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第129話 使い魔・2

 ここで今章が終了します。次回から新章スタートです。まあ、新章と言っても流れとしては続きですが。

 冒険部での会議を行った後。ふとした拍子に使い魔の談義となった冒険部は、今もまだ会議室にて、ティナの使い魔講義を続けていた。そうして、ルゥが消え去った後。若干の爆弾は残ったものの、ティナによる解説が再開される。


「今の様に、契約すれば元々の人格をそのまま残して使い魔として召喚できるわけじゃな。」

「後、使い魔の顕現などは自由に顕現させる事も容易となる。主が危機に陥った時に、使い魔側から勝手に顕現できるわけだ……まあ、さっきの様に、勝手に出て来る奴も居るが。」


 カイト率いるルゥたちは使い魔と言いながら、一体足りともコントロールできた試しがない。誰も彼もアクが強すぎるカイトの使い魔達であった。


「これら使い魔は基本的に術者と命を共有しておる。術者が死ねば、使い魔も死ぬのが道理。使い魔は術者の魔力を糧に生きておるからの。まあ、契約を失った所で自らの力で魔力を得れる様な使い魔もおるが……並の使い魔では無いのう。自分の身の丈に合った使い魔と契約せんと、何方にとっても不幸じゃ。」


 そう言ってティナはクーの頭を撫でる。クーは気持ちよさそうに目を細めていた。これが、使い魔の最大の難点だ。契約を解除しない限り使い魔との契約は継続され、召喚者と命を共有し続ける。更に問題なのは、ルゥ達のように死にかけた命の延命ならばその契約の解除イコール彼女らの死なのであった。

 ちなみに、クー達ティナが創りだした使い魔達はティナの死を察すると自動的に契約が解除される様な高度な術式が組み込まれているので、大した問題にはならない。


「私も撫でたい……撫でくりまわしたい。」

「でも、どっちも今の私じゃ無理じゃないの?」


 気持ちよさ気なクーを見る凛の呟きを無視して、楓が眉を顰める。当たり前だが、この二人を基準にしてはならない。今彼女らが出しているのは超高度な使い魔か、もしくは元々あった命を使い魔として使うという異例だ。なので、ティナもそれを認め、説明を続けた。


「まあ、ここまでの性能を求めなければ良いだけの話じゃ。特にカイトの様に使い魔となる、もしくはなってくれる人物を探しださねばならぬような契約はまず、無理じゃ。まあ、例外として自意識を持った高性能な使い魔を生み出す卵の様な道具もあるが、それこそ古代の遺跡にでも潜らんとまず、手に入らん。しかも、これで創った使い魔は大気中の魔力を吸収し、使い魔に余程の事態がなければ術者の魔力を必要とせんからの。まあ、滅多に店売りされんが。」


 ティナは少しだけ残念そうにする。そう、これはティナでさえ生きて来た中で数回しかお目にかかった事がないのだ。ちょっとした目的から、今出品されれば、カイトに泣き脅しを使ってでも、カイトを籠絡してでも手に入れるつもりであった。

 尚、対象がカイトなのは金の出処がカイトだからである。さすがに強奪などは彼女の趣味ではない。


「おお、そういえば……カイトが卵を使って使い魔を創っておったな……あれは確か遺跡から持ち帰った卵を使ったはずじゃったか……カイト、桜華を出せるか?」

「ん?まあ、いいけどな……」


 ティナはブツブツと呟きながらふと使い魔の卵について思い出していると、確かカイトが一度だけ使った事を思い出した。そしてカイトは不承不承といった感じで応じる。実はこの使い魔には問題が一つあったのである。それも、カイト自身や彼女自身の問題ではなかった。その人物ユリィは桜華を出すように言った瞬間、カイトの頭上で猛烈に反対する。


「あいつ、出さないでよー!」

「と、いう風に、ユリィが拗ねる。」

「私が居るんだから、他に妖精必要ないでしょー!」

「いや、別に桜華をお前の代わりにしたわけじゃないんだが……まあ、いいか……おい。」


 カイトが使い魔を顕現させると、そこにはユリィと同じく妖精の姿をした使い魔が。違いはユリィが可愛い系の顔なら、此方の使い魔は美人という顔つきであった。衣服がアレンジされた着物風なのは、カイトの趣味である。


「御用でしょうか、マスター。」

「だから出さないでってばー!」


 そう言って抗議するユリィを無視し、カイトが説明を引き継ぐ。


「コイツが卵から生まれた使い魔の一例だ。桜華、挨拶をしておけ。」

「はい、マスター……そういえば、此方の方々は?」

「ああ、そうか。お前は知らなかったな。オレが今所属しているギルドのメンバーだ。」


 基本的に桜華はカイトの精神世界に居座る大精霊達のもてなしをしているので、カイトの様子を感知していないのである。なのでカイトの旧知の仲のソラ達の存在はともかく、エネフィア転移後に親しくなったその他の面々については知り得なかったのである。

