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第92話 疑惑

 このお話ではかなりショッキングな表現がそれなりに含まれています。なので、耐性が無い方は、前半部分を飛ばしてください。それでもなんとか、大筋はわかる様に書いてあります。

「この先だ。」

 カイトの案内で洞窟の探索を初めて十数分後。幸いにして大して魔物と会うこともなく、一行は目的地の一つへと辿り着いた。

「……ちっ。何時見ても胸糞が悪いね。臭いも酷い。」

 目の前に広がる惨状を見て、思わずオリヴィエがこぼした。そこには、陵辱の限りを尽くされた女性達の姿があった。女性の中には下腹部が少し膨らんでいる女性もいるが、所々呻き声やすすり泣く声が聞こえるところから、生きていることだけは確かである。桜には女性たちの姿は見えていないが、様々な臭いや呻き声、すすり泣く声などから大凡の惨状は想像がついていたらしく、顔を顰めていた。

「おい、あんた。本当に禁呪が使えるんだろうね?嘘だったら、ただじゃおかないよ。」

 カイトにそう問いかけるオリヴィエ。さすがに目の前の光景から、少しだけ不機嫌さがにじみ出ていた。

「ああ……桜、少し降ろすぞ。」

「はい……きゃっ!」

 桜からの返事を待ってカイトは桜を降ろした。降ろされた桜は空中でふわふわと浮いている。

「まあ、地面に降ろすわけにもいかないからな。少しだけ我慢してくれ。」

 苦笑するカイトを他所に、桜は奇妙な感覚に戸惑っている。現在の桜にはカイトによる魔術によって周囲の視界が制限されていたので分からないが、周辺はかなり汚れており、そのまま降ろすことは出来なかった。

「さて、まずは眠らせるか。」

 カイトは魔術でその場の女性たちの意識を刈り取る。そうして一気に呻き声も啜り泣く声も消え去り、沈黙が降りた。

「身体は……<<生命吸収(ライフ・ドレイン)>>で大丈夫だろう。心は<<魂魄改竄(ソウル・ハック)>>にしておくか。」

 カイトは目を背けたくなる光景を努めて平然とした態度で臨み、身体から陵辱の痕跡をなくし、魂自体からあった事実を抹消することにする。<<魂魄改竄(ソウル・ハック)>>は魂自体を改竄する手段で、その下位の<<精神改竄(マインド・ハック)>>でも表向きは同じ効果を得られたのだが、カイトはそちらを採用しなかった。<<精神改竄(マインド・ハック)>>は精神を弄くるだけで、万が一にも記憶を取り戻される可能性があったからだ。

「さて、じゃ、やるか。」

 カイトは2つの禁呪を使用し、女達から陵辱の痕跡を全て消去していく。

「……姉さん、あいつ、何者なんすか?俺も冒険者やって長いっすけど、10代で禁呪を使える奴なんて見たことないっすよ?」

 カイトが何ら危なげなく禁呪を行使していく様を見て、一緒に来ていた冒険者の一人が恐れを含みながらそう言う。

「知らん。だが、裏はありそうだね。」

「さっきの登録証か?」

 別の冒険者が他の面子に聞こえないように小声で言う。先にオリヴィエに聞いた冒険者と含めて、オリヴィエとよくパーティを組んでいる冒険者であった。

「ああ。偽物だったね。」

「……奪った物と考えてるか?」

 キトラが伝え忘れた為、カイトは知らないことであったのだが、実は偽装証を冒険者に提示する際には、他にも専用の印を同時に提示する必要があった。カイトは知らなかった為、それを提示出来ずに偽物を奪った冒険者もどきだと思われているのである。

「わからんさ……だが、あの実力を持ってすれば奪った偽装証の変更ぐらいたやすいだろうね。」

 如何に高度な偽造防止技術が施された冒険者用の登録証とは言え、偽造が出来ないわけではない。カイトが示した程の実力があれば、登録された内容を書き換えるぐらいは容易い事であった。

「あの嬢ちゃん達はどう考える?」

「……嘘をついている様には見えなかったね。」

「だが、魔術で記憶を改竄されている可能性はある、か。」

 会話を聞いていたオリヴィエの馴染みのパーティメンバーが、険しい目でカイトを見ていた。カイトも自身に向けられる険しい視線には気付いているが、それをまさか冒険者としてが疑われているとは思っていなかった為、大して気にも留めなかった。

「だがわからんのはユリィ先生だな。先生があの男に操られている様には見えん。そもそも実力的にユリィ先生はエネフィア最高クラスだ。操れる奴がそう何人も……」

 そこまで考えた所でオリヴィエがある答えにたどり着く。

「……まさか。いや、だが……。」

 ぶつくさと思考の海に潜っていったオリヴィエを他所に、カイトは全ての女性から陵辱の痕跡を消し去った。

「よし、これでここは終わりだ。誰か街まで連れて行ってくれ。」

「……ん?あ、ああ。」

 思考に耽っていたオリヴィエだが、声を掛けられて連れてきた冒険者の一部に指示を出して、囚われた女性達と共に一足先に街へと戻らせた。

「あと……2箇所か。悪いが、先導を頼む。」

「ああ。良し!行くぞ、お前ら!」

 そうして残る2つの場所へと一同は向かっていった。




 カイト達が女性たちの救出に向かった後、しばらくして、ソラへと男性冒険者の一人が声をかけてきた。どうやらソラが最も与し易いと思ったらしく、ガタイの良い長身の男が手頃な岩の上に座るソラの横に座る。

