第5話 現状把握
ちらり、とですがカイトの活躍の一端が語られています。
4人の自己紹介が終わった事により始まったアルの質問だが、概ねカイトが聞かれたことと大差なかった。
「まず、天桜学園、とのことでしたが、この建物は学び舎でよろしいですか。」
「ええ、間違いありません。」
「では、次に、あなた方は魔法や魔力のないところから来られたとカイトから伺いましたが、これらについて心当たりは。」
「魔法や魔力……?そんなものが実在するのですか?作り話の中だけだと把握しております。」
「では、なぜここに来られたかも……?」
「申し訳ありません。空に魔法陣のようなものが浮かび、それが光ったと思ったら次の瞬間にはここに……」
これ以上は聞いたところで新たな情報は得られない、そう判断したアルは質問を終わらせる事にした。
「ありがとうございました。天道さん。そちらからはなにか聞きたいことはありますか?」
そうして、質問を終わらせたところでソラが帰ってきた。
「俺をのけ者にしてなにやってんだよ。」
一人憤慨している。それに対してカイトが呆れるも、全く気にしていない。
「お前が勝手にトイレにいったんだろ……。」
「質問なら俺にもあるぞ!」
意気揚々と質問するつもりである。尚、質問しているのではなく、されているのだが、お構いなしであった。
「あはは……。えっと、君は?」
「おっと、悪い俺は天城 空。ソラでいい。」
「僕はアルフォンス=ブラウ=ヴァイスリッター。アルでいいよ。」
「よし、んじゃあ、アル、まずは……」
さっそく質問しようとしたところ、カイトに遮られる。
「ソラ、まずは会長が先だ。お前が聞くより、確かだろ。」
「……ちっ、しょうがないな。」
「悪い、天道会長。」
「桜でいいですよ。あと、天音さんは私にもいつもの口調で大丈夫ですよ。」
二人の遣り取りをニコニコしながら見ていた会長、実は親しみやすい性格をしているらしく、微笑みながら言う。ちなみに、この時桜が何を考えていたかをカイトは後に知ることになるが、それを知ったカイトが頭を痛めるのはまた別の話である。
「わかった、桜。オレもカイトで構わん。」
「では、余もティナで構わん。」
「んじゃオレもソラでいいぜ」
「はい。カイトさん、ティナさん、ソラさん。」
3人との親睦が深まったところで改めて質問を再開する桜。
「では、改めまして。まず、ここなのですが、地球の日本ではないのですか?」
日本という単語に目を見開いて驚いた様子のアルだが、気を取り直して尋ね返した。
「ええ。あなた方はそのチキュウのニホンというところから来られたのですか?」
「ああ。ってことはやっぱりここは異世界ってことか!」
桜に代わって答えるソラである。地球じゃないと聞いてかなり興奮している。好奇心旺盛なソラは、見知らぬ大地にワクワクしている様だった。
「アルさんももっと普通のしゃべり方でいいですよ。」
「あ、うん。ありがとう。それで、この世界を僕たちはエネフィアって呼んでるよ。ここはエネフィアのエネシア大陸の東にあるエンテシア皇国のマクダウェル公爵家が領有する土地だよ。まぁ、今答えられるのはこんなところかな。」
さすがにアルも独断で何者かも分からない者に情報を与えすぎるわけにもいかず、当たり障りの無い情報だけを教えることにした。
「そうですか……。」
地球では無い事を全校生徒に伝えることを考えると頭が痛くなる桜であるが、気を取り直してアルに問いかけた。
「次に、魔法が存在する、とのことでしたが、あなた方のお力で我々を元の世界へ返すことは可能でしょうか。」
この質問にはかなりの願望が込められていた。すぐに帰る見込みがあるかないかは重要である。
「それは……。ごめん。多分不可能に近いと思う。」
「なぜ、とお聞きしても?」
帰還不可能と聞かされ、かなり顔が青ざめている桜だが気丈にそう問い返す。
「あまり詳しくは話せないけど……。まず僕らでは力が足りないんだ。300年前、個人で世界間で転移した人がいたんだけど、その人はとんでもない力を有していたらしい。聞くところによると今の僕の100倍以上の魔力を有しながら転移のために数ヶ月魔力を貯め続けてようやく、だったらしいよ。」
「ちなみに、アルさんはこの世界でどの程度の実力かお聞きしても?」
「……僕で上から数えたほうが早いレベルかな。」
傲慢でも謙遜でもなく、事実としてアルは自分の力量を把握していた。それ故の評価だ。
「では、あなたより強い方にお知り合いなどは……?」
「数人知っているけど、彼らの多くが300年前に転移した人物を知ってるんだ。その彼らをして未だに自分たち全員を合わせても当時の彼に遠く及ばない、とおっしゃってるらしいよ。」
「そうですか……。」
「これは、当分帰れそうにないか……。」
さすがのソラもこれにはかなり落ち込んでいる。何かフォローを、と考えたらしいアルは慌てて取り繕った。
「でも、当分の間は衣食住は大丈夫だと思うよ。」
「え?」
さすがに転移していきなり衣食住を確保できると思っていなかった桜は唖然としている。アルは更に説明を続ける。
「まず聞きたいんだけど……」
