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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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白金の乙女、赤の神の夜祭りに行く。弐。

「ふふふ……クロエ、これはちょっと楽しいね」
「でしょう。これ程の逸材……そうそう弄くることは出来なくてよ」
「何? 何?」
「やっぱり、ラティナにはオレンジ系よりもピンク系の方が良さそうだね」
「ふふふ……」
「何? ねぇ、本当、どうなってるの?」

 持参したシルビアと共に、道具類を目一杯に広げるクロエは、非常に楽しそうだった。それは、緑の神(アクダル)の神殿経由で仕入れた、最新かつおすすめの化粧品であったのだった。
 緑の神(アクダル)の神官たちが集める情報には、風俗や流行も含まれる。そして、神官の半数は女性である。各神殿の中でも世俗に深く接した緑の神(アクダル)の神殿であるからには、自ずと最新のファッション等の情報も集まって来るのだ。

 新品のワンピースを着たラティナは、生まれて初めてのメイクの真っ最中なのであった。
 とはいえ、鏡を見せてもらうことは出来ず、二人に色々試さ(あそば)れている。クロエとシルビア的には、美少女を好き勝手に装わせるという、人形遊びの延長のような、またとない機会なのであった。

 二人も年頃の少女だ。並みの美少女相手ならば、妬みや謗りを抱くこともあるだろう。
 だが、それが『次元の違う』立ち位置ならば話は別で、もう羨むのも馬鹿らしくなってしまうのだ。一種の諦めの境地へと至っているのである。その上、この幼なじみは天然娘だ。ぽやんとしていて、放っておくのは危なっかしいし、どこかずれていて憎めない。

 そして何よりも、ラティナが幼い頃からずっと変わらず、自分たちよりも歳上のひとを、一途に見ていることも、クロエとシルビアはよく知っている。

 一生懸命背伸びをしようとしている、幼なじみを応援したいのは、友人として当然といった心境なのだった。

「いえーい」
「いえーい」
 と、クロエとシルビアがよくわからないテンションで、互いの手をパチンと合わせる。置いていかれたままのラティナは二人を不安そうに見詰めていた。説明が欲しいところである。

 ラティナは早くから働きはじめ、堅実な性格をしていることもあり、金銭的な余裕はある。その為、自分で化粧道具などを揃えることも出来た。それなのにそうしなかったのは、自分のことを『子ども』扱いしているデイルの前で、そういった物に興味があるとは、なんとなく言い難かったからであった。
 リタにはそれとなく言ってみた。だが、リタは毎日仕事と育児で忙しい。自分の為に時間を作って買い物に付き合って貰いたいとは、強く頼むことも出来なかった。そういった経緯で、ラティナは興味があっても、化粧品店等に入ることが出来なかったのだった。
 初めて過ぎて、何をどうすれば良いかも、何を揃えるべきかも、わからなかったのである。
 いつもの相談相手であるケニスにも、流石に言えなかったのだった。言われても、多分ケニスは困惑するだろうが。

 それを友人たちに話したところ、情報通のシルビア主導で、今日このように準備して貰うという流れになったのだった。
 シルビアはメイク方法も知識を仕入れており、クロエもラティナよりはずっと造詣が深いジャンルだ。
 自分たちの『作品』を満足そうに眺める二人は、本当に楽しそうだった。

「やだ、この子ったら、本当に美人」
「私たちの腕前はそんなに無くても、素材の持ち味を活かすだけで、この通りって感じだね」
「ほら、ラティナ、笑ってーっ」
「ねぇ、本当、どうなったか教えてよ……っ」
 ニヨニヨする二人からやっとのことで鏡をもぎ取る。そこを覗き込んだラティナは驚きで言葉を失った。
 長い睫毛と大きな灰色の眸を更に印象深くするアイメイク。その分他の部分は色味を控えて全体的に派手にしたりしないようにバランスをとっている。上気したように仄かに色付く頬。微かに開いた唇も淡い桃色の紅がひかれ、常よりも艶やかな光を装っている。
 大人になりきれていないが、幼い子どもからは抜け出そうとしている愛らしい少女の顔。
 クロエとシルビア会心の出来であった。

「…………か……顔が濃いよ……っ」
 だが、しばらくしてラティナから出たコメントは、残念仕様ないつも通りの彼女らしいものであった。
 そんな、がっかりクオリティ発言も、おそらく育ての親の影響だと思われる。


