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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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白金の乙女、薔薇色の姫君に乞う。

 ローゼはあれから『虎猫亭』の一室で暮らしている。ほとんど部屋から出て来ないのは、やはり自分の立場を弁えているからだろう。たまに外に出る時は栗色の(かつら)を着けている。
 そんな生活をする彼女に外の湯屋を使わせに行く事も出来ない為、『虎猫亭』裏手の簡素な風呂を使ってもらう流れになった。ラティナの言い付けでヴィントがしっかりと見張る中という、安全面だけはある程度保証された状態だった。
 ローゼはそれにも不満をこぼすことはなかったが、濡れた髪の上から鬘を被ることだけは、やはりあまり心地の良い事ではない為、そのまま華やかなローズピンクの長い髪を露にして、乾かす姿が見られた。

 ローゼは髪を乾かす間は、人目の付かない場所に居るようにしている。その場所が初めは厨房の奥であったのが、やがて屋根裏のデイルの部屋へと移っていったのは、魔法使いとしても優秀なローゼの教えを、ラティナが乞うようになったからであった。

 ローゼも引きこもり、することもなく過ごす日々に退屈していたらしい。教えればそれに応えてくれる真面目な生徒(ラティナ)の様子に、だんだんと熱を入れた。
 言い方を変えると、ローゼは存外スパルタであった。
 実はラティナは、今まで穏やかな環境でしか『学んだ』ことがない。学舎時代はもとより、彼女に魔法を教えたデイルや、ティスロウでのコルネリオ師父等も教え方は穏やかだ。
 それに反してローゼは手厳しい。理不尽な厳しさではなく、彼女は大きな『武力』である魔法を扱う者として、自らにも他者にも、律した姿勢でいるのだった。

「……ええ。やはりラティナさんは、基本理論は問題ないようですね」
 前日にラティナが書いたレポートを講評するローゼの前で、ラティナは背筋を伸ばしている。不愉快な感じではなく、自然に姿勢を正すそんな雰囲気があるのだ。普段のローゼはどちらかというと穏やかで気安い雰囲気を周囲に与える。それだけローゼが『魔法』という物に真摯な姿勢を持っている証拠とも言えるだろう。
「魔人族とはいえ、ラティナさんは幼い頃に故郷を離れたのでしょう? それにしては難しい語句の理解度が高いように感じられますが?」
「そうなのかな? 周りの大人のひとたち……言葉に厳しいひとも多かったから……からかな?」
 とはいえ、ラティナの言葉遣い自体は、当初に比べてだいぶ砕けたものになっている。
 そういった点ではローゼは寛容で、ラティナは人懐こい性格の主だ。友人というよりは、ローゼにラティナが甘え、ローゼはローゼで嫌そうともせず面倒をみているという姉妹のような関係になっていた。

 親バカ(デイル)とローゼが決定的に違うところは、ローゼは厳しい面はとてもはっきりと厳しいという所か。

 まあ、二人はそんな風に概ね仲良くやっているのだった。
「それに比べて、あまり攻撃魔法の術式はご存知ないようですね」
「うん。デイルがね、危ないから覚えなくて良いって、教えてくれなかったから」
「私たちのような、純粋な力では他者に及ばぬ者にとって、魔術は自衛の大きな手段です。使い方を誤れば危険な力とはなりますが、だからこそ深く理解し、使いこなす事が重要になります」
 ローゼがラティナの丁度良い教師になったのは、二人とも魔法属性が『天』と『冥』であり、使用出来る魔法が同じであったという面も大きかった。
「ラティナさんは魔力制御も得意でいらっしゃいますから、状況に応じた呪文の選択肢を増やす事が、危険性を軽減するのではないかと思います」
「はいっ」
 表情を引き締めて良い返事をする姿も真面目なのだが、どことなく微笑ましく見えるのは、当人の資質なのだろう。

