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第123話 交流―ティナ達の場合―

 カイト達が他愛無い雑談をしている頃。学園から交流と言う事で出て行った面子はと言うと、特に問題もなくマクスウェルまで到着していた。そして中央区のユニオン支部まで到着すると、菊池がおもむろに切り出した。

「じゃあ、ここから別行動で良いよな。怪我すんなよ。」

「はい、菊池先輩の所も気をつけて。」

 菊池の指示に楓が頷いて、2つのパーティは別行動を開始する。今日はどちらのパーティも交流会なので本格的な依頼を考えておらず、適度にお互いの力量を探れる程度の依頼を受けるつもりであった。

「取り敢えず討伐依頼でも探すか。」

 そう言って菊池が掲示板に目をやる。

「何か良いのは……無いか。じゃ、やっぱりこれだな。」

 そう言って菊池が手にとったのはゴブリン討伐である。初めての組み合わせなので、安全策を採ったのである。

「まあ、依頼料が低いのはしょうが無いか。おーい、これで良いかー。」

 依頼内容をしっかりと確認した菊池が、他のメンバーに了承を取る。すると全員頷いたので、異論は無い様だった。

「良し。戦闘陣形は……取り敢えず遠距離のミストルティンと三越は後方。俺と翔が前衛だな。小野寺と敷島は遊撃を頼む。アルフォンスはなるべく手を出さない方向で頼む。それで良いか?」

 最後に確認として、菊池がアルに問いかける。今回は冒険部としての連携等を見るのが目的なのだ。表立ってアルに動かれては元も子も無い。

「うん、良いんじゃないかな。もし前線でまずそうだったら僕が囮で出るよ。」

「おう、助かる。」

 菊池はアルに礼を言うと、更に細かな戦闘時の陣形を指示していく。

「こんなところか?じゃ、行くぞ!」

 菊池の号令でユニオン支部の外に出た一団だが、外に出た所で偶然弥生と出会った。弥生は少しびっくりして警戒した表情を見せたが、相手が菊池であると知るや、直ぐに警戒を解いた。二人は同じクラスなので、仲が良いと言う訳では無いが、別段険悪と言う訳でも無い。

「あら、菊池じゃない。」

「ああ、神楽坂か。今日から自由行動が許可されたんだったな。お前は一人か?」

 すでに一週間が経過した事で、弥生達にも一定範囲における自由行動が許可されていた。菊池の問い掛けはそれ故だ。

「いえ、妹も一緒よ。あと翠と。今日は本屋と公爵邸に行くつもりよ。」

 そう言って弥生が自分の少し後ろを指さす。

「え?翠さんいるんすか!?」

 翠の名前を聞いた途端顔を輝かせる翔。翔の一年近くに及ぶアタックの末、二人は付き合う事になったのである。ちなみに、翔が惚れていたのはもっと前、中学時代からで、カイトやソラが尻を蹴っ飛ばしたのが一年前なのである。とどのつまり、彼は若干ヘタレであった。

「あれ?翔、居たの?」

 そう言って現れたのは、メガネを掛けたそれなりに高身長な女性だ。弥生がどちらかと言えばどこか大人のイメージの強い美女ならば、此方はどこかおっとりとしつつ、芯の強さがにじみ出た女性だった。

「翠さん!ええ、今日は冒険者の活動でこっちに来てるんっすよ!」

 そう言って翔は満面の笑顔を浮かべる。

「そっか、じゃあ今日は一緒に居れないわね……。」

「はい……」

 そう言って残念そうな顔をする二人。それを見たティナがニヤニヤと笑みを浮かべる。

「まあ、別に?お主はおらんでも良いぞ?」

「ああ、そうだな。折角彼女が居るんだから、別に行っても良いぞ?」

 そう言って菊池も冗談を言う。どうやら彼もそれなりにはノリが良い様だ。

「と、言うか、翔って付き合ってる人居たんだ。」

 今まで数ヶ月一緒に居るのだが、アルは初耳だった。

「あ、中学時代からの先輩で霧雨 翠(きりさめ みどり)さんだ。俺の彼女だ!」

「初めまして、霧雨 翠です。いつもこの馬鹿がお世話になってます。」

 胸を張る翔を微笑ましく見ながら、翠はこの中で唯一見ず知らずのアルに頭を下げる。それに合わせてアルも自己紹介した。

「あ、これはどうも……アルフォンス・ヴァイスリッターです。こちらこそお世話になってます。」

「で、翠も弥生も久しぶりじゃな。」

「ティナちゃん、久しぶり!」

「私はこの間会ったけどね。」

 ティナの言葉に笑う弥生だが、そこで翔がふとした疑問を尋ねる。

「そういえば、翠さん。公爵邸って前の庭園っすか?」

「あ、ううん。なんか弥生が伝手が有るから、って言って中に入れてもらえるんだって。」

「え?中にって……俺達も入った事無いぞ?」

 驚いた様子の菊池が目を丸くしていた。実は菊池達でさえ、中に入った事は無かった。なのに冒険者として活動さえしていない弥生が中に入れる伝手を有しているのである。驚くのも無理は無い。

