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第105話 模擬戦―本気―

 あらすじの所にお知らせ書きましたが、今週末(06/06)に再び桜編の断章をソートします。

 カイトが創り出した異空間にて模擬戦を行う事にしたカイトとティナ。二人は同時に一礼した次の瞬間、その姿はすでに空中にあった。

「どこ行った?」

「上。」

 一瞬にして消えた二人の姿を見失ったソラ達。キョロキョロと見回しているが、見つけられなかったので、その時の居場所をユリィが上を指し示す。ちなみに、一番始めに移動していたのは、全員が居る位置から斜め上左の位置であった。

「は?」

 そうして上を見た一同だが、そこではすでに無数の光球と武具が乱れ飛び、二人が縦横無尽に駆け巡っていた。

「まあ、今は様子見だね。どうせもう少ししたらアルやリィルでも追い切れなくなるよ。」

 今のところはなんとか追い駆けることのできている部隊の面々。が、段々と二人の戦闘速度に追いつけていけなくなっていくことは確実であった。

「ええ、お兄様もお姉様も見ている人の事なんて考えてらっしゃいませんからね。」

 そう言ってクズハが近くに腰掛ける。彼女は呼ばれたわけではないが、模擬戦の存在を聞かされると、とある懸念からある物を持ってやって来たのである。

「あ、クズハも来たんだ。楓も一緒に?」

「ええ……お二人共どうせこれ、忘れてらっしゃるでしょうから。」

「私はクズハさんに聞いて。まあ、同じ魔術師としてティナの戦い方を見せてもらおうかな、って。」

 クズハはそう言って耳栓らしい魔導具を冒険部の面々に配っていく。

「クズハさん、これ何ですか?」

 カイトに救われた日の一件から仲良くなった桜はクズハの許可もあり、様付をやめていた。

「ええ、まあ、すぐに解ると思いますが……一定以上の大きさの音を防ぐ魔導具ですよ。」

「それが何故?」

 瑞樹は装着するも、何故こんなものが模擬戦に必要となるのか理解できなかった。が、それはすぐに分かることになる。そうして一同はクズハ、ユリィの解説を受けつつ、カイトとティナの模擬戦を観戦することにしたのであった。




「やはり攻めきれんのう……」

 ティナは先程から手数を重視して牽制しつつ、合間合間の隙を狙って大魔術を無詠唱で行使していくが、カイトには全て防がれる。今も無数の火球を生み出してカイトを包囲、全方位攻撃を敢行しているがカイトの双剣で全て切り払われていた。

「相変わらず下からの攻撃も双剣で塞ぎおるとは……いっそ地上で良いのではないか?」

「あぁ?地中からなんぞ魔術でも放たれれば面倒だ。」

「ちっ、やはり乗りはせんか。」

 密かにそれも狙っていたティナだが、当然の如く読まれていた。その結果、カイトは常に見えている空中を戦場に選んだのである。

「油断してるとその前に終わるぞ?」

 次の瞬間にカイトは空間転移でティナの後ろへ顕現し、後ろから切り払おうとする。が、ティナもこれを空間転移で悠々と回避。一定の間合いを保つ。開始して数分だが、この遣り取りがすでに数十回繰り返されていた。それを見たカイトは今度は武器を双銃に変更。今度はティナに対して連続して攻撃を繰り返す。

「む?撃ち合いか?乗った!」

 そうしてティナもいくつも光球を生み出しては、カイトの撃ち出す銃弾を迎撃。両者の攻撃は丁度両者の中央でぶつかり合い、そこで無数の光を生み出す。ティナは光球に加えて強力な別の魔術を行使するべく、更に準備を行っていく。

「これでどうじゃ!」

 そうしてティナは杖の先から巨大な一条の炎を生み出してカイトの銃弾を一掃し、一条の炎はカイトへと直進する。

「遅いな。」

 次の瞬間にはカイトが空中を高速移動しながら、ティナへと銃弾を浴びせるべく引き金を引き続ける。

「甘い!」

 そうしてティナはそのまま炎をある一定の長さまで伸ばした所で巨大な剣の様に操る。それを見たカイトは一旦地上へ降り、武器を大剣へと変更。ティナはそれを確認するも、そのまま振り下ろす格好となり、上からカイトへと炎の帯を振り下ろす。