 そんな中、ラティナが要望してまで、ローゼから教わったのは、『浄化魔法』--いわゆる『天』属性の対アンデッド魔法--であった。
 ラティナは幼い頃怖い思いをした為に、アンデッドモンスターが苦手なのだった。若干のトラウマである。
 デイルは天属性の適性を持っていないため『浄化魔法』は使用出来ない。彼の使える対アンデッド魔法は、『冥』属性魔法を物理攻撃に付加するという形式になる。それはアンデッドモンスターを直視し、間合いに入ってぶん殴るという事が出来るか、という話だ。怖いからこそ対抗手段が知りたいラティナにとっては、難易度が高すぎるのであった。
「ラティナさんなら、一度で複数に範囲を広げる事も出来ると思いますよ」
「そうかなっ? 頑張って覚えるっ」
 トラウマ克服の為に、ラティナは呪文の鍛練に勤しむのであった。


「なぁ、ラティナ」
「なあに?」
 そんなラティナの姿を見ていたデイルは、ある夕食の席で疑問を口にした。
「……そんなに魔法、一生懸命覚えて……将来冒険者になるとか言わねぇよな?」
 不安に思う。彼女は既に『魔法使い』として一流とまでは言わないが、平均以上の能力は持っているだろうとデイルは見ている。
 冒険者のような仕事をしようと思えば、出来るだけの能力はあるのだ。
 だが、そんな不安定で危険な仕事など就いては欲しくない。それが『親心』なのだろう。
「え? うーんとね……私はね、『虎猫亭』みたいなご飯屋さんがやれたら良いなぁとかって思うの。でもね、また旅には出てみたいなっ。あちこち知らない町とか見て回ったり……おばあちゃんやマーヤちゃんに会いに行ったりしたいの」
 とりあえずその返答にほっとする。

「……昔はね、デイルのお仕事に一緒に行きたいって思ってたんだよ」
「え?」
 ラティナがそんな風に、少し困ったような寂しそうな苦笑を浮かべて言った言葉に、デイルは呆気に取られた。
「お留守番するのが嫌だから……デイルのお仕事に一緒に行けるようになれば、お留守番しなくて済むでしょ」
 ラティナはそう言って、笑う。幼い頃から彼女に我慢をさせてきた自覚のあるデイルは困った顔をした。
「……ごめんな」
「ううん。デイルを困らせたいんじゃないの」
 えへへと、誤魔化すような笑顔を作った後で、ラティナは不意に真面目な顔になった。
「でもね、私だと無理だってことも、大きくなったらわかっちゃった」
「え?」
「もし、私がデイルのお仕事に付いて行ったら……邪魔になるだけだよ。だからね、ちゃんとお留守番するって決めたの」
「ラティナは魔法使いとしても、かなり優秀だぞ? そんなに自分のこと卑下しなくても……」
『冒険者』等にはなって欲しくないと思いながらも、それと反するような言葉を口にしたのは、ラティナに自分への評価を必要以上に下に見て欲しくなかった為だ。
 彼女には何よりも自分のことを大切に思って貰いたい。
「ううん。デイルが本当に凄いんだって事がわかるようになったから。私、魔力もそんなに多くないし……デイルを守れるような大きな『力』はないもの。それに、きっと、本当に危ない時も、デイルは自分のことより、私のことを気にしちゃうんだろうなぁって思ったの」
「当然だろ」
 デイルは即答した。そんな予想通りの自分の『保護者』に、ラティナは微笑んだ。
「でしょ? だから私は、デイルのお仕事はお手伝い出来ないんだよ」

 我慢させていることも、寂しい思いをさせてきたこともわかっていた。
 でもこの子は、幼い頃から聞き分けの良い賢い子だったから、自分はそれに甘えている面もあったのだ。

「……ラティナなら、わかると思うけどさ」
「ん?」
「ラティナが『おかえり』って迎えてくれるのは、俺にとって、凄ぇ嬉しいことなんだぞ?」

 デイルの言葉に驚いたような表情になったラティナは、穏やかで柔らかい笑顔になった。
「うん……そうだね。『おかえりなさい』って『場所』は大切だよね」
「ああ。ラティナはちゃんと、俺の『力』になっているんだからな……」
 表情が明るくなったラティナに安堵しながらも、心の片隅で考える。
(本当にこの子は……色んなことを、よく見ているな……)
 なのに何故、自分のことは『無自覚』の事が多いのだろうかと、『保護者』は心配半分のため息をつくのだった。

この連休でストック作れるように、努力します……
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