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第93話 正体

 ソラの静止を無視して、拳銃を構えてカイトへと問いかけたオリヴィエ。彼女はカイトの動作を見逃さないように、細心の注意を払っている。それに、カイトは溜め息を吐いた。桜を両手に抱えているのに、物騒な物だと思ったのだ。

「さて、あんたは何者だい?」

「何者か、か。興味深い質問ではある……強いて言うなら冒険者か。」

 オリヴィエの問い掛けを、はぐらかすではなく、単なる事実として返答する。カイトはある理由から殆ど人間を辞めているので、自分が何者か、については本人が悩んでいる事の一つであった。

「……偽物を提示しておきながら、か?」

 てっきり自分の見せた不相応な力の所為でその正体を疑われていると思っていたカイトだが、それを聞いて顔に疑問を浮かべた。

「もしかして、オレが疑われているのは、それが理由か?」

 カイトはてっきり禁呪を使用できることや、ブラッド・オーガを圧勝したことから危険視されたのでは無いか、と考えていたのである。

「まあ、禁呪を使用できていることも、確かに疑問ではあるが……」

 禁呪、という言葉にカイトの腕の中の桜や、楓と言った多少は魔術を齧っている面子が驚愕で目を見開く。それは、殆どが代償無しでは使えない術であったり、非人道的であることから使う事を禁じられた魔術であった。

「待ってください。偽物ってどういうことですか?」

 カイトの持っている登録証は自分たちも一緒に登録した物である。桜は場合によっては自分の持っている登録証まで疑い始めていた。

「そいつの持ってる登録証は偽物なんだよ。ああ、お嬢ちゃん達のは本物だよ。それは保証する。」

 自分の持っている登録証を確認し始めた桜達に、オリヴィエが念を押す。

「どうなんですか?」

 カイトの腕に抱かれた桜はカイトの顔を見た。しかし、カイトは平然と偽物である事を認めた。

「ああ、偽装証だ。理由があるんでな。」

「ほう、偽装証の存在は知っているのか。だが、本物との違いは知らないようだね。」

「いや、キチンと支部長から確認をとったぞ?」

 カイトはキトラとの会話を思い出す。確かに、あの時彼は300年前から変更が無い、と言っていたので、カイトは知っているままに、偽造証であるとわかる者にはわかるサインをしていたのである。

「で、その偽装症は誰から奪ったもんだい?」

「だから、ギルドで発行してもらったものだ。」

「はっ!嘘だね。あんたの偽装証にはある物が欠けてるんだよ。」

「……待て。どういうことだ?少し待ってくれ。」

 カイトは自分の記憶を見なおして、偽装証提示に関する部分を確認するが、間違った部分は無かった。

「……言い訳があるなら聞いてやろう。」

 かなり剣呑な雰囲気になったオリヴィエ達に、更に大慌てでカイトはキトラに確認を取る。

『キトラ、いるか?』

『これはカイト殿。どうされました?』

 念話越しにでもわかる慌てた様子のカイトに、キトラが少しだけ訝しんだ様子で答えた。

『偽装証をランクAの奴に提示したら、違うって言われたんだが。相手はオリヴィエというランクAの冒険者だ。他の冒険者にも同じく警戒されている。多くはランクAかBのやつだな。』

『はい?偽装証は提示して、発光もしたんですよね?』

『ああ。だが、何かが間違っているって言われて疑われているんだが……』

『カイト殿、偽装証用のカバーは見せられましたか?』

『ああ。一緒に提示した。300年前から未使用だから、傷がついてるとかもないぞ?』

 そこで横で聞いていたユリィが、は、っとなって割り込んできた。

『あ!今のが配られたのって、カイトが日本に戻って半年後だった!カイトが持ってるのって一個前のモデルだよ!』

『ああ!そういえば変更の会議したな!別に変更しなくていいんじゃね?金掛かるし、問題起きてないし……とかなんとか言ってたけど、結局変更したのか!?』

 それか、と納得するカイト。当時はカイトとティナという2大トップがいきなりいなくなった事で公爵家も大慌てで、ユリィもかなり記憶があやふやだったのだ。だから、彼女も気づかなかったのである。

 尚、年に数回ある冒険者ユニオンの会議にはランクEXとして出席していたのだが、大抵会議では別にこの会議は必要ないのではと、いつしか宴会の口実となっていた。なのでカイトも大してその会議の内容に気にも留めず、まさか大真面目に変更するとは思わなかったのである。

 一方、念話の向こうでは、それを聞いたキトラが大急ぎで資料を確認していた。

『本当ですか!?……ああ、本当ですね……申し訳ない。どうやら此方の手違いだったようです。』

 どうやらカイトの帰還と前後するように変更されたので、キトラはカイトが持っているカバーがひとつ前のモデルであることを気付かなかったらしい。見た目が殆ど変わらないのも、その印象を強めていた。