「はっ、魔王殿は鍔迫り合いを希望か?……じゃあ、いくぜ?おぉおおお!」

 口端を歪めて笑うカイト。更にそのまま吠え上げたカイトは、魔力を込めた大剣を横に構えて横薙ぎに迎撃せんと一気に横薙ぎに切り払おうとする。大剣から放たれた斬撃は巨大な魔刃となり、ティナの炎の剣と激突する。

「相変わらず馬鹿みたいな出力じゃな!」

「お前も相変わらずだろ!相変わらず単純に見せかけた複雑な術式組み上げやがって!この炎だって見る奴が見れば感涙の滝ができかねねぇってシロモンだ!」

 鍔迫り合いしながら大声で会話する二人。そして少しの停滞の後、二人の攻撃で巨大な爆発が生み出された。その反動で二人は若干遠ざかるも、即座にカイトが空間転移を使用して間合いを詰める。

「む!」

 転移すると同時に得物を刀へと変えたカイトは、転移が終わると同時に、居合を放つ。それに対してティナは振り払われた刀に対して、杖の片側に魔力で刃を創り出して迎撃する。そのまま何度も剣同士で斬り合いを行う二人であった。



 二人がいきなり近接戦闘を始めたのを見て、観客席が驚きに包まれていた。

「え?ティナって近接戦闘も出来るの?何を使ってるの?」

 ティナがいきなり近接戦闘を始めた事に驚く楓。ティナのことは遠距離専門と思っていたらしい。ちなみに、あまりに早すぎて、ティナがどうやって近接戦闘を行っているのかは、全く見えていなかった。

「まあ、お姉様の場合はお兄様と戦っている内に必要性に駆られて覚えたらしいですね。得物は……恐らく杖を強化しています。」

 楓の驚きに、クズハが笑う。ティナはカイトが現れるまで、魔術の発動速度、威力その他諸々を考慮した結果、喩え懐に潜り込まれたとしても、魔術一つで対応が可能であった。それ故遠距離のみで問題なかったのだが、カイトと戦うようになって剣などでの近接戦闘の必要性を感じて、独学で編み出したのである

「でも、そのうち近接戦闘も出来るようになる必要は出てくるよ。何時までも遠距離戦闘だけで戦えるなんて、ティナぐらいなものだよ。そのティナだってカイトの出現で近接武器を習得したしね。」

 そう言うユリィとて、大きくなれてからは短剣を達人クラスまでは習得している。大元が弓使いであったクズハも、同じく短剣術とレイピア、その他いくつかの近接戦闘を習得していた。

「じゃあ、私も何か習得すべき、ってことね。」

「なるべく取り回しの良い武器の方がいいよ。最悪杖を併用した棒術でもいいしね。」

 どんな魔術師でも、懐に入られれば弱い。それを悟った楓が、ボソリと呟いた言葉に、ユリィがアドバイスを行う。尚、この戦い方を習得していたのは杖での魔術を専門としていたアウラである。見た目10歳と少しの天使然とした童女が杖でボコスカと敵を殴りつけ、吹き飛ばし、撲殺していく様は非常にシュールであった。

「今度誰かいい人を紹介して貰えるかしら?」

「ええ。探しておきます。」

 そうして三人は再び―楓は殆ど見えていないが―観戦に戻った。




「やはり近接戦闘ではお主には勝てんか。」

「当たり前だ。これで勝たれたら立つ瀬がない。」

 斬り合いつつ余裕な表情で会話する二人。だが、若干ティナのほうが押されており、少しずつだがティナの障壁が削られていた。

「む!」

 危うく迎撃しそこねた攻撃の直撃を回避するティナ。カイトはその隙を起点に武器を双剣へと変更して一気に手数を増やし、追撃を開始する。ティナも始めは迎撃していたものの、倍加した手数にはさすがに対応できず、次第に表情が曇っていく。

「どうした?このままだと押し切るぞ?」

「むぅ……」

 楽しげなカイトに対し、ティナは少しだけ苦渋が浮かんでいた。近接戦闘では勝ち目はない、それは始めから分かっていたことであるが、ティナは試してみたかったので、やっただけである。

