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ええじゃないか
作:とりえなし



第九十四話 タイム


「マネージャー志望の子、ちょっと来てくれ」
「はい、わかりました小倉先生」
「本気で豊橋北高校に通いたいんだな?」
「はい」
「プライバシーの問題とかもあるから言っておくが、ここにある情報……個人のタイムとかを他人に言いふらされると困るから、そこのところを理解しておいてくれ」
「わかりました。ここでの記録は守秘義務があるんですね」
「そこまで大げさに考えなくてもいいが、まあ気をつけてくれ」
「じゃあ個人個人のベストタイムを見せるから、このタイムよりも二秒以上遅れた選手がいたら遠慮なく引っぱたいてくれて構わん」
 鬼!構えよ!構ってくれよ!?暴力反対!!
「わかりました」
 わかるな!守秘義務以前に人権侵害だから!法に触れるから!!
「さあ練習だ。名前は古木さんでよかったかな」
「はい。これからよろしくお願いします!もちろん来年からも!」
 まだ早いだろ。油断が最大の敵だぞ。


「松田先輩!一秒遅れです!もう一本頑張ってください!」
「……了解。次の次に出るからタイムよろしく頼む」
「石井先輩!やる気あるんですか!?ベストより五秒落ちですよ!?」
「…………」
 保護者。石井はやる気とかじゃない。単純にスタミナが切れただけだ。よく見ろ。屍のようだろ。
「高城さん。余裕でクリアーです!」
 化け物ですか高城さん、あなたは。
「では第二陣。スタートまで五秒前、四、三、……」
 俺の番か。集中集中。
「よーい……ハイ!」
 ストロークをしっかり。キックは強く。目線は前に……と。


「浜口先輩、二十七秒!オッケーです!」
「……いよし!」
「片山先輩、二十八秒!クリアです!」
「……ふう。ありがとうね古木ちゃん」
「先輩!三十一秒八二です!コンマ零二秒足りないですね!もう一本行ってきてください!」
「貴様!俺だけなぜそんなに細かいんだ!?誤差の範囲だろ!?」
「うるさいです先輩。はよ泳いできてください」
「慇懃無礼だ!」
「それだけ騒ぐ元気があれば大丈夫だな。もう一本泳げ」
「小倉先生!?そんな殺生な!」
「……いいから泳げ」
「了解しました」
 ……怖いよ。小倉さん怖いよ。
「うーん、田村先輩……二十九秒……合格でいいです」
 なんだ今の間は。でいいですってどういうことだ。……保護者、お前はいつか泣かす。


「先輩!ようやく合格です!」
 ……やっと終わった……なんで距離が伸びてるんだよ。二百メートル全力は、練習の最後にやってタイムが出るわけないでしょうが……!
「遅かったですね」
「……保護者、今日はお前に本気で殺意を覚えたぞ」
「事実だったんだから仕方ないでしょう」
「……気を使うってことを知らんのか」
「先輩に言われたくないです」







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