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第2話 日常の終わり

 この話で地球でのお話は終わり。次回からは漸く本編、エネフィアでの物語が開始されます。

―――担任の雨宮の授業が終わり休憩時間。

 気だるげにもう一眠りするか、と考えていたカイトの元に一人の少女が近づいてくる。金髪、色白、碧眼とどこから見ても日本人ではない。超をつけるべき美少女である。少女はカイトに小声で話しかける。


「居眠りがばれるとは、情けないの。隠形系の術は使っていなかったのか?」

「使ってた……が、夢に驚いて術が解けちまった。めんどくせぇことに……」

「ばれるお主が悪い。それに比べて余の術式は完璧である!」

「お前も寝てたのかよ……」

「まぁ、二人共ゆうべははお楽しみだったからの」

「紛らわしいこと言うな!」

「違いあるまい?」


 にやり、と人の悪い笑顔でそういう少女。しかもお楽しみのあたりから周りに聞こえるように言っているあたり、確信犯である。


「ゲームな、ゲ・エ・ム!お前の発言のせいでオレは変態扱いが加速してるんだ!」

「ふははははっ!良いざまじゃ!余をこんな世界に連れて来おって……。いや、ゲームやアニメ、ポテチなんかは最高じゃが。今日も作曲活動に励まねばの。」


 ちなみにこの美少女、カイトが異世界より帰還した際に連れて帰ってきた先代魔王ユスティーナ・ミストルティンその人である。……が、なんとも日本暮らしに馴染みきっていた。ふざけ合う二人に窓側の最後方の席からワイルド系の美男子――中学時代からの友人、天城 空(あましろ そら)――が近づいてきた。

「なんだよ、カイト。昨日はティナちゃんとお楽しみだったのか?」

「空……。何度も言うが、ゲームだぞ。それに、ボロ負けした……。」

「ティナちゃんゲームめちゃくちゃうまいもんなぁ。俺もこないだゲーセンでボロ負けしたし……。」


 空の発言を受け、ティナは若干残念な胸を張って告げる。


「二人共下手すぎだからの!」

「いや、お前が上手すぎんだろ……」

「んじゃ、今日は帰りにゲーセンよってリベンジといくか!」

「よかろう! 余はいつ何時でも挑戦を受け付けよう!」


 そんな風に話し合っていると遠くから女子が声をかける。


「ティナちゃーん、そんな変態ご主人様ほっといてこっちでお菓子食べないー?」

「うむ! もらうぞ!」


 それを受けて話の最中にもかかわらず走り去っていくティナであった。




 たたたっ、と走り去っていったティナを見送ったカイトは呆然と口を開けていた。


「変態ご主人様って……」

「こないだの噂だろ?」

「誰だよ、あんな噂流した奴……」


 この間の噂――ティナがカイトに全裸で首輪をつけて調教されているというもの――を思い出して辟易しているカイト。


「まぁ、ティナちゃんはあんな性格だし、あのルックスだしな。やっかみの一つもあるだろ」

「天桜の双姫か……」

「静の天道桜、動のユスティーナ・ミストルティン。だったか?」

「2年にして生徒会長&学園の理事長で天道財閥会長の孫、おまけにスタイル抜群で大和撫子を実体化させた容姿の深窓の令嬢。これでもかとばかりに運動神経抜群。それで成績は学年トップクラス。性格も温和で、趣味は読書っと。まぁ、高嶺の花すぎて、いい意味でも悪い意味でも誰も手が出せないがな」


 桜について語ったカイトに次いでソラが桜について思い出す。


「に対して我らがティナは……。胸こそ残念だが人間離れした容姿で成績は学年ぶっちぎりのトップ。海外留学生。しかし性格は尊大で落ち着きがなく運動も苦手。しかも重度のゲーマーにして重度のオタク。趣味はゲームとボカロのプロデューサー業等……なんで並べられるんだ……」


