第117話 意外な事実
1時間後の13時に、閑話を投稿します。大して新しい情報は出しませんが、これから起こる事件の発端に近いお話です。今読んでおかないと次の話の内容がわからない、というわけではないですので、裏話は今章を最後まで読み終えた上で読みたい、という方は飛ばして下さい。
カイトが念話の途中と言う事で、ティナとユリィ、それに他の面子でカイトの事情説明が行われたのだが、途中から念話が終わったカイトも説明に加わる。
「と、言う訳じゃ。」
ティナが再度を締めくくり、全ての説明を終えて、なんとか二人の理解を得た。
「ああ、なるほど。それであんた、あんなに強かった訳ね。」
「ああ……全く、相変わらず弥生さんは動じないな。」
「あら、そう見える?」
如何にも余裕な表情でそう言う弥生。事実、弥生に心配は無かった。なにせ、カイトの来歴以外、初めから全てを承知していたのである。
「ええ。」
「どうせ心配しても無駄でしょ?」
「……まあ、な。」
カイトは少し苦笑に似たはにかんだ笑顔を浮かべる。
「……ちょっと待った。なんで姉さんはそこまで驚かないの?」
当たり前だが、ティナを除いた、ユリィを含めた全員がそんな二人のやりとりに疑問を覚えた。そして、皐月が疑問を呈したのである。
「ああ、それはね。私、昔妖怪に襲われた事あるのよ。あれはカイトがたまたま来なかったら死んでたわねぇ。」
パタパタと手を振りながら、懐かしそうに弥生が述懐する。が、今のように彼女が穏やかに語れる程、当時の彼女には余裕は無かった。
「はぁ!?そんなの聞いた事無いわよ!というか、地球で!?」
が、当然聞いたこと無い皐月は驚愕する。確かに、先頃の説明では地球にも妖怪が居る事は聞いていたし、理解はしていた。が、まさかこんな身近に関わりのあった者がいるとは思いもよらなかったのである。
「俺達でさえ、最近知ったんだぞ!?神楽坂は知っていたのか?」
同じく弥生の述懐を聞いた瞬が声を荒げる。冒険部発足面子でさえ、知ったのはここ数日である。それなのに弥生は地球に居た頃から知っていたのだ。驚くのは無理がない。
「ええ。ほら、皐月が高校に入る前、夏頃に紫色のアクセサリ持ってたでしょ?あれが原因で妖怪の襲撃にあってね。それでカイトが助けに入ってくれたのよ。」
弥生は当時を思い出して語る。ちなみに、原因がこの紫色のアクセサリである事が判ったのは、妖怪の襲撃から暫く経ってである。
「いや、そんなの覚えてないわよ。」
「まあ、そりゃそうよね。で、初めは一人で逃げるしか無いかな、って思ってたんだけど……これがびっくり。次の瞬間にはカイトが妖怪を退治しちゃったじゃない。」
「あの時は単に女生徒が襲われていると思って大急ぎだったからな。後で記憶をいじればいいか、と思って速攻でケリをつけるつもりだった。」
カイトがちょっとだけ照れくさそうに実情を語る。ちなみに、その襲撃を退けた後に聞けば、その前に何度か襲撃自体はあったらしく、弥生の方にはかなり、余裕が無かったらしい。
「それでカイトが振り向いて大丈夫か、よ。あの時の一連の流れは本当にさまになっていたわ。思わず見惚れたもの。初めは久し振りに会ったから別人かと思った程よ。」
弥生は思い出しながら、少しだけ頬を朱に染める。それを見た桜とユリィ、その他何人かの女性陣が鼻白んだ。
「褒めているのか微妙な所だな。で、まあ振り向いて顔を見れば女生徒は弥生さんで、思わずぽかん、となった。でもまあ、かなり取り乱してたから、ティナと二人で落ち着かせて、話を聞いてみる事にしたんだ。何か心当たりは無いか、って具合にな。」
「初めは巻き込みたくないから、言わなかったのだけど……これがカイト、かなり強引に聞こうとして、仕方なく話したのよ。で、色々あってそれをカイトが解決してくれたのよ。」
「まあ、大変だったな。弥生さんは一見普通の人間だ。何か隠された事情があるのか、と神楽坂家の祖先まで辿る事になった。」
