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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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青年、幼き少女に告げる。

 ヴェンデルガルトは各地に存在する『レキ』--ティスロウから出て、外の世界から一族に関わるものたち--を経て、『黄の神(アスファル)』の高位神官であったコルネリオ・カカーチェを村へと招いた。
 彼は文化人類学の分野では権威である。独自の文化を持つ『ティスロウ』に興味を持っていることを聞いたヴェンデルガルトの判断が、彼を招致することだったのだ。本来ティスロウは、『一族』の中に他者を入れない。--新たに『一族』の一員として迎えることは、やぶさかではない。集落の中に移住者を迎え入れることはしないのだ--
 コルネリオは王都にある神殿中枢にも発言力を有しているほどの神官だ。
 ヴェンデルガルトは彼と『黄の神(アスファル)』の神殿を経て、最終的にはエルディシュテット公爵という、ラーバンド国でも最高ランクの権力者にコンタクトを取るに至った。

 そのために『ティスロウ』が提示したものが、当主家嫡男であるデイルの存在だった。

『魔王』の影響力が増し、『七の魔王』や『二の魔王』の脅威が日々強まる現状では、権力者が切望していた『存在』だった。
『神の寵愛を有する者』--ただひとつの『加護』ではなく、複数の神の『加護』を有するというかたちで表出する『稀人』。
『魔王』を唯一害せる『対存在』--すなわち『勇者』と呼ばれる能力を有する彼を。

『稀人』と呼ばれるほどには珍しい存在だが、『勇者』は唯一の存在ではない。だが『勇者』と呼ばれる能力を持っている存在が、戦場に慣れた戦士であるとも限らない。
 好戦的で危険な思考を持つ『魔王』の脅威に対抗したいラーバンド国にとっては、デイルのように『戦う力を持つ』勇者こそ、何に代えても必要とする存在であったのだ。

 確かにデイルは『戦う力』を持つ。
 彼の『加護』は、戦いに於いて有利に働く特性を持っている。彼が、一族にも深いつながりを有する『橙の神(コルモゼイ)』から与えられている『加護』は、『大地に関する魔法に於いての守護』だった。デイルは地属性魔法だけならば、ほとんど魔力を消費しないのだ。
 そして優秀な狩人であった彼は、武器の扱いにも長けていた。
 コルネリオに師事し、学術も街の者に劣らないほどに身に付け、冒険者としての研鑽を若き優秀な冒険者の元で積んだ。
 確かにデイルは優秀な戦士と言えた。


 デイルがラティナを連れて散歩に出たのは、裏の滝の方だった。
 ラティナが明かりの魔法を唱えると、彼女の性格のような柔らかな灯りの珠がふわりと浮いた。それに照らされた道を並んで歩く。
 滝まで辿り着けば、辺りには幾つもの灯籠が光を灯していた。
 水面に灯りが反射して、いくつもの光が周囲を取り囲んでいる。元々の神秘的な空間とも相まって、現世の光景ではないようだった。
「うわぁっ……」
「さっきヨルクとフリーダが儀式のために来たからな」
 最後の儀式は、新郎と新婦の役目だ。ラティナは屋敷で待っていたためにここには来なかった。見せることが出来て良かったと思う。
 橙の神(コルモゼイ)を奉るほこらの前には、山盛りの花が奉納されている。この花の数だけ、祝福が寄せられたという証だ。
「……ヨルクは、きっと良い当主になるな」
「……」
 デイルを見上げたラティナは、揺らめく灯籠の灯りに複雑な影を表情に落としながら、何かを考えているようだった。一足飛びに大人になってしまいそうな雰囲気を感じ取って、デイルは彼女の頭をくしゃりと--撫でようとして、せっかく整えられた髪を乱さないようにそっと触れる。


 確かにデイルは『戦うこと』が出来る。
 だが、彼がそれまで郷里で武器を取ってきたのは、狩りのため獲物を捕るときと、外敵から村を守るときだけだった。
『ひと』の命を奪ったことは、なかった。
 魔族が、全て獣の姿をしていたのなら、こんなにも苦しむ必要はなかっただろう。
 魔王の眷属となり、魔族となったとしても、外見上の変化はない。魔族の多数を占める魔人族は、角の有無以外は『人間族(じぶんたち)』とほとんど姿にも変わりはない。
『人間族』の元に争乱をもたらすため、攻め入って来た『七の魔王』の眷属と戦ったことに、後悔はない。
 生きているものとは思えない異形と化している『二の魔王』の眷属が上げる、怨嗟と懇願--言葉がわからずとも、そうとしか思えない呻き声--を受けて、その命を奪ったのは、相手にとっては救いであったのかもしれない。

