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第122話 留守番

 カイトが魅衣達の特訓を開始した翌週。ようやく一度は合流が見送られた楓達の冒険部への加盟がなされる事となり、以前は学園でお留守番をしていた面子を含めて、交流を行う事となった。

「と、いうことでだ。今回はオレ達以前交流を行った面子を除いてチームを組んでもらった。今までとは異なる連携になることから、全員一層の注意をしてくれ。」

 新しく入った人員を交え、カイトが全員に注意を促す。

「リーダーは楓と菊池先輩、お願いします。」

 菊池とは元一条パーティの副隊長である。彼が瞬が楓と共に退いた後の冒険者達の活動を取り纏めていたのだが、今日からは本格的に冒険部所属として活動することになったのである。

「ええ。任されたわ。」

「おう。」

「しっかりな。」

 菊池に対して瞬が激励を送る。そうして瞬の出した腕に菊池も腕を合わせる。

「お前こそ、下級生しかいないからっていばんじゃねぇぞ?」

「ははっ、ここだとカイトの方が実力が上だからな……それに凛もいる。」

「さすがに一条も妹には勝てないってか。」

 瞬の物言いに、菊池が笑う。

「うるさい。」

 瞬は照れた様子で頬を掻いた。そうしている内に、他の面子の準備が出来上がる。

「菊池先輩、うちのパーティは全員準備出来ました。」

「おーう。んじゃ、行ってくる。翔、道中で冒険部についての説明頼むわ。」

「はい。」

 瞬、翔の二人と同じく、菊池も陸上部所属の生徒であった。なので、陸上部の翔とは顔なじみで、自身の補佐を任せたのである。

「怪我するなよ。」

 瞬は、そうして部屋から出て行った菊池と翔を見送る。その後、更に密かにティナとアルに話しかける。

「アル、ユスティーナ……全員の無事を頼む。」

「うん……まあ、僕なんかよりもティナちゃんのほうが頼りになるけどね。」

「安心せい。余以外にも使い魔達が密かに警護しておるのじゃ。はぐれても問題はない。」

 ティナは少しだけ視線をずらし、桜と一緒にいるカイトと頷き合う。今回はカイトもティナも居ないパーティが生まれているので、念には念を入れて、使い魔で見守る事にしたのである。

「では、ゆくか。」

「うん。じゃ、行ってきます。」

「ああ、行って来い。」




 一方、楓のところでも見送りが行われていた。

「じゃあ、行ってくるわね。」

「はい。いってらっしゃい。」

 そう言って笑顔で桜が楓を見送る。その会話が終わるのを見計らい、カイトが楓に問いかける。

「楓、非常用の通信魔導具は持っているな?」

 実は翔やお目付け役のアルとティーネにも持たせたのだが、最悪の場合にカイトとティナにつながるネックレス型の通信用魔導具を楓に渡していた。ティナは自力で念話が使えるので問題ないし、そもそもこの近辺で彼女の手に負えない事態が起こりえるとはあまり考えられなかった。

「ええ。実際のところはどのぐらいでこれるの?」

 楓は少しだけ胸元を開き、ネックレスの鎖を見せる。何かあった場合にはカイト達救援が来るまで時間を稼がなければならない。戦闘のペース配分に注意する為、目安を知っておく必要があった。

「公爵領内で結界さえ敷かれてなければ一秒かからん。結界があっても族長クラスでなければぶち破るのに5秒もいらん。それにコフルやステラ……言ってもわからんな。多少の問題ならオレの私兵が駆けつけるようにも言ってある。連絡が取れない場合で、尚且つ自分たちのみで対処出来ないならお目付け役に連絡させるか、近くの公爵家の人員に天桜と伝えろ。それでわかるはずだ。」

 今回、カイトはなるべく万全を期していた。カイトとティナが転移魔術をほぼ溜めなしで使える距離は公爵領全域より広い。その為、公爵領内程度ならば、問題にならなかったのだが、最悪の場合も考えられる。数秒が命取りとなることはよくあるのだ。なので、なるべく手配できるところは手配していた。

「そう、なら気をつけるべきは盗難の方ね。」

「ああ。まあ、かなり高位の術者でなければ盗難出来ないように魔術で盗難防止しているから、大丈夫だとは思うんだが……」

 簡単に言えば、所有者から外れなくなる様な魔術を仕掛けていた。施したのはティナなので、盗みを行う者でこれを解呪出来る者が居るとは思えない。なにせ、これが解呪出来るなら、どこの国からも引く手あまただろうからだ。

「じゃ、行ってくるわ。」

「ああ。気をつけてな。ティーネ、悪いが楓達を頼む。ソラ、由利。一応武器技(アーツ)の使用を許可する。ただし、最悪の場合を除いて市街地では使うな。被害が測り知れん。」

