風俗街の様相を呈している、それを知っている瑞樹が眉を顰める。瑞樹は少々潔癖症であったので、いい顔をしなかったのである。


「ああ、今回の卯柳の一件で東町の入出を許可制で許可しようと思っている。勝手に入られて今回の様に何か理由の分からない揉め事を持って来られても困るからな。制御しよう、というわけだ。」


 始めは単なる色事かと思っていた桜らも、カイトの発言を聞いてなるほど、と納得する。


「なるほど……今後もしかしたら東町からの依頼もあるかもしれませんものね。」


 男女問わずどう反応してよいかわからない状態で、一番考え込んでいた瑞樹も実利と依頼の関係を考えて不承不承という感じではあるが、なんとか折り合いをつけられたらしい。彼女が頷いた事で、全員が不承不承に近い感じで納得する。


「ああ、そういうことだ。それに、今後は学園の出入りの許可書を携帯させるつもりだ。」


 そう言ってサンプルでティナに作らせた指輪型の許可書を懐から取り出す。カイトが魔力を通すと、指輪につけられた魔石から天桜学園の校章が浮かび上がった。一見すれば只の模様なので、意味のわからない者にはわからない、絶好の目印であった。


「これがサンプルだ。今後は学外に出る全員に、これを携帯する義務が生じることになる予定だ。これがあれば、どこで会っても仲間だとわかるだろう。後、これには緊急用のSOS信号発信機能が搭載してある。これを使えば、即座に冒険部の部室に繋がるSOSを発する事ができる。それで、これからは機密情報だ。……実は、これには魔石で居場所を知らせる機能が搭載されてある。」


 その言葉にどよめきが起こるが、すぐにカイトが静止する。当たり前だ、これは要には監視している、ということに等しいのだ。それを告げられてどよめかない方がおかしい。


「よく聞け。別に監視するわけじゃない。位置情報だけだ。要は拐われた場合などに居場所がどこに居るのかを知らせる安全装置だ。後は公爵家の面々がオレたちを見分ける目印にもなる。……というか、SOSが出てもどこに向かえば良いかわからないのは、問題だろ?」

「GPSの様なものですか?」

「さすが桜だ。その認識でいい。」


 カイトの問い掛けの前からきちんと事情を把握した桜が、わかりやすい例を上げて助け舟を出した。ちなみに、さすがにカイトとて必要も無いのに監視するつもりはないので、通常での使用は控えるように言ってある。

 まあ、実際には桜達にも内緒で位置記録機能と盗聴機能は搭載してあるが、基本的には使うつもりはなかった。今回の様に、誰かが盗賊などと繋がりが疑われる場合だけである。今までは多少の信頼と技術的な問題から公爵家の人員だけで監視していたのだが、今回の一件を受けて諸々の手段を盛り込んだ魔道具をティナに開発させたのである。


「まあ、さすがに誘拐されて居場所わかりません、というのは最悪の事態だからな。この程度の安全策は採用しておかないと、教員を説得できん。」

「あら?すでに教員を説得なさってるんですの?」


 実に根回しの早いものだ、そう思った瑞樹が苦笑しながら尋ねる。


「まあな。さすがに時間が掛かったが……まあ、こればかりはな。」


 そう言ってカイトも苦笑する。さすがに教員からの反対は大きかったのだが、カイトが何人かが勝手に東町に出入りしている事を指摘した上で俊樹少年への手紙を問題視した所、なんとか協議の場を得ることができたのだった。

 さらに公爵家へと先に根回ししたということにして、公爵家と教員が協力で見回りを行う事を条件に許可制にすることで了承を得たのである。公爵家にはカイトが提案すれば、ほぼ確定で許可が降りるので問題ない。一部男性教師が賛同してくれた事も、カイトにとっては好都合であった。