 ちなみに、ティナの得意ゲームは種類を選ばずテーブルゲームから18禁のゲームまで得意としていることは、カイトしか知らない秘密である。

 なお、ゲームのプレイ時間を稼ぐために試験はすべて魔術による記憶補助で補完しているため、余裕の学年トップどころか、全国模試トップである。カイトも目立たないように魔術を使用しているので、人の事を言えない。

 まあ、無意識の魔術による身体補助のせいで運動能力がどれだけ抑えても人並みに落とせないための救済措置として座学は落とせないのである。


「尊大、つーか、子犬が威張っているだけ、ってみんな知ってるからなぁ。何かあるとすぐ落ち込んで捨てられた子犬の目だぞ。入学当初こそ腫れ物扱いだったが、今じゃあ完全にマスコットだろ?」

「かといって尊大なのも事実なわけで。」

「まぁ、尊大なティナちゃんがいいって、ファンの派閥があるくらいだからな」

「ファンの話はやめろ……。」

「居候先の息子は大変だな。」

「お陰でブラックリスト入りしてんだよ……めんどうだ。」

「美少女と一つ屋根の下ってことで十分お釣りくるだろ。」

「残念美人だがな……。」


 実は異世界時代から爛れた関係があることだけは絶対ばれないようにしよう、そう心から思うカイトである。ちなみに、異世界にて全裸調教はやったらしい。カイトも人並み―自称―には性欲はある。

 そこに、何故か戻ってきた雨宮と目が合うカイト。それに気づいた雨宮が近づいてくると


「天音、天道はいるか?」

「天道会長ですか?会長ならさっきまで、席に……って、いないか。伝言しましょうか?」

「いや、伝言はいい。帰ってきたら……と、帰ってきた。悪いな。」


 放課後忘れるなよ、と去っていった雨宮である。天道と雨宮の会話からはマスコミ、取材、三年などの単語が聞こえてくる。それらを聞いていたカイトはうんざりした様子で肩を竦めた。


「マスコミ、ねぇ。」

「どうせ3年の一条先輩だろ。」

「違いない。面倒さえなければどうでもいいか。」

「住む世界が違うからな、会長も一条先輩も。」

「片や大財閥の令嬢。片や日本で一番有名なやり投げの高校生選手。どっちも関わりたくないな。」

「一条瞬、ルックス抜群でやり投げ一筋の熱血系、現陸上部の部長にしてアンダー18の日本選手団の主将。今は陸上が一番と彼女も作らない。そのストイックさが女子に受けて全日本的にファンクラブが存在する……確かに、関わりたくないな。」

「オレが勝ててるのって、身長だけだろ……。お前はルックスで並べるだろうが……。」


 中学2年の時にソラが転校してきて以来の付き合いで、かなり女子とも仲良くしているソラに僻むカイト。異世界で勇者をやってモテても、自分より器量の良い男にはコンプレックスを抱くのである。そんな話をしているとチャイムがなり、各々の席に戻る直前ソラがカイトの肩を叩いた。


「んじゃカイト、今日の放課後はゲーセンな。」

「オーケーだ、二人であの傲慢姫をへこませるぞ。」


 と、約束しあう二人であった。




 そして放課後直前のロングホームルーム。


「お前ら全員席につけー。」


 ホームルームということで担任の雨宮が教室に入ってきて開口一番に全員に告げる。三々五々に散っていた生徒たちもそれに従い席につく。それを確認してから雨宮による連絡事項が全員に伝えられる。


「まず、来月中にTV局が取材に来ることになった。わかってると思うが、馬鹿なことはするなよ。」


 TV局、という言葉にざわめくクラス一同だが、ある生徒が


「なんの取材っすか?」

「んなもんわかるだろ。三年の一条だ。」


 と答えたので、納得する一同であった。


「でだ、対応に生徒会が忙しくなるらしいから手伝いを募集するらしい。天道、説明を。」


 天道に対し目配せをしてそう告げると天道は立ち上がり教壇の前に立った。


「はい。来月の一条先輩の世界遠征について当学園に対し、複数のTV局から取材依頼がありました。そこで、学園側からTV局への取材許可とともに、生徒会主催の壮行会を行いたいとの協力要請がありました。それを受け生徒会では壮行会を実施することになり、つきましては…………」