「りょーかい。」

「はーい。」

 カイトは最後にソラと由利の二人に対して、そう言い含める。二人共まだ満足には武器技(アーツ)を使えないが、それでも、10回に1~2回程の成功率とはなっているのだ。注意を促しておくに越したことはなかった。そうして、カイトの注意を聞いて、楓のパーティも出発していった。




「で、居残り面子は……何しようか?」

「依頼待ちだな……」

 二つのパーティを見送り、やることもなく手持ち無沙汰のカイトが悩んだのを見て、瞬がソファに腰掛ける。まだ人数が少ないので、鍛錬で体力を消費するわけにはいかず、待機するしか無かったのである。

「そういえば、カイトさん。」

 そうして、全員思うままに待機していたのだが、ふと瑞樹が思い出したようにカイトに話しかける。

「ん?なんだ?」

「以前世界中の神々がネットを利用している、と仰ってましたよね?」

「ああ、そうだな。」

「そうなんですか?」

 初めて聞く桜達が目を見開いている。仕方ないのでカイトは他の面子にも事情を説明した。

「で、そういうわけなんだが……それがどうした?」

 カイトの説明が終わり、ようやく本題に戻ってきた為、瑞樹に質問を促す。

「いえ、どなたが利用してるのかな、と思いまして。」

「ん?……そうだな、利用率が高いのはエアとオーディンか。この二人は日本と欧州にいるから、滅多に会わん。二人の対談は主にネットだ。最古の知恵の神と知識欲旺盛な神、オーディンが問いかけるのが主だな。その流れでエアがよく応える、といった具合だ。」

「教師と生徒、と言った感じなのか?」

 カイトの話しぶりからそういう印象を受けた瞬が尋ねる。その言葉に一同納得がいったのか、なるほど、といった顔をしていた。が、これにカイトが笑う。

「さもありなん。エアは現在高校で歴史の教師をしているからな。最古の知恵の神ということで、まあ、当たり前だがかなり歴史に詳しい。こっちに来た時に、何かできることはないか、と聞かれたんで教師はどうだ、と提案したら、やってみますか、と言って引き受けた。まあ、色々書類を偽装したが……その甲斐あって今は充実した生活を送っているようだな。」

 カイトは楽しげに語る。当人は神々視点での歴史は知っているのだが、人間視点での歴史を知れ、かなり興味深げに仕事していた。ちなみに、教師としての練習にカイトが付き合ったのだが、神々の視点からの歴史も人間からみれば、興味深かった。

「それって……天桜ですの?」

 カイト、高校ときて思い浮かぶのは自分たちの天桜学園である。そこで瑞樹は恐る恐る聞いたのだが、カイトは否定した。

「いや、さすがにそれは無い。天道のバックの龍族と神宮寺のバックを刺激する可能性があったからな。天神市に桜桃女学園ってあるだろ?そこだ。」

 天神市とは天桜が元々有った場所で、天道家のお膝元であった。最近になって統廃合と再開発が進んだ土地で、近未来的な様相を呈していた。

「……もしかして、歴史のエア先生ですか?変わった名前とは思っていましたが……」

 地元の名家である天道がやっている私学の天桜学園と、良家の子女が多く通う桜桃女学園とは天神市での祭りなどで協力する機会があり、桜は天桜の生徒会長として度々訪れる機会があったのである。その為、彼女は歴史教師と名乗るエアの事を知っていたのだ。

「ああ、褐色の肌に金髪、端正な顔つきが整った、オリエンタルなイケメンだよな?……神々や異族はどいつもこいつも美丈夫ぞろいだ。嫌になる。」

 カイトの愚痴を聞いた一同は苦笑いを浮かべる。

「カイトさんも卑下するほどではないと思いますが……」

 そう言って瑞樹がフォローするが、カイトは真に受けなかった。公爵時代に言われ慣れているのである。更に言えば、嘗ての仲間の同年代の男二人は二人揃って彼を遥かに上回る美丈夫だし、今にしてもソラと瞬という学園の2枚看板が左右に居るのである。自身が普通だと思っていても仕方がない。

「ありがとう。他にはエリザ達は仕事の休みを合わせたりで使っているし、スサノオやインドラなどの神を捜索するのにスレが立てられたりするな。あとはゲーデなんかが女の子をナンパするのに使っているらしい。詳しくは知らん。知る気も起きん。」

