第101話 冒険部―発足―
ホントは今日の夜投稿する筈だった件の桜ちゃんの閑話。第一話が思った以上に早く出来ましたので、この一時間後にあげます。で、更に調子に乗った結果、また数日間は一日二話更新になります。
カイト達の会議の2日後、件の部活動の告知が行われ、合わせて人員の募集が行われた。どうやら雨宮が精力的に活動してくれたお陰で、その日の内に職員たちとの合同で会議が出来たのである。そして更にそれから3日が経過し、部活動への参加希望の人員が天桜学園の学舎にある第一会議室に集められた。
「ほぼ全員か。まあ、さすがに一ヶ月近くも冒険者として活動すれば、情報の重要性は理解できるか。」
開始直前となり、集まった人数を確認しながらカイトが感心する。それに桜も頷く。
「今回の加盟はカイトくんの所が全員参加、私の所は半分が参加ですけどね。」
「俺の所も何人か参加したそうだったが、今回はなんとか納得してもらった。残った面子は桜田とウチのサブリーダーの共同で指揮させる。」
「ええ、そっちは任せて頂戴。まあ、私達残りの面子も第二陣として合流予定だから、それもまでの訓練期間とでもしておくわ。」
楓が少しだけ緊張しながら頷く。この数日で調整した結果、楓にはやはり残るメンバーの指揮をお願いする事になったのである。今回参加が見送られた残りの面子は半月後に合流し、その後一般的な参加者を募るつもりであった。
「ああ、すまない……さて、では、今回の冒険部について説明する。」
時間を確認したカイトは、会議室に備え付けのホワイトボードに概要を記述していく。
「まず、今回の冒険部だが、活動内容は今後の学校が独立していくに伴って必要となる学校外の活動を担う組織だ。公爵軍の撤退後の学園周辺の治安維持や食料、衣料品、医療品といった必需品の調達が主な活動内容だ。各地にあるであろう帰還用の魔術・魔法の探索活動も冒険部が主体となって行う。また、冒険部の発足に伴い、高位の実力者で構成される即応部隊を新設し、緊急時には彼らが学園の冒険者への救援を行うことにする。」
「学内の治安維持は?」
カイトの説明に疑問があった場合は即座に手を挙げる様に言われていたので、生徒が遠慮なく質問し、桜が回答する。
「そちらは今後冒険者登録の第二陣として生徒会と風紀委員から数名が登録予定です。今後は彼らと教員の方を中心に治安維持を担って頂きます。」
第二陣では今後の活動において、生産系―要には今後手に入るだろう古文書の解読の練習や新魔術の開発等の支援役―の活動を志願する生徒を中心に登録させるつもりであった。
また同時に生徒会関係者の残りの面子や、風紀委員といった治安維持を担わせる生徒も登録予定である。治安維持の面から第二陣からは教員からも参加予定者があり、すでに候補に上げられていた。
「他にも活動内容としては、現在受けている依頼と同じく、学生たちの困り事を解決することも引き受けるつもりだ……当然だがいくら同じ生徒とはいえ、受けた依頼の守秘義務は守れよ。」
そう言ってカイトは自分のパーティが集まっている場所に視線をやる。場を和ませる為のジョークである。
「わかってるって。今回の活動も冒険者としての活動の一環としてカウントされるんだろ?」
すでに説明を聞いていたソラがそう言う。その言葉を聞いたカイトが伝え忘れていた事を思い出した。
「ああ、そうだ……と、今回の冒険部発足にともなって、ユニオンには冒険部でギルド申請を行うつもりだ。名称は特に今すぐ決める必要が無いらしいので、今のところは申請していない。」
今後は冒険部を中心として冒険者活動をしていくので、ギルド申請をしておいた方が何かと活動しやすかった為、カイトが手筈を整えたのである。