 と説明が続いているが、窓側に座った空の様子が何かおかしい。それに気づいた雨宮は注意すべく、声を上げた。


「おい、天城、説明聞けよー。」


 と注意するが、空は外を見たまま動かない。それを不審に思った雨宮が更に声をかける前に、ソラが声を上げた。


「雨宮せんせー……あれ……なんすか?」


 と、いい空を指す空に対して雨宮も外を確認する。


「あ?どうした?」


 さすがにおかしい空の様子を見て何かあったものと思い、周囲の生徒も窓の外を確かめては、学園上空に浮かんだモノを見て次々と呆然としている。他のクラスでも見られたのか学園中が騒然となっている。


「なんだ? いったいお前らなにが……」


 そう言って外を確かめる雨宮だが、あまりにありえないと思ったのか、一度目を瞬かせて二度見し、


「あー、生徒会の壮行会アピールかなにかか? それとも天道財閥の新開発か?」

「いえ、天道でも生徒会でもあのようなものを作った、とは聞いてませんが……。祖父…いえ、理事長もおっしゃってませんでしたし……。」


 なんとか納得できる答えを見つけようとした雨宮に対し、他の生徒達と同じように外を見ていた天道が呆然としながらそう答える。騒然としている一同だが、誰かが、あれって魔法陣じゃ……という言葉を受け、今まで我関せず、を貫いていたカイトも道中居眠りしていたティナを起こして、外を確認する。

 するとそこには巨大な円形の模様が浮かんでいた。直径は学園をすっぽり覆うほどの大きさだがその模様があまりにも不可解であり、全く見覚えがない。引っ張ってきたティナと小声で


「なにかやったか!」

「何もするわけなかろう! 今日は帰って新作ゲームの予定だったのじゃ! これでは帰れんじゃろ!」

「オレら以外に誰があんな規模の魔法陣を描けるんだよ!?」

「知らん! いたんじゃろ! 余達以外にも!」

「にしたって……魔力も一切感じなかったって、それでも魔王かよ!」

「お主も勇者じゃろが!」

「魔術関連はお前のほうが上だろ! お前でわからんことがオレにわかるか!」

「あれだけの大きさで今も殆ど魔力を感じん魔法陣など余も知らんわ!」

「じゃあ、あの文字らしきものが一切ない模様は!」

「知らん!」

「ちっ、使えんダ王め……もしかしてエネフィア関連じゃないってことか!」

「可能性は高いの。」

「うわぁ、面倒いな……。」


 周囲の騒動を完全無視で二人で話し合っている勇者と魔王。話しの間にも高まり続ける魔力に対しついに危機感を覚えた二人であるが、何もわからないのではさすがに手の出しようもない。


「なぁ、ティナ?」

「なんじゃ、カイトよ」

「なんか、さ。あの魔法陣?だんだん光ってないか?」

「うむ。それになんかキーンという音もしておるの。」

「これは、終わったか?」

「終わったの。」


 ティナの終わった、という発言に呼応したわけではないだろうが、次の瞬間、ガラスの割れるような甲高い音とともに一気にパッと光り、その光に飲まれて天桜学園高等部は日本上からその痕跡を殆ど残さず消失したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2018年2月3日 追記

・誤字修正

『張って』が『張て』になっていた所を修正。

『最中』が『最終』になっていた所を修正。

『走り去っていった』が『走り去っていた』になっていたのを修正。

『完全に』から『に』が抜けていた所を修正。

『おっしゃって』が『おっしゃて』になっていた所を修正

『の予定』とする所から『の』が抜けていたのを修正

『にしたって』が『にしったって』となっていた所を修正

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