「まあ、最近ちょっとお偉いさんとコネ出来たのよ。言ったら二つ返事で許可くれたわ。」

 その言葉を聞いたティナとアル、そして翔には何が起きたのか正確に理解できた。つまりは女に弱い当主その人が許可を出したのであった。




「なあ、あいつ一応正体隠してるんだよな?」

「一応……そのはず。」

 小声で話しかけてきた翔に、アルが自信なさげにそう応える。念のために言えば、一応家臣団にも箝口令は出されている。が、その当人が周囲に正体を暴露しまくっていた。

「まあ、カイトは弥生に頭が上がらんからの。何故かは知らんが。」

「そうなの?カイトって事情が無い限りは、誰にでも同じ態度で話してない?」

 実はカイトが日本帰還以前から頭が上がらない唯一の女性、それが弥生である。カイトはその理由を頑なに語ろうとしなかった。

「まあ、大方なんぞいらん事でもして、それがバレたんじゃろ。」

 カイト本来の性格をよく知るティナが予測を立てる。そしてこれは正解であった。

「そんなところよ。まあ、あの子の女好きと言うか好色はあの時からでしょうね。」

 話を聞いていた弥生が非常に楽しげに肯定する。

「ほう、興味あるのう。」

「僕も気になる。」

「あー、大体想像つくけどな。」

 アルとティナがちょっと、と言うよりかなり興味深そうに身を乗り出す。一方の翔はそう言うが、彼も身を乗り出していた。そうして4人は輪になるように集まって話し始める。

「あら、聞きたい?えーとね、あれはカイトが中1だっけ?ウチに遊びに来たんだけど、その時カイトが私の下着に興味をもって、皐月が……」

 と、そこまで話した所でカイトから4人に念話が飛んで来る。当たり前だが、カイトがこの会話を聞いていない筈が無かった。

『ちょ!弥生さん、それほんとにやめてください!』

 カイトにとって地球での最大の黒歴史である。反応が早かった。

「あら、あんたどこに居るわけ?」

 そう言って周囲を見渡す弥生だが、どこにもカイトの影はない。

『学園です!使い魔通して会話聞いてます!』

「あら、覗き?感心しないわね。」

 クスクスと茶化すように告げる弥生だが、使い魔と言われて状況を察して、上を見上げる。するとそこには、案の定1羽の蒼い小鳥が舞っていた。

『弥生さん達じゃない!翔達の状況を見ているんだ!』

 気付かれた事に気付いたカイト―の使い魔―が急降下して来て、弥生の前に滞空する。ちなみに、偽装の為の魔術が施されているので、外からは何も起きていない様に見えている。

「そう。相変わらず心配性ね。それに良いじゃない。中学生男子には有りがちなエッチなネタじゃないの。」

『それを知られたいかどうかは別だろ!』

 ティナが居るとは言え、最悪も考えられる。それ故にカイトは2つのパーティには密かに監視の使い魔を潜ませていたのが役に立ったのだが、こんな形で役に立つとは露とも思っていなかった。

「で、私のパンツはどうだった?エッチだったかしら?いい匂いだった?」

『あ、非常に……って、言わせないでくれ!』

 そう言ってコントじみた遣り取りを始める二人を他所に、ティナが空を見渡していた。

「お主、あっちは良いのか?」

 ティナはちょっとカイトが邪魔になったので、少し離れた空を指さす。そこにはもう一羽の蒼い鳥が飛んでいた。あの下に楓達のパーティが居るのだろう。

『ん?……今は大丈夫みたいだな。』

 そう言うカイトに、ティナが舌打ちをする。

「ちっ……と言うか、誰か呼べば良かったのではないか?」

 カイトの使い魔達が一体でも居れば、事故率はかなり減るだろう。そう考えたティナだがカイトの問い掛けに納得するしか無かった。

『あいつらがじっと見てるだけ、なんてやってくれると思うか?』

「……有り得んな。」

 カイトの使い魔達は学園でこそ流石に自重しているが、誰も彼もじっとしているとは思えなかったのであった。ちなみに、この蒼い小鳥型の使い魔はカイトの遠隔操作で動くタイプなので、意思は持ち合わせていない。

