自信満々
「有希先輩、好きです! 付き合ってください!」
夕日が真正面に見える、坂道の途中。私は一緒に下校していた後輩のサダハルに、いきなり、本当にいきなり、告白された。
「……えっ? はぁ?」
「今の高校に入学したのも、バスケ部に入ったのも、全部、先輩に会うためなんです! 先輩と一緒にいるためなんです! だからこの気持ち、受け取ってください!」
「ちょ、ちょっとサダハル、待って。お願いだから、少し落ち着いて」
「自分は充分落ち着いています!」
そう言いながらサダハルは荒い鼻息のまま私へとにじり寄ってきて、確実に距離を詰めてきた。昔からそうだ。こいつは決めたことには一直線というか、良く言えばエネルギッシュ、悪く言えば暑苦しいタチの奴だった。
私はメーターを振り切ったようなサダハルのボルテージをなんとか下げようと、努めて沈んだ口調で、うつむきがちに話した。
「あのね、サダハル。……サダハルとは、小学生の頃からずっと一緒なわけじゃない? だから、今更恋愛とか、そういうのはちょっと……」
「今はそうでも、いつか必ず自分に振り向かせてみせます!」
そう言ってサダハルは、頼りがいのない薄い胸をドンと叩いた。この無闇な自信は一体どこから湧いてくるのやら。
「それに、言ってなかったっけ? 私、年上が好きなの。それも、うんと。具体的に言うなら、四十代くらいかな。とにかくサダハルは範囲外なの」
「自分もそのうち年をとります! そしたらいい感じに加齢臭だって出てきますよ!」
別に加齢臭が好きなわけではないのだが、まあ、それは今必死に訴えることでもない。
「私、身長にだってうるさいよ? 百八十センチ以下は興味ないから」
「成長期なんで、すぐ伸びます! バスケ部ですし!」
どうだろう。サダハルと私の身長差は、ほとんどない。高く見積もったとしても、百六十センチがいいところだろう。将来性については何とも言えないが、私は漠然と、望み薄なんじゃないかな、と思った。
しかしそれにしても、ああ言えばこう言う奴だ。本当は穏便にお断りしたかったが、仕方がない。努力どうこうではどうしようもない、私がサダハルと付き合うことができない、決定的な理由を突きつけてやることにした。
「じゃあ、最後に。これが一番大きな理由なんだけど。……私ね、女は恋愛対象外なの」
「大丈夫っス! そのうち生えてきますって! いや、気合で生やして見せます!」
仁王立ちになりながら、サダハル――定岡春香は、まるで確信しているかのように、得意顔で股間を指差していた。
【了】
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