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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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白金の乙女、親友と共に。

 毎日学舎に通っていた時とは異なり、それぞれ別の生活を営む友人たちと過ごす時間は明らかに減った。
 だが、全くないという訳ではなく、ラティナは頼まれた幾つかの買い物を済ませた後で、東区の職人街へと道を曲がった。
 今は『虎猫亭』も忙しくない時間だ。ケニスは、ラティナが少し寄り道をすることも見越して買い物へと出してくれているのだった。

「クロエ、今度のお休みの話なんだけど」
 自宅で針仕事をしていたクロエの元に、茶菓子を持参して顔を出す。
 お菓子は手土産というよりも、単に自分が食べたかっただけだったりする。
 クロエもその事は承知しているらしく、仕事道具を隅へと追いやり場所を作ると、お茶を飲むスペースを作った。ラティナは悪びれもせずに自ら持参した包みを開ける。
「この間、少し太ったって気にしてたのに、良いの?」
 からかう口調でクロエが問えば、ラティナは少し口を尖らせた。
「平気だもん。食べ過ぎないし、これからの時間もいっぱい動くからっ」
 そう言いながらも、気になっているのか、二の腕の辺りを擦っている。クロエから見て、ラティナに余計な肉が付いているようには見えないのだが、やはり乙女心というのは繊細だ。
 自分で持って来たクッキーを前に、複雑そうな表情になったラティナに、クロエは堪えきれずに吹き出した。
「もう少しラティナは肉付いても良いんじゃない? 『気にしてる』部分も『付かない』よ」
「成長期が、みんなよりゆっくりなだけだもんっ」
 友人たちがだんだんと大人になりはじめて、身体つきに丸みを帯びているのに対して、身長こそ伸びたものの、未だ幼さの感じられるストンとした体型は、今のラティナの悩みの種だ。
「ちょっと、だけなら、大きくなりはじめてるものっ」
 当人の主張に反して、服の上から見る限り、ラティナの変化は確認できなかった。
 これ以上この話題を続けると、涙目になってしまうラティナをよく知るクロエは、あっさりと話題を転換することを選択する。
「で、今度の休みだっけ?」
「え、うん。そうなの。シルビアもね、お休み取れるって言ってたの」
「シルビア……いくらラティナが『虎猫亭』にいるからって……『伝言板』にメッセージ送りつけるのって……まずいんじゃないの?」
「どうなんだろうね? シルビアは、『これ位できないと、この世界では生き残れないのよっ』って言ってたけど……神殿勤めも大変なんだね」

緑の神(アクダル)』の神官たちの職務は、『情報を収集すること』だ。旅人の守護神でもある緑の神(アクダル)の『加護』を持つ者たちは、その影響も大きく、生来、知らない土地や知らない情報に強く惹かれる性質を持っている。
 神殿に勤める者たちは、収集した情報を管理し、場合によっては広く広めることを職務としていた。
 また、『神殿』では、情報を集める為に旅に出る『神官』たちの育成や訓練も行っている。
 シルビアはそんな訓練生の一人として、勉学と訓練に励んでいるのだった。

『踊る虎猫亭』は『緑の神(アクダル)の伝言板』と呼ばれる端末のある、いわば『神殿出張所』だ。神殿との関わりは深い。その関係もあって、時折神官も店を訪れる。見習い神官であるシルビアの様子も人伝に聞くことができた。
 それだけでなく、どうやっているのか、『緑の神(アクダル)の伝言板』にラティナ宛の個人的なメッセージを送りつけてくるのだった。シルビアの『加護』はそれほど強いものではなく、特殊なものでもないはずなのだが、よっぽど要領が良いらしい。
 ラティナとクロエは、学舎時代から、そんなところがあった友人を思い出して苦笑を交わす。

赤の神(アフマル)の夜祭り、楽しみだなっ」
 クロイツでは四季折々に祭りや催しが行われている。領主主宰のものや東区の商工会主宰のものなどもあるが、中でも最も盛大に行われるものこそ、ラーバンド国の主神たる赤の神(アフマル)を奉る神殿が行う『夜祭り』だった。
 他の神殿も橙の神(コルモゼイ)の神殿が豊穣祭を行ったり、藍の神(ニーリー)の神殿が鎮魂祭を行ったりするなど、市井の人びととも縁深い存在ではあるのだが、赤の神(アフマル)の神殿の規模には到底及ばなかった。
 ラティナも毎年のようにデイルに連れられて見物していた祭りであったが、今年は初めて友人たちと見物に行くことが許された。

