第111話 裏ワザ
昼食を食べて、なんとか強引に精神的ショックから立ち直った一同。全員食欲は無かったので、軽めに済ませたため、時間はあまり経過していない。というわけで、カイトは腹ごなしも兼ねて軽く運動を行うと、そのまま一同に対して解説を再開した。
「で、訓練を開始するわけだが……武器技については先に解説した通りだ。当然だが、この武器技の使用にはそれに対応した武器を使用し、尚且つその武器に認められる必要がある。それ以前に、まず武器技が使える武器が無いと、武器技は使えない。」
「と、言うことは、これから私達にもその武器が頂けますの?かなり高価そうな物とお見受けしますが……。」
これから武器技の応用を修得する、ということで瑞樹が聞いてみる。が、これに対してはカイトがちょっといたずらっぽく否定した。
「いや、そもそも今の瑞樹達だと使えない。それはソラ達も同じだからな。言っただろ?オレが教えるのはその応用だ、と。」
瑞樹の言葉を否定してから、カイトは訓練前に持って来て足元に置いていた、一般的に流通している鉄製の両手剣を鞘から取り出す。
「この両手剣はどこにでもあるものだな。瑞樹、持ってみろ。」
そう言ってカイトは鞘にもう一度両手剣を納刀し、瑞樹に両手剣を渡す。そうして、彼女に何ら変哲もないことを確認させる。
「私が使っている物よりも、品質は悪そうですわね。」
「まあ、あっちは公爵家のお抱えの商人が納品した物だからな。比べるべくもない。」
さすがに瑞樹は自身も同じ両手剣を使っており、更に上流階級出身としてそれなりに目利きの腕がある。少し見ただけで品質を見ぬいた。それもそのはず、カイトは一度限りの使用しか考えていなかったため、街の武器屋でも格安の品を買い求めた結果なのである。両手剣であったのは、単にそれがその店で最も安かったからである。
「何ら変哲があるとは思えませんわ。」
瑞樹は再び納刀して、カイトに両手剣を返してそう言う。
「まあ、そうでないと、これから教える技の意味が無い。」
カイトは何処か自慢気にそう言う。この技の利点は、どのような品質の武器でも使える事にこそあるのだ。だからこそ、品質にこだわらなかった。と言うより、そうでないと予算的な問題でこの技は彼らにはあまり意味のない物になってしまう。
「では、何を教えるか、と言うと、擬似的な武器技だな。通常武器技は武器に由来した魔力を介して武器技を発動するわけだが……武器技を有する武器の魔力は実は概念らしくてな。概念、つまりはこれはこういうものである、という事象を起こす魔力が込められている、というわけだ。例えば、オレの持つ刀ならば、魔力現象を無効化する、という概念を有しているわけだ。アルの持つ武器ならば、周囲を氷結する、といったところか。これらは行為自体を表しているな。これらはイマイチわかりにくいんだが……」
そういってカイトはリィルの武器を指し示す。彼女の持つ槍は武器技を発動させれば炎と化していた。
「リィルの持つ武器なら分かりやすいな。リィルの持つ武器の武器技はこの槍は炎である、という概念だろ?」
「ええ、今の説明だとそうなります。実際、武器技を発動させれば純粋な炎になりますしね。この槍をぶつけて相手を燃やすことも出来ます。」
「リィルは熱く無いのか?」
確かにリィルの持つ武器は炎と化していたので、瞬が熱くないのかと怪訝そうな顔をする。
「私は認められていますので。」
平然とそう言い放つリィル。それを示す様に、再び槍を炎に変えた。
「蛇は自らの毒に冒されることはありません。それと同じです。」
燃え盛る炎の槍となった槍をリィルは平然と触れる。それを見てカイトは頷いて、説明を再開した。
