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俺と目を合わせるな
作:いもっこちゃん



狂眼


いつもの事ながら、25日のATMの列は長い。
宏と同じ給料引き落とし日の会社は多いのだろう。
身長の高い宏は、最後尾に並んでため息をついた。
ぐりぐりした目、目立つ高い鼻、チョット太目の唇。
身長だけで目立つのに、顔を見れば恐ろしく警戒される。
今も、前のご婦人がチラチラと、後ろの宏を警戒している。
それが毎度の事なので、前に居る人の、直接後ろより、半歩ほど離れた場所で
さりげに、列からはなれずに、並ぶように心がけている。
誰が人の暗証番号を覗いて、盗むような事などするか。俺は詐欺師犯罪者じゃねぇ・・・と宏は思う。が、世間はそうは見ない。
少しだけ、怖い顔かなとは思う、自分では。
一般大衆人とはなんら変わらない。
だが、けんかを売られる頻度はかなり高く、歩く時は節目がちに、地面を見ながら気をつけて歩く。
気候のよい春や、雨上がりの清清しい日は、空を見上げ、透き通った空気を、肺いっぱい吸い込む。
そんな爽やかな日に限って、ビルの窓から覗いていた、どこぞの組の若い衆から
ガンを飛ばしたと、舎弟を5,6人引き連れ、取り囲まれたことも有る。
「われぇー、何処の組のもんか!懐のもん出してみぃー。ここから生きて帰れんぞー」と、いきなりこんなことを言われると、面食らってどうしようもなくなるが、回数が重なると慣れる。
逃げるのもパターン化している。まず、宏は状況を把握し地形を見極める。円を縮めるやくざの組員達の、隙を狙って脱兎のごとく、路地に駆け込み逃げ出す。逃げ足は誰より速いと自画自賛している。ヤクザだけが最悪の日ではない。
人通りが多かろうと、少なかろうと、宏と目が合うと、すねに傷を持つ奴等や、ぶっちぎれた野郎共が、因縁をふっかけてくる。
大学の同級生には、宏よりよっぽど強面な友人が多いが、彼らは宏のような災難には遇っていない。
町並みや自然観賞などは、周りをよく確かめて、と、日々自分自身に言い聞かせている。