「ここらが切り上げ時かの。」

 潮時か、ティナはお遊びを切り上げる事にする。彼女は全方位へと膨大な魔力を放出し、一気にカイトを吹き飛ばす。カイトもこの流れは予想していたので、驚くこと無く即座に姿勢を立て直して再び攻撃の応酬を再開する。

「これは……」

 目の前に迫る光球を見て、カイトは頬を引き攣らせる。再び仕切り直しとなって再度間合いが取られ、ティナが光球をメインに戦い始めたのだが、数は戦闘開始時の倍以上、更にティナから直線的に放たれる攻撃も加わって一気に手数が増していた。

「やはり余には此方があっておるな!」

 ティナは嬉しそうにそう言って、更に光球を生み出す速度を加速。もはや毎秒100発は軽く超えていた。

「それは何よりだ!」

 気を引き締めてカイトは双剣で対処する。が、殆どは対処は出来ているものの、若干対処しきれない攻撃が障壁に衝突し、爆発を生み出していた。

「ちぃ!」

 遂に対処しきれなくなったカイトは魔力でいくつかの武器を空中に創り出して相殺させることで、光球へ対処する。そうして出来た間隙を利用して、更に盾を生み出して魔力で操作し、武器の合間をくぐり抜けてくる光球へと対処し、自らが攻撃出来るチャンスを得る。そうして双剣の斬撃で無数の魔刃を生み出し、遠距離攻撃を繰り出す。そうして、ティナと再び遠距離攻撃のラッシュを繰り返す。

「魔力で武器を創り出すのはお主のみの専売特許ではないぞ?」

 カイトが武器を幾つも創り出し始めたのを見て、ティナがニヤリと笑みを浮かべる。そうして、ティナも魔力で漆黒の武器を作り上げてカイトの武器と撃ち合う。近接戦闘を考えなければ、武器を創り出すのはそれなりに熟達した魔術師ならば難しいことではなかったのだ。

 カイトはそれに対抗すべく更に武器と盾を生み出し、ティナもそれに応じて更に武器を創り出す。空中には無数の剣戟の音が鳴り響き、無数の武器の残骸が乱れ飛ぶ戦場が生まれていた。

「ふむ、今回は勝ちを得られそうかの。」

 最近になって出来上がった切り札を持ち込んだティナであったが、それを使う前に今回は読み合いで勝ちを得られそうであったので、笑みを浮かべる。この状況で更に自身の切り札を投入すれば、なんとか勝ちを得られると踏んだのだ。

 そうして、ティナは勝負を決すべく、カイトの周囲へとこれまでで最大の数の光球を生み出す。更に自分はこの模擬戦で初めて魔法陣を創り出し、詠唱を行う。

(まずい!)

 ティナの様子を見たカイトはそう考えるも、ティナの放った光球への対処に手一杯で、止めるすべがなかった。そこでカイトは一旦息を大きく吸い込む。

「なっ!ちょっと待つのじゃ!」

 カイトが大きく息を吸い込んだ事を確認したティナが驚いて止めようと光線を放つものの、止められなかった。

「がぁああああ!」

 そして、カイトは龍種の咆哮もかくや、と言った魔力を乗せた咆哮を上げた。大気はビリビリと震え、地面がカイトを中心として大きくめくれ上がる。どれだけの魔力と声量であればこうなるのか、というほどの大音声であったが、ティナはなんとか魔術障壁で防ぐことに成功する。




 一方、それをまともに受ける事になったクズハ達観客勢だが、クズハの持ち込んだ耳栓型魔道具のおかげで殆ど被害は無かった。

「と、言うわけです。」

 論より証拠、とばかりにクズハが告げる。そうしてそれを聞いていた一同の様子から、何故耳栓が必要なのかはっきりしていた。観客席に居た一同は全員耳栓をしているのに、更に上から耳を押さえていた。カイトの張り巡らせた障壁でも、どうやらあそこまでの轟音は防げないようである。戦場で前情報なくこれをやろうものなら、敵味方ともに一気に戦線が瓦解しかねない程の魔力を乗せた咆哮であった。