 ちなみに性能の差から、大精霊達はカイトの様子を逐一把握している。まあ、主な理由はカイトの発言に抗議するためだが。


「わかりました。皆様、桜華です。以後、お見知り置きを。いつもはマスターの精神世界にて客人をもてなしておりますので、お目に掛かることは少ないと思います。」

「お見知り置かなくていいー。もう出て来んなー。」


 丁寧に一礼する桜華と、拗ねるユリィ。拗ねたユリィを見た桜がカイトに尋ねる。


「カイトくん。どうして妖精の姿に創ったんですか?ユリィちゃん、拗ねちゃってるじゃないですか。」


 もう桜を含めた一同はカイトが作る使い魔が女であっても不思議に思わなかった。桜でさえ若干負のオーラが漂う程度である。


「ああ、これはこの卵に問題があってな……おい、ティナ、説明。」


 再度説明をティナに任せる。桜のなにか言いたげな嫉妬のオーラは見なかったことにする。


「うむ。この卵じゃが、自立型の使い魔を創れる事は言った。じゃが、この使い魔の姿は術者に影響されてしまうのじゃ。自分で一から創った使い魔じゃとクーの様に様々な姿を創り出せるのじゃが、道具を使った影響か術者のイメージに引っ張られるわけじゃな。当然、一度生まれてしまえば姿の変更は不能。おまけに術者の魔力を登録しておるのか、主の変更も無理じゃな。この原理については詳しくはわからん。」

「何故妖精なのか、というと、桜華を創った時に使い魔のイメージとして出てきたのが妖精だったからだ。」

「ゲームの影響じゃな。」


 二人はそう説明するが、姿の変更の例外として、カイトの魔力が膨大であったからか桜華も大きくなれる。ただし、この大きくなった時の姿は、顔形こそそのままだが、体型は20歳程度の大学生程度となる。これが尚更ユリィを刺激するのであった。ユリィは成長が10代半ばで止まってしまったため、スタイルが良い彼女に嫉妬しているのであった。


「はい。確かにその当時の記憶ではマスターはとあるゲームの妖精族を思い浮かべておいででした。」

「むぅー。」


 そう言ってカイトの横に滞空する桜華。二人揃ってカイトの側に浮かべばそれなりに絵になるのだが、もう片方は完全にカイトの頭上で拗ねていた。300年生きようと子どもじみた行動を一同微笑ましく思い、笑って流した。


「その卵って量産できないの?」


 古代の文明等の道具の中には、量産されている物も少なくはない。なので、楓は量産でき、自分が手に入れられれば高性能な使い魔が手に入る、そう期待したのだがそうは問屋が卸さない。


「今の所量産は不可能に近いらしいの。そもそも量産できれば、オークションに出ることなんぞ無いわ。余も雑誌などでまめにチェックしておるが、ここ当分は見かけた事は無い。」

「ああ、それならこの間エルフの里のオークションに出品されていたわ。」


 数日前の休暇に里帰りしたティーネがふと思い出してそう言う。それを聞いたティナが、一気にティーネに詰め寄った。


「何!?いつじゃ!誰が落札したのじゃ!」

「え?ええっと……ああ、確かクラウディア様だったはずよ。なんか贈り物にするんですって。とても大切な方なのか、とんでもなくアブな……嬉しそうにしてらっしゃったわ。」


 ティーネはティナの剣幕にかなりのけぞりながら答える。

 ちなみに、ティーネは大変嬉しそう、とクラウディアの表情を述べているが、実際には陶酔の表情に近く、よだれが垂れていたのはなんとか黙っておいた。クラウディアはティナが欲しがりそうな超レア物を献上できるので、その時を想像して光悦に浸っていたのである。自分で使用する事は始めから考えていないあたり、ティナ親衛隊筆頭―自称―は伊達ではなかった。


「なんじゃと!?という事はまだ未使用じゃな!おい、カイト!」


 ティナはティーネが里帰りした日から判断して、まだそれほど日数が立っていないと判断する。そうして即座にまだ未使用じゃないか、と考えた彼女は即座に入手に動こうとする。使い魔の卵を使用するには専用の道具が必要で、即座に使えるわけではないのである。


「ダメだ……それ以前に誰が買ったか聞いていたか?」

「む?クラウディア……おお、なるほど。」


 どうやら興奮していたので、気づいていなかったらしい。あのティナの信奉者のことである。誰への贈り物かなど、考えるまでも無かった。というより、カイトはティーネが若干言い澱んだので簡単に気付いた。


「これは今度おもいっきり褒めねばならんな……おっと、それで別にカイトの桜華の様に高性能な使い魔のみが使い魔というわけではない。と言うより、カイトの桜華が例外じゃ。あ奴が使い魔の卵を手に入れられたのは偶然じゃから、気にせん方が良い。」