「認められた者とそうでない者、これが大きな差だな。武器技を持つ武器はこちらが裏切らない限りは決して裏切らん。それは例え武器が奪われても、だ。故に武器に認められた者をその武器で傷つけようとしても、武器自体が拒んで傷付けることは出来ん。逆に武器技を持つ武器を盗んだ盗賊が武器の不興を買って死んだ、なぞ時々聞く話だ。まあ、盗まれた事に怒った武器の逆襲にあって本来の持ち主が痛い目を見た、ぐらいの笑い話は聞くがな。」
「そんなもんなのか……」
イマイチ理解出来ないが、取り敢えずはそんなもの、と三人は理解することにしたらしい。ちなみに、ソラ達も同程度の理解である。
「まぁな。まあ、詳しく聞きたいなら、ティナにでも聞いてくれ。でだ、オレが何を教えるか、というと、この概念を武器の強引に組み込む術だな。要には即席の武器技持ちの武器を作る術を教える、ということだ。」
そう言ってカイトは両手剣を構えて呼吸を整える。別にカイトはこんなことをしなくても使いこなせるが、彼らに見せる為にゆっくりとやろうというのであった。
「すこし下がっていろ。」
カイトはそう言って一同を少しだけ遠ざけ、大上段に両手剣を構えて……すぐに下に降ろした。
「……しまった。何使うか考えてなかった。」
「オイ!」
カイトが構えた時から何が起きるか興味津々といった感じで眺めていた一同。思わずツッコミを入れる。
「何か使って欲しいのあるか?リクエストを受け付ける。」
あはは、と照れた表情で頬を掻くカイト。
「じゃあ、なんかド派手なの。」
ソラが溜め息をついて、そうリクエストする。それを受けて、カイトは少しだけ使う物を考える。
「ド派手なの……ね、了解。……なら、あれにするか。」
そう言ってカイトは改めて両手剣を前に構える。
「おぉおおお!」
カイトが一声吼えると、一気に武器が巨大化し、全長100メートル程まで巨大化する。
「はぁ!」
カイトがその巨大化した両手剣を横薙ぎに一閃する。巨大物がとんでもない速度で動き、その余波でとんでもない豪風が生み出され、周囲には小さな竜巻が生まれていた。そして勢いが止まった瞬間に、カイトが持っていた巨大な両手剣は元の大きさに戻っていった。
「と、言うような感じになる。ティナ、もしこれを魔術で再現した場合、どうなる?」
問われたティナは、答えを出した。
「まあ当然じゃが、武器自体が魔術に耐え切れずに爆発、持ってよくて一撃のみ、じゃな。実用に耐えれる大きさにするなら、よくて2メートル……大きさにこだわるなら材質を変えるべきじゃな。」
「それに対してオレの技の場合はあそこまで大きくできる。おまけに自分由来の魔力だから、使えない、ということもないな。」
聞いてみれば、なんとも便利そうな技であった。これが普遍化していない理由がわからない。
「が、当然いくつもデメリットもある。まずは武器の消耗が激しい。今の単なる巨大化でも使えて数回。無理矢理巨大化しているんだから、使用後の強度の劣化は著しい。次に概念を組み込むことが困難。まあ、完成された物に新たに概念を組み込むんだ。当然付与するよりも難しい。」
「付与術式とは違いますの?」
武具に行う付与術式に似たカイトの説明に、瑞樹が首を傾げる。
「見掛けは同じだ。効果も似ている……が、ところどころ異なる。付与術式は武器に魔術を纏わせ、武器の周囲を変化させる物だ。」
つまりは、付与術式では魔術を付与しているだけで、武器そのものが変化しているわけではない。
「対してオレのは内部から変化をもたらし、武器そのものを変化させている。そして、一番の違いは威力だ。外だけ変わった武器と、内部から完全に別物と化した武器。内部から完全に別物と化した武器のほうが、圧倒的な威力を有している。例えば炎属性の追加でも、付与術式が武器が炎を纏うのに対し、組み込むのは武器そのものが炎と化す、という差がある。まあ、付与術式でも超高位の術者が使えば炎となるが……まあ、そんなのは専門の術者の仕事だな。」
