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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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幼き少女、久しぶりの友人たちと。

 数ヶ月ぶりの『黄の神(アスファル)』の学舎というものは、なんだか気恥ずかしい。見慣れた場所である筈なのに、妙に落ち着かない気持ちにさせる。
 ラティナは学舎の前で、少し躊躇うように扉を見上げた。

「おんなじ『黄の神(アスファル)』の学舎なのに、師父(せんせい)のところとは、やっぱり全然ちがうの……」
 呟きながら改めて自覚するその事実に、ふむふむと納得する。世の中には、自分の知らないことがたくさんあるのだと思うのだった。
 そんなことを考えて、気恥ずかしい気持ちから目を背けようとしていたラティナの背中に、良く知る声がかけられた。
「ラティナっ!」
「クロエっ」
 喜色を浮かべて振り返るラティナの顔には、安堵がある。
 親友(クロエ)を見た瞬間、胸の中に詰まっているようだった重たい気持ちが溶けて消えるのを感じた。
「お帰りっ! 元気そうで良かった。お土産話いっぱいよろしくね!」
「うんっ。ただいま、クロエっ」
 だからこそ、クロエと並んで扉をくぐった時には、ラティナの表情は数ヶ月の時間を感じさせない普段通りのものになっていたのだった。

「久しぶり、ラティナ」
「シルビアも元気そうで良かった」
「クロイツはいつも通りだったからね。変わりないよ」
 教室に入って、久しぶりに会うもう一人の仲の良い友人の姿に、ラティナの表情が更に明るくなる。
 ラティナの反応にはお構い無しという様子で、シルビアはマイペースに身を乗り出した。緑色の眸が内面の好奇心を示すように、きらきらと輝いている。
「それより、旅の話聞かせて。クロエに聞いて大体ルートはわかったんだけど。装備とか、食料とかはどのくらい揃えていったの? やっぱり魔獣ってたくさん出た? それに……」
「いっぺんには難しいよ」
緑の神(アクダル)』の加護持ちであるシルビアの旅への憧れを知っているラティナは、困ったような笑顔で応じた。

「はじめに『森』に行ったから、魔獣はたくさん見たよ」
「大丈夫だったの?」
「へえっ、どんな?」
 ラティナの答えに、クロエは心配、シルビアは興味を返す。
「デイル、すごぉーく強かったよ! 全然大丈夫だった。ラティナも防御魔法覚えたから、お手伝いできたの」
「ラティナも戦ったの?」
「ちょっとお手伝いしただけだよ。デイル、一人でも大丈夫だったから」
「怖くなかった?」
「ラティナ、クロイツに来る前、『(あそこ)』にいた時、すごく怖かったの。でも、デイルといっしょだから、怖くなかったの」
 そんな風に、『保護者』のことを語るラティナの表情は信頼と愛情に溢れている。
 相変わらずのラティナの姿に、クロエとシルビア(ゆうじんたち)は苦笑に近い表情を浮かべた。
「街道の近くでは、魔獣出なかったよ。山の中に入ったら、時々出たけど。盗賊には一回だけ会った」
「大変じゃない!」
 クロエの反応は正しいだろう。だがラティナは少し首を傾げると、
「デイルの魔法で全部捕まえて、近くの村に連絡しておしまい。魔獣より怖くなかったよ」
 そう、ひどくあっさりと答えた。


 盗賊団の目的は彼らではなく、その後ろを移動していた商人の馬車であったようだった。だが、ラティナの『能力』で潜む盗賊団の存在に気付いた彼らは、そうなれば見て見ぬふりも出来ぬ--ラティナの前で、人死にが出るような戦闘を起こさせる訳にはいかない--と、いうデイルの判断により、先手を打って捕縛に動いた。

 とはいえあっさりとしたもので。
 デイルの魔法により、足元の地面を崩落させて一網打尽であった。

「お前ら運が良かったなぁ……」
 穴の上から、もがき、苦しみの声をあげる盗賊たちに冷たい視線を送るデイルの姿は、物語(サーガ)だったならば、悪役そのものの表情だっただろう。
 ラティナの目があるため、血生臭い残酷な光景は避けたのである。慈悲などでは決してなかった。万が一にでも報復の対象になってはならない為、ラティナにはフードを被らせ顔を隠し、盗賊たちからは見えない位置に立たせている。
(……埋めたら、ラティナに怒られるだろうなぁ……)
 一瞬面倒くさいからそんな考えも過ったのだったが、隣の少女の目を気にして、口にはしないでおいたのだった。