何故か若干興奮しているアル。
「君たちの言っているニホンって、もしかしてスシやテンプラ、スキヤキ、ジンジャ、ミコとかのある所であってるかい!」
「あ、ああ」
いきなりテンションのあがったアルに対し若干引き気味に答えるカイト。やってしまったと思ったアルは照れた様子で謝罪した。
「あ、ごめん。その件の人物なんだけど実は彼もこっちへ飛ばされた人間だったんだ。自分はニホンから来たって。当時魔王軍の侵攻にあっていたエンテシア皇国なんだけど、偶然彼は当時賢者と呼ばれていた天族の老人に保護されて、才能を見出されて旅に出たんだ。そこには様々な出会いと別れがあったらしいんだけど、彼はついに魔王を打ち倒して勇者と呼ばれる様になった。」
「当たり前のように魔王がいるんだな。この世界。」
ソラが剣と魔法の世界に良くある話に、少しだけ興奮していた。
「今代の魔王様は良いお方だよ。続けていいかな?」
悪い、ソラがそう言うとアルは説明を続ける。
「その後、彼は敵対していた魔族にも慈悲を示して当時の皇帝陛下に直訴して魔族とも共存できる街を作りたいって訴えかけた。その心意気に心打たれた陛下は公爵の地位とこの土地、そしてマクダウェルの姓を下賜されたんだ。そうして出来たのがこの公爵領なんだよ。今でこそ皇国中で様々な種族が生活出来ているけど、それは彼の功績といっても過言じゃない。だから公爵家だけは異世界からの客人、しかもニホンからの客人であったら無下には出来ないよ。」
そう言って安全を保証するアル。自分たちの英雄の起こりに縁ある者達である以上、見捨てることは出来ない、と保証した。
「はぁー、すげぇ奴もいたもんだ。ってことはそいつのお陰で俺たちはなんとかなる、ってことか。そいつには足を向けて寝られないな。」
感心しながらそう答えるソラ。ティナはニヤニヤと、カイトは顔が引き攣っているが、真剣に話を聞き入っていた桜、ソラ、興奮していたアルは気づいていない。
(才能ね。本当は魔力以外なにもなかったんだが……。その魔力も来た当時は今のアルより少し強いぐらいだったしな……。にしても、300年前か……)
そう考えて苦笑するカイト。思い出しているのは彼と共にいた3人の異族の少女達である。彼女らは長寿であったため、今も生きている可能性は高かった。それ以外については、流石に今でも生きているかどうかの確証は難しかった。決して、短くは無い時間だった。
「では、日本からの客人ということで興奮されてたのですね。」
「あ、いや、実は僕は趣味で当時の資料を漁ってニホンについて調べていてね。それで、つい……。」
照れた様子でそう語るアル。どうやらニホンに憧れがあるらしい。苦笑しつつもカイトはそれを許した。
「まぁ、そういうことなら仕方ないだろ。ソラも魔法だドラゴンだとかなり興奮してるからな。」
「うっせー。だって魔法にドラゴンだぞ、これで興奮しないほうがどうかしてる。カイトが枯れ過ぎなだけだろ。」
落ち着いてきたのか若干恥ずかしげにソラはそう言う。が、何かに気づいたのか若干身を乗り出してアルに問いかけた。
「ん?300年前に来たその勇者ってやつは日本から来たんだよな。ってことは、俺達も魔法が使えるようになるのか?」
「なると思うよ。魔力は誰もが有しているはずだし、ヒトによって保有できる魔力量が違うだけだからね。」
「まじかよ!じゃあ、魔力の使い方教えてくれ!」
「あはは……。ごめん、さすがにそれは上の方と相談しないと……。」
「どこに行けばその上の人と相談できる!」
自分たちも魔法が使えるようになるかもと再び興奮しだすソラ。それを遮るように桜がソラを制止した。
「いえ、先に先生方と相談したほうが良いでしょう。今のお話ですと、当分の安全は保証してくださる可能性が高い様です。先生方にそういった交渉をお任せしたほうが良いでしょう。」
それを聞いたソラは少し落ち着いて深呼吸して、考えこむ。
「……それもそうか。でも、可能だったら絶対教えてくれよ!」
「うん。その代わり君たちもニホンのことについて教えて!当時の資料は少なすぎてほとんどわからないんだ……。」
当然だが、カイト一人の資料しか残っていないのだ。調査が難航するのは不思議ではなかった。
「よっしゃー!交渉成立だ。」
そう言って手を差し出すソラと差し出された手を握り握手するアル。それを見て一旦区切りがついたと判断したカイトが外へと歩き始める。
「二人共納得いった所で、先生方のところへ行かないか?桜もそろそろ歩けるだろ。」
「え、あ、はい。……なんとか歩けます。」
立ち上がって歩けるかを確認した桜。なんとか歩けそうだと判断し桜も先生方のところへアルを案内することにする。
「確か第一会議室じゃったか?」
「さっきの放送ではそうでしたね。」
「とりあえずそこへ行くとするか。アルも一緒に来てくれるか?」
「うん。案内を頼めるかな。」
「じゃあ一緒に行くか。」
とりあえず教員たちと相談するか、と第一会議室を目指す一行であった。
お読み頂き有難う御座いました。
2018年2月3日 追記
・誤字修正
『おっしゃって』が『おっしゃて』になっている所を修正。