そういって今度は両手剣に炎の概念を追加する。するとそこには炎で出来た両手剣があった。
「はぁ!」
カイトは一息に両手剣を地面へと振り下ろす。地面と衝突した瞬間、カイトの前面に巨大な爆発が生まれた。
「まあ、こんな感じだ……っと、ここが限界か。」
ちょっとだけ申し訳無さそうなカイトがそう言うや、両手剣が元の鉄の剣に戻った。元に戻った両手剣だが、そこには無数の罅が刻まれていた。そして、次の瞬間。音もなく両手剣は崩れ去った。申し訳ないのは、買って数回の使用でダメにした事に対する後悔に近かった。
「この様に、寿命が急激に縮まる……まあ、ここまで早いのはオレが鉄製なんかで無茶やったからだが……今の瑞樹でも10回同じことをやれば壊れるだろう。」
「今の私だと、どの程度が出来ますの?」
カイトからそう評された瑞樹が、カイトに尋ねる。
「んー……まあ、巨大化で5メートル。炎化で10秒、爆発は不可能だな。これがもう一つのデメリット。組み込んだ者によって威力が変化してしまう、ということだな。」
瑞樹をじっくり観察しながら、カイトが答えた。じっくりと観察されていた瑞樹は少しだけ照れくさそうであったが、自分で聞いた事なので、受け入れていた。
本来、きちんとした武器で使う武器技ならば、魔力がきちんとあれば使用者の力量に依らず最低限の威力は保証される。が、カイトの技の場合は使用者の状況に応じて、威力が下がってしまうのであった。
「ちなみに、カイトが全力でやった場合はどうなるんだ?」
使用者によって異なるなら、当然気になるのはカイトの場合である。瞬が挙手して問い掛けた。
「オレの場合か?……一撃限りで巨大化3キロ、爆発は……半径1キロ程度か。炎化も巨大化も剣が耐えきれる限り、だな。」
「相変わらず、ぶっ飛んでいるな……で、やり方は?」
瞬は聞いたものの相変わらずぶっ飛んだ答えが帰ってきたので、参考にする意味は無い、と思い直して本題に入る。
「炎化で説明するか。まずは炎そのものを思い浮かべろ……ああ、できれば無詠唱の火球を発動できるならそのほうが良い。」
そう言われた瑞樹ら新入り三人は、取り敢えず炎を生み出す。
「こうですか?」
そう言って凛がカイトに見せる。瑞樹も同様に炎を生み出せていた。が、瞬は上手くいかない。
「……すまん。俺はまだ魔術を使えない。」
「あー、まあ、そうだろうな。なら、今は見てるだけでいい。」
実はこれが出来ても出来なくても問題が無いので、カイトは瞬に見学させるだけにした。
「で、凛と瑞樹はそれでいい……今度はその魔術式で炎の部分を見極めてくれ。そしてそれを抽出。」
「出来る訳ありませんよ!炎を見極めて抽出とか、化け物ですか!」
カイトが術式の中から炎の部分を見極めろ、と言った瞬間に真剣に講習を聞いていた凛がたたらを踏んで大声でそう言う。カイトもこの発言は当然と思っていたので、あっけらかんと笑う。
「だろーな……と、いうわけで、これが難しいのはこういうことだ。まずは概念そのものを抽出する必要がある。と、言って出来るのはティナとかぐらいだ。オレも戦闘中とかにいちいちやってない。まあ、つまりは今の手順に意味は無い。普通にやるなら、程度の考えだ。」
「……じゃあ、なんでやらせたんですの?」
無駄と言われた瑞樹がジト目でカイトに問い掛ける。ちなみに、カイトが教えた部分までは、まだ何とか誰でも考え付ける所であった。
「意味が無いわけじゃない。これでも出来る、という程度だ。まあ、正攻法は置いておいて……こっから更に裏ワザの登場だ。」
そうして、カイトは更に簡単な方法を紹介するのだった。
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