「怖いこと、なんもなかったよ」
 ラティナがそう首を傾げるのも仕方のない話で、派手な戦闘シーンというほどのものもなく、身に迫る危機感は魔獣相手の方が大きい。
「あのね、二人にね、お土産なのっ」
 そう言ってラティナは、手にしていた鞄の中から二つの包みを取り出した。幾重にも薄紙に包まれ丁寧に梱包されたそれを、クロエとシルビアにそれぞれ渡す。
 二人が紙を開けて中身を取り出せば、貝細工の小物入れが入っていた。タイルの様に真珠層を貼り付けて作られ、きらきらと柔らかな輝きを帯びるそれは、手の内に収まる大きさでありながら目を惹く美しいつくりだった。
「きれいだね」
「ありがとう、ラティナ!」
「ラティナもね、自分に同じの買ったの。ちょっとだけ色違いなの」
 クロエが持つものは、ほのかなクリーム色で、シルビアのは青みを帯びている。ラティナが自分用に買い、部屋に飾ったのは淡いピンクのものだった。
「クヴァレはね、いろんなものがあったよ」
 にこりと笑い、ラティナは教師が来るまでの残り時間を、港町の思い出話に費やすのだった。


 再び訪れた港町(クヴァレ)で、二人は宿を決めると、初日はゆっくりと休んだ。
「今回も少しクヴァレではゆっくりするぞ。でも、観光ってより、ゆっくりする為だからな」
「うんっ」
 元気な返事をしたラティナは、宿の一室で荷ほどきをし、リュックの奥をごそごそと探っている。デイルが不思議そうにその姿を見守っていたところ、彼女はしばらくして財布を取り出した。リュックの内側の隠しの中にしまっていたらしい。
 机の上にぱちんぱちんと、銀貨を並べて数えている。
 今まで彼女は旅に必要なもの以外の買い物もしていなかった為、所持金もあまり減っていないようだ。

 ラーバンド国で、普段子どもたちがおやつや雑貨などを買うのに握り締めているのは、数枚程度の銅貨だ。日常の生活に必要な額も、銀貨の使用範囲でおさまる。
 金貨を使う機会なんてものは、一般庶民にはまずない。冒険者たちは報酬や高額な魔道具の武器防具などの購入時などで、金貨を扱う機会もあるのだが、普段財布に入れているのは銀貨と銅貨が主だ。一般の店舗で金貨を使おうものなら、釣りを出させるのにも嫌がられる。
 高額な財産は『青の神(アズラク)の神殿』に預けた方が安全だ。よほどの田舎でもない限り、全財産を金品で所有している者はまずいないのだった。

「……結構、持ってるな」
『虎猫亭』で給金をもらっているというラティナは、この年齢の少女としては金を持っている方だろう。
「あのね。クロエとシルビアにね、お土産買いたいの。リタにも。クヴァレにはいっぱいきれいな物売ってたから、ラティナ、お土産買いに行きたいのっ」
「わかった。明日、ゆっくり市場回ろうな」
「うんっ」
 前回クヴァレに来た時、ラティナが購買意欲を示したのは食材のみだった。少々不安に感じていたが、それは『行き』の行程であったかららしい。ちゃんと年相応の少女らしい興味を持っていることに、どこかほっとした。
 彼女はキラキラしたものや可愛らしいものが好きだ。どういった所に連れて行けば喜ぶだろうかと、デイルは脳裏に幾つか候補をあげるのだった。

 翌朝、宿で食事を済ませると、二人はゆっくりと町の中に繰り出して行った。前回同様人混みにはぐれてしまわないように、手をつないでいる。今日のラティナは、旅の間は邪魔にならないようにしっかり束ねていた髪を背中に流していた。少しいつもよりは、よそいきの姿に見える。
「今日の夕飯はまた『寡黙な鴎亭』にするか?」
「本当っ?」
「それとも色々食い歩きして、夕飯は軽く済ますか?」
「それも、楽しそう……」
 ラティナにとっては、かなり難易度の高い二者択一らしい。真面目な顔でウンウン唸っていた。そんな仕草も愛らしく、隣でデイルは表情を緩ませる。
 悩む時間も旅の楽しさだろう。
 デイルは結論を急がせることもなく、ラティナの手を引きながら、ゆっくりと海に向かう道を歩いて行った。
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