「まさか私、というか神楽坂家も妖怪……妖族の血を継いでいるとは思わなかったわ……あ、これ言って大丈夫?」
弥生はあっけらかんとそう言うが、大丈夫と聞く以前にすでに暴露していた。
「って、何よそれ!私そんなの知らないわよ!」
自分の血に隠された秘密があっさり暴露されて怒鳴る皐月。さっきから驚きっぱなしである。
「あら、日本人の9割はそうらしいわよ?」
「カイト、本当なの?」
事情を知っているであろうカイトに皐月が尋ねる。
「ああ……天道家と神宮寺家、三枝、一条はほぼ確。小鳥遊と山岸が5割確だな。神楽坂も確定したな。と言うか、祖先まで何とか会いに行けたからな。」
溜息混じりにカイトが頷いて告げる。ちなみに、神楽坂家の祖先に会えたのは、子孫の危機にはさすがに正体が掴めぬ彼らも姿を顕したからであった。
「本当に多いわね……まあ、あんただけなら嘘と思うけど、お姉ちゃんが言うなら本当なんでしょうね。」
姉はサバサバかつ若干おちゃらけているが、こういう重要な事にだけは嘘をつかない。家族としての信頼であった。
「それで良いの?」
あまりショックを受けてない様子の皐月と睦月に、魅衣が思わず尋ねる。
「良い訳無いでしょ。でも、事実で、お姉ちゃんも受け入れているんだから、受け入れないとね。言っても事実は変わらないし。」
「どうせそんなの、僕が僕である事に変わり無い訳ですし。」
魅衣の問い掛けに、皐月と睦月があっけらかんと答えた。
「カイト……あんたの知り合いって本当に変人ばかりね。」
「魅衣さん。その区切りですと、魅衣さんも含まれる様な……」
「瑞樹、それ、お前も入るからな。」
カイトの言葉にショックを受ける瑞樹。それを切っ掛けに一瞬の沈黙が降りる。全員が全員、自身は違うと否定したかったのだが、ここに居る自分以外の全員が変人である事を否定出来なかった。それ故、自分ももしかしたら、との疑念がよぎったのである。ちなみに、傍からみれば、全員変人である。
「……その後二日位掛けて原因が紫色のアクセサリにあることが判ってな。まあ、一度は捨てる事でなんとかなるか、とも思ったんだが……。これがまた弥生さんの所に帰って来た訳だ。」
一瞬の沈黙の後、無かった事にしたカイトが口を開いた。そして、全員が一致して無かった事として流す事を決定して、弥生が続ける。
「……それで色々あってカイトと一緒に日本の妖怪や神様と話す機会があったのよ。まさか大御所蘇芳さんやら女優の藤堂菫、海外のモデルや歌姫と交流持てるとは思って無かったわよ。いや、ほんとにカイトと仲良くして良かったわ。」
そう言ってパタパタと手を振る弥生。実に嬉しそうである。が、当然当時はそんな余裕は無かったので、この交流はかなり後々の話である。
「待って、もしかして、その海外の歌姫って……エルザ?」
魅衣が文脈から、そう判断した。そんな彼女の身体はプルプルと震えていた。
「あら、あなた達もカイトから聞いたの?そうよ。ほら、証拠写真。こっちはエリザさんね。流石、海外で売れっ子モデル。センス良いわよねぇ。」
そう言って自分のスマホから写真を取り出す。そこには弥生とエルザ、エリザの二人が写っていた。それを見た魅衣がかなり悔しそうにカイトを睨みつけた。
「カイト!あんたなんでもっと早めに教えてくれなかったのよ!もしかしたらお近づきになれたかも知れないじゃない!」
エルザの大ファンを自称する魅衣が心底悔しそうであった。まあ、コンサートで最前列を取るような彼女なので、この恨みは至極当然……なのかもしれない。ちなみに、カイトの場合は関係者として楽屋に入れるが、これを知る事になるのは随分先であった。
「いや、教えれる訳無いだろ?弥生さんにだって本当は教えるつもり無かったんだから。」
「じゃあ、なんで教えたのよ。」
カイトの言葉にさっきの不満がまだ残っている魅衣が不満気に問いかけた。
「原因は掴めたものの、対処が出来なくて爺さんとエルザ達に協力を依頼したんだよ。まあ、それでもわかんなかったんだったけどな。」