 親バカ(デイル)は許可を出しながらも不安ではあるらしく、友人たちと予定を立てるラティナを前にしては、五月蝿い程に口を出している。
 曰く、一人では絶対行動はしない。曰く、人通りの少ない道には入らない。曰く、知らない(おとこ)が近付いて来たら、油断しないこと。むしろ攻撃魔法を使って撃退しても構わない。いや、どうせなら先手必勝だ。変な男も、変じゃない男も全て敵とみなして攻撃しろ! 良いなっ! ……等々であった。
「デイル、それは、憲兵さんに私が怒られちゃうと思うな」
 まっすぐ灰色の眸でデイルを見たラティナは、真っ当な返答をした。
 そんなラティナにも、デイルは臆することない清々しい程の笑顔を向ける。
「いいや、世の中ってのは弱肉強食なんだ。それぐらいの心構えは必要だ」
 全く悪びれなかった。

 ラティナ自身は、デイルは心配しすぎだと思っている。
 そして周囲は、デイルは心配しすぎだが、心配するのも仕方がないと思っていた。
 彼女のその認識の齟齬こそが、デイルの不安を更にかきたてるのだが、デイルが過剰に反応するからこそ、ラティナは深刻に考えないという、残念な結果が生まれていた。

 クッキーにトッピングされた、表面がキャラメリゼされたナッツの食感に嬉しそうな顔をしながら、ラティナはクロエが縫っている最中の服を眺める。
「どうかなあ。似合うかな?」
「布選びの時から、何回も当ててみたじゃない」
「それでも、完成は楽しみだよっ」
 照れたようにえへへと、笑ったのは、それが自分が注文した物だとわかっている為だ。
 楽しみにしている夜祭りに合わせて、新品の服に袖を通したいと思うのも、女の子としては当然の心理なのである。
「クロエに見立ててもらったから、いつもと雰囲気違うもの。ちょっとどきどきするよ」
「私の見立てじゃ不安なの?」
 クロエのふてくされたような表情はわざとだ。ラティナもそれぐらいのことはちゃんとわかっている。
「だって、自分じゃこういう色とか選ばないもの……」
「ラティナは極端なの! 子どもっぽいふわふわフリフリが好きかと思えば、大人っぽいの着ようとして、似合わないセクシー系選ぼうとしたりして」
 両手を腰に当て、ため息混じりにクロエは言う。
「だって……」
「『だって』じゃないの。ちゃんと自分に似合うのを着ないと! ラティナはこういったラインの服で、色合いでシックなの選んだ方が良いんだから」

 クロエがため息をつくのも無理はない。彼女は服を作るという仕事に就き、日々流行やデザインといったものに敏感に生きている。表店からの注文商品を縫うという仕事が多いとはいえ、売れないものは作っても売れないというシビアな現場と密接に関わっているのだ。
 そんなクロエにしてみれば、羨むのも馬鹿らしい程の美少女たる親友は、着飾らせればそれだけ、当人も服の方も映えると感じている。
 それなのに、彼女の好みはゆるゆるの甘めのコーディネート一辺倒だ。まあ、それは良い。ほやんとした所のある親友には、そういった服装は確かに似合っている。
 問題は、そんな子どもっぽい好みの自分を改めようと、大人っぽい服装に手を出す時だ。
 そのこと自体は悪いとは言わない。だが、何故だかそんな時のラティナは、セクシーな、大人は大人でも非常に着る人を選びそうな服を手に取ろうとする。
 同年代の娘の中でも、体型に幼いところのあるラティナには、全く似合わない。後もう少し待って、彼女の望むように女性らしい身体つきになれたのならば、また話は変わるのだろうが、現段階では全く駄目だ。

 服飾の世界に生きるクロエにとっては、見過ごすことの出来ない大事(おおごと)だ。
 その為、今回ラティナが服を新調する際には、クロエの監修が入ったのだった。
 甘めの装飾を排してはいるが、凝ったデザインでシンプル過ぎないように。レースも子どもっぽくならないように、上等な黒のものを。更にシックな色合いにして、ラティナの艶やかな白金の髪が引き立つように。
『大人』ではないが、現在のラティナを年相応以上には、見せてくれるデザインに決めたのだった。
 チョイスしたクロエの自信は相当なものだ。
 西区のお嬢様や、北区のお姫様にも、我が親友は負けぬといった心境である。

「一番見せたい人に、驚いてもらえたら良いね」
  その一言で、耳たぶまで真っ赤に染まった。
 そんな幼い頃からの親友の恋心を知る身としても、気合いは入るのだった。
フロランタンって書こうとしたら、地名由来の菓子名であることに気付いて、使うことが出来なかったり。とはいえ食に関しては、相変わらず緩め設定でお送りしております。
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