『オリヴィエさんに念話をつないでいただけますか?』

 とは言え、ユニオン側にもミスがあった。なので、キトラはカイトにそう申し出る。そうしてカイトはオリヴィエに念話を繋ごうとして弾かれる。

「ん?ああ、オリヴィエさん。悪いがキトラ支部長から念話を繋ぎたいと言われている。」

「……信じると思うかい?」

 明らかに警戒されているので、カイトは遂に諦めて自分の本来の登録証を提示した。そうしなければ、強引に彼女の展開する防壁を破らざるを得ず、大乱闘になる事は確実なのだ。とは言え、間近で確認はさせずに、今自分が居る位置から提示する。

「見たこと無い印だな?それはお前が作ったものか?」

 オリヴィエの近くにいた冒険者がそう言う。しかし、それを見たオリヴィエが、漸くカイトの正体を把握して、武器を下ろした。

「まちな。あれは見たことがある。……全員、武器を降ろしていいぞ。少なくとも、あたしらじゃ勝てん。」

「どういうことだ?ランクSでもあんな印じゃないぞ?」

 長年冒険者をやっている一人が疑問を呈する。彼は何回かランクSの冒険者とも一緒に依頼を受けており、ランクSの登録証を見たことがあったのだ。

「ユリィ先生。先生の登録証を見せていただけますか?」

 実際に見せた方が早い、そう考えたオリヴィエがユリィに頼む。ユリィも同じように考えていたので、何も言わずに自分の登録証を提示した。浮かんだ印はカイトの物と同じ印だった。

「え?ユリィちゃんも持ってるの?」

 魅衣がユリィが取り出した登録証をみて、そう問いかける。

「うん。昔カイトと一緒に取ったからねー。」

「な?わかっただろ?……あれはランクEXの証だ。カイトと言う名前のランクEXは一人だけ。」

 その言葉にオリヴィエの仲間が全員カイトの正体に気付き、絶句した。

「まてまて……勇者が居たのは300年前だろ?」

「ちなみに、人間族な。300歳ってわけじゃない。」

「見た目は魔術ってことかい?」

「ああ。魔力量が高すぎて殆ど不老に近いんでな。外見年齢はいじくっている。」

 そう言ってカイトは大人状態へと戻る。そうして現れたのは、蒼眼蒼髪のカイト。但し、見た目の年齢がぐんと上がり、幼さが完全に失せていた。

「わかった。納得したよ。おい、誰かここらに消音結界を敷いておいてくれ……勇者殿、支部長につないでくれ。」

「ああ。わかった。」

 そう言ってカイトはキトラからの念話をオリヴィエに繋いだ。

「よく考えればお主も年齢考えればそっちが本来の姿じゃな?」

 今まで我関せずを貫いていたティナだが、唐突に話に参加する。

「はっ。それ言ったらお前は300歳近いだろ?もっとババアでいいんじゃないか?」

 何処か茶化す様に、カイトがティナに告げる。彼女の誕生は皇国の建国とほぼ同時期なので、封印されていた期間を除けば、実は300歳という超高齢なのであった。

「余とて不老じゃ。同年齢の同種族の魔族に比べれば見た目が若いのは仕方があるまい。それに……好いた男の好みには合わせたくもなろう?」

 一方のティナも、何処か茶化す様に告げる。尚、ティナの種族は魔族でもそれなりに長命ではあるが、それでもティナよりも老いた見た目である。そうして、ティナという名前に、オリヴィエ率いる冒険者達が気付き、問い掛けた。