カイトもティナも、初めは自分達だけで解決するつもりであったのだ。が、そのアクセサリは色々な種族に対する高度な隠蔽魔術が施されており、ティナの魔族や龍族や吸血姫達でもその全てを把握できなかったのである。ティナも流石に異世界の道具として違和感には気付いていたものの大した対処を打てず、手詰まりとなったのだ。
「それでいろんな神様の所を移動しつつ、原因究明してたのよ。少しの間帰らなかったのはそのせいね。」
「待った……それってもしかして……2年前の夏休みの事?お盆前にいきなり、読モ友達とちょっと旅行行ってくるって、急に出てったやつ。」
皐月が漸く、その時期に心当たりが浮かんだらしい。片手で頭を押さえながら、もう一方の手で姉を制止する。
あの当時の姉は妙に切羽詰まっている感があり、家族一同で心配していたのだった。旅行で気分転換にでもなればと思い、弥生を送り出したのであった。ちなみに、弥生はアルバイトで読者モデルをやっている。
「あら、よく覚えてるわね。」
そうして当時の様子を思い出す。皐月は旅行前もおかしかったが、帰ってきた姉の様子もおかしかった事を思い出した。晴れやかではあったが、何かが違うと感じたのだ。そうして、その時の弥生の違和感を思い出し、更にカイトの周囲の女の子達の気配を見て、1つの答えに至った。
「あの時、お姉ちゃんなんか歩き辛そうに帰って来たのって、もしかして……。」
額に青筋を浮かべながら弥生に聞く皐月。すでにカイトを睨んでいる。睨まれたカイトは、なんとか逃げ場を探し始める。
「あら、よく気付いたわねぇ。なるべくばれない様に頑張ったんだけど。予定の最終日の前の日には解決してね。最終日は完全フリーで飛行機の時間まで一日以上有ったし、折角海外来たんだからってカイトに頼んで二人でデートしてたのよ。欧州の田舎ののどかな町だったけど、素朴で良い町だったわ。それでその日は二人でお泊りって訳。まあ、それまでも二人きりで海外だったんだけど、私はそんな事気にしていられる状況じゃ無かったのよ。」
少しだけ恥ずかしげに語る弥生。一方のカイトは、その言葉が発せられた瞬間、脱兎の如く逃げようとして、失敗する。カイトが逃げ場を探した様に、既に逃げ場を塞ぐ様に動き始めていた女の子達が居たのである。
「カイト!あんたお姉ちゃんと何やってんのよ!」
「いや……何って……ナニ?」
逃げられない様に逃げ道を防がれ、脱出不可の状況にテンパったカイトが身を乗り出してきた眼前の皐月に対して思わずそう言う。が、完全に悪手であった。
「そんな事聞いちゃ居ないわよ!」
更に怒鳴る皐月だが、カイトは目をそらすことも出来ない。何故なら、その左右には。
「カイトくん、そろそろ……全部、話しません?他に女が何人居ても、驚きませんよ?」
光沢の無い目で笑いかける桜。逆のユリィは笑顔だが、目が笑っていない。
「カイト?そろそろ、子供居るとか言わないよね?パパになるには少し早いんじゃないかな?」
桜とユリィの二人に左右から完全にホールドされたのだった。ちなみに、カイトの実年齢では、既に父親であってもおかしくはない。尚、ティナはすでに知っている上、それを良しとしているので我関せずであった。
「いや、子供はいないって。」
引き攣った顔のカイトが、そう断言する。さすがにカイトとてまだ父親となるつもりはない。これは真実であった。じっとカイトの目を見つめ、それを感じ取った二人は取り敢えずカイトを開放した。
「で、なんでティナは二人で行かせた訳?」
ティナが居いれば、まだ状況はましであったのかもしれない。そう考えたユリィが尋ねる。まあ、居ても状況は変わらなかっただろうが。
「む?それは、当たり前じゃろう。弥生の他にも皐月や睦月に危害が及ばんとも限らん。それに、浬や海瑠もおるからの。あの状況でどちらも日本を離れる訳にはいくまい。」
そもそもティナや日本の神々でも対策が打てなかったので、海外に居る神々にまで援助を求める事になったのだ。かと言って二人にとっても未知の状況である。何が起こるか分からない以上、戦闘力で勝るカイトが行くのが正解であった。