 そう言ってティナは小さな、しかしクーよりは複雑でない魔法陣を創り出す。その魔法陣が輝き、次の瞬間には小さな光の固まりが浮いていた。エネフィアにて一般的に使い魔といえば、この光の様な簡易なモノを言う。クーの様に自意識を持っている使い魔なぞ、一部の高位魔術師が有しているだけである。


「これも使い魔じゃ……とは言え、意思は無く、単にこの光の見た景色を術者に見せるだけしかできん。始めはここから勉強すると良い。」

「……勉強って、どうやって?」


 ティナのセリフに、楓が首を傾げる。使い魔の作成は秘中の秘であり、教本は全て研究者達の秘蔵の品となっていた。当然、何の関係もない楓が見せてもらえる事など、まず有り得ない。それ以前に教本があれば、すでに楓は独自で勉強をしていただろう。そもそもでそれが出来たなら、こんな所で講義なんぞ開いていない。


「……む?そういえばそうじゃったな……」


 楓の言葉にティナが首を傾げる。気づいていなかったらしい。ティナは始めから割りと簡単に使い魔作成をできていたのであまり疑問に感じていなかったのだが、当然使い魔を創ろうとなると、至難の業である。おまけにわからない事は義姉のティアが教えてくれたので、なんら問題はなかったのだが、これこそ異常なのである。


「カイト、お主は教えられんか?」

「オレの使い魔は殆どルゥと同じだ。向いてない。桜華も卵使ってるからな。」

「……しょうがない。余が直々に教示してやろう。」

「ホント!」

「うむ。乗りかかった船じゃ……ついでにそこの魔術師連中も面倒見てやるとするかのう。」


 少し離れた所で羨ましそうにしていた他の魔術師生徒を見たティナがついでに面倒を見ることにした。その言葉に魔術師志望の生徒たちが一気に沸き立つ。


「ホント!ありがとう!」

「おお!ありがとよ!今度飯でも奢らせてくれ!」

「あの桜華ちゃんみたいな使い魔を創るにはどうしたらいいの!」

「う、うむ。まずは……」


 そうして、ティナの即席使い魔作成講座が開始されることになったのだった。




「カイト、お前古代の遺跡にも行ったことがあるのか?」


 使い魔作成講座に集中する女性陣を横目に瞬が尋ねる。横にはソラと翔も一緒だ。他の面子は、というと、何故か講座には魅衣や由利、桜、瑞樹、凛も参加していた。5人はクーの様な使い魔を創ると息巻いている。クーならまだしも、彼女達の実力では単なるマスコットの実用性は皆無の使い魔が出来そうだった。

 他の生徒は使い魔に気を取られて気づいていなかったのだが、使い魔の元となる卵は滅多に出品されず、そしてカイトはそれを持っていたのである。カイトの正体を知っていれば買ったとは考えづらく、自力で入手したと考えるのが自然だった。


「ああ。行ったことはあるな。ただし……桜華の元となる卵は遺跡で手に入れたわけじゃない。」

「他にも入手する手段があるのか?」


 さっきのティナの説明では、古代の遺産の様に思えたのだが、違うらしい。まあ、古代文明の遺産でも間違いでは無いのだが、そこでしか手に入らないというわけでもないのである。


「ああ、この世界には迷宮(ダンジョン)という物があってな。そこの難易度が一定以上のレベルだと入手できる。まあ、それでもドロップ率が超極低確率、迷宮(ダンジョン)も超高難易度というレアの中のレアだがな。まあ、難易度次第じゃ手に入れる事も不可能じゃないから、極稀に、オークションに流れてくる。クラウディアが入手したのはそれだろうな。」

「……説明がゲーム的じゃないか?」


 カイトの説明に、瞬が少しだけ苦笑する。よく誤解されるのだが、別に瞬とてテレビゲームをしないわけではない。プレイ時間こそ少ないものの、息抜きや付き合いでゲームをする時もある。その腕前は時々部活生で集まってゲームをした時などは、持ち前のセンスでプレイ時間の不利を補える程であった。


「これで通じるんだよ……」


 瞬の苦笑の理由はカイトにもよく理解出来た。なので、彼も苦笑してそう言うだけだ。確かにカイトも初めて聞いた時には唖然となったが、事実これで冒険者には理解される。瞬はそんなカイトの苦笑を見て、どうやら事実らしいと悟る。


「何?……だが、此方にはテレビゲームなんて無いだろう?」

「まあ、眉唾なのはわかる。だが、事実なんだよな、これ……ゲームの様に聞こえるのは多分、イヤリングの翻訳の関係とかだと思うけどな。」

「うん、今の説明で全部理解できるよー。」


 カイトの言葉をユリィが肯定する。地球のテレビゲームを知り得ないユリィがそう言うのだ。事実であった。


「まあ、迷宮(ダンジョン)の説明は行ける時にでもしよう。」

「えぇ、今教えろよ。」

「そこは、お楽しみにしておいてくれ。」


 ソラの抗議をそっけなく流して、カイトは笑みを浮かべたのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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