『じゃあ、後は頼むぞ。』

 カイトはそう言うや、念話を切断した。上手くいった、内心でほくそ笑むティナが弥生に続きを促す。

「で、カイトは何をしたのじゃ?」

「ええ、それで皐月がタンスを開けて私の下着を取り出して……。」

 弥生が非常に楽しそうに話の続きを話す。弥生も気付いていたのである。実はティナが話を逸らす事で、すっかり話題を忘れさせた事に。

『だから、話すなつーとるだろ!』

 そうしてカイトのツッコミが再び入る。そうして一頻り話した後、今度こそ本当にカイトが念話を断ったのである。




「で、何を話してたんだ?」

「あ、いえ、少し弥生先輩の伝手に興味があったんで、それを聞いてました。」

 さすがに真実を話す訳にはいかないので、翔がそうごまかす。彼は内心で後でカイトに何か奢らせる事にする事に決める。ちなみに、これはマクスウェルのお薦めデートスポットを教える事で手を打った。

「それなら別に俺達にも聞かせてくれても良かっただろ?」

「あ、そうっすね。」

 どこか釈然としない菊池にそう言ってあはは、と翔も笑う。

「で、結局何だったんだ?」

「いや、なんか先週偶然に公爵家のメイド長に伝手出来たらしくて、その人がクズハさんに頼んでくれたらしいです。」

 弥生がユハラに伝手があるのは嘘ではない。ただ、頼んだ相手がカイトであるだけであった。

「ふーん、そうか。で、お前も行くのか?」

 菊池がニヤニヤと笑いながらそう言う。それに翔が少しだけ困った顔をして、翠を窺い見る。

「行きたいっすけど……ね?」

「来て欲しいけど……まあ、そんな事したら軽蔑するわ。やる事やってからにしなさい。」

 そう言って翠も同意するが、翠は翔を嗜める。それが、二人の結論であった。

「翔、公爵家から迎えが来てくれるそうだから、安心なさい。一流の護衛を寄越してくださるそうよ。」

 そう言っている内に褐色の肌の青年がやって来た。

「コフル様!」

 そう言ってアルが敬礼する。幾ら英雄ルクスの子孫であろうと、公爵家の中での順位はコフルの方が圧倒的に上であった。

「おう、アルか。職務、ご苦労さん……お前が弥生ってやつか?」

「ええ、そうよ。あなたは?」

 見知らぬ人物にいきなり話しかけられたので、少しだけ警戒感を滲ませる弥生。睦月は弥生の後ろに隠れてしまった。

「ああ?あいつから何も聞いてないのか?人を休日に働かせといて紹介しとかないってどういうことだよ……」

 ここでのアイツとはカイトの事である。彼は溜息混じりに愚痴り始める。

「ユハラにはこの間会ったらしいな。その兄のコフルだ。妹と同じく秘魔族だ。妹が仕事で来れなくなったから、俺が代理で来た。」

「そう。私は神楽坂弥生よ。」

 そう言って手を差し出す弥生。コフルはそれを握り返した。

「あんたがあの弥生か。噂は聞いてるぜ。てことは……こっちのはどう見ても女……あれ?こっちもどう見ても女……だがこっちは胸があるな。てことは……こっちが睦月か!」

 コフルは何度も翠と睦月を見比べ、弥生の後ろに隠れていた睦月を指さす。ようやく睦月を男と理解したので、噂に違わぬ美少女?ぶりに眼を驚愕で見開いていた。

「あら、私達を知ってるの?」

 弥生の小さく告げられた言葉にコフルは弥生にのみ聞こえるよう小声で返した。

「カイトから聞いてる。唯一頭が上がらない女だってな……うわぁ、ほんとに女みてぇ。」

 実はコフルとストラのみ、カイトの過去をそれなりに聞いていた。コフルが気にせずにカイトに質問したからだ。ストラは世話役としてコフルと一緒にいることが多く、そのお陰で知ったのである。実は何気にコフルはストラに頭が上がらない。

「僕、男の子なのに……」

 そう言って落ち込む睦月。そうやって落ち込む姿はどう見ても女の子にしか見えない。それが余計にコフルの頭を混乱させている事に彼女が気付くのがいつになるのかは、誰にもわからなかった。

「で、あんたらを公爵邸まで案内すれば良いんだな?」

「ええ、お願いね。」

「じゃあ、翔。怪我しちゃダメよ?」

「はい!コフルさん、翠さんをお願いします。」

 そう言って翔が頭を下げる。それにコフルが片手を上げて了承を示して、後を振り返る。

「おーう、任せとけ。たく……人が折角気持ちよくだらけるつもりだったのによ……」

 そう言って4人は公爵邸へと向かっていった。

「じゃあ、俺達も行くぞ!」

 それに合わせて、菊池率いる冒険者たちも出発したのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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