実はこれにマクスウェル支部支部長キトラがかなり喜んでいた。今マクスウェルを拠点としたギルドが無い為、纏まった人数が必要な依頼の人員を集める手間が必要だったのが、一気に解消される見込みが出たからである。
「今後の冒険者としての活動を行っていくに従って、冒険部そのものに学園外から依頼が持ち込まれる可能性もあり得る。その場合にはユニオンにギルド申請しておいた方が手続きや事情説明が楽に済む。ユニオンへの申請ではマスターは私、天音が務め、同じくサブマスターに天道会長と一条会頭が就くことになる。手始めはこの三人で冒険部を統率する。」
カイトはギルド申請の利点を上げた後、自分、桜、瞬の三人が全員から見える位置に移動する。そして三人が見える所に来て再び座った所で、再び手が挙がった。
「その他の役職は?」
「今のところは設置する気はない。これから冒険者の人数が増えていく事を考えれば、教育係やその他の役職を置くことになるが、少なくとも一ヶ月以上先だ。」
「じゃあ、冒険部が第二陣以降の生徒の面倒を見るってことか?」
「ああ。まあ、第二陣の志願受付が来週始め、締め切りが来週終わり。それから選定し、座学と戦闘訓練、実践訓練で全体で2ヶ月を見込んでいる。座学については……」
そう言ってカイトは肩に乗るユリィに合図する。ユリィはカイトの肩からふわりと舞い上がり、いつものおちゃらけた様子を排除した教育者としての顔を見せる。ただしまだ大きな姿を公表していないため、イマイチ威厳に掛けていた。公表しないままに今まで来て、機を逃したのである。
「私が座学関係の教育係の面倒を見ます。」
一気にざわつく教師たち―今回集まった面子には教師たちも居る―だが、アルがそれを制する。
「実力については公爵家が保証します。彼女はこれでも100以上の時を生きているので、見識は十分に備わっています。」
実はユリィが100歳以上と聞いた全員が唖然とする。が、それをカイトが制した。
「この程度で驚くな。クズハさんはアレで300歳超えているだろ。地球の常識は一切捨てろ。」
そのカイトの言葉に誰かが、お前の所は馴染み過ぎだ、と呆れた表情で呟く。カイトのパーティの順応力の高さはすでに周知の事実であった。とりあえずカイトはそれを無視して説明を続けた。
「取り敢えず座学についての教育はユリィに一任することにしている。戦闘系の教練に関してはエルロード氏の協力で、今まで通りにお目付け役の方々に協力していただける事になった。」
その言葉を聞いた一同がふとホッとした様な顔をした。やはりまだ公爵家の撤退後にやっていけるか不安なのであった。カイトの説明に合わせて、会議室に来ていたお目付け役の部隊員が立ち上がり、軍礼にて一礼する。
「教育係は第二陣の教練で、部隊員の方々から総合的な教練の仕方を学んでもらう。といっても、別段武器の使い方を教える必要はない。こっちは今いる面子で、同じ武器を使っている面子に教えさせる予定だ。覚えて貰うのは、実践訓練等でのお目付け役としての戦闘における立ち回りだな。」
「つまりは、今やってもらっているお目付け役を俺達がやるってことか?」
ある生徒の質問にカイトが頷く。
「ああ、そういう認識で問題ない。基本的にはランクD以上の冒険者に、ランクEのエリアで担当してもらうつもりだが、先の一件もある。さすがにブラッド・オーガクラスが出ることはもうないだろうが、油断はないように。」
先の一件以降、領地内の魔獣使いに対しての対策が公爵家主導で行われており、密かに活動が出来るような状況ではない。更に、先の一件での主犯にはすでに警告を行っているので当分は若干安全と言えたが、油断はしない方が良いだろうと思っての警告だ。
「第三陣以降は教師たちが座学を、戦闘訓練は我々で行う事になる。そのつもりでいてくれ。」
そのカイトの言葉に、再び生徒が挙手した。
「第三陣の募集は何時からだ?」