「耳栓有りでもでけぇ……」

 顔を顰めたソラが、顔をひきつらせながらぼやく。

「無かったら冗談なしに鼓膜破れたんじゃない?」

 此方も同じく顔を顰めている魅衣。隣の由利も大きく頷いていた。

「それどころか、死人でるね。というか、実際に死人でたし。」

 常に同じ戦場に居たユリィが、そう明言する。かつてカイトは戦場で古龍(エルダー・ドラゴン)グライア率いる龍族の特殊部隊、自身の騎龍の古龍(エルダー・ドラゴン)ティアとともに最前線で咆哮を繰り出した事があるのだが、その時はカイトに一番近かった前線の敵兵士の少なくない数が咆哮に乗せられた殺気や魔力で心停止を起こしてしまった。更には古龍(エルダー・ドラゴン)二体の咆哮まで加わっていたので、当然の如く敵軍の士気はガタ落ちしたのである。

「おいおい、声だけで敵を殺せるのか……」

 瞬が呆然とした様子でそう言うが、少し理解出来たのか、顔を引き攣らせていた。

「どこまでの修練を積めばあそこまでたどり着けるんですの?」

「カイトの場合は魔力量が膨大だからね。参考にしないほうがいいよ。そもそも龍族と一緒に咆哮出来てるだけでもとんでもない事なんだから。」

 ユリィは一同に真似されても困るので、無理と断言しておく。魔力で肺活量を一気に増幅しているとはいえ、龍族と一緒に咆哮するなど並大抵の人間では出来ることではない。当時の仲間では皇族として様々な血筋を取り入れた結果、ほんの少しだけ龍族の血を引いているウィルがかなり年若の龍族達に合わせて可能な程度であった。グライア率いる特殊部隊と一緒に、なぞ出来るわけではない。

「はぁ……それにしても凄いですわね。」

 そう言って再度カイト達の戦いを見る一同。もはや一時停止してくれないと移動さえ見えなくなった戦いが繰り広げられている上空では、なんとか咆哮を防いだティナが再度攻撃を再開していた。



「むぅ……折角配置した全ての光球が消し飛んでしまったのじゃ……」

 しょんぼりとした様子のティナ。その言葉通りにカイトの咆哮によって、カイトの周囲に展開していた光球が全て消失してしまっていた。カイトの咆哮には、威嚇や制圧等の力以外にも、魔力を乗せた事によって敵の魔力攻撃を掻き消す効果が得られているのである。カイトとしては大声だけで敵の攻撃を無効化出来て便利なので多用していきたい所なのだが、仲間全員にうるさいと怒られるので、あまり使わないのであった。

「じゃが、コイツの詠唱が終了するまでの時間が稼げたのでよしとするかの。」

 そうして、最後に笑みとともに杖の先端を虚空にとん、と打ち付けて、ティナはカイトの咆哮の前から作り続けていた魔術式を完成させた。

「さて、勇者殿はどう出るか、見せてもらうとするかの。」

 ニヤっと笑うティナ。そうしてティナが放った魔術が発動すると、そこには50メートルを優に超える特大の光球を中心として、無数の小さな光球が周囲を滞空していた。更には太陽のフレアの如く特大の光球からは虹色に輝く光の帯が現れては戻っていき、いまにもカイトへと襲いかかろうと猛っているかの如くであった。

「ほう……これは見事だな。」

 模擬戦の最中だが、カイトが感嘆の声を漏らした。カイトはもはや直視出来ぬ程の光量を放つ光球を睨み、それに込められた魔術式を読み取っていく。そうして見て取れたのは、あまりに複雑な術式であるということだけだ。

 一見すればただの光球だが、そこには全属性を精密な計算で書き込んだ複雑な魔術式が存在していた。ティナが使っていた光球も同じ物だが、ここまでの大きさの光球を顕現させるのは並大抵の力量ではできない。いや、並大抵どころか、歴史上最高と言われる魔王である彼女でなければ、実戦でまともに使えるレベルにはもっていけないだろう。

「さて、いい加減に腹も減ってきたことだし、そろそろ終わらせるか。」

 とは言え、カイトとてただ一人彼女に比し得る勇者だ。この程度で絶望を得る事など有りはしない。カイトは今までのように自分の魔力で作り出していた武器を消失させ、武器を格納していた異空間から一振りの刀を取り出す。そしてそのままカイトは腰だめになり、居合い斬りの構えを取った。ティナの光球を、自らの信頼する秘技を以って、叩き潰すつもりであった。