「うー……、なんか恥ずかしい……」
「なんでそこで恥ずかしがるのさ」
「ラティナだからでしょ」
 わいわいと、三人の少女は表に出る。最後にクロエの家から出たラティナは少し困った顔で下を向いていた。
 いつもの自分と違う『顔』。誰かにそれを指摘されそうで、妙な気まずさを抱いていた。周囲が気にすることも無いのだろうが、慣れていないからこその、落ちかつかなさ、である。
 そんなラティナの性格を知る親友たちは、明るく笑い飛ばした。
「まあ、いつもより周りのひとに『見られちゃう』かも知れないけどねぇ」
「ふぇっ!?」
「そうそう。だから今のうちから、気にしてたら持たないよお?」
「やっぱり、変なのっ?」
「ふふふ……」
「おほほ……」
「その笑い方、何っ!?」
 揶揄いがいのあるラティナのリアクションを楽しみながら、三人は赤の神(アクダル)の神殿のある、街の中央地区へと向かうのであった。

 その途中で街のあちこちに足を止める。

 東区の人混みも、大勢の見物客目当てに、各商店がセールや売り込みをしている結果の光景だ。
 買う気はなくとも、互いに商品を指差し、笑い合うだけで楽しい時間が過ぎていく。
 普段なら立ち入ることの出来ないアクセサリー屋が、店先に手頃な価格の商品を並べて展示しているのに、クロエが足を止めた。皆で、ああでもないこうでもないと言いながら、予算内で一番良い物を吟味する。
 別の小物の店では、ラティナが飾り紐(リボン)を手にして二人に見せた。甘めの普段の服装にも合うが、いつもよりも大人っぽいものをと二人が勧めたのは、織り地の綺麗な黒い飾り紐(リボン)だった。

 三人が少し寄り道をと、道を逸れた先には、繁盛しているパン屋があった。店内も混みあっているが、それ以上に店の前に設えた屋台が混雑している。
 その屋台で忙しく働く幼なじみに、三人は笑顔を向ける。
「マルセル、忙しそうだね」
「ラティナ、クロエとシルビアも。シルビアはお久しぶりだね」
 幼い頃より変わらぬおっとりしたような口調だが、彼の手元はてきぱきと作業をしている。
 祭りの見物客相手に、軽食用に具材を挟んだパンを売っているのだ。雑談の合間もマルセルは、注文に応じた具材をせっせと挟んでいる。

 丸顔でやや身長が低いマルセルは、その見た目がなんとなく『角』がない。エプロンを着けて穏やかな表情をしている彼が売る食べ物は、なんだかとても美味しそうな印象を受ける。
 彼も自分の見た目が及ぼす印象を知っている。だからこそ、こういう日は店内ではなく外で働いているのだ。将来有望な跡取り息子なのである。

「みんなはこれから、祭りの見物かい?」
「うん、そうなの」
「マルセルは忙しそうだね」
 シルビアの言葉に、パンにマスタードを塗りながらマルセルは苦笑した。
「そうなんだよ。いつも忙しいんだけどね、今年は店で働いてくれてるひとが、お産で休みなんで。手が足りないんだよ……はい、お待たせしました」
 マルセルが客に差し出した、たっぷりの野菜と肉のスライスが自慢のパンに挟まれているそれは、確かにとても美味しそうだった。
 小腹が空いてくる時間帯だ。祭りの本番に向けて、それを満たしておきたいという欲求を掻き立てる。
「僕は今年は見に行けなさそうだよ。アントニーは、居るんじゃないかな?」
「アントニー?」
「うん。アントニーのお父さんが領主館で働いているからさ、祭りの進行にも詳しいんだよ。見物にお勧めの良い場所も詳しい筈だよ……って、はい。これはサービス」
 マルセルが笑顔で差し出した三つのパンを、クロエは悪びれずに受けとる。
「ありがとっ」
「どーも」
「マルセル、いいの?」
「いいの、いいの。でも、出来たら店の近くで食べてね。飲み物も出そうか?」

 ラティナは首を傾げていたが、若き跡取り息子の判断は的確であったようで、彼女たちが店先でパンを食べ終わる頃には、屋台の前には行列が出来ていたのであった。
お忘れかもしれませんが。彼女は、非常に幸せそうに、美味しそうな顔で物を食べます。
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