「募集開始は第二陣の登録完了から一ヶ月程度先だ。ただし、第三陣以降は締め切り未定の自由応募になる。第三陣以降の募集では戦闘訓練は必須とせず、倉庫整理等の戦闘の可能性の少ない依頼のみ受けることも可能にする。」
戦闘を含む依頼を主眼として受ける生徒が多く登録してしまうと、今度は戦闘の可能性がある依頼の方が枯渇してしまう。戦闘の可能性の高い依頼は全依頼の中でも高額で、これを天桜の関係者で独占してしまえば必然、他の冒険者と揉める可能性が高くなってしまうのであった。
更には現状では第一陣の殆どのパーティが戦闘を主眼とした依頼を多く受けており、第二陣では第一陣のサポートと学園施設の管理を行うことになる。こうしたことから、第一陣と第二陣は全部の依頼の中でも需要の多く、短時間で済む危険性の低い依頼は受けることが少なかった。それ故に第三陣ではバイト感覚でも受けられるこういった危険性の低い依頼をこなしてもらおうと考えたのである。
「ただし、当然戦闘訓練を望む者には我々が戦闘訓練を課す事になる。また、教員方には申し訳ないですが、戦闘訓練を受ける如何にかかわらず座学は必須にさせていただきます。教育を受けずに馬鹿をやって学園の生徒に不利益が及んではいけませんので。」
カイトは教師陣の集まっている方を向いてそう発言する。今回の集まりに教員が出席しているのはそのためであった。
「それはいいんだが、第三陣の装備はどうなっている?」
当然のことながら、第三陣以降の装備は天桜学園側で用意する必要があった。それ故の教師からの指摘である。
「現在依頼を受けて依頼料の一割を学園の維持費へと回す事にしていますが、ここから一定の割合を冒険部への予算として回して頂きたいのですが可能でしょうか。」
「会議に掛ける必要があるな……桜田校長、次回会議での議案に加えても?」
そうして質問した教師が桜田校長へと確認を取る。桜田は少し目を瞑って考えるが、考慮に値すると判断した。
「いいでしょう。まあ、異論は出ないでしょうな。」
学園の冒険者は特段の理由がない限りは殆どが冒険部へと所属する方針で進んでいた。それを考えれば、冒険部へと予算を回すことは学園にとっても不利益ではなかった。それ故に議題には上げるが、ほぼ通過するであろうと考えたのである。
「ありがとうございます。」
「確か……天音くんだったね。君と天道君と一条君には次回会議へも出席してもらえるかね?」
「日程を調整します。」
「うむ。そうしてくれ。」
桜田校長の言葉に頷いたカイトは、更に小さく一礼して再び生徒たちの方を向き直った。
「ありがとうございます。……では説明を続ける。冒険部の説明は以上だが、後ほど詳細を記した冊子を部室に置いておく。興味のある奴は一読しておいてくれ。部室は第二会議室を魔術的に多少手を加えて使用する。具体的には仮眠エリアと台所などの生活エリアを設置するつもりだ。ゆくゆくは常時数名が待機し、24時間対応可能にするつもりだ。この魔術的な改造だが、すでに公爵家のクズハ様と相談し、魔導具を供出してもらえることとなっている。」
手を加えるのは水回りのみなので、それほど大規模な工事にはならない上、既に許可も出ていた。
「では、最後に今回加盟する人員の紹介をしておく。初期面子だが、私のパーティメンバーと天道会長のメンバーから半分が参加する。加えて半月後には天道会長のメンバーの残りと、一条会頭のパーティの全員が参加する。そこから二週間後、つまり発足から一ヶ月後には一般の公募となる。ゆくゆくは参加が強制されることになるが、現状ではどんな不具合が起こるかわからないため、当分は応募制を取らせてもらった。当分は参加希望の場合は現在のパーティで申請してくれ。抜けるごとにパーティを再編していたのでは埒が明かないからな。」