「それを待っておった。」

 待ってました、と言わんばかりにティナは密かに笑みを作る。そうして、その笑みを悟られる前に、ティナは待機させていた周囲の光球をカイトへ向けて一気に全弾斉射する。

 しかし、これはお互いにまだ余興に過ぎない。なので、カイトは光球を先ほどから待機させていた武具を使用して防ぐだけだ。そうして、カイトの武具とティナの光球がぶつかったことで生まれた光を目眩ましとして、ティナが特大の光球をカイトへ向けて発動した。

(おぼろ)。」

 カイトもそれに合わせて一気に抜刀し、超巨大な斬撃を生み出して光球を切り裂く。が、二つの攻撃が衝突の瞬間。ティナの光球が一気に解けて何条もの光の帯と化す。そうして、斬撃は光条の隙間をすり抜けて行き、カイトの斬撃はティナの光の帯を一つも切り裂くこと無く、空の彼方へと消えていった。

「どうじゃ!抜刀術からの隙ではこの攻撃、防ぎようもないぞ!」

 居合い斬りから生まれた隙をついて、ティナの光の帯は一気にカイトへと殺到する。しかし、不可能に対処出来てこそ、勇者と呼ばれた存在である。

 カイトは次の瞬間には鞘に掛けていた左手を離して、逆手にもう一振りの刀を異空間から鞘ごと取り出し、抜刀で硬直した身体を魔力で無理矢理動かす。

(かすみ)。」

 そうしてカイトは左手で居合い斬りを行い、先ほどと同じく巨大な斬撃を生み出す。その斬撃に切り裂かれ、光の帯の大半が千切れ飛ぶ。しかし、それでも幾つかは残り、カイトを貫かんと侵攻を続ける。加えてティナも全力で無数の光球を生み出し、カイトへと放ってくる。

「まだだ!」

 カイトはそう言うや否や、即座に刀を逆手に構え、背中側で双刀を交差させ、後ろの空間を縦に50メートル程切り裂いた。切り裂いた先には、何もない漆黒の空間が垣間見えた。

 そうして、カイトは何もない筈の漆黒の闇から、無数の武具を顕現させる。途切れること無く放出される武具は、まるで武具の帯の如くであった。そうして、二つの帯は衝突する。武具の群れは光の帯に幾つもの武具を消し飛ばされながらも、光の帯を千地に切り裂いていく。光の帯は千地に切り裂かれながらも、迫る武具を飲み込みながらカイトへの侵攻を続ける。

「何じゃと!」

 さすがにこの迎撃は予想していなかったティナだが、即座に気を取り直して光の帯に込める魔力を一気に増加させる。更に輝きを増した光の帯はカイトの武具の群れを再び押し戻していく。しかし、これが勝負を決してしまった。

「甘いな。」

 武具の群れを迎撃する事に気を取られ、カイトが両手に直径30センチ程の円月輪を取り出した事に気付かなかったのである。なんとか、カイトが自身の右手に持った円月輪を投じた事には気付いたが、それが何なのかまでは、正確には判断出来なかった。そうして、直感で投擲された円月輪を回避したティナは、更にそこから攻撃に移ろうとする。

「<<双極輪(そうきょくりん)>>。」

 カイトはそう言うと同時に、遂に光の帯が殺到する。しかし、その瞬間にはカイトの姿はそこにはなく、そこにあったのはカイトが投じなかった円月輪の片割れだけだ。カイトはというと、ティナの直ぐ後に滞空していた円月輪の片割れの直ぐ側にいつの間にか移動していた。

 そうして、ティナはその気配に気付く暇さえ与えられず、後ろから抱きしめる様な形で身動きを封じられ、喉に短剣をつきつけられた。

「……参った。降参じゃ。」

 背中からカイトの暖かな体温と、喉元にカイトの体温を殊更強調する刃物の冷徹な冷たさを感じ、負けを悟ったティナが呆気無く負けを認め、模擬戦は終了となった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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