「もしかして、ティナってことは、あんたはかの魔帝様か?」

「うむ。余が統一魔帝ユスティーナ・ミストルティンじゃな。」

 そう言って肯定するティナ。わけがわからない、というような表情をしている桜達を他所に、ソラは一人納得した様な表情を浮かべていた。

「あー、一ついいか?結局、カイトが勇者でいいのか?で、ティナちゃんが件の天才魔王か?」

 最後の確認と言わんばかりのソラのその言葉に、周りの翔達がようやく気づいた。

「まぁな。これが前に言ってた今は語れないって奴だ。」

 そう言って笑うカイト。その笑みは何時もの人を喰ったかの様な笑みとは異なり、何処か人懐っこい笑みであった。

「はぁ、道理で強いわけだ。」

「なんでお前驚いてないんだよ!」

 あまり驚いていない様子のソラに翔が問いかける。ソラは平然とした様子でそれに答えた。

「まあ、昔からカイトにはなーんかあるなぁとは思ってたし、こっちに来てから髪と眼の色が変わってるのも何回か見てたからなぁ。桜ちゃんも見ただろ?」

「え?えーと……あ!公爵邸で、ですか?」

 問われた桜は、思い出すかの様に目を閉じて唸る。そうして、漸くあまり思い出したくないらしい記憶から、正解を引っ張り出してきた。

「桜ちゃん、もしかして写真、見てないのか?」

 ソラは何時か確認しようと思っていたのだが、桜はそこでようやく思い出した、という顔をしていた。実は桜は意図的に写真の存在を忘れようとしていたのである。

「……はい。」

「桜……あんた、それがあったらもっと早くカイトの正体がわかったのに。」

「ごめんなさい……デジカメの中の写真は消して返したんですが……パソコンに転送しっぱなしで忘れてました。」

 真っ赤な顔でそう言う桜と、その様子を呆れた感じで見ている楓。さすがに酔った挙句に自分からお姫様だっこをねだり、それを写真に残すなぞ、桜には恥ずかしすぎて写真を見られなかったのである。とはいえ、カイトの側から言えば、髪の変色等を突っ込まれなくて済むので、有難い話……ではなく、実はカイトが魔術を使用して、なるべく見ない様に羞恥心を煽ったのは、秘密である。

「……そうか。なら帰ってから速攻で消去しないとな。」

 カイトがそうボソリ、と呟いた。当然腕の中の桜には聞かれていた。とは言え、見られない様にしたのにも理由があった。それは、桜が何処に写真のマスターを隠したのかを把握出来なかったからである。なので、漸く把握したカイトは捜索を決断した。

「あ!ダメです!あれにはカイトくんとソラさんの写真も……」

 そうして、密かに意を決したカイトに気付いた桜が、大慌てでカイトにしがみついた。自分の名前が出てきてきょとんとしているソラだが、幸いに何があったのかは覚えていないらしい。カイトとしても、こちらは本当に有難い話であった。

「待て!なぜそんなにアレに執着する!」

「そうよ、待ちなさい、桜。あんたそんなお宝を持ってるなら先に言いなさい。」

「お宝!?」

「え?楓ちゃんにはコピーを渡そうかな、と。」

 カイトは何処かおかしな言動を行う二人に翻弄されるのだが、二人はカイト無視で話を進める。桜はカイトと桜のツーショット写真も一緒に、見られないようにパスを掛けて会長室のパソコンに保存してある。

 ちなみに、デジカメは報道部からの借り物であったので、すでに返却していた。なお、中身が復元不可なレベルで消去されていたので、返却された真琴がひどく残念がっていたのだが、それは置いておく。

「コピーするな!消去しろ!」

「待て!カイト、お前やっぱ桜ちゃんとのツーショット写真あんのか!?というか天道さん真っ赤じゃねぇーか!どんな写真だ!」

 噂程度で済んでいたツーショット写真の存在が当人にて立証されたので、翔が大声を上げてカイトに問い詰める。翔が物凄い勢いで近づいてきたので、カイトは桜を抱えたまま、思わず後ずさりする。

「待ちなさい!桜ちゃんに一体どんな事したの!」

「ちぃ!いらん奴にも嗅ぎつけられた!」

 桜の恥ずかしがり様から、魅衣が何かあったと察知して即座にカイトへと問い詰める。その剣幕を見たカイトは即座に逃げの一手を取ろうとして、目の前を矢が通り過ぎた。

「逃がさないよー。」

 矢を放ったのは顔に楽しそうな笑みを浮かべた由利である。タイミングがほぼ完璧であったのは、何時の間にか横に居たユリィの入れ知恵だろう。ユリィがかなり楽しげな悪戯っぽい顔を浮かべていた。

「あー、おしぃ!もう少しで当たったのに。あ、ちなみに、カイト。私とクズハにも手を出してるよ。もちろん、性的な意味で。」

「うむ。当然余もじゃな。」

「あら。さすが旦那様。相変わらずお盛んですね。お屋敷のメイドや私達だけでは足りませんか?」

「カイト!どーいうことだ!つーか、てめぇ!ハーレムかよ!」

 鏃は潰されていたので、カイトにあたった所でダメージは無いがそれでも怖いものは怖い。だが、今のカイトにはそれより怖いのが二つ程存在していた。しかも、一つからは逃げようが無かった。

「……カイト?少しお話しよっか?」

「カイトくん?」

 ひどくご立腹なご様子の魅衣と桜。カイトは桜を降ろして逃げようとしたが、魅衣が待ったを掛けた。

「まさか、カイト。さっきまで怖がっていて自分を頼る女の子を置いて逃げるなんてしないよね?」

「え?カイトくん。私を降ろすんですか?」

 潤んだ眼―演技である。既に震えは完全に止まっていた―でカイトを見る桜。逃げ道は塞がれた様であった。

「……わかった。全部説明する。後、ユリィとクズハはオレを襲った側な。そこんところ間違えないでくれ。」

 逃亡を諦めて、カイトは自分の過去と境遇を含めて一同に説明するのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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