肩を竦めたカイトに、再び生徒からの挙手があった。
「初期面子の選定基準は?」
「個人としての戦闘能力だ。知っての通り、私のパーティはあまり部活に所属しておらず、なおかつ単体戦闘能力の高い面子で構成されている。また、今回参加する天道会長の所からの参加者は補助能力が高く、我々とも一条会頭とも面識があり、連携は取れる。一条会頭の戦闘能力は周知の所だ。即応部隊の選定までは我々全員が即応部隊を兼ねる為、この編成になった。」
尚、凛とともに参加が決定したのは瑞樹である。これは表向きの選定基準が実力の高い面子、ということで、トーナメントで好成績を残した彼女が選ばれたのであった。
「他に質問は?」
そう言って出席者を見渡すカイト。特に質問はなさそうであった。
「最後になるが、本部活動には特別顧問としてアルフォンス・ブラウ・ヴァイスリッターとリィル・バーンシュタットの両名が参加してくれることが決定している。他にもいずれは現指導官の皆さんにも参加していただくことになる。」
そうして一同に告げたカイトは、更に出席している教官役の隊員達の方を向いて一礼した。
「ゆくゆくは、現在部隊の指導役を務めてくださっている皆さんには私の指揮下に入っていただくことになります。」
冒険部の話が出て即日エルロードと相談したカイト。表向きは公爵家からの支援の一環であるが、正確にはカイトの手勢として活動する、ということである。
これはそもそもでカイトとティナにも手勢が必要であった上、公爵家の指揮系統は最終的にはカイトに行き着くため、何ら問題はなかった。
「ええ、すでに通達がなされております。今後、学内ではカイトさんの指揮に従え、と。」
「うん。総勢10名だけど、カイトの指揮下に入ることですでに合意が得られているよ。」
「ありがとう……一つ聞き忘れていたのですが、教員からの顧問は誰になる予定ですか?」
アル達の方を向いて頭を下げるカイト。次にまだ聞いていなかった顧問について、教員の方を向いて質問する。
「うむ。始めは儂がやるほうが良いかとも思ったのだが……確か天音君と天道君、それに第一陣の多くが2年A組だということで、参加者が少数のうちは雨宮先生に任せることになった。大人数になってきたら、また人員を増やすことにしよう。」
カイトの質問に白髪交じりの顎髭を撫でながら桜田校長が応じる。対外的な組織をほぼ冒険部に一括するので、校長自身が顧問を務めようと考えていたのだが、今はまだ揺れる学園全体の統括に専念することにしたらしい。
「分かりました。雨宮先生、お願いします。校長にも諸侯との会談などでは同行を願う可能性もありますが、その際はよろしくお願いします。」
「うむ。」
「ああ、わかった。」
そうして二人が頷いた為、カイトは一礼して再び前を向いた。
「これで大まかな説明は終わりだが、最後に質問はあるか?……無いようだな。別に質問は今でなくてもいい。今後は部室には誰かしら待機しているからそちらに質問しても良い。また詳細な説明が書かれた冊子は学園の数カ所に配布しておく予定だ。参考にしてくれ。」
そうして大まかな決定がなされたのでカイトは説明会を終わらせる事にした。カイトは席を立ち、全員の注目が集まった事を確認すると
「では、本日この時を持って、冒険部を発足する!」
カイトの号令で天桜学園で初めての異世界に関する部活である冒険部が発足されたのである。
後の世に様々な種族、様々な地位にある者、様々な大陸出身者、果ては異なる世界の住人をもメンバーに加え、遂には世界さえ巻き込んだ危機を乗り越えた、と語られる事となる天桜学園冒険部。
この時代を記した歴史書などでは必ず登場することになる天桜学園冒険部だが、発足時は総員10余名という、エネフィア全土でも非常に小さなギルドであった。
お読み頂き有難う御座いました。