「まあ、瑞樹達にはわかってもらえないかも知れないが……男ってのは、こういうものなんだ……。」


 その言葉に男子生徒一同が大きく頷く。なにげに瞬も頷いていたのには、カイトも驚いた。


「わかりますが、カイトさんは少々抑えた方がよいですわね。」

「……オレがか?抑えるって、性欲を?性欲が無いわけではないが、表には出してないだろ?」

「一度、御自分の行動を見直しては?」


 そう言って楽しそうに笑う瑞樹。二人のやり取りを聞いていた一同が頷いていた。


「そうですね。一度見直してください。そうすれば、どれくらいおかしいのか、解ると思います。」

「そうだねー、カイト、一度見なおしたほうがいいよー。意味ないだろうけど。」


 最近諦めたほうが早いと気付いたユリィが諦めとともにそう言う。桜とクズハはまだその域には到達できていない。


「というか、あんたどんだけ女の子侍らせてるのよ。そのうち刺されるわよ?」

「侍らせる……?振り回されているだけなんだが……。」


 肩を落として落ち込むカイト。現実としてはそうであるのだが、傍目には美女と美少女をたくさん侍らせている様にしか見えなかった。まあ、どんな痛い目を見ても死なないのが問題なのかもしれない。そうして、そんなカイトの答えを言葉を聞いて、桜とユリィが鼻白む。


「わけがわからん……まあ、それはともかく。何か質問はあるか?」


 女心は多少解せるカイトであるが、自身の現状だけは、解せないらしい。まあ、既に故人の友人達と保護者の老人が悪いのだが、そんなことを知る由もない彼女らには、当分は原因は掴めないだろう。カイトは首をひねるが取り敢えずは気を取り直す。そうして気を取り直したカイトの問い掛けに、瞬が手を上げる。


「そのマクヴェル兄妹は強いのか?」


 瞬らしい言葉であった。他の面子はストラはともかくとして、ステラは強くないだろうと予想していた。


「ああ、強いらしいぞ。聞いた所だと、アルの1000基準で兄が1万5千。妹が2万らしい。」


 カイトは聞いたという風体で答える。実査にはコフルの時と同じく、これでもかなり下にサバを読んでいる。ちなみに、ステラの方が強いのは当たり前であった。実はステラはカイト達かつての勇者メンバーを除けば、公爵家最高クラスの戦闘能力を有しているのである。

 昔はステラがカイトの護衛をやっていたのだ。この程度の実力がなければ逆にカイトの足を引っ張ってしまい、護衛が護衛対象の足を引っ張るというわけのわからない問題が起きてしまい、護衛の意味が無いのであった。


「ちっ、まだまだ遠いな。」

「300年……いや、1200年の差は伊達じゃないさ……で、他には?」

「公爵家へ向う面子を教えてくれ!」

「……後で公爵家が選定したリストを持ってくるから、それまで待っていてくれ。」


 質問した男子生徒だけでなく、多くの男子生徒のギラギラした目を見て、カイトが肩を落として答えた。どう考えてもステラに鼻の下を伸ばしている男子生徒を見て、カイトは取り敢えず男子生徒は自分の正体を知る者だけにしよう、そう考えるのであった。




「じゃあ、行ってくるね。」

「はい。アルさん、お土産お願いします。」


 そう言ってアルを見送る凛。出発まではまだ少し時間があるのだが、場合によっては早まる可能性もある。それ故に言える内に言っておいたのだ。ちなみに、早まる可能性がある、ではなくて、出来れば出発する全員が早く出発したい、というのが本音である。