「あの蒼髪の男は何者だ?」

「ん?蒼髪……ああ。あいつはカイトって言うんだ。俺達のパーティのリーダーだよ。」

 ソラは別に隠すことではないか、とカイトの事についてを語る。ソラが若干悩んだのを見て、男は訝しんだが話を続ける。

「彼はあれほど強い冒険者なら噂になっていないはずがない。今まで何をやっていたんだ?」

 そう聞かれたソラは少し逡巡する。嘘を言おうにも、あまりにぶっ飛んだ嘘では気付かれると思い、そこで彼は半ば真実である事を語ることにした。

「……まあ、学生だけど。冒険者には最近なったばかりなんだ。」

 エネフィアにも学校があるので、ソラも別に学生である事を隠す必要はなかった。どこの学生か、は隠したが。

「学生?ここらだと公爵家の魔導学園か、それとも皇都の魔導大学か?」

「いや、違うんだけどよ……あんま詳しくは聞かないでくれ。」

「……そうか。」

 相手の過去を詮索しないのは、冒険者としての礼儀である。詳しく聞かないでくれ、と頼まれては余程の理由がない限りは聞けないので、男はかなり興味深げにしていたものの話はそれっきりとなった。そうして更に15分ほど待っていると、カイト達が帰ってきた。

「終わったぞ。」

「ああ、囚われていたと思われる全員の救助が終了した。まあ、後で公爵軍には来てもらうだろうが。小僧、手配は頼むよ。」

「はい。オリヴィエさんもありがとうございました。」

「いや、あたしらは依頼をこなしただけだよ。」

「後はここにいる娘らだけだが……。」

「ああ。彼女らについてはオレたちで運ぼう。」

 カイトがそう申し出る。当たり前だが、彼女らの身柄は天桜学園で預かる必要があるし、変に救助されても今はまだ隠されている異世界の学園の存在を隠す手間が出来るだけであった。

「知り合いならそれがいいだろうね。」

「ありがとう……全員の目が覚めるのを待って帰るぞ。」

「帰りはどうするんだよ。またルゥさんに乗せてもらうのか?」

「嫌ですよ?」

 翔の質問をにべもなく却下するルゥ。翔だけでなく、他の面子も即座の拒絶に唖然としている。

「そもそも我ら神狼族は認めたものでなければ背に乗せません。間違っても便利な乗り物と勘違いなさいませんよう。」

「え?でもここに来る時は……」

「まあ、あれは旦那様の頼みでしたし、危急でしたから。特別ですわ。」

 問い掛けたソラに、何処か不機嫌ながら笑みを浮かべたルゥが言う。取り付く島もない様子に翔が切り口を変える事にした。

「……おい、カイト。お前から頼めよ。」

 翔にそう言われたカイトだが、即座に却下する。

「は?ルゥを出したのは時間が無いからだぞ?あんまルゥの姿を学園生に見られたくないのに、使うわけないだろ。全員を運べるキャパもないし。」

「そこをなんとか……」

 さすがに大規模な戦闘の後に10キロメートル近くの道のりを歩くのは嫌な一同が頷いて同意する。そうして、何処か何時もと違う雰囲気のカイトに、ソラが問い掛けた。

「つか、お前性格ちがくね?」

「性格はまあ、気にすんな。っと、でオリヴィエさん達はどうする?」

「ああ、あたしらはもう少し洞窟内に残るよ。お前さんを信じないわけじゃないが、まだ取り残されている奴もいるかもしれないからね。お前さんらはどうする?依頼はこれで終わりだし、ここらで解散でもいい。」

 そう言って、オリヴィエは自分のパーティ以外に臨時で雇った冒険者達に聞く。幸いにして、今回の依頼はユニオン支部からの依頼なので、達成さえ確認できれば個々に報酬が払われる。なので、一緒に行動する必要が無いのであった。なので、先ほどソラに問い掛けたガタイの良い長身の冒険者が立ち上がった。

「では、俺はそうさせてもらおう。今から戻れば酒場で一杯引っ掛けられそうだ。幸い戦闘は殆ど無かったんでな。ゆっくり休む必要もない。」

 先ほどソラに声を掛けた男性冒険者がそう言ったことで、確かに、と思ったらしい臨時で雇われた冒険者は騒ぎながら全員街へと帰っていった。

 そうして、それを見届けたカイト達とオリヴィエ達。冒険者達が去っていったのを確認してから、オリヴィエが懐に隠し持った銃をカイトへと向けた。他のオリヴィエの仲間も各々武器をカイトに構えている。

「拳銃!?ちょ!いきなりなんすか!?」

 おもむろにカイトに銃口を向けたオリヴィエをソラが慌てて静止しようとすが、オリヴィエたちは油断なく武器を構えて口を開いた。

「さて、あんたはなにもんだい?」

 そうして銃口を向けられたカイトは、やはりそうなるか、とどうするかを悩むのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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