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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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閑話。夏の肝試し的な話。

夏の閑話祭り第二弾。
時間軸は『幼き少女』時代となりますが……
『娘』の実母に、なんだか素晴らしい女性的なイメージをお持ちの方はご注意ください。
 ラティナは『魔物』が苦手であった。

「『魔獣』はそんなに怖がらないよね。なのにどうして?」

黄の神(アスファル)』の学舎にて、いつもの友人たちと雑談している最中、親友のひとりであるシルビアはそんな疑問を口にしたのであった。

 日頃交わす、雑談などの節々で感じることであったが、ラティナは『魔獣』はそれほど『恐れる』様子は無い。危険な存在であることは理解しているし、かつて『森』に居た経験から、直接的に恐ろしい目にもあっている筈だが、無闇矢鱈と恐れてはいないのだ。
 危険だからこそ、正しく理解し、対処するべきだ。と、考えている事が透けて見える程に。
 それに反して『魔物』は『単純に存在自体が、恐ろしい』と考えているように感じられる。

『魔獣』も『魔物』も、『どちらも危険で恐ろしいモノ』である街住みの者にとっては、その差がどこにあるのか全くわからないところであった。
 --街住みの者に限らず、デイルたち『冒険者』にしてみても、各々『やりにくい相手』というものはあるにつれ、ラティナのようなはっきりとした差は、理解の外にある事項である。--

 シルビアの問いに、暫し躊躇した後で、ラティナは重い口を開いた。
「……ラティナ、昔ね、『まもの』って何? ってモヴ(・ ・)……ラティナのおかーさんに聞いたの……」
「ラティナのお母さん?」
「そしたらね……ラティナ、あんでっど(・ ・ ・ ・ ・)はこういうものだよって教えてもらった後で……」
 友人たちの前のラティナは、普段の快活さは見る影も無い様子で、青い顔で下を向いていた。

「じっさいに本物見てきなさいって、ごーすと(・ ・ ・ ・)まみれのお墓に、ぽいっ。ってされた」

 実践主義にも程があった。

「ラティナ、がんばって、帰ったら、……次は、すけるとん(・ ・ ・ ・ ・)の前に、ぽいっ。ってされて……ここから無事に帰ったら、次はぞんび(・ ・ ・)だよって言われたところで、おとーさんに助けてもらった」

 あまりにあまりな話に、友人たちも突っ込みを入れそこねた。


『魔獣』と『魔物』の最大の差は、『生物』か『非生物』かであることである。
『魔物』の多数を占めるものは、アンデッドの類いのモンスターたちだ。無機物に魔力を込めた、もしくは魔力が影響して発生した、ゴーレムやガーゴイルを初めとした『魔法生物』たちは、かなり限定された場所にしか存在しない為、冒険者などの職種の者でもなければ、関わる機会は無い。
 それに対してアンデッドの元となる『もの』は、『ひと』である。
 ならば、ひとの生活圏とそれらの発生地点が重なることも道理であり、存在を疑う必要の無い程度には『ちかしいもの』であった。

 特に『幽霊(ゴースト)』等は、街中でも珍しくは無い。
 存在感が希薄なものの場合、波長の合う者にしか気付かれることすら無いが、生前、魔力が高い者であったり、『冥』属性を有した者であった場合などならば、周囲に影響を及ぼすこともあった。

 強い思いを遺して死を迎えた者は、『幽霊(ゴースト)』となる場合がある。
 だが、肉体という器を持たぬ思念体である『幽霊(ゴースト)』は、アンデッドの『本質』たる『死』に引かれる。その為、多くの存在(もの)は、生前の自我も理性も失って、次第に『死』を体現した存在へとなるのだ--

「"うむ、言葉のみの説明を聞くよりも、実際に実物を見て、体験する方が良かろう"」
「"ん?"」
「"己が知らぬことに興味を持ち、学ぼうとすることは、善きことだ。学ぶが良い"」
「"ん?"」
 と、いう会話を実母と交わした、当時(よわい)五歳になったばかりの彼女は、ある夜、『幽霊(ゴースト)』スポットとでも言うべき古い時代の墓所に放置された。
 それこそ、ラティナの表現を借りるならば、『ぽいっ』といった感じの気軽さであった。

 ラティナは他者の『悪意』--自らに対して危険を及ぼす存在への危機感--に敏感である。そんな彼女を、死者の怨念渦巻く只中に、『ぽいっ』である。
 崖下に我が子を落とす獅子並の過酷さと言えよう。
「"ぴきゃああぁぁっ"」
 静寂に包まれた墓所の中に、幼子の悲鳴が響き渡った。

 ぐしょぐしょの泣き顔で、やっとのことで実母の元にたどり着いたラティナに母は、素晴らしい笑顔を向けた。
「"うむ。なれどアンデッドは『幽霊(ゴースト)』だけではないぞ"」
「"ふぇっ!?"」
「"より学ぶが良い"」

 ラティナの実父たるスマラグディが駆けつけたのは、我が子が、薄汚れた動く骸骨を前に、ガクガクブルブル、となっている時であった。

 質が悪いと言うべきか、ラティナの実母には悪気は全く無いのであった。--もとより低級霊に出来ることは少なく、持たせた護符(アミュレット)の効果で、傍に寄ることも不可能である。それよりも、新たな経験をすることで、我が子の成長に大いに役立つ筈である。--と、大真面目な顔でスマラグディに対して彼女は宣った。
「"それでも、ちいさな子どもには、刺激が強すぎる!"」
 温厚で知られるスマラグディであったが、悲鳴じみた声で、反論をする程であった。(かれ)の腕の中には、もう、声を出すことも出来ずに、泣き顔でガタガタ震える愛娘が居るのだ。確実に、(かれ)の方が正しかった。

 魔人族は、寿命が長く、子どもの数が少ない。
 その為、『子ども』というものに接する機会も少なかった。
("それでも、これは、駄目でしょう")
 内心でそう呟いた後で、『父』は、我が子の前で、『母』に対して説教をするのであった。

 然るべき時の為に、アンデッドモンスターへの抵抗力を付けたい。アンデッド如きで動揺することの無い強い平常心を養いたい。
 そう、彼女(・ ・)が思うのも理解出来る。自分だって思いは同じだ。
 --だが、何事にも、段階があるだろう。まだ愛娘はこんなにちいさな五歳児なのだ。ようやく身の回りのことが、一人でもちょもちょと出来るようになったばかりだったというのに、何てことを。
 スマラグディの心配はまっとうなもので、愛娘は、夜一人でトイレに行くことが出来なくなり、とっくに卒業していたおねしょが再発した。

 そしてしっかりと、恐怖心というトラウマを残したのであった。
 はっきり言えば、しっかり逆効果なのであった。


「……ラティナって、何て言うか……大変だったんだね」
「……モヴ、良いひと、なんだよ……そこは、本当なんだよ……」
 親友たるクロエの、同情の籠ったコメントに、視線を泳がせた後で、ラティナは実母に対してフォローを入れた。
 なんだか、フォローの入れ方も微妙過ぎて、普段実の両親の話をしないラティナ相手に、友人たちも、その事についての突っ込みを入れることが憚れたのであった。
何せ……『娘』のほっぺた取っちゃいそうなことする方なので……『娘』とは別系統の天然さんだったり致します。
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