「え?僕が行くの、軍事演習だよ?」


 当然公務の一環である。お土産を探す余裕があるかどうかは、微妙であった。


「えぇー、つまんない。美味しいお菓子を所望します。師匠は弟子を可愛がるべきです。」

「じゃあ、お金ぐらい出してよ。あ、でも弟子を可愛がるのは僕も希望。」


 そう言ってカイトとティナを見るアル。アルは凛への苦手意識を克服したのだが、代わりに凛の扱いが雑になったらしい。


「ん?なんじゃ?奢ってくれるのか?」

「えぇ……」


 まさかの返答にアルががっくりと肩を落とす。


「まあ、それはおいておいて……師匠、特訓お休みでいいですか?」


 お土産は冗談であったのだが、此方は真剣であった。


「ダメ。カイトに僕が怒られる。」

「アルさん、情けないです。他人の目が気になって自分で決められないんですか?」

「ぐっ……一応カイトは僕の上司なんだけど?」

「じゃあ、先輩に頼んで……」


 そう言って凛はカイトに頼み込もうとして、その視線に気付いたカイトに言う前に却下される。


「ダメに決まっている。この2日は冒険部は外出不可だ。」

「えぇー。」


 凛は頬をふくらませて更に抗議をしようとしたのだが、その前にカイトが話を続けた。


「ダメだ。それに今夜はオレの客人が来る予定だ。そっちが重要なんだよ。お前らも全員紹介予定だ。身だしなみは整えておけ。」


 その言葉にアルと周囲の隊員達が一瞬硬直する。今のところ会う予定は無いのに、何故か身だしなみを整え始めたアルや隊員たちであったが、それを見た凛が首を傾げる。


「どうしたんですか?」

「あ、ううん。なんでもないよ。」

「ふーん。まあ、いいです。先輩のお客だと、どうせ女の人なんでしょ?しかも、とびきりの美人。」

「どうせってなんだ……」


 そう言って溜め息を吐くカイトだが、正解である。そうして出発までの間、全員で会話を楽しむことにしたのだった。




 一方、そんなどこか楽しげな息子たちを他所に、少し離れた所に停泊させているエルロードの部隊専用の飛空艇の一室では指揮官二人が溜め息を吐いていた。


「俺は今日ほどこの演習が嬉しい日は無い。」


 そう言って心底安心した表情をするエルロード。それに対してブラスはいつも以上に身だしなみに気を使っており、今もこまめに軍服の皺を気にしていた。尚、今日の部隊員達は演習に出発するしないにかかわらず、全員が軍人としての正装であった。別に示し合わせてはいないのだが、自然と全員が正装となったのである。

 者によっては作戦が伝えられた時点で街の洗濯屋へ行き、軍服を洗濯に出す者さえも居た。そして、その軍服を洗いに出した者の一人であるブラスが珍しく泣き言を言う。


「僕も出来ることならそっちに行きたいよ……」

「はは、諦めろ。閣下直々のご命令だ。」


 親友の泣き言を笑って流すエルロード。自分がその立場ならば、と考えるだけでよく分かる心情なのだが、替りたくはない。


「今から逆に変えて頂けないだろうか……」

「あはは……ヤメロ。」


 一旦は笑ったエルロードだが、立ち上がったブラスを見て、大慌てで立ち上がって制止する。万が一そんなことが起きれば卒倒しかねない。故に真剣に親友を制止したのだった。


「はぁ……閣下の人脈はどうなっているんだろう……」


 そう言って溜め息を吐いて着席するブラス。それを見て、エルロードも着席した。


「知らん……」


 自分の主の人脈に落ち込む二人。自分たちも英雄の子孫としてそれなりに有力な人脈を各界に得ているのだが、カイトには全く敵わなかった。


「皇帝陛下が直々に会ってお呼びになられても、来られないでしょうに……」

「それが閣下の場合は念話一本で飛んで来られるのだから、頭が痛い。そのうち大精霊様もお呼びになられるのではないか……?」


 二人はそうなったら卒倒するな、と二人して予想できる未来を乾いた笑いで笑い合う。ちなみに、エルロードの言う飛んでくるは比喩ではなく、実際に今日も飛んでくる予定らしい。更に悪いのは客人らの気まぐれで、エルロード達の出発より早くつく可能性がある為、全員正装なのであった。

 彼らにはその気まぐれを拒絶する事はできなかった。片方は国母とも言われる存在なのである。国に仕える騎士であり軍人である以上、否やは無かった。


「はぁ……出発が待ち遠しい。」


 エルロード達が出発するまで後、数時間であった。それまでに彼女らが来れば、自分も挨拶に伺わなければならないのだ。彼の言葉に秘められた感情が、親友には非常によく理解できた。


「僕は三日後が待ち遠しいよ……」


 ブラスが深い溜め息を吐いた。実際にはティナが相手を務めるだろうが、カイトがいなくなる二日後の夜だけは、公には彼が客人の世話を仰せつかっていた。それ故に、三日後なのである。それ以外はカイトが客人の相手を務める。というか、彼女らが勝手にカイトとティナにちょっかいを出しに行くので心配はしていない。

 ちなみに、滞在予定は未定であった。そうしている内に、隊員の中でも幹部に位置する者が、真っ青になって飛び込んできた。


「……お二人が来られました。」


 その言葉に、彼らは諦めとともに立ち上がったのである。

 お読み頂き有難う御座いました。

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