 吐き捨てる様にカイトが告げる。彼に巻き込まれて何度か尻拭いをさせられていたのであった。

「捜索?」

 魅衣がカイトの発言に不穏な物を聞き、眉をひそめる。

「奴らはよくいなくなる。それで、アマテラスやカルナと言った親類縁者が捜索する訳だ。それでも見つからない場合は天神市に来て他の神々に頼る事も多いな。」

 カイトを中心にいろんな神々が交流を持つようになり、どの神話にもいるやんちゃ者がつるんで手がつけられないのであった。そういったやんちゃ者は得てしてかなりの実力者なので、誰の手にも負えない。

「はぁ……この調子だと他にも天神市にいそうね……」

「オレが知る限りだと、ここ数年で日本に移住した神は全員天神にいる。」

「げ……」

 魅衣がふと思って言った言葉だったのだが、あっさりカイトに肯定される。あっさり肯定された魅衣は顔が引き攣っていた。

「エア先生は確か天神市の外国人居留区にいた筈ですので、そこに集まっているのでは?最近再開発が終わりましたので、かなりの入居希望者がいらっしゃっていたはずです。」

 エアからその昔天神市に移り住んだ、と聞いたことのある桜があたりをつける。その言葉を聞いて、近くに住んでいる瞬と瑞樹が思い出したかのように口を開いた。

「そういえば、あそこには一目見ただけで一角の人物とわかる奴が多かったな……今になって思えば、明らかに気配というか、何かが違っていたんだろう。」

「最近よくあそこに外国の方が越してこられると思っていたのですが、まさか神様とは……」

 瑞樹は自身の出自と見た目から、あまり目立たない様に学園近くでも特に海外からの生徒が住む寮に近い場所に部屋を借りて―尚、実家の意向が絡んだ為、かなり豪華な部屋を与えられている―いたのだ。その結果、外国人居留区の近くとなったのである。

「ああ、あそこ一帯の売屋を全部買い取ってな……いや、オレの金じゃないぞ?」

 買い取った、と言ったら全員にぎょっとされたので、カイトは大慌てで修正する。如何にそれなりの大金を稼いでいるカイトとティナの二人といえど、土地一帯の買収が出来るはずが無かった。

「びっくりした……あんたどんだけ金もってるのか、って思っちゃった。」

「さすがにうん十億も持ってないって。さすがに神が出してる。中には日本での住処として家を持っている神もいるな。」

「ねえ、もしかして、エルザさん達も家持ってるの?」

 カイトの言葉から、ふっ、と魅衣が興味を持つ。ファンの一人として、できれば知っておきたかった情報である。

「ああ、持ってるな。まあ、滅多に居ないが。」

「そっか……やっぱり海外に家あるんだ。」

 カイトから返って来た答えに、魅衣が少し残念そうな顔をする。まあ、当たり前か、と思った魅衣だが、カイトからは別の答えが返って来た。

「いや?日本だぞ?普通に天神市にある。居ないのは単純に仕事で時差があるからだな。普通に休暇は日本の自宅に居るぞ。オレも飛ばされる前日にふっつーにエルザの手料理食ってたし。二人には転移系の魔術に特化した使い魔を貸し与えてるから、日本の自宅から各国に行ってるな。旅券なんかはどうとでもなるし。」

 あっけらかんと犯罪を暴露するカイトだが、神様や魔術を使う者―各国の魔術的機関を含む―は当然の様に行っている事であった。なんら魔術的対策をしていない科学技術や人間によって管理されている旅券や入出国データは、魔術を使えば偽造し放題と言ってもいいぐらいに防御が甘かったのである。カイト達や神々はさすがに悪用はしていないが、ティナや神々の戸籍データなどの作成などでは使用させてもらっていた。

「それ、犯罪ですよ、先輩……」

「凛、なら神様に文句言ってみるか?」

 確かに犯罪なのだが、神様相手に文句言える奴もそうは居なかった。そして凛はその例外ではなかった。

「英雄とか神様ですもんね、少しぐらいならいいですよね。」

 凛は自身が神様に注意をしに行く自分を想像し、笑顔で聞かなかった事にした。兄はそれに呆れるばかりである。

「おい……ん?スーパー恵比寿のオーナー恵比寿はもしかして恵比寿神なのか?」

 一条兄妹もよく利用するスーパーのオーナーを思い出してカイトに問いかける。スーパー恵比寿ではよく外人風の購入客達が店主と雑談しており、兄妹はそれでいいのか、とよく思っていた。だが、その店長の名前を思い出し、神々の中に同じ名前を持つ神が居た事を思い出した。

「ああ、そうだな。」

「じゃあ、もしかして……」

 そうして、この日は依頼人が来るものもなく、カイトたちは一日待機で出て行ったティナ達の帰りを待っていることになる。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年1月11日 追記

・表記追加

 『如何にそれなりに~土地一帯の』の一文が途中で終了していたので、そこを追加しました。

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