 それでも、『ひと』を殺すことが--奪うだけの行為が、彼の精神(こころ)を磨り減らしていった。

 デイルの本質は『ティスロウの当主』--一族を守るためにその力を尽くすもの、だ。彼は『守るべきもの』のために、力を発揮することの出来る性質を持っている。
『守るべき』郷里から遠く離れた地で、ただ国のため人々のためと言われながらも、行うことは『殺すこと』のみ。郷里はあまりにも遠く、『守る』実感の持てないままに、それでも『守りたい』から、逃げることは出来なかった。
 名誉も高額の報酬も、彼の『救い』にはならなかった。彼はそれらを自分の心の拠り所には出来なかったのだ。
 感情を殺し、『仕事』として割りきることで、『殺すこと』に慣れる方法を探った。だがそれは、彼の彼らしい心を押し殺す選択だった。

 そんな時、彼は、ちいさな彼女と出会った。

 彼が『命を救った』少女だ。
 今にも折れてしまいそうな、頼りなくか弱い存在が、自分の庇護の元、日に日に健やかに成長するのを見守った。
 自分の腕の中で、安堵の表情を浮かべ、幸福そうに微笑んでくれた。
 --この子は、自分が『守るべき存在(もの)』だ。
 不特定の誰かのためが、彼女のために戦うということになった。
 見知らぬ他人の住む街が、彼女が心穏やかに暮らす場所になった。
 明確な『守るべき存在(もの)』を得た彼は、戦うために必要なモチベーションを得たのだった。

 彼女が幸福でいてくれるためならば、自分は『戦うこと』が出来るのだ。

 それでも心が折れそうになるときも、このちいさな少女は、『救い』になる言葉を呉れる。そのぬくもりで癒してくれる。
 彼が前を向き、『保護者』としての虚勢をはることが出来るようになる程度には、彼女の言葉は大きな力を呉れるのだ。
「ラティナがしあわせなのは、ぜんぶデイルのおかげなの」
 彼女のその言葉は、向けてくれる笑顔は、彼のモチベーションそのものなのだから。


「大丈夫だよ、ラティナ」
 こんなにちいさいのに、誰よりも優しい少女。どうかこのまま綺麗な心を育んで欲しいと願う。
「……俺は、ラティナに救われているんだよ」
 その言葉に彼女は大きな灰色の眸を不思議そうにまたたいた。
 たまには、弱気な言葉を吐いても良いだろうか。久しぶりに呑んだ強い酒精を理由にすれば良い。
「デイル?」
「ラティナは、よく、『俺と出会えて良かった』と言ってくれているけど、それは俺もだよ」
 彼女と出会えていなかったら、今の自分はどんな風になっていただろう。ちゃんと笑えていただろうか。
 弟にちゃんと「おめでとう」と、祝いの言葉を言えただろうか。
 守りたいはずの場所を、その思いを、見失わずにいられただろうか。

「俺は、ラティナと出逢えて良かった」
「……ラティナも、デイルと出逢えて良かったよ」

 ふわりと微笑んでくれた彼女を抱きしめる。いつもと同じように体温を分け合う距離なのに、少しだけいつもと違うように感じられた。
「ラティナ……デイルのため(・ ・)になってるなら……嬉しいな」
 優しい声を聞きながら、この子はどんな大人になるだろうかと考える。
 いつか自分ではない誰かの隣でも、こんな風に幸せそうに笑ってくれるだろうか。
 --きっとその時がくるまで、守ってやるのが『保護者』の務めなのだ。


「だが、どこぞの馬の骨にラティナを嫁にはやらん」
「うむ」
「ラティナが欲しくば、俺を倒してみろっ! 俺はやられぬっ!」
「うむ」
 宴の席に戻ったデイルは、すっかりいつも通りに戻っていた。ヴェン婆と酌み交わすペースは、ラティナが見たこともないほどに早い。
「ふえぇ……だいじょうぶ?」
「心配してくれるのかっ! 本当にラティナは優しいなぁっ!」
 捕まった。
 明らかに酔っていた。
「ふぁあっ!?」
「あーっ、本当ラティナは良い子で可愛いなぁっ! やらないぞっ! 嫁になんてやらないぞっ!」
 触らぬ酔っぱらいに祟りなし。
 デイルは酒に弱くは無いが、さすがにヴェン婆と二人で、樽を空にするペースで呑めば、泥酔もする。
 ラティナは、普段の薄めたワインを呑み、乱れることも無いデイルの姿しか知らない。危機管理意識が薄かった。
 ガバッと抱きつき、グリグリグリグリグリと頬擦りをされまくるのは、さすがに初体験であった。
「ふにゃぁあぁぁっ!?」
 ラティナから変な声が出たが、眼前の二人の酔っぱらいは、それにも大喜びだった、
「ラティナちゃん。嫁に行きたくなったら、俺に言え。このバカ孫ボコれる良いの見つけてやっからな」
「やめろよ! 婆の人脈だったら、本当に見つけてきそうじゃねえか!」
 それでも、いつも通りに笑ってくれるから。

 デイルは
 ラティナは
 笑顔を交わしあったのだった。

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