尚、浬はカイトの妹、海瑠はカイトの弟の名前である。二人共―特に姉が出来たと浬が―ティナに懐いており、ティナも二人を実の弟妹の様にかわいがっていた。
「あ、そか。カイトってお兄ちゃんなんだっけ?まあ、それなら仕方ないか……」
確かに家族は大切である。それを知っているユリィは何も言えなくなった。
「え?そうなんですか?」
一方、カイトに弟妹が居ることを知らない桜が興味を覚える。桜の興味を覚えた様子に、これ幸いとカイトが話題そらしに掛かった。
「ああ、オレが長男だ。妹の浬が中2で、弟の海瑠が小6だ。浬は来年受験で天桜を受験したいと言っていたんだがな……」
そうして語っていると、ふと家族は大丈夫か、と心配になった一同。特にカイトは日本の異族・妖族の間ではかなりの知名度を誇っており、そこからまかり間違って家族に辿り着かれて、危害が及ばないとも限らなかった。
「あっちは大丈夫じゃろう。いざとなれば宇迦之御魂神が出張る。あ奴とて天音家の氏神。お主と知りおうておる以上、心配するな。」
妖怪と言うか、異族絡みは本来は彼の産土神である宇迦之御魂神や、今の土地神の領分の問題である。氏子や棚子の危機を黙って見過ごす筈がな無かったが故の助言であった。
「帰ってから、稲荷寿司でも持って行くか?」
そう言って苦笑するカイト。それに地球にも様々なお節介焼きの神々や、仲間は居る。確かに、考えれば考える程、何の問題も無かった。
「氏神って……神社の氏神の事か?」
そうしてふと出た言葉に、ソラが興味深げに尋ねる。
「まあ、そうだな。天城家は素盞鳴尊だったな?」
「俺も知らねえのに、なんで知ってんだよ!」
自分も知らないのにカイトが把握していたのだ。ソラはそろそろカイトの情報網が怖くなってきた。
「スサノオから直接聞いたに決まってるだろ。さすがは神、と言ったところか、氏神は全部の氏子の名前を把握しているな。」
自分の氏神を把握していない様子のソラに、少し呆れたカイトがそう語る。何万人も居るであろう氏子の名前を全部把握しているのだ。氏神の面目躍如である。
「天道家は木花咲耶、神宮寺は恵比寿だったな。」
両方共氏神その人から聞いた情報であった。間違っては居ないだろう。
「よくご存知ですわね。ええ、当家は恵比寿神ですわ。七五三参りも行きましたもの。」
瑞樹が驚きつつも肯定する。ちなみに、七五三の時の話は恵比寿から聞いていた。当時はお転婆娘であった、と言う事も併せて聞かされた。
「天道家の場合は始まりが浅間神社の神主らしいですから、その流れです。私も七五三参りは行きました。」
こちらも木花咲耶その人から聞いている。桜はその当時は楓に連れられ、非常に大人しい娘であったらしい。両家ともに日本の神々の間でもかなり有名な家なので、酔った勢いの二人に話のネタにでもと聞かされたのだが、カイトもまさか役に立つとは思っていなかった。ちなみに、その時の写真も見せられている。何故持っているのかは、謎である。
「ちなみに、天桜の近所のスーパー恵比寿の店長が、その恵比寿神だ。帰ったらお目通りしておくといい。」
「あら、そうなんですの?」
瑞樹の仮住まいである寮は実はその近くにあった。瑞樹は意外と近くに氏神が居て驚く。
「では、帰ってから紹介してくださいな。」
「ああ、帰ったらな。」
そうしてなんとか話題を逸らす事に成功したカイト。その後は各々の幼少期の話題で盛り上がったのだが、忘れられてはいなかった。
「で、カイトくん。きちんと弥生さんとのお話は聞かせてくださいね?」
部活終了後、部屋に戻る寸前で桜に腕を取られ、笑顔でそう言われたのだった。その後、ユリィからこの一件を聞いたクズハまで合流し、その日一日の残りは彼女らのご機嫌取りにカイトの時間は費やされる事になったらしい。
お読み頂き有難う御座いました。
2016年1月11日 追記
・誤字修正
『時期』が『次期』になっていた所を修正しました。