今日はコンビニのATMで、こずかいを下ろし、パンとペットボトルのお茶を買い
コンビニの駐車場で、お茶を一口飲んで一息ついていると、ケバイ髪の毛と、足の短い、ズボンを引きずった学生が、険悪な雰囲気で寄ってくる。
お茶のボトルを上に持ち上げた時に、視線が合ったらしい。
運悪く、コンビニの駐車場の後ろは、コンクリートの壁で、その向こうは傾斜の着いた山の斜面だ。
逃げ場が有るとすれば、コンビニの裏手に走りこめば、通路が有るかもしれない。
そう思ってちらりと裏手を見れば、コンビニの店員が大きな袋を提げて、ポリ容器に移し替えている。
店員に助けを求めるのもかっこ悪い。
学生チャリが三台やって来て、ケバイ学生の後ろに立った。
足が異常に短い同じ人種である。
「オメーェヨ。俺等にガン飛ばして、ただじゃおかねぇぞ」見てない。
「ムカツク野郎だぜ」宏の方が多いにむかつく。
腰パンの学生が合計6人。
格好はダサいが身体の成長は、ファーストフードのせいか良好で、
182センチの宏と目線は同じ位置にある。
「俺はガンなど飛ばしてない。言いがかり止めてくれないか」言っても、無駄だとはわかっている。
「コイツ、まともな事がいえるじゃないか。」不良に正論は無駄である。
彼らは今、宏の視線で大いに刺激を受けて、喧嘩をやりたいだけなのだ。
「なら、ガン飛ばすな!この野郎!」たいていここで、一般人はしぶしぶ本位ではないが謝る。そして不良共が去った後で悪態をつく。
「おれは目つきが悪いのだ、仕方ないだろう?喧嘩する気なんぞ無い」時間稼ぎだ。この中の誰か一人にぶつかり、犠牲になってもらって、逃げ出す算段をする。
「コイツ、言い訳してやがる。解ったよ。へへへ、今そこで買い物したんだろう?だったらよー金持ってんだろう。出せよ」完全に獲物の退路を断って、足の短い学生は優位に立つ。
「タカる相手間違ってないか?学校で同級生でも恐喝しなよ。一般人に手を出すと刑務所行きだぜ」段々、話すのも宏は嫌になっている。今まで何度も似たような会話をしてきた。
そこへ、両手にハッポウスチロールをいっぱい詰め込んだ、ビニール袋を持ったコンビニの店員がやってきた。
「すみませんが、集会はよそでやってください。それか店長の許可を取ってもらえませんか?」けなげに不良共に注意をしてきた。
「われアホか」右端の小太りの学生がつばを吐いた。
「あっ」っと、声を上げて店員はこけそうになり、袋を前に押しやり、つんのめって体勢を立て直して笑った。
宏は店員の足が、きれいに足払いを学生にかけるのを見た。
ひっかけられた学生は、なぜバランスを崩したのか、わからないで倒れた。
「ココ、気をつけてくださいね。少しなんですが、段が有るんです」こけた学生は、隣の友人の膝裏を掴み、ズボンを引き下げた。
「コラァ何しとる!!」腰パンはすぐにパンツと一緒に下がる。シャツが長くて股間が見えなくて良かった。
「じゃかぁしいわ!みりゃわかるろー。こけたんじゃ」二人の学生がこけて学生等に隙が出来た。 宏はすっとポジションを変え身構る。
店員は、こけた二人の学生の間をよたよた歩き、言いがかりをつけた学生のそばでよろめき、袋を手から離した。
空っぽの手はすばやく、学生の顔の真ん中にグーで飛び込み、すぐさま袋を掴んでケンケンして学生のそばから離れた。
「あ、ごめんごめん袋が当たった?でも大丈夫よね。これ軽いから。ごめんなさいね」
「グァァーー」声にならない悲鳴が上がる。顔を殴られた学生は頭から後ろに倒れ、無様だ。
「あら、そこは車止めが・・・」タッタとにこやかに学生や宏に、笑顔を振りまきながら、店員は歩き去ろうとしたが、店のほうからなにやら声が聞えたようで、店員は立ち止まった。
「ド、どないしたんか?」学生は仰向けにこけたのに、顔面を押さえているのが可笑しい。
「わからん。何か引っかかって、こけてもうたんや」転がった学生は、尻餅をついたまま、鼻血垂らして呆けている。顔を殴られた学生は倒れて起きて来ない、二人の学生が顔色を変え倒れた学生を抱き起こしにかかった。
「店長、すみません!ここでお客さんこけはりました。救急車呼んでください。」と声を張り上げ店員は叫んだ。
「それと。店の駐車場だから責任問題ですよね。警察のほうへも連絡お願いしま〜〜〜す」学生さんには申し訳無さそうに声を和らげた。
「学生さん、待っててください。私すぐにこのゴミ置いて、包帯か何か持ってきますからね」
警察・・の声で、残りの三人は顔を見合わせ、倒れている三人を立たせ、狐につままれた様子で去っていった。

「お客さん、悪いやつ等に絡まれましたね」チャリが見えなくなり、女性の店員は荷物を背中に担ぎにっこり微笑んだ。
「助かったよ。ありがとう」宏は鮮やかな店員の足捌きや、正拳突きの正確さを褒めたかったが、ひとまずお礼が先だ。
「ここは平坦に見えるけど、突起が多いんですよ。お客さんも気をつけてくださいね」袋を持ったまま去りかけて、立ち止まり店員は振り返った。
「へへへ、救急車来ませんから。さっき覗いたのは私と同じアルバイトの男の子です。彼がガラス越しにあなたが囲まれてるって教えてくれて。ちょっと芝居して見ました。エへへへ」
そう言って店員は店に戻っていった。
去っていった学生同様、宏は不思議な気分だ。但し、こちらは痛い思いはしなかった。



















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